※この作品はR-18です。

狩りの終焉 一部   作:伊駒辰葉

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実は順は料理が得意です。
エロシーンはありません。


順がウォームアップを開始しました 2

「あつっ!」

 

 急にはねた油が指に散る。順は反射的に火傷をした指を口に持っていった。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 テーブルについてレタスをむいていた克人が慌てた声を上げる。大丈夫だと返事をして順は口許を緩めた。右手の人差し指の中ほどが赤くなっている。だがこの程度の火傷ならすぐに痛みも痕も消える。鍋の中のコロッケを引っくり返しながら順はくすくすと笑った。

 

 今さら何で思い出すかな。随分と懐かしい記憶を思い返して順は淡い笑みを浮かべた。あの頃、都子だけが順の世界の全てだった。都子さえ守れるなら他の全てがどうでもいいと思えた。だがそんな思いの原因を知った順は出来るだけその思いを抑え込んだ。本当の、自分の望みではないと判ったからだ。

 

 順と都子は同じモノを材料に作られていた。それ故に無意識に惹き合っていたのだ。互いの体液の摂取によりどんな状況下でも欲情してしまうことから見ても、ほぼ間違いはないだろう。

 

 手早くコロッケを網に乗せて油を切ってから皿に盛り付ける。順が作ったコロッケに比べて克人の丸めたそれは形が揃っていない。まるで幼児に土だんごを作らせたような感がある。残りのコロッケに綺麗な布巾を被せ、順は仕掛けておいたスープの鍋を覗いた。蓋を取るとふわりとした野菜のいい香りがする。細かく切った野菜の入ったスープをお玉でかき混ぜてから順は振り返った。克人に声をかけようとしたところで絶句する。

 

「あ、あの」

 

 克人は戸惑ったような顔で順と目の前のトレイとを見比べた。いつの間にか克人の手は空になっており、トレイには剥いたレタスが山のように盛られている。それを見た順は盛大に吹き出した。唐突に笑い出した順を克人が涙の浮かんだ目で見る。どうやらどこまで剥けばいいものなのか判らなかったらしい。

 

「ああ、いいからいいから。ほら、このお皿頼むね」

 

 顔が赤くなりつつある克人に順は気楽にコロッケの乗った皿を差し出した。トレイの前でうろたえていた克人が慌てたように皿を受け取る。落とさないでね、と念を押してから順はレタスが山盛りになったトレイを取り上げた。

 

 シンク台にトレイを乗せ、レタスを何枚か重ねて一口大に切る。切った端から鍋に放り込む。トレイの中身が半分ほどになったところで順は鍋に蓋をした。中ほどまでしか入っていなかったスープの上にざく切りにしたレタスを放り込んだのだ。相当に不思議だったのだろう。克人が目を丸くして寄ってくる。

 

「だ、大丈夫なんですか?」

「レタスって火を入れると小さくなるからだいじょぶだよん。それよりさ」

 

 今度はサラダ用にレタスを千切りながら順は横を見た。順の隣に立った克人がシンク台に手をかけて懸命に背伸びをしているのだ。どうやら順の手元をよく見ようとしているらしい。あはは、と軽く笑って順は冷蔵庫を顎でしゃくってみせた。

 

「今から言うもの出してくれるかな?」

 

 冷蔵庫では生野菜が冷えている。克人が渡してくれたトマトときゅうりを手早く刻んでレタスと一緒にボウルに放り込む。レモンの絞り汁とオリーブオイル、塩と胡椒を混ぜてドレッシングを作り、それもついでにボウルに入れる。鼻歌を歌いながら木ベらでボウルをかき混ぜる合間に鍋の様子を伺う。慣れた調子で料理する順を克人はじっと見つめている。

 

 サラダを大き目の器に盛り付けてスープの味をみる。塩気を足して香辛料を振り入れる。順は出来上がったスープを底の深い器に入れた。

 

 ご飯を茶碗によそって箸を出す。コロッケのソースは即席のものをテーブルに乗せる。そこで順は克人を席に促した。

 

「塩が足りなかったら自分でかけてね。あ、そうそう。醤油もあるから好みで使い分けるといいよん」

 

 いつものだらしない笑みを浮かべて席についたところで順はおや、と目を見張った。克人は順の言ったことが聞こえているのかいないのか、熱心にテーブルに並んだ料理を見つめている。まるで餌を前にした小動物のようだ。順は苦笑して克人にどうぞ、と促した。待ち構えていたらしい克人が頂きます、と口早に言って箸を取る。早速食べ始めた克人を苦笑を浮かべて見ていた順はそうか、と内心で呟いた。今の克人は通常の食欲が多少はあってもおかしくないのだ。

 

 克人に渡してある特殊な薬のことを思い出しつつ順も食事を始めた。ぎこちない握り方をしている克人に正しい箸の持ち方を教える。しばし珍しそうに順の手元を見ていた克人もすぐに箸をきちんと使えるようになった。教えれば吸収するのは速い。克人は頭が悪い訳ではないのだ。ただ、食材等に関しては単純に知識がないだけなのだろう。

 

 あの薬はハンター特有の飢餓感を一時的に抑制する効果を持つ。薬の開発者は透だ。だがあの薬はまだ実験段階で、どんな副作用があるかはっきりしていない。投薬実験可能なハンターは探さなくても捕まえられるが、薬一つの製造にかかるコストがべらぼうにかかるため、正確な実験データがとれるほどの量を精製できていないのが現状なのだ。

 

 だが他のハンターに比べて頑強な人造のハンター……例えば克人なら多少の副作用は耐えられるかも知れない。それが開発者の透が出した答えだ。

 

 薬には即効性はあるが、効果時間は短い。加えて肉体が薬に慣れてくると効果時間は更に短くなる。それに人にとっては毒にしかならないから絶対に渡さないように。その説明も加えて順は克人に薬を渡した。結果的に克人が学校生活を送るにはちょうど良かったようだ。何しろ清陵高校には龍神が多くいる。何の手も打たずに克人を送り込んでいたら、今ごろはここにはいないだろう。

 

 食事を済ませて順は手早く食器を片付けた。克人はとても美味しかったと顔をほころばせている。

 

 もう少し遊ばせてあげたいんだけどね。そんなことを心の中で呟いてから自分らしくないと順はそっと苦笑した。克人が妙に気に入ってしまっているのは恐らくあの頃の自分や都子に重ねているからだ。幸せだった幼い頃の感覚を思い出しながら順はこっそりと克人を振り返った。克人は順が洗った皿を懸命に拭いている。順はそんな克人を少しの間見つめてから流しに向き直った。

 

 時計は九時前を指している。順は壁にかかった時計を見上げて克人に声をかけた。

 

「一緒にお風呂でもはいろっか」

 

 片付けも終え、食後のお茶を飲んだ後に順は気軽にそう克人に声をかけた。すると克人が嬉しそうな笑顔で頷く。着替えを取りにリビングに向かった克人を見送り、順はのんびりとバスルームに向かって歩き出した。




家では飯を作らせてもらえないので、順のストレス発散になってる気がしますね……。
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