※この作品はR-18です。

狩りの終焉 一部   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


TSするとフツーはこうなる、の例

 見慣れた景色の筈なのに嫌に新鮮に思えるのは、きっと身体の形そのものが違うからだろう。男の時の視点より今の視点の方が低いことを自覚しつつ祐は珍しそうに周囲を見回した。脱靴室の靴箱から優一郎の上履きを引っ張り出したところでしばし思案する。どう考えてもサイズが合わない。仕方ない、と靴箱に優一郎の上履きを戻したところで祐は近付いてきた気配に顔を上げた。

 

 いつもは斎姫のガードをしている二体のヒューマノイドが並んで立っている。二人は揃って祐を睨んでいた。

 

「あたしに何か用でも?」

「失礼ですがどちら様ですか? ここの生徒ではないでしょう?」

 

 背の高い方の女子生徒がそう告げる。祐は唇を引き結んで二人をまじまじと見た。確か名前は澄と曜子か。

 

「あたしは祐よ。漢字で書けば天祐の祐」

 

 胸を張って答えてから祐は靴箱の上にあった学校のスリッパを無断で拝借した。足にスリッパを引っ掛けて手にしていた荷物を二人に押し付ける。生徒会室に来い、と言おうとしていたのだろう。二人が互いに顔を見合わせて困ったような表情になる。

 

「と、とにかく不審者はまず生徒会室に来ていただきますのでっ」

 

 小柄な曜子がそう宣言して歩き出す。するとその後ろを慌てたように澄が追う。祐はため息をついて二人の後をついて歩いた。どのみち生徒会室に行こうと思っていたのだ。今のこの時間、斎姫は確か授業がなかった筈だ。

 

「奇遇ね。あたしの目的地も生徒会室なの。生徒会長はいるんでしょ?」

「会長にどういったご用件ですかっ」

 

 戦意を剥き出しにして曜子が言う。それを追いかけるように澄が付け足した。

 

「事と次第によってはここでお帰りいただくことになりますが」

 

 要するに会長の斎姫に危害を加えるつもりならただでは帰らせないということだろう。階段の途中で立ち止まった二人の横を行過ぎて祐は小さく笑ってみせた。

 

「転入生はまず生徒会室に行って生徒会長から説明を受けるようにって聞いたんだけど、気のせいだったのかしら?」

「えっ」

 

 説明してみせた祐の言葉に二人が同時に声を上げる。そんな二人を笑って祐はさっさと階段を昇った。慌てたように後ろから二人がついてくる。

 

「編入試験は行われていません」

「だからっ、転入生が来る予定もありませんっ」

 

 物静かな澄に比べて曜子は若干性格にむらがある。そのことを観察しつつも祐は早足で生徒会室に向かった。

 

「斎姫から聞いていないの? なってないわね」

 

 そう言って嗤ってから祐はノックもなしで生徒会室のドアを開けた。部屋の奥にいた斎姫が目を見張って祐を凝視し、次に慌てたように立ち上がる。

 

「斎姫、こんにちは」

 

 にっこりと笑って言いながら祐は堂々と生徒会室に入った。よほど焦ったのか斎姫が忙しなく祐の背後の二人に目をやる。何事かがある、とようやく理解出来たらしい。後ろをついてきていた二人が顔を見合わせて手にした祐の荷物を長机に置き、急いで生徒会室を出て行く。二人きりになったところで斎姫が軽く呻いて額を押さえる。

 

「ゆ、優く……」

「くん付けじゃなくて、様付けでおねがい。それに漢字で書いたら天祐の祐だから」

 

 斎姫の言葉を制して祐はそう言った。驚きに目を見張った斎姫が小さく息をついてうなだれる。

 

「それとも、あたしの言う事は聞けない?」

 

 首を傾げて祐は斎姫に訊ねた。すると慌てたように斎姫が伏せかけていた顔を上げる。

 

「そんなことは!」

 

 焦ったように首を横に振る斎姫に祐はにっこりと笑みかけた。斎姫が混乱しているのが手に取るように判る。優一郎と同じ身体なのは不便としか感じたことはないが、こうしてヒューマノイドの意識が丸見えなのは便利かも知れない。そんなことを考えながら祐は近くにあった椅子に腰掛けた。

 

「あなたって優一郎の玩具なのよね? だったら、あたしにとっても同じと考えていいのかしら?」

 

 そう言いながら祐は入り口近くの机の端に置かれていた包みに手をかざした。一瞬で手元に服の包みが跳んでくる。機嫌よく包みを開け始めた祐を斎姫が複雑な表情で見下ろす。

 

「あの、情報が不足してますので」

 

 判断できかねます。そう続けて斎姫がぺこりと頭を下げる。祐は包みを解いていた手を止めて横目に斎姫を見た。不思議なことに斎姫の感情が急に読めなくなったようだ。なにを考えているのか今ひとつ理解出来ない。何故だろう、と考えてから祐はすぐに納得した。優一郎がいつだったか、防御用に緊急信号を発した際に思考防壁を築けるように斎姫に何らかの処置をしたような気がする。

 

「あたしが本物かどうか疑ってるの? 緊急システムなんか発動させて」

 

 くすりと笑って祐は包みを開いて箱に納まっていた服を取り上げた。明るい色使いのシャツを胸元にあてがってみる。今時のデザインのシャツは祐の顔によく映えている。祐は胸元にシャツをあてがったまま席を立ち、部屋の隅にあった姿見に寄った。鏡で見ても服が自分に似合っていることがよく判る。

 

「斎姫、この服どう?」

 

 そう言って祐はくるりと振り返った。所在なげに佇んでいた斎姫がはっとしたように伏せていた目を上げる。それを見た祐は眉をよせてしかめ面になった。

 

「混乱してる? ごめんなさい。ちょっと悪戯が過ぎたかしら」

 

 斎姫にしてみれば祐は初対面なのだ。いつも祐は水輝の前でだけ、しかも必要な時にだけ表に出ていた。こうして水輝がいないところで表面に出るのは初めてなのだ。

 

「あの、すいません」

 

 頭を下げて斎姫が詫びる。すっかり萎縮してしまっている斎姫にため息をついて祐は告げた。

 

「謝る必用は無いわよ。敬語もいいわ。様付けも取り消し。あたしのことは祐って呼び捨てにして」

 

 そう言ってからまた鏡に向かう。色んな角度から自分を見て祐は頷いた。シャツを箱に乗せて今度は別の袋をひらく。そちらには短いスカートが入っている。腰の所にそれをあてがって祐はまた鏡を見た。マイクロミニのスカートはさすがに穿いてみないと具合がよく判らない。

 

「あたしにどう対するかは、優一郎に戻った時にでも聞きなさい。とりあえず、転入生として手続きしてもらえるかしら?」

 

 鏡の隅に映った斎姫にそう言って祐は振り返った。

 

「あっ、はい!」

 

 慌てたように返事して斎姫が机につく。祐は順に買って貰った服を次々に包みから出した。ついでにアクセサリーも出してみる。だらしなくへらへらと笑っていただけのイメージがあるが、あれで意外と順はかなり気前がいいようだ。しかもセンスも悪くない。自分がど派手なアロハシャツを着ていても、なにが祐に似合うかはしっかり見極めていたようだ。

 

 しばし端末に向きあっていた斎姫が恐る恐るの態で祐を伺い見る。祐はすぐに視線に気付いて斎姫にどうしたのかと問うた。

 

「あの……個人データはどうすれば?」

 

 訊かれて祐は不思議な気分で斎姫を見た。何を迷うことがあるのだろう。

 

「名字は吉良瀬で。父親は吉良博士。母親は吉良瀬紫。以前使うはずだった設定でお願い」

 

 そこまで言ってから祐は目いっぱいに顔をしかめた。身体の中で何かが動いているような嫌な感触がある。鋭く舌打ちをして祐は歯軋りをした。だがどうやら抵抗出来るものでもないらしい。怒りを込めて心の中で優一郎を罵倒して、祐は諦めのため息をついた。

 

 ふわりと身体が浮くような感覚と共に祐の身体が不可視の光を帯びる。一気に光が強くなり、祐の意識は消えた。引き換えにして出てきた優一郎は深々とため息を吐き出し、机に手をついてうなだれた。

 

「優くん? 本当に優くんなのね?」

 

 机についていた斎姫が慌てたように立ち上がり優一郎に駆け寄る。腹を締め付ける不愉快なスカートのベルトを緩め、優一郎は不機嫌なままで頷いた。女子用の制服のままで戻ったことについては断固として抗議したい。しかも下着まで女物というのはどういうことなのだ。苛立ちに任せて制服や下着を脱ぎ捨ててから優一郎は肩を落としてため息をついた。

 

「彼女のデータ打ち込みは僕がやっておく。だから」

 

 君は地下に行って僕の替えの制服と下着を取ってきてくれないかい? そう続けて優一郎は情けない気分で床に散らかった女物の服を見た。斎姫がそれらを手早くまとめていく。素っ裸でこんなところにいるのは正直いい気分ではないが、女装をしているよりはましだ。優一郎は靴下を脱いだついでに放り出したスリッパを引っ掛けて斎姫がいつも使っている端末の前に座った。斎姫が慌てたように生徒会室を駆け出して行く。それを見送って優一郎は深々とため息をついた。




優一郎がちょっと気の毒……w
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