※この作品はR-18です。

狩りの終焉 一部   作:伊駒辰葉

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エピタイが酷いw
エロシーンはありません。


多輝がパニックになって自暴自棄

 朝になっても目覚めない由梨佳を抱えた多輝は、消沈した気持ちで清陵高校に戻った。ホテルに置きっぱなしになっているバイクは後で取りに行けばいい。多輝は生徒たちのいる校舎を尻目に地下の研究施設に向かった。

 

 異常が判った時にすぐに戻れば良かったのかも知れない。そう思いかけて多輝は首を振った。昨日は優一郎が留守にしていたからこそ、ああして由梨佳と共に外に出かけたのだ。研究施設に戻ったところでどうにもならなかっただろう。

 

 個人照合をクリアしたところでドアが開く。多輝は地下施設に入って真っ先に優一郎の部屋に向かった。この時間なら優一郎も居るだろう。そう見当をつけて地下三階の優一郎の私室に向かう。ノックをして返事があったところで多輝は両手が塞がっていることを優一郎に告げた。開いたドアから顔を覗かせた優一郎が驚いたように由梨佳と多輝を見比べる。

 

「多輝。おかえり」

 

 そう言った優一郎の顔にはどことなく疲れが見える。だが多輝はそれをあえて無視して言った。

 

「悪い。由梨佳が壊れたらしくて……電源入れても起きないんだ」

 

 そう説明した多輝を優一郎が私室に導く。多輝は言われるままに由梨佳を部屋の奥の専用メンテナンス台に乗せた。手早く検査用のスティックを由梨佳の膣内に挿入し、端末に向かった優一郎がキーボードを操作する。多輝は横たわる由梨佳の頭を何となく撫でた。

 

 もしかしておれがまずいことを言ったのかも知れない。そんなことを考えていた多輝の顔が自然と暗くなる。

 

「仁科さん、すみません。……ええ、はい。第二研究室へ移送します。……そうです。例の論文で指摘のあった脳損傷です。はい、呉羽さんには僕のほうから連絡をとりますから作業をお願いしたいんです」

 

 電話をかけていた優一郎の声が耳に入り、多輝は慌てて顔を上げた。

 

「脳損傷……って」

 

 愕然と目を見張った多輝を肩越しに優一郎がちらりと見返る。だがすぐに優一郎は画面に向き直った。

 

「大丈夫。多輝、死ぬわけでは無いから」

 

 電話を切った優一郎が静かな声で告げる。多輝は目を見張ったまま、台に横たわっている由梨佳を見つめた。由梨佳はまるで眠るように目を閉じている。多輝は無意識のうちに由梨佳の手を握り締めていた。だがいつものように由梨佳が多輝の手を握り返してくることはない。腕も指も脱力したままだ。

 

「おれのせいか?」

 

 多輝は誰に聞かせるつもりでもなくそう呟いた。昨日の夜、自分が連れ出したりしなければ由梨佳はそんなことにはならなかったのではないだろうか。話をしていた由梨佳は途中からずっと苦しそうな顔をしていた。そのことを思い出して多輝は自然と俯いた。

 

「違う。脳損傷を引き起こした過負荷はここ一ヶ月ほどで発生している。というか、いつか脳の生体部分が限界に達することは予測されていたんだ」

 

 淡々と告げて優一郎が椅子ごと振り返る。さあ、と促された多輝は嫌がって首を横に振った。脳に損傷があったということは、唯一の生きた部分が何らかの事情で壊れてしまったということだ。多輝は台に横たわる由梨佳に上体を伏せて首を何度も横に振った。

 

「脳細胞が完全に死滅したわけではないから。幹細胞や補助コンピュータを用いた脳改造で、人格は維持できるし」

「嫌だ!」

 

 衝撃を受けた多輝は半ばパニックに陥っていた。反射的に叫んで由梨佳にしがみつく。そんな多輝の肩を優一郎がつかみ、強く引く。

 

「原因は限度を超えた記憶ギャップだ。無茶な記憶操作を外部から受けたのかもしれない。多輝のせいじゃない。その犯人の予想はつくけど、今はもう存在していない」

「嫌だ!」

 

 そう叫び返して多輝は優一郎の手を乱暴に振り払った。メンテナンス台から由梨佳を抱き上げて両腕にしっかりと抱える。入れっぱなしになっていた検査用のスティックが由梨佳の膣から抜け落ちる。

 

「多輝。起こってしまったことは仕方が無い。数十年先に起こるはずだったことが、今になっただけだ。逆に言えば早まってよかったかもしれない」

 

 真剣な面持ちで優一郎が言う。多輝は両腕に庇うように由梨佳を抱えて首を横に振った。じりじりと優一郎から離れる。そんな多輝を見つめていた優一郎が僅かに目を細める。多輝は必死で由梨佳を抱きしめていた。

 

「記憶は無くなるけど人格は維持される。宇田川さんのマスターが君であることは変化が無い。多輝、早急に脳改造処置を施さなければ、人格を残すこともできなくなる」

 

 さあ、と優一郎が手を伸ばす。多輝はぴたりと足を止めて俯いた。静かに寄ってきた優一郎が多輝の腕から由梨佳を引き剥がす。

 

 記憶がなくなる。そう多輝は呟いた。部屋を出て行こうとしていた優一郎が足を止めて多輝を振り返る。多輝はしばらくぼんやりと床を見つめていた。やがて優一郎が由梨佳を抱えて部屋を出て行く。遠ざかる足音を聞きながら多輝はため息をついた。

 

 昨日の夜のことを思い出す。由梨佳は自分の手で幼い多輝を育てたのだと言った。由梨佳はまるで我が子にするごとく慈しむように多輝の頭を撫ぜた。多輝はその感触を思い出して自分の頭に触れてみた。

 

「ばかみてえ」

 

 自分にそう言って多輝は力なく腕を下ろした。ふらりと歩き出して優一郎の部屋を出る。廊下で戻ってきた優一郎に腕を捕まれるまで、多輝は呼ばれていることに気付けなかった。

 

「多輝。ショックを受けるのはわかる。これまで積み上げてきたことが全て消え去ってしまうわけだから。だけど」

「てめえ、同じ事が女のおれに起きたらどーすんだよ」

 

 真剣な面持ちで告げた優一郎の言葉を遮る格好で多輝は吐き捨てた。綺麗さっぱり、優一郎のことを忘れてしまったら耐えられるのかと多輝は言葉を続けた。話しながら捕まれていた腕を乱暴に振り払う。

 

「もう一度、惚れさせる」

 

 きっぱりと言い切った優一郎を睨むように見てから多輝はため息をついた。

 

「そーかよ。自信たっぷりだな」

 

 そう言ってから多輝は歩き出した。能天気なことで、と吐き捨ててから多輝はエレベーターホールに向かった。叩くようにしてエレベーターのボタンを押してからふと気付く。どのみち、由梨佳を直すには自分がいたところで無意味だろう。かと言ってバイクを取りに行くのに何もわざわざ歩いてホテルに戻ることもない。

 

「多輝。君を失うかもしれないと思ったあの時、僕がどれだけショックを受けたか、想像できるかい?」

 

 後ろから声をかけられて多輝はのろのろと振り返った。不愉快な気分のままに多輝は大して考えずに答えた。

 

「そんなん知るか。なんならもっぺん試してやろうか?」

 

 それもいいかもな、と呟いて多輝は降りてきたエレベーターに乗り込もうとした。だが開いた扉の中に進む前に後ろから強く腕を引かれる。何事かと振り返った多輝を優一郎が鋭い目で睨んでいた。

 

「多輝。僕や宇田川さんを、捨てていくのかい?」

「……じょーだんだろ、ただの」

 

 顔をしかめて多輝は腕を払った。そんなことをしている間にエレベーターの扉が閉まり、多輝を置き去りにして上昇する。あーあ、と諦めのため息をついて多輝は肩を落とした。

 

「仮だけど宇田川さんの新しいボディの製作も、脳改造も今日の深夜には終わる。目覚める時に宇田川さんの傍に居てあげて欲しい」

「どうせおれのことなんざ判んねんだろ? だったら別にいいだろが」

 

 優一郎のこれまでの口ぶりからすると、恐らく由梨佳の記憶は完全に消えてしまうだろう。人格が残っても多輝と過ごした時間のことは全て忘れてしまうのだ。最初から同じ状況を築くのは絶対に不可能だ。

 

 見知らぬ者に急に母親として慕われたところで気持ち悪いだけだろう。多輝はそう心の中で呟いて踵を返した。追ってきた優一郎をついてくんな、と冷たくあしらって自分に割り当てられた部屋に入る。後ろ手にドアに鍵をかけたところで多輝はその場にへたり込んだ。ドア伝いに沈んだところでがっくりとうなだれる。

 

「多輝。君が宇田川さんのマスターだと言う事は変化が無い。そして、宇田川さんにはマスターが必要なんだ」

 

 ドア越しに優一郎の声が聞こえてくる。多輝はうるせえ、と腹の底から怒鳴ってからため息混じりに言った。

 

「そんなことは判ってんだよ」

 

 とっととあっちに行けよ、と優一郎に告げてから多輝はのろのろと顔を上げた。中空に向かって蒼の名を呼ぶ。すぐに多輝の呼び声に答えて蒼が部屋の中に姿を現した。青白く長い髪をした青年が恭しく多輝に頭を下げる。

 

「ごめん。おれの代わりに、バイク、取って来て」

 

 多輝は力ない声で命じてまた頭を伏せた。畏まりました、と答えて蒼が姿を消す。誰もいなくなった部屋で多輝はずっとうなだれていた。




多輝はこの時点ではヒューマノイドの人格がどーとか、いうところは判っていません。
ちなみに当時は作者も判ってませんでした!!(ぉぃ
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