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中期能力検査試験、所謂中間試験が終了すると、学内には一気にだらけムードが漂う。それを防ぐために執り行われるのが月中の文化祭なのだが、これもまたクラスによって盛り上がり方が異なるため、その準備に追われる慌ただしい生徒もいれば、五月からのだらけムードを引きずったままの生徒もいる。それを改善すべく、去年の生徒会長が打ち立てた計画が……。
「出し物の獲得票数一位のクラスは向こう一ヶ月の食堂利用券がオール無料! これほど美味しい景品がかつてあっただろうか!」
教壇に立って机を急ごしらえのハリセンで叩きながら演説をぶっているのは、クラス代表の片割れの男子生徒だ。その隣に立って頷いている眼鏡の少女が、もう一人のクラス代表だ。多輝は思わずこみ上げてきた欠伸をかみ殺して窓の外に目をやった。
今年は例年以上に文化祭も盛り上がるだろう。そのことは最初から判りきっていた。何しろこの清陵高校の生徒たちは恐るべき倍率の受験を乗り越えてきた、言わばおつむが優秀な者たちなのだが、乗りだけは他校の生徒など目じゃないほどにいいのだ。
私立清陵高等学校。この清陵市のことを語るなら、まずこの学校のことを把握しておく必要があると言われるくらいに有名な高校だ。
かつてこの清陵の地は木々に囲まれた未開の地だった。建っている家は殆どなく、あるのはたんぼと山と川くらいだったらしい。だがある時、突然にこの地は原因不明の災害に見舞われた。結局、山はあらかた吹き飛んで更地が広がることになったのだ。
そこを買い取ったのが吉良瀬財閥だ。そして吉良瀬グループがこの地を開発し、今では多くの学校を有する近代都市となった。そんな中、真っ先に作られた学校がこの清陵高校なのだ。
清陵高校は理事長より校長より権力を有しているのが生徒会長という、風変わりな学校だ。生徒たちのスケジュールは全て生徒会が管理しており、能力別に授業は行われる。その独特の校風から設立当初は世間の風当たりもかなり強かったらしい。だが今ではこの国では有数の進学校として有名になった。おかげで国中から生徒たちが集うのだが、そのために受験の倍率だけがうなぎのぼりになっている、という訳だ。
ちなみに清陵高校の初代生徒会長は吉良瀬立城。当時、誰も知らなかったその名は今では知らぬ者はないほどになっている。国を背負う二大財閥の片割れ、吉良瀬当主の座に位置していたのが立城なのだ。その意味もあってこの清陵高校はやたら滅多らに名だけが一人歩きしている状態にまでなっている。
多輝は欠伸をしながら目を擦り、何となく教室の全面に貼られたホワイトボードを見つめた。生徒たちが次々に発表する出し物の意見が書き連ねられている。中にはちょっと文化祭ではそれは無理だろう、というものもあって多輝は一人、苦笑した。
多輝のフルネームは吉良瀬多輝という。余りありがたくない方法でこの名を名乗ることになったのだが、今ではもう慣れてしまった。多輝は吉良瀬の当主、立城の実の娘ということになっている紫の実の娘なのだ。
いやまあ、娘っつっても微妙だけど。当の経緯を思い起こしながら多輝は眉を寄せた。賑やかな生徒たちの声に包まれた教室を何気なく見回してみる。多輝の席は窓際の一番後ろだ。クラスメイトたちは話し合いに熱中しているのか、誰も多輝のことは気にしていない。隣に座る男子生徒も熱心に意見を出している。それを横目に多輝は行儀悪く肘杖をついて欠伸をした。
清陵高校二年は大きくAとBのコースにクラスが分かれている。要するに理系と文系でそれぞれのコースが決まる。その中で更に細かくクラス編成がなされる訳だが、この手の学校行事の際はコース別クラスに生徒たちはまとめられる。普段の授業では顔を合わせないクラスメイトたちもいて、眺めているだけでなかなか面白い。一クラスの生徒数は多くて三十。一学年にあるクラスは最大で十五だ。出生率がどんどん下がっている今、これだけの生徒を抱える学校は他にはない。そして遠くから受験し、清陵高校に通う者もある為に学生寮も新設された。だがこちらにも応募が殺到したらしく、入寮はかなりの競争率だったらしい。朝晩の食事がつき、おまけに個室はホテル並みに整えられているのだから当り前の話かも知れない。更に言えば学生寮とは思えないほどに規則は緩い。外泊などはもちろん自由だし、器物破損等がなければ誰でも寮に遊びに行くことが出来る。尤も、犯罪の類は防がなければならないから入り口のガードに身分証明はしなければならないが。
五十分という限られた時間で何とか多輝のクラスの出し物は決定された。最終的にクラスメイト全員の投票で決まった出し物は、無難なところで喫茶店に落ち着いた。奇抜なものをやるより手間暇もかからず、尚且つアレンジが可能だからだ。
その日の授業が全て終了し、帰りのホームルームが終わってから多輝は静かに席を立った。毎日繰り返される誘いを全て断り、急いで校舎の一階に向かう。飛んで来る挨拶に出来るだけ笑顔で応えつつ、多輝は目的の扉の前にたどり着いた。IDカードをドアの横のスロットに通して小さな文字盤に触れる。手早くパスコードを入力すると金属製のドアは軽い音を立てて開いた。明るい光に照らされた地下に続く階段を慌ただしく降りる。
多輝の所属するロボット研究会は、吉良優一郎という清陵高校の三年生が率いる同好会だ。部に昇格していないのはそれなりに理由があるらしいが、多輝はその理由については詳しくは知らない。ここで作られているのはただのロボットではなく、人間と見分けをつけることの出来ない、ヒューマノイドと呼ばれるものだ。
ヒューマノイドは優一郎の父親である吉良総一郎が基礎理論を作り上げた。人間を模した機械の身体に人の脳を組み込んで動かす、機械仕掛けのモノをヒューマノイドと呼称する。その分野を研究する者は今現在はさほど多くない。そしてロボット研究会を率いる優一郎は、その数少ない研究者の一人なのだ。
今はまだヒューマノイド工学はメジャーな分野ではない。だが確実に人々がその技術を渇望する時代が恐らく訪れる。世界中の人間の出生率が下がり、各地で天変地異とは言い難い奇妙な事件が続いていることを鑑みても間違いないだろう。大々的に公表されてはいないが、事件に巻き込まれた中には未だに苦しんでいる人々も多いと聞く。彼らの中には運良く吉良瀬グループの病院を介してヒューマノイドの機体を与えられる者もいるが、それはほんの一握りだ。身体が欠損したからと言って、誰しもがヒューマノイドになれる訳ではない。そこには厳しい条件がつくのだ。
清陵高校の設定がまだふわっとしていて、書き切れてない感じがしますね……。