蹴られます!w
どうやら無事に追っ手は撒いたらしい。振り返ってそのことを確認して克人はずるずるとその場に沈みこんだ。走り続けたせいで身体が熱い。額に浮かんだ汗を腕で拭って克人はふらつきながら立ち上がった。動いた拍子に服にペニスが擦れて痺れるような痛みが走る。思わず顔をしかめて克人はふらりと歩き出した。
克人を捕まえようとしている女子生徒たち曰く、手作りの菓子というものは女の子の真心がこもっているそうだ。故に決して貶してはいけないらしい。複数の女子生徒がまくし立てたことを思い出しながら克人はため息をついた。
「別に貶したつもりはないんだけど」
そう呟きながら克人はため息をついて肩を落とした。どうやら甘かったらしい。長く伸びた廊下の先に追っ手の女子生徒たちの姿を見つけ、克人は走り出した。角を曲がって普通教室に続く渡り廊下に差し掛かる。
不意に身体が浮く。克人は慌てた声を上げて目を見張った。一体、いつの間に。背の高い女子生徒に捕まえられた克人は焦って手足をばたつかせた。だが克人の身体は年齢に対してとても幼い。腕一本で胴をぶら下げられてしまってはどうにも出来ない。力を使えば抵抗することなど簡単だと判るが、そんな真似をすれば彼女たちを傷つけてしまう。人間に対して力を使った試しはないのだ。手加減がまるでわからない。
「つーかまえた!」
嬉しそうに言って克人を捕まえた女子生徒が歩き出す。
「離してください!」
腕にしっかりと抱きかかえられた克人は懸命な面持ちで叫んだ。だがそうしている内に追っ手だった女子生徒たちが次々に寄って来る。どうやら彼女たちは足の速さでは克人にかなわないため、分担して各所で待ち伏せていたようだ。
もがく克人を余所に女子生徒たちが明るい声で話し合う。どうやらこれからどこかに連れて行かれるらしい。そのことを知った克人は真っ青になった。もしかしてこれから暴行を加えられるのだろうか。殴られたり蹴られたりと言った痛みには慣れているが、反射で攻撃してしまわないとも限らない。現に昨日、取り囲んでくれた男子生徒にはついつい反撃してしまっているのだ。
こんなことなら順様に喧嘩の仕方を訊いておくんだった。心底後悔しつつ克人は離してください、と何度か喚いた。どうやらそれが気に触ったらしい。克人を抱えていた女子生徒が無造作に手を伸ばす。手で口を塞がれた克人は慌てて首を横に振った。
「ガキの分際で生意気だよねー」
勝ち誇ったように笑いながら女子生徒たちが克人を取り囲んで移動する。そうされると小さい克人は周囲の目には映らなくなる。克人は必死の面持ちで何度も叫ぼうとした。だが口をふさがれているためにまともに声が出ない。
女子生徒の数は十人弱。どうやら大勢いた追っ手の多くは彼女たちの助っ人だったらしい。もがく克人を囲んだまま、女子生徒たちは校舎を出た。ぐるりと玄関を回って敷地の奥に向かう。テニスコートの向こうに雑木に囲まれて建つ古ぼけた倉庫が見える。
もしかして閉じ込めるつもりかな。そう考えた克人はほっとした。拘束されて放り込まれる程度なら、彼女たちの気配が消えてから脱出すればいいだけの話だ。だが克人はその考えが甘かったことをすぐに思い知った。女子生徒たちは確かに克人を倉庫には放り込んだが、同時に自分達も倉庫に入ってきたのだ。
ほこりっぽい匂いの立ち込める倉庫の中には雑多に物が置かれている。その中央に克人は放り出された。床に叩きつけられた衝撃で降り積もったほこりが舞い上がる。思い切りそれを吸い込んでしまって克人は激しく咳いた。
「もー汚いなあ。ほこり立てないでよっ」
一人の女子生徒がきつい声で言って顔の前を払う仕草をする。ごめんなさい、と詫びて克人は顔を上げた。周囲を取り囲む女子生徒たちはどの顔にも怒りが滲んでいる。
「ねー、どーするー?」
「殴ったりとかして傷残ったらアタシたちが怒られるしねー」
どっちかと言えば単純な暴力の方がありがたいのだが。そんなことを思いながら克人は恐る恐る彼女たちの顔を伺った。にやにやと嗤いながら女子生徒たちが克人を見下して話し合っている。
「じゃあ、顔に落書きしちゃうとか!」
「やだー、それぬるーい」
克人を捕らえた安心感からか、女子生徒たちは好き放題言っている。だがそのことは逆に克人を不安から解放した。どちらにしろ、彼女たちは何らかの悪戯で怒りを鎮めようとしているのだ。それなら特に問題はないだろう。暴力を揮われて反撃してしまう恐れがあるよりよほどましだ。
「でもさあ。コイツ、ほんとに男なのお?」
女子生徒の中の一人がそう言いながら足で克人の肩をつつく。靴を履いたままの足で蹴られた克人はだが、特に反応しなかった。顔立ちが優しすぎるために女に間違えられたことならよくある。コロニーでもそのことで周囲にからかわれていた。
不意に突き抜けるような痛みが走る。克人は思わず声を上げて腰を引いた。女子生徒の一人がつま先で軽く克人の股間を蹴ったのだ。ほんの少し触れる程度のことだったが、克人にとってそれは痛みになった。
「なに? 急所にケリ入れたの? ひでー」
そう言って笑う女子生徒に、克人の正面にいた女子生徒が慌てて言い返す。
「ちっ、違うよ! そんなに酷く蹴ったつもりは……」
うろたえながら言った女子生徒が克人を恐々と見る。克人は股間を押さえてじりじりと後ろに逃げた。だがすぐに別の女子生徒が克人の背中を蹴って退路を塞ぐ。背中を踏みにじられた克人は勢い余って床に転がった。
まあ、ありがちな展開です。