さすが祐w
「そろそろ、あなたのあそこ、ガタが来てるんじゃないかなあとか。今だって、オナニーしながらゲームしてたんでしょ?」
画面に映し出されたログを読みながら祐はあけすけに言った。すると天輝が通信機の向こうで小さく呻く。だが天輝は特に隠そうとは思わなかったらしい。そうよ、と素直に返事する。
『だって仕方ないじゃない。火藍のこと考えてたら悶々としちゃったんだもの』
こちらもきっぱりと言って笑う。そんな天輝の言い方に苦笑して祐は画面をスクロールさせた。やはり思った通り、機体のあちこちに不具合が出始めている。こちらのヒューマノイドとは異なり、天輝は自慰のみでしかストレス値を下げることが出来ないのだ。
「クリトリスも軋んで感度鈍くなってるし。メンテ必用でしょ? 出張修理とか受ける気ない?」
機体の状態を指摘して祐は腕組みをして背もたれに寄りかかった。最悪の場合は順に頼んで手引きしてもらうしかない。だがそんなことを考えていた祐の耳に意外な明るい声が届いた。
『えっ! 来てくれるの!? わあ、すっごい嬉しい!』
そう言ってから天輝は嬉々として天空の城へ入る方法を教えてくれた。どうやら天空の城への入り口は誰でもが開けられる訳ではないようだ。が、出口は常に同じ所にあるという。本来は逆に辿るような手間な真似はしないのだが、今はそれしか城に上がる方法はないらしい。
「一日しか居られないけど、じっくり直してあげるわ。あと、約束のゲーム、全部買ってあるから」
『ほんとに!? やったね!』
心からの喜びの声に祐は思わず頬を緩めた。これだけ素直に喜ばれると悪い気はしない。
それから天輝は天空の城の出口に行く方法を教えてくれた。どうやら天空の城の出口は冥界の傍、それも底の方に位置する迷宮にあるらしい。
『白銀がいないとかなり厄介だと思う。あれを使うのが一番速いんだけど』
そう言って天輝が呻く。それを聞いた祐は眉を寄せた。白銀というのは一応、銀龍神と呼ばれる力のある龍神の一人だ。だが今は白銀は要の下僕になっている。どうやら白銀は誰かの上に立つより、そうして誰かに使われている方が性にあっているらしい。
「翼ね」
『そう。あなたたちも翼は持ってるだろうけど、白銀のは段違いに速いの。呼吸困難に陥らないようにわざわざ結界張らないと使えないくらいだしね』
すらすらとそう解説して天輝がため息をつく。天輝の嘆きも判る気がする。白銀は要の下僕には丁度いいのだが、本来の使命であるところの龍神の役割を放棄している感がある。あるところを境に記憶を完全に失っているのだ。
『水輝に頼めば? あいつなら多少の難はクリアするわよ? 今のとこ、真面目に最強だし』
さらりと言われて祐は目を細めた。そんなことが出来るなら最初から天輝に打診などしてはいない。
「実はそのことで、相談したいこともあるの。だから水輝さんは頼れない。あっ」
祐ははっとして声を上げた。以前、冥界の王である黒妖牙と呼ばれる龍神に貰い受けた犬がいることを思い出したのだ。そのことを祐が告げるとああ、と天輝も返事した。
『それは丁度いいかも! いいわ、黒妖牙はあたしが黙らせとく。冥界の門をくぐっても犬がいるなら安心ね!』
はしゃいだ声で言った天輝に頷き、祐は打ち合わせをして通信を切った。慌ただしく通信機を机の引出しに戻して荷造りを始める。メンテナンス用の工具、頼まれていたゲームソフトと持参するものを揃えるついでに祐はキッチンにあったおやつを数点、一緒に持っていくことにした。キッチンに急に現れた見慣れない祐の姿に最初は戸惑っていたメイドの梨恵も、事情を話した祐の言葉をすぐに信じてくれた。ピクニックですね、と嬉しそうに笑って美味しそうな菓子を見繕ってくれる。祐は梨恵に礼を言って急いで部屋に戻った。
荷造りを終えた祐は三人の女性が詰める部屋に向かった。ノックもなしでドアを開ける。くつろいでいたらしい女性たちは不思議そうに顔をそれぞれ見合わせた。美しい造作をしたこの女性三人が先ほど天輝と話していた冥界の犬と呼ばれる存在だ。
「お仕事の時間よ」
どうやら彼女たちは説明しなくても祐が優一郎だとすぐに理解出来たらしい。慌てて頷いて三人が祐の前に跪く。その中の一人、一番背の高い女性が恭しく頭を垂れて告げた。
「どのような命でございますか?」
そう言った女性が静かに顔を上げたところで祐は腕組みをして胸を張った。
「冥界傍の迷宮を案内して欲しいの。あなた達の住処だったところだから簡単でしょ?」
「心得ました」
三人が犬の姿で引くことが出来るようなそりは研究施設にはなかった。学校の倉庫に古ぼけた大きなそりが転がっていたのは幸運だった。斎姫に用意して貰ったそれを急いで研究施設に持ち帰る。漆黒の犬になった三匹にそりを引くためのベルトを胴体に着ける。即席ではあるが、首輪で引っ張らせるよりはましだろう。
祐はそりに乗って落ちないようにしっかりと縁を握った。それを合図にしたかのように犬が一匹、遠吠えする。続いて二匹目が吠え、最後に三匹目の低い吠え声が響く。しばらく三匹は吠え続けていた。
不意に部屋の中央に黒い闇が現れる。祐は深呼吸をして身構えた。何しろ、冥界は祐にとっては初めての場所だ。最初は小さな点だった闇がゆっくりと広がり、やがて部屋の中央には直径二メートルほどの球状の闇の空間が出来上がった。遠吠えを止めた冥界の犬がうかがうように祐を振り返る。祐は唇を引き結んで三匹の犬に頷いてみせた。
犬が走り出す。球に向かって跳んだ犬が闇に溶けていく。三匹の犬が消えた後、祐はそりごと闇の球に飲み込まれた。
祐は割と無茶します。