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「あと、それ以前に、これは再起動してみない事にはわからないけれど、人格自体が失われているかもしれない」
真剣な表情で祐が告げる。多輝は黙って唇を引き結んだ。
不意に上方に真新しい気配がする。
「あのさー。どうでもいいけど、いつまでも立ち話ってのもあれでしょ? 上がってきたら?」
第三者の声に多輝は慌てて天井を振り仰いだ。いつの間にか二人の真上の天井部分から誰かが顔を覗かせている。白い天井からまるで生えるようにして顔を覗かせているのは天輝だ。女の時の多輝に良く似た風貌を持つ天輝がにこにこと笑って祐と多輝とを見比べる。
「そっちのくそがきも煙草吸わないってんなら上がってきていいわよ。次の階層までなら通れるから」
「くそがきって……」
多輝は天輝の言いようにめいっぱい顔をしかめた。
「天輝ちゃん、ごめんね……。せっかくここに来たのに別の事で時間とってしまって」
天井を向いた祐が申し訳なさそうに言う。すると天輝はあはは、と笑って大丈夫だよと言った。
多輝と祐は天輝に言われるままに部屋の奥に進んだ。扉を開けると階段がある。真っ白なその階段を昇りきったところにまた扉がある。多輝は祐と顔を見合わせて扉を開けた。
広々とした空間が広がっている。大きな神殿を思わせるフロアを多輝は驚愕に息を飲みながら見回した。真っ白な床には美しい色彩のじゅうたんが敷かれている。彫刻が施された柱が定間隔に並ぶその空間の片隅に、何故か唐突に和室がある。六畳ほどのそこにいた天輝が顔をほころばせて立ち上がる。
「らっしゃーい」
嬉しそうに言いながら天輝が駆け寄ってくる。それから天輝は背後を振り返って和室風なフロアの一角にいた白い女に言った。
「お茶三人分おねがーい」
気楽な天輝の声に女が深々と頭をさげてフロアを出て行く。多輝は女を目で見送ってから天輝に促されるままに和室風のフロアに向かった。まるでドラマか何かのセットのようにそこだけに和室空間が作られている。畳にテレビ、ゲーム機、こたつなどの置かれたところに多輝は恐々と足を踏み入れようとした。
「靴は脱ぐ!」
土足で上がろうとしていた多輝の背を天輝がどつく。多輝はしかめ面で詫びて大人しく靴を脱いで畳に上がった。
「では、おじゃましまーす」
嬉しそうに言って靴を脱いだ祐が畳の間に上がる。多輝は仏頂面で二人が嬉しそうにこたつに入るのを見ていた。良くは判らないがこたつに入るほど寒くはないのではないだろうか。そう思いつつも多輝は天輝に急かされて大人しくこたつについた。
何気なくテレビを見て硬直する。映し出されていた画面に多輝は声を上げた。
「うわ! こいつ、ラスボスまでいってやがる!」
テレビを指差してから多輝は慌てて天輝を見た。見慣れたゲーム画面と天輝とを見比べる。天輝はふふん、と得意そうに胸をそらしてみせた。多輝は驚きの目でゲーム画面に見入った。このゲームは特にクリアが難しいと有名なロールプレイングゲームなのだ。
「多輝ってば、このゲーム春からずっとやってたよね? まだクリアしてなかったの?」
呆れたように祐が言う。多輝は慌てて首を横に振った。
「無茶言うな! 洋ゲーなんだぞ、これ! 訳しながら進めなきゃなんねえし、すげえ難しいんだよ!」
くそー、リセットしたる。そう言いながら多輝はゲーム機に手を伸ばした。すると天輝が悲鳴を上げて多輝を制する。冗談だと言って多輝は手を引っ込めた。
茶が運ばれてきてしばしゲーム談義に華を咲かせた後、祐がふと真面目な顔になって言う。
「天輝ちゃん、ヒューマノイドを一体預かる気無い?」
「え? なんで?」
それまで機嫌よく話をしていた天輝が不思議そうに言う。多輝は天輝を頭からこたつに隠れたつま先まで見た。そこで納得する。
「お前、かなり機体に無茶かけてるだろう。ストレス値ぎりぎりいっぱいじゃねえか」
多輝は何気なく言いながら茶を啜った。するとみかんの皮を剥いていた手を止めて天輝が嫌そうに多輝を見る。
「一人、行き場が無くなりそうなの。仮でいいから天輝ちゃんにマスターになってもらえると凄く有り難いし、それに天輝ちゃんにも悪い話じゃないと思う」
「何だそれ。もしかして由梨佳のことか?」
不機嫌な面持ちで多輝はそう告げた。すると祐が呆れたように横目に多輝を見る。
「いろいろ理由つけてたけど結局母親になってほしくて、過去の話をしたんでしょ? で、母親になれないなら、必用無いんでしょ? 違う?」
「誰も要らないなんて言ってねえだろうが」
こたつの上のかごからみかんを取りながら多輝は仏頂面で言った。皮を剥こうとしたところでみかんが真っ二つに割れてしまう。仕方なく多輝は半分ずつ皮を剥いた。
「母親に仕立てるのが無理だってだけだろ? おれは由梨佳は好きだっつってるじゃねえか。このじゃじゃ馬」
ついでに祐を罵倒しつつ多輝はみかんのふさを口に放り込んだ。多輝の手に残っていたみかんのふさを横からさらいながら祐が鋭い目をする。
天輝が混ざりました。