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「こんな母親は断じて嫌だ!」
悲鳴混じりに言った多輝に天輝があははは、と気軽に笑ってみせる。そんな天輝とは対照的に祐が厳しい顔で言う。
「子は親を選べないの。諦めなさい」
「うわっ。お前、からかって楽しんでるだろう!」
そう叫んで多輝は祐を睨みつけた。すると祐もすぐに笑い出す。くそう、とぼやいて多輝は諦めのため息を吐いた。どすん、とその場に再び座り、みかんを取る。どういう仕組みになっているのか、こたつの上のこのかごは、上からみかんを取った分だけ下からみかんがわくらしい。
「からかってなんかいないわ。事実よ。天輝ちゃんも心当たりあるから、言ってるんでしょう?」
真面目な面持ちで祐が言うことに天輝がうんうんと頷く。
「それにさあ。万が一、水輝と立城の化合物だったらあんた、優一郎くんとばんばんやってたらヤバいでしょうが」
すらすらと言いながら天輝が手を伸ばす。多輝はため息を吐いて剥いたばかりのみかんを天輝の手に乗せてやった。
「そもそも水輝を何かと混ぜるってのが無茶な発想なのよ。だからほら。例のあの子、結局は龍神の器は形成できなかったんでしょ?」
多輝の渡したみかんを嬉しそうに食べながら天輝が言う。多輝はため息を吐いて今度こそ、とみかんを取った。その横から祐が手を伸ばしてみかんを取る。だがすぐに祐はみかんを自分の前に据えた。どうやら右手に珠を握っていて剥けないらしい。多輝はため息をついて自分の剥いたみかんを今度は祐に手渡した。当り前の顔で手を出した祐が多輝が丁寧に小房に分けたみかんを頬張る。
「そうね。結局、お人形さんになっちゃったわ」
天輝の言葉に頷いて祐が返す。多輝は今度こそ絶対に、と呟いてみかんを取った。急いで皮を剥いたところで正面から手が伸びてくる。くそう、とぼやいて多輝は天輝の手にまた剥いたみかんを乗せた。そこで多輝はみかんを食べることを諦めた。温くなった紅茶を啜る。
「そんで? どうすんだよ。やるのか、やらないのかはっきりしろ」
「うわ、ママに向かって偉そう」
多輝の仏頂面で吐き出した言葉に天輝がそう切り返す。多輝は引きつる頬を押さえてどうなんだよ、と二人を急かした。
「機体だから、アレはついてるから女性体でもやろうと思えばできるのか」
祐がふむ、と呟いて言う。それを横目に睨んで多輝はため息を吐いた。
「そんなもん、男になりゃいいだろが」
多輝は不機嫌な顔で言って紅茶の入っていたカップを置いた。まずはベルトを元の位置まで緩めて右手を胸に当てる。最近になってようやく出来るようになったのだ、と多輝は告げてから息を詰めて右手を胸に突っ込んだ。おー、頑張れと天輝が呑気に言う。多輝はうるせえ、と呟いて痛みに歯を食いしばった。器に収まった龍宝珠を探って力を叩き込む。その瞬間、多輝の身体は男性の形に変質した。よし、と呟いて胸から手を抜いた多輝を祐がつまらなさそうに見つめている。その視線に気付いて多輝はめいっぱい顔をしかめた。
「何だ。お前、レズるとこでも見たかったのか?」
そう言いながら多輝は残っていた紅茶を飲み干した。
「ううん。いろいろ機材持ってきてたから試せたのに残念だと思って」
それを聞いた多輝は思わず紅茶を吹き出しかけた。慌てて口を手で覆って咳き込む。祐は不服そうに唇を尖らせて近くに置いてあった鞄を引っ張り寄せた。口を開けてこたつに一つずつ機材を乗せていく。それを見た多輝はひくひくと頬を引きつらせた。うわあ、と天輝が楽しそうな声を上げる。
「これとか、これとか、独立しても動作するけど、汎用型だから多輝の機体にも取り付け可能なの」
「いや待て。何だよ。男のおれがやるのはまずいってのか? 女の身体だと手足が短いからし難いんだが」
淡々と説明する祐を制して多輝は真顔でそう言った。ほう、と天輝が感嘆の声を漏らして多輝を見つめる。視線を感じて多輝は顔をしかめた。
「女だと快感でおれの意識が飛ぶだろ? それだと意味ねえじゃねえか」
実際、女性の時に感じる快感と男の時のそれとは全く異なる。どちらが冷静に相手をより気持ち良く出来るかと言えば、やはり男の時だ。多輝は顔をしかめたままそう説明した。
「あたしがコントロールしてあげるから大丈夫よ」
祐がそう言って頷く。多輝はあー、と呻いて頭をかいた。
「悪い。おれ、女の時に優一郎以外の奴とやる気、ねえわ」
そう命令されてるし。多輝は申し訳ないという気持ちをこめて祐に言った。すると祐が複雑な顔をする。
「命令だから、なんだ」
少し低い声で言った祐の顔はどことなく不機嫌そうだ。多輝は眉を寄せて肩を竦めた。
「お前が不満を感じることじゃねえだろう。優一郎とは別なんだろ? お前」
少なくとも祐はそのつもりのはずだ。多輝は横目に祐を伺いながらそう訊ねた。天輝はいつの間にか黙っている。
「言い忘れてたけど、記憶は完全に共有してるし、彼も完全に寝てるわけでもないみたいだから」
この前は強制的に主導権取換えされちゃったし。祐が挑戦的に多輝を睨みながら言う。だが多輝はふうん、と言って答えた。
「でも別人格なんだろ? だったらお前にゃ関係ねーだろ」
多輝は手を伸ばしてポットを取り上げた。温くなった茶をカップに注ぐ。
「そうね。悪かったわ。口出しして」
そう言って祐がこたつに乗せていた機材を鞄に戻す。多輝はその間に天輝に目配せした。どうやら天輝もある程度のことには気付いているらしい。さすが親子、と思わず心の中で呟いてから多輝は慌てて自分の思考を否定した。
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