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「誰も苛めてないだろう。人聞きの悪いことを言うな」
「あら。おかえりなさい。また苛めてたの?」
店の方から今度は別の声が聞こえてくる。入り口から顔を覗かせた渚に水輝はふん、と鼻を鳴らしてみせた。
「誰が苛めた。誰が。そもそもこいつが見境なく飛び掛るのがまずいんだろうが」
そう言いながら水輝は片手を伸ばして千佳の手をつかんだ。そのまま片腕に千佳を抱え上げる。荷物のように肩にかついだところで千佳が泣き声を上げて手足をばたつかせた。
「千佳、荷物じゃないもん!」
こんな運ばれ方は嫌だと喚く千佳に煩い、と返して水輝はそのまま店に入った。渚が慣れた調子でアルバイトたちに指示をする。水輝はカウンターに歩み寄ったところでようやく担いでいた千佳を下ろしてやった。カウンターに収まっていたアルバイトの店員からエプロンを受け取る。黒いエプロンをつけて水輝は身軽にカウンターを飛び越えた。オーダーされて作りかけだったデザートをさっさと仕上げてカウンターに乗せる。
「おら、とっとと運びやがれ」
カウンターについていた客がいつもの水輝の調子にくすくすと笑う。二人組の若い女性客に愛想笑いを向けてから水輝は千佳を再度促した。膨れ面をしていた千佳が渋々の態でカウンターに並んだパフェをトレイに乗せる。カウンターの隅に並べられたオーダー表を見ながら水輝は手早くデザートをグラスに盛り、コーヒーや紅茶をいれた。
「すみませーん。カフェオレください」
カウンターについていた女性客が言う。水輝ははい、と返事をしてそちらを向いた。
「アイスにしますか? それともホット?」
そう言いながら水輝は二人連れの女性客の前に置かれていた伝票を取り上げた。注文をした方の女性がどうしようかな、と首を傾げる。エプロンのポケットにさされていたペンを取り上げて水輝は告げた。
「リクエストしてくれればコーヒーとミルクの分量も変えられるよ」
「えっ、そうなんですか?」
思案していたらしい女性客が嬉しそうな声で言う。水輝は伝票に落としていた目を上げてにっこりと笑って頷いた。それから女性のリクエスト通りに水輝はアイスカフェオレをいれた。ついでに二人の前にプリンを盛った器を出す。驚いて顔を見合わせた二人に水輝はこっそりサービスだから、と言って笑みかけた。
機嫌よく女性客と話をしていた水輝の視界で店のドアが開く。そこに現れた男を見止めて水輝の機嫌はいきなり悪くなった。
「ちわーす。水輝ちゃん、おかえりーん」
サングラスにアロハシャツといういでたちで現れた順がへらへらと笑いながらカウンターに寄る。水輝は仏頂面で定位置のコンロの前に戻った。当り前の顔をしてスツールに腰掛けた順の後ろから見覚えのある幼い少年が店に入る。珍しそうに店内を見回している少年を見止めて水輝は驚きに目を見張った。
「あっ! 沙耶さん!」
嬉しそうに言いながら少年がカウンターに駆け寄ってくる。水輝は頬を引きつらせながら少年を指差した。そのまま順をうろんな目で見る。
「何でここにいるんだ? 学校はどうした」
「お久しぶりです! お元気でしたか!?」
水輝の不信感いっぱいのせりふを遮る勢いで少年が言う。水輝はぴたりと口をつぐんでぎこちなく首を動かした。にこにこと嬉しそうに笑った少年がここいいですか、と順の隣に腰掛けようとする。だが高いスツールに乗るのが難しいらしい。腕で椅子の部分をつかんで乗ろうと苦心している。
「何で克人がここにいる?」
水輝はもう一度、今度は少年の名を混ぜて言った。一見、幼い子供にしか見えないこの少年は克人という名だ。そのことは水輝も知っている。
「今日はねー。オレに付き合う約束でさぼらせたの」
するりと席を立って順が克人を両手で支えて持ち上げる。すとん、と克人をスツールに下ろしてから順は席に戻った。
「……注文は何だ。ちなみに今日は紫は不在だぞ。会社に行くっつってたからな」
機嫌悪く言ってから水輝は克人を見た。克人はよほどこの手の店が珍しいのか、嬉しそうに周囲を見回している。順はと言えば相変わらずだらしのない笑みを浮かべて肘杖をついている。
「あー、いいのいいの。今日は近くにきたから寄っただけよん。……ほら、克人。何か注文しようよ」
そう言って順が水輝の差し出したメニューを取ってめくる。やれやれと肩を竦めて水輝はメニューを覗き込んだ克人に言った。
「お前も元気そうだな。今は清陵に通ってるんだろ?」
洗い立てのグラスを磨きながら水輝はちらりと克人を見た。はい、と笑顔で頷いて克人がまたメニューに視線を戻す。水輝はそんな克人の隣に座る順を見た。が、別に今すぐに言わなくても明日言えばいいか。そう考えをまとめて水輝は二人に再度、注文を促した。
「あんまり無茶に学校を休ませるなよ。あそこのスケジュールはかなりハードなんだ。付いていけなくなるぞ」
注文されたパフェを作りながら水輝はぼやくように言った。すると順が気軽に笑いながら克人の肩を叩く。
「だーいじょぶよん。克人は元々、その手のガッコに行かなくてもだいじょぶなくらいには学習させてるから」
自信満々に言った順を睨みながら水輝はふと手を止めた。克人はよほど楽しいのだろう。嬉しそうに水輝の手元を見つめている。
そういえばハイキュー!!の劇場版を観に行くつもりなのですが、果たしていけるのかどうか!w
(小説にまったく関係ないことを挟んでみるスタイル)