※この作品はR-18です。

狩りの終焉 一部   作:伊駒辰葉

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克人は賢い……んですけどね……w
エロシーンはありません。


多輝に言いつけるぞ 4

「じゃあ何で今さら通わせるんだよ。しかも清陵なんて、遊び気分で行くようなところじゃないだろうが」

 

 しかめっ面で言って水輝は手早く生クリームをグラスに絞り出した。チョコレートで出来たスプレーを散らして最後にクラッカーを飾る。出来上がったチョコレートパフェを水輝は無愛想な顔で順の前に置いた。克人の注文したプリンアラモードは先に出してある。

 

「え、楽しいですよ?」

 

 目を丸くして克人がそう言う。いや、そういうことじゃなくてだな。そう言いかけて水輝は閉口した。順がにやにやと笑って水輝を見ているのだ。どうやら克人の無邪気さにどう対応するのかを見ているらしい。そのことに気付いて水輝はふん、とそっぽを向いた。

 

 その日も一日、何事もなく閉店時間になった。昼間に訪れた順と克人は本当に立ち寄っただけだったらしく、注文の品を食べてすぐに店を出て行った。それから特に気になる客は来ていない。学校から戻った奈月と桜がフロアに出て、会社から戻った紫が揃ったところで閉店になった。アルバイトが掃除を終えて帰宅する。千佳を巣に追い払って水輝はカウンターに戻った。残った連中それぞれに茶とコーヒーを入れる。

 

「留守の間も特に変わったことはなかったんだろ?」

 

 最後に自分の紅茶を入れてから水輝はいつもの面子のついたテーブルに向かった。今日の売上をまとめる紫を囲む形で座っていた渚と奈月、そして桜が同時に水輝を振り返る。

 

「まあ、大したことは何も。多少売上が落ちたのは仕方ないかも知れないわね」

 

 熱いコーヒーを啜りながら渚が言えば、桜が同意するように頷く。携帯端末に売上高の入力をしていた紫もそのようですね、と呟く。その隣に座っている奈月は白いマグカップを両手に包んで言葉を挟もうとはしない。確かにここの売上に貢献している紫の不在は痛かっただろう。この喫茶店では決まった時間に楽器の生演奏をすることになっているのだ。紫はその担当をしているため、稀に面白いところからスカウトされたりもする。

 

 ふむ、と呟いて水輝はテーブルの端の椅子を引いた。腰掛けて何気なく紅茶を啜ってから慌ててカップを唇から離す。

 

「あちー」

「ばかね。何をしてるの」

 

 呆れたように言う渚にうるせえ、と呟いて水輝はカップの中に息を吹きかけた。今度は油断しないように慎重に冷めた表面だけを啜る。

 

「それではわたくしは一足先に休ませて頂きます。……予習も残っていますし」

 

 そう言って桜が立ち上がる。空になったカップをテーブルに乗せ、ご馳走様でしたと言う桜に水輝はお疲れ、と声をかけた。いつもならそのままさっさと店を出てしまう桜が何故か今日に限って水輝を鋭く睨む。何事かと眉を寄せた水輝は漂ってきた桜の思惟を読んでああ、と納得した。

 

「あれは別に厭味のつもりで名乗った訳じゃないぞ」

 

 どうやら桜はかつて水輝が沙耶と名乗った件が気に入らないらしい。克人と同じクラスだというから、直にその名前を耳にしたのだろう。そのことを読んで水輝はそう告げた。すると桜の視線が更に鋭くなる。

 

「おやすみなさいませ」

 

 それだけ言い放って桜が店の入り口に向かう。やれやれとため息をついて水輝は肩を竦めた。恐々と紅茶を啜ってから目を上げる。そこに訝しそうに自分を見つめる紫を見つけて水輝は何でもないと言ってみた。だがどうもそれだけで納得しそうにない。くそ、と内心で呟いて水輝は仕方なく言った。

 

「前に別の名前を使ったことがあるってだけだ。特に珍しいことじゃねえだろ?」

「どんな名前?」

 

 紫が即座に訊いてくる。水輝は答えに詰まって頭をかいた。いいじゃねえか、別に。苦し紛れにそう言ってみる。だが紫はじっと水輝を見つめたままだ。水輝はしばし考えてから判ったよ、とため息をついた。

 

「沙耶だよ。沙耶」

「……それは……ちょっと」

 

 難しい顔で紫が唇に手を当てる。渚が深いため息をつき、首を力なく横に振る。その中で奈月は一人、困惑したような奇妙な表情をしていた。

 

「水輝さん、あのっ!」

 

 しばしの後、奈月が何事かを決意したようにそう言って立ち上がる。水輝は紅茶を啜ってから何だ、と低い声で告げた。

 

「あっ、いえ、ごめんなさい」

 

 泣きそうに顔を歪めて奈月がすとんと椅子に戻る。すると今度は渚が眉を寄せて言った。

 

「ちょっと水輝。あなた、無神経なんじゃないの? 女の子を泣かせてどうするの」

「いや、待て。何で無神経とか言われなきゃならないんだ」

 

 めいっぱいに顔をしかめて水輝は渚に言い返した。その傍では奈月が俯いてしまっている。もしかして、と水輝は考えを巡らせてからぽんと膝を叩いた。

 

「あ。砂夜とは関係ないから。ていうか、沙耶っての、おれの本名ね」

 

 さらりと言ってから水輝は背もたれに深く寄りかかった。一瞬の間の後に三人が一斉に慌てた声を上げる。あんだよ、と低い声で言って水輝は頭をかいた。

 

「ほ、本名って……そういえば表に出す名前が本名とは限らないんだっけ」

 

 呆然と紫が呟けば渚も言う。

 

「確かにそれなら話は合うのよね……迂闊だったわ……」

 

 二人が呆然としている中、奈月だけが納得顔で頷いている。水輝は三者三様の反応を伺いながら紅茶を飲み干した。ごちそうさん、と呟いて席を立つ。

 

「悪いけど、ちょっと出かけてくる。あと、頼む」

 

 そう言って水輝は置き去りにされていた桜のカップと自分のそれをカウンターの中の流しに放り込んだ。エプロンを外してカウンターに放ってから店を出る。水輝は振り返って誰も追って来ないことを確認してからその場から転移した。




このエピソードは目まぐるしく登場人物が入れ替わりました。
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