微妙にエロっぽくはありますが、エロシーンはありません。
カーテンの隙間から入り込む光に顔をしかめ、水輝は寝返りを打とうとした。そこで左腕に何かが乗っていることに気付く。ぼんやりとする頭で考えながら水輝は何気なく両腕でそれを抱きしめた。滑らかな手触りのものを手で撫でながら唇を落とす。殆ど反射的にそこまでしてから水輝は薄く目を開けた。
腕の中で緊張に身を強張らせている奈月に寝ぼけつつも笑みかける。掠れた声でおはようと言った水輝に奈月が真っ赤な顔で頷く。
「おはようございます!」
抑えた声ではあったが元気よく返事した奈月に笑みかけて水輝は再度、目を閉じた。両腕に奈月を抱いたまま、もぞもぞと布団の中で動く。少しずつ布団の中に潜りながら水輝は奈月の額から頬、唇、首筋に唇を落としていった。剥き出しのままの胸元にも軽く触れるだけの口づけをする。白く柔らかな奈月の乳房に顔を埋め、水輝はしばし静止した。
「水輝さん……」
優しい奈月の声音が間近から聞こえてくる。そのことに心底ほっとしながら水輝は乳房の白い肌に頬擦りした。
昨晩、水輝は気晴らしを兼ねて夜の街に出た。だが何人かの女を捕まえてはみたが、一向に気は晴れなかった。ある程度の力は回復出来たから無駄ではなかったのだろうが、生憎と上物と呼ぶべき女はいなかったのだ。
結局、水輝は夜中に奈月を連れて屋敷を出た。屋敷から遠く離れた場所にあるホテルに入って朝方まで交わっていたのだ。そのことを思い出しながら水輝は奈月の胸の中でため息をついた。
「悪いな。今日は学校があるのに」
水輝は奈月の胸から顔を上げて小声で詫びた。布団から顔を出した水輝に奈月が慌てたように答える。
「いいえ! 仕方ありません。水輝さん、かなり消耗していらしたし……」
そう言いながら奈月がそっと目を伏せる。水輝は改めて奈月を胸に抱え込んだ。抱きすくめて柔らかな髪に唇を落とす。
吉良瀬の地と呼ばれる清陵からずっと離れた田舎の町にぽつんと建ったホテルの中に二人はいた。厳重な結界を施しているから、中の様子は恐らく誰にも読めないだろう。水輝はそのことを確認しながら何気なく部屋の中を見た。寂れたホテルの部屋はお世辞にも綺麗とは言い難い。それらしく大きなベッドが設えてある以外は、置かれているものはどれもこれも古臭い。紙箱入りの大きなマッチ箱が机に据えてあるところといい、いつのものだか判らないコンドームが置かれているところといい、流行っていないのは間違いない。だがそれでも清潔感のあるシーツやタオルのおかげで気分を害するようなことはなかった。
このまま二人でどっかに行くか。水輝は奈月に何度もそう言いかけては止めた。すべてを放り出してしまうには遅すぎる。水輝は深々とため息をついて目を閉じた。抱きしめていた腕から力を抜いて、ベッドに仰向けになる。暗い色の天井をぼんやりと見上げてから水輝は横目に奈月を見た。
「今から行くか? 何なら送るぞ」
この時間ならまだ遅刻したと言い訳が立つ。すると妙に生真面目な顔で奈月が水輝をじっと見つめる。
「あの……水輝さん」
意を決したように奈月が声をかける。緊張しているのか声は震えている。水輝は何だ、と返事をしながら奈月に向き直った。
「紫さんのことです」
真っ直ぐな目で水輝を見ながら奈月が言う。水輝はほんの僅かだけ眉を上げた。
「紫がどうかしたか?」
結婚式は一週間前に済ませた。その足で新婚旅行も済ませた。今ごろは紫は溜まっている仕事に追われているに違いない。旅行は宣伝も兼ねていたから、記者達に囲まれてインタビューくらいは受けているだろう。
「水輝さんは、紫さんの事を愛してらっしゃるんですよね?」
不安そうに奈月が小声で訊ねる。水輝は腕を伸ばして枕元の煙草を取り上げた。左腕を枕にしている奈月の身体を不自然に揺らさないよう気をつけつつ、煙草を一本だけ咥える。
「まあ、結婚した訳だしな」
唇に煙草を挟んだまま水輝はぼそりとそう答えた。指を鳴らして青白い炎を呼び、煙草の先に火を点ける。奈月の顔にかからないように横を向いて煙を吐き出してから水輝はため息をついた。
「あの! ……いえ」
言いかけて止めた奈月を横目に見ながら水輝は苦笑した。悪いな、と呟いて奈月の頭の下から左腕を抜く。その手で奈月の頭を撫でてから水輝は寝返りを打った。うつ伏せになって枕元の灰皿に煙草の灰を落とす。
「どうした? 何か気になるなら言えよ」
煙草をくゆらせつつ水輝は優しくそう奈月に声をかけた。それまで考え込むように俯いていた奈月がぱっと顔を上げる。
「わたし、水輝さんが紫さんと結ばれたらいいとずっと思ってきました」
「ああ、知ってる」
いつからか奈月がひっそりとそう夢見ていたことを水輝はよく知っていた。そして奈月の夢はある意味では叶えられたのだ。ぼんやりと考えつつ水輝は枕を胸に抱きこんで苦笑した。先の一件を思い出せば思い出すほど、かなり強引な手段をとってしまったことが悔やまれる。もしもあんな方法をとらなければ今の状況は変わっていたかも知れない。
「わたしの能力を、紫さんに移せたらいいのに……」
ぽつりと呟いて奈月がそっと水輝に身を寄せる。水輝は苦笑して奈月の頭を撫ぜた。どんなに望んでも奈月が子を成すことは出来ない。何故なら奈月は生身ではないからだ。そして水輝の一部である以上、当の水輝との間に子を成すことは絶対に不可能だ。
紫が難しい立場に置かれてる感じです。