捕食者サキュバスさんの食べ歩き日記 作:仮面紳士
「ただいまー」
「お帰りなさいませ、主様」
滞在している宿の扉を空間魔法によって隠れ家と繋げ、レミーは帰宅した。
そんな彼女を出迎えたのは燕尾服を着た土くれの人型。
無生物ということが一目でわかるゴーレムの執事。
彼女の魔法で作り出された使い魔だ。
「今日はまた一段と濃い匂いを纏っておられますね」
「素材の味が濃かったからね〜。ってことで、お風呂と口直しのお茶の用意をお願い」
「かしこまりました」
レミーは鼻唄を歌いながらシャワーを浴び、ゆっくりとお風呂に浸かり、情事の残り香を完全に洗い流してリラックスした。
そして、
「お待たせいたしました。お紅茶とミルクでございます」
「んんんーーー♡」
「ありがと。やっぱり、口直しにはこれだよね」
運ばれてきたのは普通の紅茶と──触手のようなもので拘束された少年。
年齢は二桁にも達していないだろう。
幼く、中性的で、まるで少女のような顔立ちをした少年が、M字開脚の体勢で触手に拘束されていた。
その顔は快楽に支配されており、目の焦点は合っていない。
「よっと」
「あ゛っ♡♡」
レミーが少年の小さな睾丸をそっと摘み、コリッと刺激した。
それだけで少年は緩く射精し、紅茶に彼の控えめな精液がトロリと垂れる。
「うん。男臭さの全然無い、爽やかな味。相変わらず美味」
ほわ~っとした笑顔で紅茶を堪能するレミー。
さすが、その場で雑に食い散らかすのではなく、わざわざ持ち帰って家畜化した逸品。
「あ、そういえば、そろそろ新聞の時期だよね?」
「はい。今朝方纏めて届きました」
「お、同時なんて珍しい。ちょーだい」
「かしこまりました」
「お゛っ♡♡」
追加のミルクを搾りつつ、優雅に紅茶を飲みながら新聞を読む。
可憐な容姿が気品を生み、まるで貴族のティータイムのようだった。
「ふむふむ。レガシー王国に『怠惰の魔王』のものと思われる大軍勢と『強欲の魔王』が侵攻。
迎撃戦にて『水の勇者』が死亡するも、『雷の勇者』によって魔王は撃退。
お、勇者一人死んだんだ。悪くないねー」
まあ、欲を言えば死亡ではなく捕獲が良かったのだが、そこまでは望むまい。
それでも歴戦の経験を持つ勇者が死んだのは大きいのだから。
「バニシング帝国にて『炎の勇者』と『風の勇者』が協力し『暴食の魔王』を討伐。
おっふ、やられちゃったかぁ。
まあ、暴食系は悪魔にあるまじき脳筋だからなぁ」
せっかく知恵ある存在として生まれてきたのに、獣同然に暴れることしかできないのでは、そりゃ死ぬ。
暴食の悪魔が討たれる頻度は、悪魔の中でもダントツだ。
これは次の魔王にも期待できない。
「『嫉妬の魔王』と『憤怒の魔王』がセイントソード神聖国に侵攻。
『光の勇者』と神聖騎士団によって撃退されるも討伐ならず。
って、ちょいちょいちょい!? 何やってんの、あいつら!?
敵の総本山に突っ込むとか、勇敢すぎるでしょ!?」
魔王のくせに勇者みたいなことをする。
言い換えれば無謀だ。
そのまま死ななかったのだけは良かった。
魔王が死ねば死ぬほど、こっちの捜索と警戒に割かれる敵戦力が増える。
「全くもう! えーっと次は……『傲慢の魔王』がガイアール王国に侵攻。
『土の勇者』が奮戦するも敗北。王国と勇者は魔王の手に落ちる。
おお、さっすが!」
最強の魔王は格が違う。
勇者を捕獲し、国も一つ飲み込んだ。
近年稀に見る大勝利だ。
とても嬉しい。
「『色欲の魔王』と思われる存在によってダーツラーク公国が破滅。
周辺国が魔王の傀儡となった公国上層部を粛清するも、魔王の姿は見えず。
ああ、今頃になってか」
相変わらず、この手の搦め手に対しては対応が遅い。
魔獣や悪魔のことは即座に殲滅するのに、同族相手だと露骨に弱腰になるのが人類の弱点だ。
それも数百年間突き続けても改善されないほどに致命的な。
「今回の大きなニュースはこれで全部かー。情報が若干古い上に、日付けがバラバラなせいで、時系列がややこしいのが難点だね」
「号外のスクープを手に入れるのは大変でしょうからね。彼らはよくやっていると思いますよ」
「あ゛ぁっ♡」
デコピンで玉を弾きながら、ゴーレム執事と新聞の感想を語り合う。
まあ、なんにしてもだ。
「今回はかなりの吉報だったし、お夕飯は豪勢に行こうか!
ツッチー、14番ちゃんはどんな感じ?」
「熟成が大分進みました。食べ頃かと」
「じゃあ、今日はあの子のおっぱいでパーティーだ! ツッチーにも高純度の魔石燃料あげるからね!」
「ありがとうございます」
ルンルン気分で、レミーは地下にあるワインセラーならぬヒューマンセラーに足を向けた。
哀れな家畜がシメられて食卓に並ぶ。
そんな未来が確定する直前──コンコンと、扉をノックする音が聞こえてきた。
「うん? お客さん?」
この感じは今いる自宅ではなく、空間魔法で繋げた宿の方だ。
「はーい!」
自宅の扉の裏から宿の扉の裏に転移し、開ける。
すると、そこには一人の青髪の青年と、彼に付き従うような一人の少女がいた。
「ッ!?」
青年は薄手の部屋着を着たレミーを見て惚けたような顔になり、視線が彼女の谷間に吸い寄せられた直後、ハッとしたように表情を切り替えた。
傍らの少女が冷たい目線を彼に送っている。
「こ、こほん。失礼。Sランク冒険者、『桃色魔女』レミー・セクシャルテさんで間違いありませんか?」
「そうですよ〜」
青年はとても清涼感のある美形だった。
ほど良く鍛えられた筋肉がセクシーで、素直に美味しそうという感想が浮かんでくる。
その筋肉を質の良い服と鎧で包み、腰に見るからに業物な剣を装備しているあたり、騎士か何かだろうか?
「僕はカイル。カイル・マリーンと言います。冒険者です」
「あ、冒険者さんだったんですね。カッコイイから騎士様かと思いましたよ〜」
「カ、カッコイイ……!」
「カイル様」
「はっ!」
今度は少女に冷たい声をかけられ、カイル青年は背筋を正した。
面白いコンビだ。
「それで、そんなカイルくんが私に何かご用ですか?」
「はい。単刀直入に言います。──僕の仲間になってほしいんです、レミーさん。
新しい『水の勇者』に選ばれた、僕の」
「へ?」
そう言って、カイルは腰から剣を抜き放った。
清浄なる青の光を発する、神々しい剣を。
これこそまさに、勇者の証にして悪魔の天敵である七つの聖剣の一つ『水の聖剣』に間違いなかった。
「…………へ?」
不意討ちで現れた自身の天敵に、レミーはもう一度間の抜けた声を漏らした。