捕食者サキュバスさんの食べ歩き日記 作:仮面紳士
「驚かせてしまって、すみません。順を追って説明させてください」
「あ、はい……」
混乱のままに思わず宿に上げてしまった青年勇者が、お出しした紅茶を優雅に飲んでから口を開いた。
所作に気品がある。
基本的に貴族しか持たないはずの家名も持っているし、勇者の肩書を差し引いても、ただの冒険者ではなさそうだ。
「まず、僕が勇者に選ばれたのはつい先日のことです。
当然空からこの聖剣が降ってきて、気づいたら勇者に選ばれていました」
そこはわかる。
聖剣は前の持ち主が死ぬと解き放たれ、次の担い手を探して宿る。
新聞で先代『水の勇者』が『強欲の魔王』に討たれたのは知っていたので、次の勇者が現れること自体は予定調和だ。
だからこそ、勇者は殺すのではなく捕獲が望ましい。
「でも、勇者様なら国に雇われるのが一般的ですよね? なんで冒険者?」
「……正直、僕はこの国をあまり信用できないんです」
そう言って、勇者は己の過去を話し出す。
「僕は貴族の子です。だからこそ、子供の頃に当時の勇者様を己のものにしようと、醜い足の引っ張り合いを繰り返す権力者達を見てきました。
結局、その勇者様は権力者の都合で酷使され、亡くなられた。
なのに、連中は詫びることも悔いることも悼むことも無く、聖剣が他国に渡ってしまったと、勇者様を悪しざまに罵倒するばかり。
そんな連中と共に戦うことはできません」
「わー……」
相変わらずの人類の愚かさにレミーは苦笑した。
そういう罪深さこそが魔獣や悪魔、魔王を生み出すとわかっているくせに抑えられないとは。
バカの極みである。
「なので、多少は貴族社会から距離を置ける冒険者として活動するつもりです。
仲間も国の息がかかっている相手ではなく、自分で選ぼうと。
彼女もその一人です」
「はじめまして、レミー様。メル・サーファと申します。少し前まではカイル様の
気持ち婚約者という部分に力を入れて、メルと名乗った少女は少しだけレミーのことを睨む。
さっき、カイルがレミー相手に鼻の下を伸ばしたからだろう。
中々に面白い関係性と見て、レミーは「ははーん」と笑った。
「彼女は貴族にしておくのがもったいないくらいの治癒魔法の使い手なんです。
危険な戦いに連れて行くのは申し訳ないけど、頼りになると確信してます」
「カイル様……」
あ、良い。実に良い。
お互いに信頼と敬愛が伺える関係性。
チョメチョメした者特有の匂いがしないので、まだ二人とも清い体だろう。
脳を上手に焼けましたー! する未来を容易に想像できて、それだけで捗る。
「それで、是非ともSランク冒険者の一人であるレミーさんにも、力を貸していただきたいんです。
お願いします! どうか僕と一緒に、世界を救ってください!」
「いいですよー」
「え!? 軽っ!?」
あっさりと了承したレミーに、頼んだカイルの方が驚いて目を見開いた。
「えっと、本当にいいんですか? ちゃんと考えて決めましたか?」
「当たり前ですよ。私は別にアホの子じゃないですからね?」
安全を考えるのであれば断った方が良い。
しかし、上手くやれば、というか新米勇者と熟練悪魔の実力差を考えればほぼ間違いなく、勇者の一人を不意討ちという一番簡単な形で狩れる。
討伐などというすぐ代わりが現れる方法ではなく、捕獲して飼育し、カイルの寿命が尽きるまでの実に数十年もの間、七人しかいない勇者の数を減らしておける。
やらない理由が無い。
(とはいえ……)
ちょっと都合が良すぎるので、罠の可能性も大いにある。
相応の時間と労力を費やして手に入れたSランク冒険者の肩書が有用すぎるだけという可能性も大いにあるが、失敗すれば死にかねないのだから慎重にやるべきだろう。
とりあえず、しばらくは勇者パーティーの一員として、カイルとメルの観察に徹しよう。
行けると思ったら、その時は迷わずハントだ。
(面白くなってきた!)
にこやかな顔で二人と握手を交わしながら、その下に醜悪な本性を潜ませて、色欲の悪魔は心の中で悪辣に嗤った。