捕食者サキュバスさんの食べ歩き日記 作:仮面紳士
「招集要請?」
「はい。近隣の勇者は大至急オルドー王国に集結してほしいとのことです」
パーティーを組んでから一週間。
多少は連携が形になってきて、そろそろカイルがその気になれば瞬殺できるような相手じゃなく、もうちょっと強いのに挑んでみようかとなっていた時。
突然、ギルドを通して、そんな依頼が届けられた。
「聖剣教会からの要請です。強制依頼ですね」
「強制依頼……断れないってことか」
新米勇者が渋い顔をした。
権力者に振り回されることに忌避感があるがゆえに、こういうのに拒否反応を抱いているのだろう。
「内容は?」
「オルドー王国にて、先の戦いで敗走した『強欲の魔王』が目撃されたそうです。
戦力を集中し、傷が癒えていない今のうちに討伐すべしと」
「……なるほど」
これは強制依頼を抜きにしても断れない。
魔王とは、最強の名を冠する七体の悪魔のことだ。
人類の敵である魔に属する者達の中でも、飛び抜けて危険な化け物ども。
倒せる時に倒さなければ、どれだけの人々が犠牲になるかわかったものではない。
「というわけで、オルドー王国に行こうと思う」
「断らないの?」
「いや、断れないだろ……」
「そんなこともないと思うよ」
レミーはあっけらかんとそう言う。
本心はもちろん、そんな勇者大集合の場所なんか行きたくねぇでござるだ。
「例えば、この近くに『色欲の魔王』が現れた! こっちを優先します! とか言えば、普通に招集を躱せるよ。
実際、私は似たような手口で、よくサボってるし」
「働け、邪教徒」
「オイタが過ぎるのは、この口かな〜?」
「や、やめて!? 狙いを定めないでぇ!?」
メルの頬に両手を添え、徐々に顔を近づけていくレミー。
このまま行けば唇と唇の衝突必死だが、さすがにそろそろレミーの言動に慣れてきたカイルが、強制百合の間に手を突っ込んで遮断した。
……手の甲と掌に柔らかい感触が触れたて心臓が跳ね上がったが、必死にそれを意識の外に追いやる。
「それでも僕は行くよ。魔王を討たなきゃ沢山の人が不幸になる。力があるのに黙って見てることなんてできない」
「……ふーん」
さすが、聖剣に選ばれた男。
悪魔の誘惑に引っかかりづらい、清く正しい精神を持っている。
まあまあ、やりづらい。
(まあ、それを堕とすのが楽しいんだけどね!)
かつて、じっくりと調理した末に食べた勇者の味を思い出し、垂れそうになったヨダレを誤魔化すためにジュースを口にした。
「じゃあ、まあ、行くのはいいとして……魔王、魔王かぁ。二人は連中のことをどれくらい知ってる?」
「人類にとっての最大の敵で、最強の悪魔ってことくらいしか……」
「信じがたい話ですけど、レミーさんは魔王を撃退した経験があるとお聞きしました。
信じがたい話ですけど、何か有用な情報があればお聞かせ願えますか?」
「おーい、今なんで信じがたい話って二回言った? お仕置き。公開ヌードの刑」
「や、やめてぇぇ!?」
「……これはもうイチャついてるって判断していいのかな?」
「バカなこと言ってないで助けてください! 本気ですよ、この人!」
なら、余計なこと言わなきゃいいのに。
そう言うと、負の感情は溜め込む前に声に出して、心の中に大罪が芽生える前に発散すべしという教えがあると言われた。
意外とちゃんとした理由があった。
「で、なんの話だっけ? ああ、魔王の話か。
それを語るには、まず悪魔とはなんぞやってところから話した方が良いね」
オホンと咳払いを一つ。
それから、レミーは珍しく真面目な顔で語り始めた。
「悪魔と、それから魔獣は、人間が『大罪』を犯した時に発生する膨大な負のエネルギーから生まれてくる。
負のエネルギーが動物とかに入り込んで歪に変質させちゃったのが魔獣で、受け入れ先の見つからなかった負のエネルギーが絡み合って、強引に形を成したのが悪魔」
レミーは指をピンと立て、その上に魔力でおどろおどろしい獣と人のシルエットを作る。
地味に高度な魔力操作技術だ。
「そして、今日も世界のどこかで誰かが発生させた負のエネルギーが新しい魔の眷属を作ってる。
おまけに、負のエネルギーの集合体である悪魔は、同質のエネルギーを引き寄せて吸い取って、どんどん強くなる。
強くなればなるほど吸引力も上がっていくから、やがて多くのエネルギーを独占して、突出した力を持つ強大極まりない個体が誕生する」
魔力で作られた人のシルエットが、どんどん歪に膨れ上がっていく。
「それが魔王」
「「……!」」
レミーの指先に生まれた魔王のシルエットは、隣の獣のシルエットとは比べ物にならないほど大きい。
大きく、強く、恐ろしい。
それが魔王。
「魔王は強い。勇者じゃないと手に負えないくらい強い。
だから、一回動き出すと余裕で国が滅びる。
特に『憤怒』『嫉妬』『暴食』あたりにやられると悲惨だよぉ。
前二つは可能な限り苦しめてから殺そうとしてくるし、最後の一つは生きたまま踊り食いだ」
「「ッ……!」」
「私が相手したのは比較的マシな方、というか今回のターゲットになってる『強欲』だったけど、それでも国中の資源という資源を略奪して、抵抗する人達を皆殺しにしていったからね。
私にできたのは、抵抗して殺されそうになってたハニー達を助けられるだけ助けて回ったことだけ。
結局、魔王は奪い尽くして満足して帰っただけだから、私が魔王を退けたっていうのは、噂に尾ヒレが付いただけのガセネタだよん」
「そんな……!?」
カイルは絶句した。
レミーは強い。
お互いに殺さないことを前提とした模擬戦では、一度も勝てないほどに。
魔王とは、そんなレミーが匙を投げるほどの化け物ということか。
強いのだろうとは思っていたが、あやふやな伝聞で聞くのと、実際に戦った実力者から話を聞くのとでは、まるで違う。
……聖剣の圧倒的な力を手にして、少し楽観的になり過ぎていたかもしれない。
「だからまあ、いくら弱ってるって言っても、ウチのパーティーがあの魔王に戦いを挑んだら、少なくともメルは確定で死ぬよ」
「ッ!?」
「それでも行く?」
問われる。
勇者としての覚悟を。
自分だけでなく、仲間をも危険に晒して、それでも巨悪と戦う覚悟はあるかと。
「カイル様、行きましょう」
「メル……!?」
「私はあなた様をお支えしたい。重荷になんてなりたくありません。
もし、私を理由に信じた道を行けなくなるというのなら、私は己の喉をナイフで貫いても許せないほど、私自身を嫌いになってしまいます」
「おっも」
素晴らしきかなヤンデレの素養。
レミーは思わずニマニマしてしまった。
「レミーさん、確認です。魔王と戦えば私は死ぬ。
では、不意を突いたり、他の勇者と協力したりして、まともに戦わなかった場合はどうですか?」
「やり方次第としか言えないけど、まあ、カイルがもう一人いれば、普通に生き残る目はあるんじゃない? 不測の事態さえ起こらなければ」
「では、決まりですね」
メルは強い目でカイルを見た。
レミーも「あー、これ無理かも」とか思いながら、どうすんだリーダー的な目を向ける。
二人の視線を受けて、カイルは一度目を閉じた後、決意を固めたような顔で目を見開いた。
「わかった。メルの覚悟、受け取ったよ。
──俺は『勇者』として戦う。ついて来てくれ」
「はい。どこまでもお供いたします」
「ありがとう。レミーもそれで大丈夫か?」
「うっへー。気は乗らないけど、まあいいよ。私は死なない自信あるしね」
そうして、水の勇者一行の方針は決定。
『強欲の魔王』を討つべく、オルドー王国を目指す。
「あー、柄にもなくシリアスな話して疲れたー。メル、おっぱい吸わせてー」
「どんな文脈ですか!? というか、その汚らしい欲望が悪魔を生んでしまうのでは?」
「大丈夫だって。『色欲』なんて七大罪の中でぶっちぎりの最弱なんだから。
『色欲の魔王』が千年くらい生きてて、異様なまでに内包エネルギーが膨れ上がってるとかじゃない限り、今の私達でも充分勝ち目あると思うよー」
そんな軽口を叩きつつ、二人はおっぱいを巡った攻防戦を繰り広げる。
もはや、すっかりお馴染みとなってしまった光景だ。
このパーティーはもうダメかもしれない。
(あー、やっばい、ホントにムラムラしてきた。帰ったら良い感じに熟れた貧乳の子をいただこう)
本日のランチメニューを決めた後、レミーは遠出の準備を整えると言って帰路につき、股をビチャビチャに濡らしながらゴーレム執事に食事の用意をさせるのだった。