新米冒険者が、悲惨な人生を送ってきたダークエルフの奴隷少女を買った話。 作:仮面紳士
1 プロローグ
ダークエルフ。
数百年の長い寿命に、膨大な魔力量、感覚で魔法を使いこなす絶大な魔導適性、更には端麗な容姿を持ち合わせた列強種族、エルフの中に時々生まれてくる奇形腫である。
本来のエルフの色白の肌とは真逆の褐色の肌に、色素が抜け落ちたような白髪。
加えて、エルフの血族とは思えないほどに低い魔力量。
寿命も百年程度と短く、子を成すこともできない。
おおよそ、エルフとしての性質の殆どを受け継げなかった欠陥品。
ゆえに、ダークエルフは忌み子として差別され、エルフ達から忌み嫌われていた。
「はぁ……」
そんなダークエルフの、14歳ほどの見た目をした少女が、檻の中で疲れたようなため息を吐いた。
彼女の人生も差別の対象の例に漏れず、悲惨なものだ。
故郷であるエルフの集落の中で虐げられて育ち。
殺されることこそなかったが、両親を含めた住人達には嫌悪の眼差しで見られ、少しでも気に入らないことがあれば暴力を振るわれ、食事もロクに与えられず、いつも空腹と痛みに耐えながら生きてきた。
そして、十歳になった頃。
彼女はとうとう集落を追放された。
最低限の温情で生かされてきた彼女だ。
最低限の自活ができると判断される歳になれば、さっさと追い出されるのは道理だった。
閉鎖的で潔癖症のケがあるエルフは、ことさら異物の存在を煙たがるのだ。
深い森の中にあった集落から追放され、魔物のあふれる森林地帯を当てもなくさまよった。
怯えながら魔物から逃げ隠れし、腹が減れば虫や雑草を食べ、少女はフラフラとした足取りで歩き続けた。
死にたくないという生存本能の叫びだけが、彼女を生かした。
だが、そうして歩き続けてようやく人を見つけた時、彼女を更なる悲劇が襲う。
なんとも運の悪いことに、森の出口付近で遭遇したのは、人族の盗賊だったのだ。
彼らはエルフとしては並程度、人族基準で言えば充分に美しいと言える顔立ちの少女を捕まえ、奴隷商人に売り払った。
そして、希少種ということで高値で金持ちに売られ……そこからが人生最大の地獄の始まりであった。
「ああああああああああああ!!?」
少女を買ったのは嗜虐趣味の変態貴族。
幼く美しい少女を乱暴に扱って快感を得る、ドSのロリコンのクソ野郎。
おまけに、人族の間で広まっている亜人蔑視の思想に染まり、故郷の連中と同じ差別意識まで持ち合わせた最悪の手合い。
そんな奴に
4年が経ち、反応が鈍くなってきたのと、ロリコンのストライクゾーンから外れたことで、再び奴隷商人に売られるまでの間、故郷での暮らしが天国に思えるほどの地獄を見た。
そして、現在。
ロリコン貴族から奴隷商人に売り渡された少女は、珍品として店の目立つところの檻に入れられている。
その檻の中で体育座りをしながら、彼女は死んだ魚のような目で過ごしていた。
もう人生に希望なんて見出だせない。
いっそ自殺してしまいたかったが、奴隷に刻まれた隷属魔法はそれすら許してくれない。
苦しい。苦しい。
辛い。辛い。
この世界は、いったい自分に何の恨みがあるのだろう。
「出なさい」
そうして絶望に沈む少女の前に奴隷商人が現れ、檻から出ることを命令してきた。
逆らおうとすれば隷属魔法のせいで酷い痛みが走るし、更に躾と称して酷い目に合わされる。
だから、機械のように言われたことに無感情で従い続けるのが一番マシであると、少女はこれまでの人生で悟っていた。
言われた通りに立ち上がって檻を出る。
すると、そこには奴隷商人以外に、もう一人誰かがいた。
垢抜けない感じの若い少年だ。
多分、歳は少女より少し上。
15〜16歳くらいといったところだろう。
「契約変更」
少女がぼんやりと少年を見つめ、少年の方は何やら呆けたように硬直する中。
奴隷商人が少女の隷属魔法の触媒になっている首輪に手を触れて、そんなことを言った。
「さあ、彼女の首輪に手を触れて、『所有者登録』と言ってください。それで彼女はあなたのものです」
「は、はい! 所有者登録!」
奴隷商人に声をかけられてハッとしたように、少年はやけに緊張した様子で少女の首輪に手を伸ばした。
所有者登録と、彼がそう言った瞬間に、首筋に電気を流されたようなピリッとした感覚が走る。
前に三回ほど経験したことだ。
一度目は盗賊から奴隷商人に売られ、隷属魔法を刻まれた時。
二度目は奴隷商人からロリコンクソ貴族に売られた時。
三度目はロリコンクソ貴族から奴隷商人に売られた時。
今回で四度目。
つまり、そういうことだろう。
「これにて隷属魔法の書き換えは完了です。お買い上げ、ありがとうございました」
「は、はい!」
この何故か緊張した感じの少年が、少女の新しい飼い主ということだ。
とてもお金持ちには見えないが、最近は『金持ちは中古品を嫌う』とかいう理由で、少女の値段がどんどん下がっていたので、こんな少年でも買えたのだろう。
「では、彼女にはこちらのローブを着せて連れ歩くのがよろしいかと。ダークエルフは目立ちますので」
「あ、ありがとうございます!」
「いえいえ、サービスの一環です。またのお越しをお待ちしております」
そうして、少女は新しい飼い主である少年に連れられて、奴隷商人の店を出た。
彼は緊張と興奮と期待が入り混じったような謎のテンションで、少女に話しかけてきた。
「は、はじめまして! 俺の名前は『ダン』っていうんだ! 田舎の農家の三男で、畑を貰えないから町に出てきて冒険者をやってるんだけど、君を一目見た時に見惚れちゃって、反射的に殆ど全財産使っちゃって、あの、その……」
随分とテンパった様子で、長々と自分語りを続ける少年、ダン。
少女は死んだ魚の目でその話を聞いていた。
興味なんて微塵も無かったが、前の飼い主であるロリコン貴族は、話を聞いていないと、それを口実にお仕置きをしてきたため、聞き流すという選択ができない。
とはいえ、人生経験も少なく、人族社会で暮らしたことも無い少女には、ダンの言っていることがあまり理解できていないのだが。
のうか? ぼうけんしゃ? なんのこっちゃ。
こんな感じの理解度だ。
「あ、つ、着いたよ! ここが俺が今お世話になってる宿なんだ!」
やがて、辿り着いたのは、ザ・安宿といった感じの古ぼけた建物。
別にボロくはない。修繕は行き届いている。
しかし、一流の商人(奴隷商人)の店や、貴族(ロリコンクソ野郎)の邸宅みたいなものばかり見てきたせいで、どうしても安っぽく感じる。
とはいえ、少女にとって、そういう豪華な建物はトラウマと同義なので、こっちの方が遥かにストレスを感じないのだが。
そんな宿に入り、ダンが借りているという部屋へと入る。
「え、えーっと……と、とりあえず座って!」
「はい」
言われた通り、ダンが座るように指示したベットに腰掛ける。
ダンも意を決したような様子で少女の隣に腰掛けた。
「そ、その、今日は暑いね!」
彼は顔を真っ赤にし、挙動不審な様子で「暑い暑い!」と言い始める。
実際、彼の顔は真っ赤っ赤で、実に暑そうではある。
「あの、その……き、君はこれから何をするかわかってる?」
「はい。理解しています」
少女は別に鈍感ではない。
むしろ、自分を傷つけてきたその手の行為には敏感だ。
ダンの様子を見て、「ああ、この人もアレと同じように興奮してるんだな」と察し、冷めた気持ちになるくらいには達観していた。
「そ、そっか。そっかぁ……」
逆に、ダンは彼女の言葉を聞いてより真っ赤になった。
少女の顔を見て「ゴクリッ」と喉を鳴らし、バクバクと跳ねる心臓を押さえつけ、ハァハァと乱れる息をどうにか整え。
そして……とうとう、少年は男になる決意を決めた。
「じゃあ、その……ふ、服を脱いでいただけませんでしょうか!」
「はい。わかりました」
少女はどこまでも無表情のまま、言われた通りに服を脱ぎ始めた。