新米冒険者が、悲惨な人生を送ってきたダークエルフの奴隷少女を買った話。 作:仮面紳士
「えっと、この子が今回からパーティーに参加する、治癒術師のライラだ。皆、よろしく頼む」
「ライラです。よろしくお願いします」
ディオン来訪の翌日。
ライラによる夜のアレコレのおかげで、どうにか前向きな気持ちを取り戻したダンは、集合場所にてパーティーメンバー達にライラのことを紹介していた。
ライラはローブのフードを目深に被っているため、いつも通り町中では妙な視線から身を守れていたのだが……。
「ダークエルフ、ですか……」
「亜人かよ」
間近で観察されてしまえば、当然バレる。
ディオン以外のパーティーメンバーの二人。
どこかの良家の家出娘だという魔法使いの『ミザリー』と、はすっぱな口調の斥候『アデル』は、少し嫌そうな目でライラを見た。
この二人は田舎村出身のダンやディオンと違って、ガッツリ差別意識に染まっているこの町の出身だ。
予想はできていたが、だからといって好きな子をそんな目で見られるのは忸怩たる思いだった。
当のライラが慣れたように無表情を貫いているのも悲しい。
「にしても、お前アレか〜? アタシらが『一生童貞』とかからかったから、亜人奴隷に走ったのか〜? いやはや見直したぜ! 中々に雄じゃねぇか!」
「……うるさい」
ニヤニヤとしながらウザ絡みしてきたアデルから、ダンはプイッと顔を背ける。
彼女のことは苦手だ。
ガキ大将気質のディオンと波長が合うみたいで、よく彼の悪意に合わせてからかってくる。
何より、かなり性に奔放であり、ディオンの初体験の相手も務めたくせに、「アタシも抱かれる相手は選んでんだ。お前はちょっと男としての魅力を感じねぇんだわ。悪ぃな、アッハッハ!」とか言って、童貞時代のダンの心を大いにえぐって、奴隷購入に走らせたことが決定打だった。
そのおかげでライラに出会えたのは良かったのだが、それはそれである。
「ダンさん、ダメですよ。亜人は悪魔のような存在なんです。その中でも特にエルフは、我が国の人々を笑いながら殺戮した大罪人なんですよ。たとえ奴隷としてでもパーティーに入れるべきではありません」
「ミザリー……」
そして、最後の一人。
魔法使いのミザリーは、ライラに一番酷い偏見を持っているようだった。
彼女は決して悪人ではない。
悪人ではないのだが……世間知らずで思い込みが激しいところがある。
そこにつけ込まれて、女の味を覚えたばかりのディオンと、パーティーに魔法使いが欲しかったアデルの毒牙にかかってしまったのだが、それはひとまず置いておこう。
彼女は実家に嫌気が差して飛び出してきたと言っていたが、元は良家の人間。
上流階級には、ライラを虐げていたロリコンクソ貴族のような思想が流行っていたのかもしれない。
思い込みの激しいミザリーのことだ。
それを真に受けて染まったとしてもおかしくはない。
「まあまあ、そんなこと言うなよ、ミザリー」
「ひゃ!?」
と、その時。
ディオンが背後からミザリーの腰を撫でて、文字通り話の腰を折った。
それ自体は助かるが、急に腰を撫でられたのに「も、もう!」と赤い顔でふくれっ面になるだけのミザリーと、セクハラまがいのことをしても普通に許されているディオンを見ていると、ちょっとモヤモヤしてくる。
やはり顔か。イケメンは無罪なのか。
それとも強さか。強い奴が正義なのか。
こういうやり取りを日常的に見せつけられていたのも、ダンが奴隷に走った理由の一つだろう。
「亜人ってだけで毛嫌いするのはよくないぜ。冒険者なら働きぶりで評価してやるべきだ。そうだろ?」
「……わかりました。ディオンさんがそう仰るなら」
ディオンのことを先輩の冒険者として敬っているミザリーは、その言葉でライラに対する矛を収めた。
彼女は自分が世間知らずで、冒険者としても日が浅いことを自覚している。
ゆえに、先輩にしてリーダーであるディオンが『冒険者としての言葉』で忠告すれば素直に聞くのだ。
この素直さは彼女の美点であり、同時に立場を笠にきたチャラ男に引っかかってしまう欠点でもあった。
「うし! というわけで、冒険者パーティー『飛翔の槍牙』にようこそ! 歓迎するぜ、ライラちゃん!」
「はい。よろしくお願いいたします」
無表情で頭を下げるライラ。
新たな美少女の加入にニヤニヤを隠せていないディオン。
蔑視三割、品定め七割くらいの不穏な目でライラを見ているアデル。
飲み込み切れない嫌悪感を顔に滲ませるミザリー。
先行き不安にもほどがある。
ダンは天を仰いだ。
「じゃあ、早速ライラちゃんの初陣に出発するとしようぜ! 依頼は……そうだな。これなんかどうだ?」
そんな空気を軽く無視して、ディオンが冒険者ギルド内に設置された掲示板、冒険者にこなしてほしい依頼を張り出す『クエストボード』から一枚の紙を剥がした。
冒険者の仕事は、主に二種類。
こうして誰かが出す依頼を片づける何でも屋のような仕事と、ダンジョンという危険地帯を『冒険』してお宝を取ってくる仕事。
今回はダンの意見を尊重し、後者よりはまだ危険度の低い前者の仕事をするというわけだ。
「イイ村の周辺に巣を作ったゴブリンの群れの討伐。上位種がいるらしいが、それでも俺達なら楽勝も楽勝だろ。
これなら初心者のライラちゃんがいても余裕だと思うが、どうだ、ダン?」
「……わかった。俺はそれでいい。ライラもいいか?」
「問題ありません」
ダンとライラが了承。
そして、
「アデルとミザリーもいいか?」
「ま、いいんじゃねぇの。新人の試運転は大事だ」
「皆さんがよろしいのなら、反対はしません」
残る二人も了承し、こうして本日の彼らの仕事内容は決まった。