※この作品はR-18です。

新米冒険者が、悲惨な人生を送ってきたダークエルフの奴隷少女を買った話。   作:仮面紳士

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8 初仕事

「あったぜ。あれがゴブリンどものねぐらだ」

 

 拠点にしている東の辺境都市から数時間歩き続けた冒険者パーティー『飛翔の槍牙』は。

 依頼主である村の村長に会い、彼に詳しい話を聞いて、討伐目標であるゴブリンの巣穴と見られる洞窟へとやってきた。

 村長の話によると、既に家畜やら若い女性やらが攫われており、それを助けに向かった自警団が壊滅。

 生き残りの証言で、恐らく上位種と思われる巨体のゴブリンがいることが判明した。

 

 その特徴に合致する上位種といえば、ホブゴブリンだ。

 二メートル近い巨体を持ち、体格に見合うだけのパワーを持った魔物。

 ただし、知能は普通のゴブリンと同じで低く、戦闘スタイルも力任せで技術が無い。

 苦戦はするかもしれないが、ダンでも倒せなくはない相手だ。

 当然、天才と呼ばれるディオンなら楽勝である。

 恐らくは結構な数がいるだろう普通のゴブリン達も、彼らの実力からすれば大した脅威ではない。

 

「行くぜ。アデル、いつも通り、頼んだ」

「オッケー」

 

 ゆえに、彼らは気楽な様子で洞窟に足を踏み入れる。

 緊張しているのは、初心者のライラを守らねばと気を張っているダンだけだ。

 ただ、当のライラは、故郷を追放されてからの遭難生活で、凶獣達のあふれる森林地帯を抜けた経験があるので、自然体での警戒ができている。

 ぶっちゃけ、ダンよりも冒険者としてサマになっていた。

 

「思ったより足跡が多いな。群れの数は、最低でも三十匹はいると思うぜ」

「三十匹……」

 

 斥候のアデルが導き出した敵の規模に、ダンが険しい顔になる。

 最低で三十匹。下手すればもっと。

 負けるとは思わないが、ライラまで攻撃を通してしまうという万が一が無いとは言えないレベルだ。

 ゴブリンに負けた女の末路は知っている。

 ライラの見てきた地獄と大して変わらない。

 そんな地獄に、またしてもライラを行かせるわけにはいかない。

 ダンは大きく深呼吸をして、跳ねる心臓をどうにか制御し、必ず守り切るという決意を改めて固めた。

 

「ねぐらは……こっちだな。ついて来い」

 

 アデルは迷いない足取りで洞窟を進む。

 松明の明かりを頼りに、暗い洞窟の中を進んでいく。

 そして、

 

「お、来るな」

 

 ふと、アデルが呟いた。

 それはダンにも、他のメンバーにもわかった。

 足音が近づいてくる。

 結構な数の足音が。

 

「正面から、二十匹くらいか? あと、横穴から足音殺してるのが十匹くらいだな。デカい足音はしねぇから、多分上位種はまだ来てねぇだろ」

 

 だが、その中でも本職の斥候であるアデルが感じ取れる情報量は桁が違う。

 彼女の言う通り、正面から二十匹ほどの群れが現れる。

 ドンピシャだ。

 

「うし! 俺は前の連中をやる! 皆は一塊になって、横からの不意打ちに備えてくれ!」

「りょーかい」

「はい!」

「わかった」

「わかりました」

 

 そして、ディオンが担いでいた槍を構え、宣言通り正面の群れへと突撃を開始する。

 一対二十の戦い。

 本来なら絶望的なはずの数の差は、しかし、この男にとって何の障害にもならない。

 

「ハァッ!!」

「ギッ!?」

「ギギィ!?」

 

 ディオンが疾走しながら槍を振るう。

 狭い洞窟の中では使いづらいはずの長物を完璧に扱ってみせる。

 天才的なセンスの為せる技。

 そして、何よりも彼は『速い』。

 足も、攻撃速度も、全てが速い。

 一人だけ体感時間が違うんじゃないかと思うほどの圧倒的なスピードに、ゴブリンごときが追いつくことはできない。

 蹂躙が開始される。

 

「ギィィ!!」

「こっちも来たぜぇ! 構えろ、お前ら!」

 

 それと時を同じくして、ディオンから離れた残りのメンバー達に、側面の横穴から現れたゴブリン達が襲いかかった。

 数はアデルの申告より少し多い、十五匹。

 足音を殺していた相手なので、さすがにドンピシャとはいかなかったらしい。

 だが、問題は無い。

 

「うぉおおおおお!!」

 

 ダンが武器を振るう。

 ゴブリンの攻撃を左手の小盾で受け、右手の剣で斬り伏せる。

 ディオンのような派手さは無く、まだまだ未熟な動きではあるが、サボらずに訓練と実戦を積み重ねてきたことが伺える実直な動きだった。

 ゴブリンごとき弱兵からすれば完全な格上。

 成り立てとはいえ一人前(Dランク)の戦士の力。

 

「よっと!」

 

 斥候のアデルも短剣を振るい、一匹ずつ確実に倒していく。

 彼女は戦闘力だけならパーティーの中で最弱(ライラを除く)だが、この程度は造作もない。

 そして、

 

「『湧き出せ、水の精霊。散りばめよ、清めの水弾。穿て、水流の牙』!」

 

 パーティーで唯一の攻撃魔法使いが詠唱を始める。

 魔法。

 世界の理の断片を操る、超常の力。

 人族であれば、確かな教養によって術理を学び、世界に呼びかける詠唱という名の言霊を駆使しなければ使えない奇跡。

 それがゴブリン達に牙を向いた。

 

「『水散弾(ウォータースプラッシュ)』!」

 

 水飛沫のように飛び散る無数の水弾がゴブリン達を撃ち抜き、一気に十匹が絶命。

 ダンとアデルが倒してた五匹を合わせて、こちら側のゴブリンは全滅だ。

 

「ま、楽勝だな!」

 

 そして、ディオンも戦闘終了。

 たった一人で二十匹のゴブリンを相手にして、三人がかりで十五匹を相手にしたダン達とほぼ同じタイミングで終わらせた。

 これだけでも、彼がこのパーティーの中で突出した実力者であることがわかるだろう。

 

 だが、まだ終わりではない。

 

「! 来るぜ、ディオン! デカい足音だ!」

「ギィィガァアアアアアア!!!」

 

 アデルの警告の直後、凄まじい咆哮が聞こえてきた。

 正面から、身長二メートルはある巨体のゴブリンが現れる。

 

「ホブゴブリン……!」

 

 村の自警団を壊滅させた上位種。

 その威圧感に、ダンは冷や汗をかいた。

 しかし、他の四人はそうでもない。

 ライラは森で遭遇した連中やロリコンクソ貴族の方が怖かったと思い、冷静に万一の時のための逃走手段を考える。

 アデルとミザリーは、リーダーの実力を疑っていないからこそ恐れない。

 そして、彼女達に信頼されるリーダーは、

 

「うっし! とっとと倒して帰るとするか!」

 

 上位種を前にしても欠片も臆さず、余裕の笑みを浮かべながら槍を構えた。

 堂々たる姿で怪物に立ち向かい、頼れる背中を仲間達に見せつける。

 ダンとしては悔しいが、認めざるを得ない。

 こういう時のディオンはカッコイイ。

 強い男はモテるのだ。

 

「そら!」

「ギィィィ!!」

 

 ディオンが素早く踏み込み、槍の一撃をホブゴブリンに叩き込む。

 ホブゴブリンは手にした棍棒でそれを防ぐも、ディオンの素早い連撃の全てを防ぐことはできず、どんどん追い詰められていった。

 ディオンの圧倒的優勢。

 この僅かな攻防だけでわかる。

 ホブゴブリンでは、この若き天才には勝てない。

 援護の必要すら無いだろう。

 ……だが。

 

「ッ!? ディオン、左だ!!」

「は? ……ッッ!?」

 

 冒険には、不測の事態が付き物である。

 戦うディオンの左側、さっきダン達が全滅させたゴブリン達の出てきた横穴から、一匹のゴブリンが凄まじいスピードで飛び出して、ホブゴブリンに注視していたディオンに不意打ちを食らわせた。

 直前のアデルの警告のおかげで致命傷は避けられたが、それでも太ももをナイフで斬り裂かれ、軽くはない傷を負う。

 

「ギギギ」

 

 ディオンにダメージを与えたゴブリンが、ニマニマとした顔で笑った。

 通常種と違い、しなやかな肉体を黒い外套で隠したゴブリン。

 

「ゴブリンアサシン……! チッ! アタシとしたことが……!」

 

 隠密能力に優れたゴブリンの上位種。

 それを直前まで見つけられなかったことに、アデルは斥候として責任を感じた。

 思わず歯を食いしばるが、今はそんな場合ではない。

 

「ディオンさん!?」

「ギギ!」

「ミザリー!!」

 

 ディオンが被弾し、冷静さを失って隙だらけのミザリーにゴブリンアサシンが飛びかかり、それを何とかダンが盾で防ぐ。

 ゴブリンアサシンは、ディオンほどではないが速い。

 だが、ダンでも戦えない相手ではなさそうだ。

 隠密能力に秀でている分、単純な戦闘力ではホブゴブリンより弱い。

 

「ギィィィガァアアアア!!!」

「ああ、くそっ!」

 

 しかし、ゴブリンアサシンから仲間達を守るのに必死で、ダンは負傷したディオンの援護に行けない。

 ディオンは俊足を活かした戦闘スタイルの要である足を負傷してもなお、ホブゴブリンと渡り合っている。

 だが、先ほどのような一方的な戦いではない。

 苦戦している。

 

「ミザリー! ディオンに支援魔法を!」

「!」

 

 ホブゴブリンの相手で精一杯のリーダーの代わりに、ダンがゴブリンアサシンの攻撃を必死に防ぎながら、混乱するミザリーに指示を出した。

 

「ライラの治癒魔法は手を翳せる距離じゃないと使えないんだ!

 でも、ディオンが少しでも盛り返して、ホブゴブリンを吹っ飛ばして隙ができれば、回復して一気に逆転できる! だから!」

「わ、わかりました! 『与えよ、力の精霊! 戦士の背を押し、支え、勇敢なるかの者に強靭なる加護を!』」

 

 ミザリーが先ほどの水魔法とは別の詠唱を始める。

 敵を倒す攻撃魔法ではなく、味方を強くする支援魔法。

 治癒魔法と同じく、それなりに使い手の少ないレアな魔法。

 消費魔力の多さから温存されていた祝福がディオンに降り注ぐ。

 

「『筋力増強(パワーブースト)』!」

「うぉおおおおおおおお!!」

「ギィィィ!?」

 

 ミザリーの支援魔法によって筋力が強化されたディオンは、ホブゴブリンの棍棒を槍で受け止め、そのまま槍を振り抜いてホブゴブリンの巨体を吹き飛ばした。

 流れが変わった。

 

「やらかした分は役に立たねぇとな……!」

 

 アデルが腰のポーチから何かを取り出す。

 そして、それをダンの盾に攻撃を防がれて、一瞬動きの止まったゴブリンアサシンの足下へ投げつけた。

 

「粘着球!」

「ギ!?」

 

 粘性のスライムの素材から作った、アデルの便利グッズの一つ。

 決して戦闘力が高いとは言えない彼女が、どうにか冒険者としてやっていくための工夫の一つ。

 足下で炸裂したそれが、ゴブリンアサシンの動きを完全に止めた。

 

「あああああ!!」

「ギギャッ!?」

 

 そこへダンが剣を振るう。

 動きさえ止まってしまえば、彼の腕前でもゴブリンアサシンには勝てる。

 なら、あとは。

 

「ライラ! ディオンの回復を!」

「わかりました」

 

 ライラがトテトテと走っていって、足を庇いながら槍を構えるディオンに手を翳す。

 翳した手から優しい光があふれ、ディオンの傷を完全に癒す。

 これで憂いは消えた。

 

「やってくれたな、このザコがぁ……! ぶっ殺してやる!!」

「ギィィィ!?」

 

 その後、完全復活した上に支援魔法による強化まで上乗せされたディオンは、危なげなくホブゴブリンを討伐。

 ダンもゴブリンアサシンを倒すことに成功し、多少なりピンチに陥ったものの、最終的には立て直して依頼を達成することができた。

 

「……チッ」

 

 しかし、見下していた相手に苦戦させられたディオンは、依頼を終えても不機嫌なままだった。

 不機嫌な顔で、フォローしてもらって借りができてしまったダンのことを、面白くなさそうに見ていた。

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