新米冒険者が、悲惨な人生を送ってきたダークエルフの奴隷少女を買った話。 作:仮面紳士
14 貿易国家ヘルメス
「つ、着いたー!」
故郷であるジークトゥース王国を旅立ってから約1年。
ダンとライラは、ようやく第一の目的地である、貿易国家ヘルメスへと辿り着いた。
「本当に、色んな種族がいるなぁ」
へイオースの言っていた通り、この国は本当に雑多な人種であふれていた。
獣の耳と尻尾を生やした種族。
樽のように太い体を持つ種族。
竜の角や鱗を持つ種族。
身長3メートルを越える巨大な種族に、身長1メートルくらいしかない小柄な種族。
町に入る時に門でライラの顔を確認された時も、ちょっと珍しいなくらいの反応しかされなかった。
他の町だと盛大に顔をしかめられ、ダンの奴隷ということで辛うじて存在を許される感じだったのに。
(ここなら本当にライラも……でも)
視界にチラつくのは、長い耳をした眉目秀麗な種族。
エルフだ。
彼らを見た瞬間、フードを目深に被って顔を隠したライラが身を固くするのがわかった。
ダンはその手をギュッと握る。
それでライラは少し安心したような雰囲気になった。
(ライラを虐げたエルフも少しはいる。……ライラの故郷の連中よりはマシだと良いけど)
閉鎖的で高慢で潔癖症。
そのせいで他種族を受け入れることも受け入れられることも少なく、基本的に同族の中にしか居場所の無いエルフが、この国ではその他種族の中に交ざって生活している。
間違いなくライラの故郷の連中とは違うだろう。
問題は、ダークエルフに対する感情まで違うという保証が無いことだが。
「ライラ、とりあえずギルドに行こうか」
「はい。ご主人様」
この1年で成長し、少女から女性になろうとしているライラの手を引っ張りながら歩く。
きっと、フードを目深に被ってさえいなければ、ダークエルフということを差し引いても、その美しさで視線を集めただろうとダンは思っている。
まあ、この国には顔面偏差値の高いエルフが多少なりいるので、ダンのそれは彼女自慢の思い上がりである可能性もあるが。
「ようこそ、冒険者ギルドヘルメス支部へ」
「……!」
そうして、人族の国なら大抵のところにある冒険者ギルドに足を運んだのだが、そこでいきなりこの国特有だろう光景を見て驚かされた。
受付嬢がめっちゃ美人。
いや、そこはどうでもいい。
確かにライラを越えるほどの美形だが、ダンからすればライラの方が100倍可愛い。
驚かされたのは、その受付嬢の耳が
「あの、もしかしてハーフエルフの方、ですか?」
「はい。その通りです。……もしかして、他種族はダメな方でしたか?」
「あ、違います違います! そういうことじゃないです! ただ……」
ダンは慌てて受付嬢の言葉を否定した。
次いで、隣のライラの方に視線を向ける。
この距離だと、フードの下の褐色の肌がチラリと見えたのか、受付嬢は察したような顔になった。
「ご安心ください。この国はあらゆる種族の方を受け入れます。
私のようなハーフも多いですし、そちらの方だけを爪弾きにするなんてことはありませんよ」
「! ほ、本当ですか!?」
その言葉に、ダンはかつてない希望を抱いた。
ああ、本当にこの国なら、ライラが安心して暮らせるかもしれない。
彼女との幸せな未来を形作れるかもしれない。
「それで、本日はどんな御用でしょうか?」
「あ、そうだった! とりあえず、オススメの宿と、余所者の俺達でも受けられそうな依頼を教えてください」
「かしこまりました。認識票はお持ちですか?」
「はい」
ダンは冒険者に登録した時に作成してもらった認識票を差し出す。
青色の認識票を。
「Cランクの方でしたか。お若いのにご立派ですね」
「いえ、パートナーが優秀なだけですよ」
受付嬢の称賛の言葉に、ダンは謙遜でもなんでもなく、紛れもない事実としてそう答えた。
故郷を旅立ってからの1年で、路銀を稼ぐために道中の国でいくつもの依頼をこなした結果、ダンはCランク冒険者となった。
ディオンと同じ階級だが、当時の彼と同等の強さになったかと言えば、違う。
ダンも17歳となり、当時より背も伸びて体も鍛えられ、戦闘経験を積んだことで技術も伸びたのは間違いないが、それでも天才ディオンには届いていない。
まあ、ディオンは実績の少なさと精神面での未熟さを考慮されてCランクに甘んじていた男だ。
戦闘力だけならCランクの中でも飛び抜けていた。
そんなディオンに届かないだけで、今のダンもCランクの中堅くらいの力はある。
少なくとも、
「そうだ。ここでならライラ、こっちの子の冒険者登録もできませんか?」
「はい。可能ですよ」
「よし!」
今までは奴隷としてしか扱ってあげられなかったライラに、身分証を用意してあげられる。
この国で生きるのなら、必ず役に立つだろう。
ようやく、ようやく彼女の『人』としての幸せが見え始めてきた。
大喜びするダンの様子で全てを察したのは、ハーフエルフの受付嬢は優しい顔になった。
その後、ライラの冒険者登録は無事完了し、地理に疎い余所者でも大丈夫そうな依頼も見繕ってくれた。
オススメの宿も教えてもらったのだが、ここで一つアクシデント。
「壁の分厚い宿なので、どうぞご安心ください」
「なっ!?」
お茶目にウィンクしながら、そんなことを言う受付嬢。
いらんことまで察したらしい。
だが、とてもありがたい配慮ではある。
口にさえ出さなければ。
「それでは、ダンさん、ライラさん。これからよろしくお願いしますね」
そうして、貿易国家ヘルメスでの二人の暮らしが始まった。