新米冒険者が、悲惨な人生を送ってきたダークエルフの奴隷少女を買った話。 作:仮面紳士
「う、あ……」
目を覚ますと、見慣れない綺麗な天井が目に入った。
次に感じたのは、体の下にあるやたらとフワフワした感触。
まだ寝ぼけた頭で確認してみれば、自分は見たことも無いほど豪華なベッドに寝かされ、見たことも無いほど綺麗な服に身を包み、見たことも無いほど綺麗で大きな部屋の中にいた。
「へ……?」
「あ! 目が覚めた?」
「ッ!?」
呆然とするライラに、嬉しそうな顔で話しかけてくる女がいた。
自分と同じ長耳に、褐色の肌、色素が抜け落ちたような白髪。
身長は自分よりかなり高く、体つきも比べ物にならないほど豊満。
間違いない。
気を失う前に戦っていた、名も知らぬ
「ご主人様はどこですか!?」
「安心しなさい。多分、生きてはいるわ。それに、あんなののことなんか、すぐにどうでもよくなるわよ」
同族は優しくライラの頬を撫でながらそう言った。
ライラは反射的にその手をはたき落とし、同族はちょっと悲しそうにシュンとした。
「ふむ。なるほど。出会った頃のノーチェにそっくりだな」
「ッ!?」
その時、部屋の扉を開けて一人の男が入ってきた。
凄まじく整った、しかし、どこか見覚えがあるような気のする顔立ちをした、まだ二十歳ほどに見える若い男。
だが、見た目の若さに反して、その体は長い長い鍛錬を経たかのように極限まで鍛え抜かれており、鋼のような筋肉の鎧を纏っている。
彼を見た瞬間──ライラは全身から冷や汗が噴き出し、体が勝手にカタカタと震え出すのを感じた。
別に威圧されたわけでも、声音から怒気を感じ取ったわけでもない。
ただ、本能がそこにいるだけの男を恐れていた。
「陛下♡」
そんな男を見て、同族はトロけるような笑顔を浮かべ、ダッシュで彼に近寄って、スリスリと猫のように頭を押しつけて甘え始めた。
男の方も、まるで猫に接するように彼女の頭や喉を撫でる。
ライラに向かって家畜の幸せ云々と語っていたくせに、本人はペットの幸せを享受しているようにしか見えない。
「さて、自己紹介をしよう。我が名はライオース・レーオス・ジ・アレキサンド。
アレキサンド大帝国皇帝である」
「!?」
世界の常識など、ダンと過ごした一年で見聞きしたものしか知らないライラでも知っている超ビッグネームに、彼女は驚愕した。
世界最大の国の主。
そんな雲の上の人物が、自分ごときに何の用があると言うのだろうか。
「その顔、思いっきり疑問に思ってるわね? 陛下ほどのお方が、ダークエルフ風情に何の用だって」
心を読まれたかのように正確な指摘が同族から入った。
「でもね、ダークエルフ
言ったでしょう? 私達は最高の主のもとでなら、その覇道を最も近くでお支えできる至高の存在だって」
「ノーチェの言葉は正しい。お前達には素晴らしい力が眠っているのだ」
ノーチェと呼ばれた同族に抱き着かれたまま、皇帝がライラに近づいてくる。
彼女は反射的にビクッと身をすくませ、それを見た皇帝は足を止めてその場で話し始めた。
……ノーチェもそうだったが、行動の端々にこちらを慮る意思を感じる。
「ダークエルフはエルフの出来損ない。
低い魔力量、短い寿命、子を成せぬ体。
それらを見て、潔癖症でプライドの高いエルフはお前達を見下し、毛嫌いする。
だが、アレキサンド大帝国皇帝の名において断言しよう。
その大前提自体がそもそもの間違いであると」
「!」
ライラの人生を地獄にした全ての元凶。
それを目の前の若き皇帝は、力強く否定する。
「むしろ真実は全くの逆だ。お前達はあまりにも膨大な魔力を持っている。
様々な列強種族を血族に迎え入れてきたアレキサンドの皇族、その最高傑作である私を超えるほどの魔力をな」
「!?」
再びの驚愕。
「そんなの、信じられるわけ……」
「ノーチェの力は見たのだろう? それでも信じられないか?」
「…………」
ライラの脳裏に蘇るのは、ヘルメスで体験した悪夢。
多くの魔物と高位冒険者達という肉壁。
それで威力が減衰していたにも関わらず、咄嗟にライラが全身全霊をかけて守ったダンにも致命傷を与えたノーチェの大魔法。
しかも、天才的な魔法のセンスを持つライラは気づいていた。
あの大魔法は、取るに足らないザコに向けて放った雑で適当な一撃。
つまり、ノーチェの全力からはほど遠いと。
「お前達の体に生じている様々な不具合は、身の内に宿る強大過ぎる魔力に肉体が悲鳴を上げているからだ。
魔力量が低いと誤認されているのも、大部分の魔力が体の中で根腐れを起こし、まるで使えない状態にあるため。
だが、稀に似たような症状を抱えて生まれてくる皇族の治療法を確立した我が国であれば、その不具合を治し、本来の力を振るえるようにしてやれる」
その言葉は本当なのだろう。
ノーチェというダークエルフの大魔法使いの存在が動かぬ証拠だ。
「ダークエルフの娘よ。お前の名はなんという?」
「…………ライラ」
皇帝の迫力の前では嘘も沈黙も選べず、ライラは自らの名前を口にした。
ダンが付けてくれた、宝物のような名前を。
「ふむ。では、ライラ。お前に皇帝として命を下す。──私の妻となれ」
「…………………………は?」
「私の妻となり、ノーチェと共に私の子を産め」
何を言っているのだろうか、このイケメン王は。
そこの同族、嬉しそうな顔でトロケてないで何か言ってくれ。
「な、なんで……?」
「言っただろう。アレキサンドの皇族は様々な列強種族を血族に迎え入れてきたと。
ならば、それほどの力を持つダークエルフの血を捨て置くなど、ありえない」
一応、理屈は通っていた。
「その人だけで良いんじゃ……」
「治療によって子を成せるようになるとはいえ、長命種ゆえの子供のできづらさだけはどうしようもない。
ノーチェ一人では、そう多くのダークエルフの血を持つ皇子は産めんのだ」
皇族の価値観。
つまり、国のための孕み袋になれという……。
「言っておくが、お前達を孕み袋としてのみ扱うつもりは無い。
この私の、世界最大の国の皇帝の妻に相応しいだけの幸せを与えてやる」
「!?」
皇帝がライラの顎に指先を添え、クイッと引き上げた。
「今は前の主のことが忘れられないだろう。だが、すぐに忘れさせてやる。甘やかして、溶かして──すぐに私のものにしてやる」
「ッ!?」
「キャーーー♡♡♡」
奪う者の頂点、侵略国家の王のあまりにも堂々とした寝取り宣言にライラは戦慄し、ノーチェは黄色い悲鳴を上げた。
「さて、私はもう行く。数日はゆっくりと英気を養い、その後で治療に取りかかれ。
経験者として言っておくが、治療はかなり痛くて苦しいぞ。
傍で手を握っていてやるから、気張れ」
「私はしばらくあなたの傍にいるわね! 先輩として、この離宮の案内とかしてあげるわ!」
「ちょ、待っ……!?」
あまりにも力強い連中に押し切られ、ライラの大帝国生活が始まってしまった。
ディオンの寝取り男パワーを1とすると、皇帝は53万くらいあるかもしれない。
富、名声、力、顔面偏差値、色気、俺様オーラ、この世の全てを手に入れた男……!