新米冒険者が、悲惨な人生を送ってきたダークエルフの奴隷少女を買った話。 作:仮面紳士
「着きましたよ」
「ここが……」
シュバリエ達『混沌の渦』に連れられたダンは、裏のルートを使ってアレキサンド大帝国に密入国した。
そして、ライラが囚われていると思われる帝都にコソコソと入り込み、
「なっ!?」
「おい!? 嘘だろ!?」
しかし、アジトに入ったところで、ダン達を驚愕が襲った。
アジトの中にいる人々が、一人残らず血を吐いて倒れていたのだ。
「まさか、このアジトの情報が露見して……!?」
「言ってる場合じゃねぇぞ! おい! ぼーっとしてねぇで手伝えテメェら! まだ息がある奴をアタシの前に連れて来い!!」
「は、はい!」
「ワ、ワカッタ……!」
パールが素早く指示を出し、生存者の治療を開始する。
アジトの場所が露見していたのなら一も二もなく逃げるべきなのだが、彼女は迷わず治療を選んだ。
口は悪いが『天使』の異名に恥じない慈悲深さだ。
「うぃ〜」
「ん?」
だが、実際に患者を診た瞬間に違和感。
外傷が、見当たらない。
あと死人も見当たらない。
全員、顔色を悪くして倒れてるだけだ。
それに、彼らが口から吐いている赤い液体、よく見たら……。
「…………これ血じゃねぇ。赤ワインだ」
「「「赤ワイン!?」」」
メンバー達の驚愕の声がアジトに響く。
「あああああ!?」
「!? どうしました、ダンくん!?」
その時、ダンが一人の患者を抱き起こしながら大声を上げた。
薄汚れた和服に、安物にしか見えない刀を装備し、顔を真っ赤にして伸びている四十路過ぎの男。
大変見覚えがあった。
「ヘイオースさん!?」
「ひっく。おぉ……? おお! ダンの坊主じゃねぇか! ウィィ〜! ひっさしぶりだなぁ!」
男──ヘイオースは目の焦点を合わせてダンのことを認識し、再会を喜んだ。
「なんでここに? というか、この惨状はいったい……?」
「ちょいと飲み比べをなぁ。ひっく。やってたのよぉ。
どいつもこいつも辛気臭ぇを通り越して、ギラギラドロドロした真っ黒な目ぇしてやがったからよぉ。
居心地悪くて、全員幸せになるお薬で潰してやったぜぇ!」
「言い方……」
でも、なるほど。
つまりヘイオースが全員潰したということか。
とりあえず、敵襲とかじゃなくて良かった。
「あの、失礼。この方は……?」
「あ、この人は……」
「俺はヘイオース! Bランク冒険者『飲み歩き』のヘイオースだ!
綺麗な姉ちゃんに美味い酒を酌してやるって言われてスカウトされてなぁ。こいつらと一緒に戦うことになった。どうぞよろしく。ひっく」
「そ、そんな理由で……!?」
信じられないという目がヘイオースに突き刺さる。
世界最大の国に喧嘩を売る理由が酒と女。
さすがに、おかしい。
「ま、この国とはちょいとばかし因縁もあるからなぁ。ここらで清算しとくのも悪くねぇと思ったのよ。
それより、ダンの坊主こそ、なんでこんなしけた場所にいやがる?
お前さんはヘルメスあたりで、あの嬢ちゃんとイチャイチャしてりゃぁ…………って、まさか」
ヘイオースの顔が険しくなる。
……お察しの通りだ。
「ライラは、大帝国に攫われました……! あの子を取り返すために、俺はここにいます」
「マジかぁ……。くっそ。酒が不味くなる。因縁を放置してたツケかねぇ」
ヘイオースは苦々しい顔で追加の酒を呷った。
全く酔える気がしなかった。
「よっしゃ! なら、次の戦いで、俺はお前さんに協力してやる!」
「ほ、本当ですか!?」
「おうよ! そんで……」
「!?」
ヘイオースはこっそりとダンに「あること」を耳打ちした。
「そ、それは……」
「いいんだよ。お前さんにとって一番大事なのは、あの嬢ちゃんだろ?」
「……その通りです」
ヘイオースの言葉で、ダンは改めて覚悟を決めた。
その後、赤ワインを吐いていた屍達が起きてきて、作戦会議が始まる。
大帝国は既に南西部侵攻の準備を終えており、
可及的速やかな作戦開始が求められた。