新米冒険者が、悲惨な人生を送ってきたダークエルフの奴隷少女を買った話。 作:仮面紳士
「では、服を全て脱いで、その台の上で横になれ」
「…………」
学者風の男に命令され、ライラは眉をしかめた。
昔は裸を晒すくらいなんとも思わなかったのに、今は明確に不快感と抵抗感を感じる。
「デリカシー!!」
「痛っ!?」
そんなライラを見て、ノーチェが男にチョップを叩き込んだ。
「ハクイ! 女の子にその言い方は無いでしょ!」
「お前はすんなり脱いだだろうが」
「昔は色々壊れてたのよ! というか、そういう子にこそ紳士的に接しなさい! 陛下を見習え!」
ハクイと呼んだ男にギャーギャーと文句を言うノーチェ。
ライラの扱いに対して本気で怒っている。
……彼女のライラに対する態度は、徹頭徹尾、過保護な姉みたいな感じだ。
そのせいで、そういう扱いをされた経験に乏しいライラは、どうしてもノーチェを嫌いになり切れない。
ダンを殺しかけた仇だというのに。
「ハクイ、せめて下着くらいは着けたままでやれないか?」
「術式は体全体に刻むのですから、下着でも十二分に邪魔です」
「では、二プレスと前張りなら……」
「陛下、それ更にエロくなってます」
加えて、皇帝の方もここにきて天然キャラを発揮してきた。
反応に困る。
「ああ、もうわかった。わかりました。女の術師に頼みましょう。ダークエルフの処置ができるレベルとなると、出張中のユリーカしかいないので、帰ってくるまで待つことになりますが」
というわけで、ライラの治療は後日に回された。
彼女は知らないことだが、この期間でダンが反逆者の仲間になったり、帝国目指して出発したりと色々あり。
悲壮な覚悟を抱いて旅に出た彼とは打って変わって、ライラはお城で何不自由ない暮らしを送っていたことになる。
「はい、あ~ん」
「むぐっ」
自室として与えられたやたら豪華な部屋で、やたら肌触りの良い服を着せられ、やたら顔の良いノーチェに「あ~ん」される。
口に突っ込まれた料理もやたら美味しい。
今までの人生で食べてきた料理が豚の餌に思えるレベルで。
「美味しい?」
「………………美味しい、です」
悔しい。でも感じちゃう。美食を。
「そっか。良かった」
ノーチェは本当に嬉しそうに笑う。
ライラはムスッとした顔で、彼女から顔を逸らした。
またある時は。
「ラ〜イラ! お散歩に行きましょう!」
ノーチェに連れ出され、国内を歩いたりもした。
城内では兵士達が厳しい訓練に励むのが見えた。
上半身裸で武器をぶつけ合う彼らは、一人一人が余裕でダンどころかディオンより強い。
その強さを維持するための地獄の鍛錬に身を捧げているのに、兵士達はノーチェが手を振るとデレデレしながらブンブンと手を振り返し、教官にチョップされるような明るさとユーモアを忘れていない。
あと、当たり前のようにダークエルフへの差別が無い。
「こんにちわ」
「あら、可愛い子ねぇ」
城下町を歩いても、ダークエルフの二人に妙な目を向ける者はいない。
ヘルメス以上に雑多な種族が交ざり合い、ダークエルフ以上に目を引く存在なんていくらでもいる。
あっちには角と翼と獣耳と尻尾と鱗が生えた身長三メートル越えの爆乳美女が肩で風を切って歩いていてるし。
向こうでは耳の長い子と、背が低くて横に広い子と、中途半端に両者の特徴を合わせ持った子が仲良く遊んでいる。
かつて冒険者ヘイオースは、このアレキサンド大帝国を、ライラが普通に生きていけるかもしれない国の候補に上げた。
それは間違ってはいなかったのだと、この光景を見ていればわかる。
「どう? ここでの暮らしは?」
「…………」
ライラは黙秘した。
認めたくなかったからだ。
ここが良い国に見えることを。
自分が──幸せを感じ始めてしまっていることを。
「…………」
ライラはノーチェの顔を見る。
彼女は良い人だ。
少なくとも、身内認定した相手に対しては。
もっと早く、もっと違う状況で出会えていれば、きっとライラは彼女を本当の姉のように慕っていただろう。
「はぁ……」
「た、ため息!? 何か気に触ることしちゃった!?」
アレキサンド大帝国。
優秀さを尊ぶ実力主義の国。
積極的に侵略戦争を起こし、そうして奪い取ったリソースを国民に還元して、より強く、より豊かになってきた強国。
他国にとっては悪魔のようで、国民からすれば天国のような国。
その庇護を受けることは、ある意味、この大陸において最上級に近い『幸福』である。