新米冒険者が、悲惨な人生を送ってきたダークエルフの奴隷少女を買った話。 作:仮面紳士
亀の歩みだけど、どうにか完結までは持っていきたい……!
大帝国への反乱を目論む
長い事前準備で得てきた情報を頼りに、Sランク冒険者を筆頭とした精鋭達の武力で、一気に開戦に必要な物資や重要施設に打撃を与え、そのまま撤退を目指すという、かなり強引な電撃作戦。
ダンはそれに便乗するような形で、ライラのところへやって来た。
護衛の殆どは反逆者達の方へ行ってくれたが、最悪の戦力がまだ残っている。
「ライラ、あなた……!」
「「ッ!?」」
再会を果たした主従の前で、二人を引き離した大魔法使いが怒気を放っている。
ライラに対してではない。
大魔法使いノーチェの怒りは、全てダンに向いていた。
「そう……! そうなのね……! 随分上手く洗脳したものじゃない!!」
「うぐっ!?」
怒りの爆発。
それが魔法となってダンに放たれた。
「ご主人様!?」
「あっ……!?」
咄嗟にライラが庇いに入り、それを見たノーチェが直前で慌てて手加減。
結果、ライラの迎撃の魔法がノーチェの魔法を相殺。
しかし出力で僅かに負けて、二人は軽傷を負いながら窓を突き破り、城の中庭へと落ちた。
「う、ぐ……!?」
「ライラ!?」
だが、そこでライラが怪我以上の何かに悶え苦しみ始めた。
蹲り、胸を押さえて、堪えるように荒い呼吸を繰り返す。
「何、これ……!? 魔力が……!?」
「ッッ!?」
ライラを中心に、とてつもない『力』が渦を巻く。
前の戦場でノーチェに感じたのと同じ。
人間のレベルに収まらないような、圧倒的すぎるエネルギーの奔流。
「お前!! ライラに何をしたぁ!?」
二人を追い、中庭に降りてきた女に、今度はダンがあらん限りの怒りをぶつけた。
実力差は歴然の中、剣を構え、一歩も引かずに、大魔法使いを威嚇する。
「あんたにできないことをしてあげたのよ。これが、この子の本当の力。そこにかかっていた鍵を壊したの」
「がはっ!?」
雑に放たれた魔法がダンを吹き飛ばす。
ノーチェからすればデコピンのような弱い魔法。
ライラに配慮した生け捕り目的の魔法で、そこそこ優秀なだけの凡人Aは簡単に吹き飛んでいく。
「ダメよ、ライラ。しばらくは魔法を控えめにって言われたでしょ? 急に強くなり過ぎた力を、すぐには扱えないわ」
「ご、主人、様……!」
「……安心しなさい。不本意だけど殺してないわ。せっかくだから、ちゃんと精算しましょう」
ノーチェは蹲るライラを優しく抱き起こし、彼女が必死に手を伸ばす先に目を向けた。
そこでは、一人の少年が立ち上がっていた。
デコピン程度の一撃で大ダメージ。
悲しいほどに力の差があり過ぎる凡人は、根性だけを頼りに、剣を杖代わりにして、立ち上がる。
「ライラを、返せ……!!」
「返せ、ね。それは俺の所有物を返せって意味かしら?」
そんな遥か格下を相手に、大魔法使いは対話を選択した。
暴力だけでなく、論破という形でも、この男をへし折るために。
「違う! ライラは、俺の大切な人だ!」
「大切な人? ──隷属魔法の首輪を付けっぱなしにしておいて?」
「ッ!」
敵意が、突き刺さる。
「違っ……!? それは、ライラの心が落ち着くまではって……!」
「言い訳ね。どうせ奴隷なのを良いことに、この子の身体を貪ってたんでしょう? あんた、スケベそうだし」
「うぐっ!?」
それを言われると痛い。痛すぎる。
確かに、最初はそうだった。
どう言い繕っても、始まりが欲望だったことは変えられない。
「奴隷なら、戦勝国が敗戦国から奪うのも当然。その後、奴隷の身分を解いて、敗戦国の捕虜って扱いになれば、もうあんたとの繋がりは切れる」
「め、滅茶苦茶だ!?」
「自分は滅茶苦茶じゃないつもり? ライラのあんたに向ける感情が、調教された奴隷の思考じゃないって、断言できるの?」
「!?」
ノーチェはそんな理屈を認めない。
奴隷としての過去があるからこそ、絶対に認めはしない。
あれが正しい繋がりであるはずがないと、自信を持って断言する。
「同じ滅茶苦茶なら、こっちの方が良いと思わない?
綺麗な服を着て、美味しいものを食べて、いつかは私と同じくらいの地位を狙える。
能力をもって自由を勝ち取り、世界最大の国で名を轟かせる。
あんた如きの奴隷と、どっちがマシな人生?」
「ぅ、ぁ……」
ダンは、その問いに、自信を持っては答えられなかった。
今のライラが、自分を好きでいてくれているとは思う。
けれど、それが奴隷としての刷り込みじゃないかなんて、それこそ、ずっとずっと思い悩んできた問題だ。
最初は間違いなくそうだった。
今だって、その延長線ではあるのだろう。
始まりが変わらない以上、どう足掻いても、この問題はずっとついて回る。
それでも、それを差し引いても、ダンはライラを幸せにしたいと思っていた。
だが、ライラは今、大帝国に目をつけられた。
吹けば飛ぶような自分とは違う、世界最大の武力と権力を持つ国。
しかも、彼女からあふれる絶大な魔力や、着ている綺麗な服、ノーチェの話などから考えて、奴隷ではなく、一人の魔法使いとして召し上げるみたいな話だ。
ここで自分が何とかライラを攫って逃げられたとして、その後は大帝国に追われる一生が待っている。
そんな逃亡生活と、大帝国の中での立身出世の道、どちらがマシかと言われれば……。
奴らのやり方は酷く傲慢で、乱暴で、横暴だったけど──それは金でライラを買った自分と何が違う?
そうして手元に置いた後、丁重に扱っているのなら、むしろ苦労ばかりかけてる自分なんかより、よっぽど──
「『
「えっ!?」
その時、ダンの全身に力がみなぎった。
ディオンを倒した時と同じ魔法。
けれど、あの時とは比べ物にならない超々々強化。
「それでも、私は……! ご主人様と、一緒が良いです……!」
「ライラ……!」
「…………そう」
ダンがゴチャゴチャ悩む中、当のライラが選んでくれて。
それでダンの迷いは吹っ切れた。
同時に、ノーチェの顔に、言っても聞かないかという諦めの表情が浮かぶ。
「まあ、一年も経てば、冷静に考えられるようになるわ。とりあえず今は──潰すわね」
「ッ!?」
「や、めて……!」
ノーチェの掌に魔力光が発生。
あの敗戦の日と同じように、絶対強者の一撃が、何もかもを奪って──
「……は?」
ノーチェが魔法を発射する前に。
ダンが、彼女の目の前にいた。
彼の剣が、喉元に迫ってくる。
「なっ……!?」
想定を遥かに上回る超スピード。
見えなかった。
目で追えなかった。
まずい、油断した、避けられない、これ、ホントにヤバ、死──
「そこまでだ」
「「「!?」」」
誰かが、ダンとノーチェの間に割って入る。
ダンの突き出した剣を、ノーチェが命の危機を感じた剣を、あっさりと素手で掴んで止めながら。
「ぇ、ぁ……!?」
その人物を認識した瞬間、ダンは、急に、息ができなくなった。
威圧感の塊。
そうとしか表現できない何かが、目の前に……!
「陛下ぁ♡」
「どうやら、お前では少し危ないようだな。下がっていろ」
バッと上着を脱ぎ捨てて、筋骨隆々の肉体美を顕にしながら。
『皇帝』ライオース・レーオス・ジ・アレキサンドが戦闘態勢を取った。