※この作品はR-18です。

新米冒険者が、悲惨な人生を送ってきたダークエルフの奴隷少女を買った話。   作:仮面紳士

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また遅くなりました……!
亀の歩みだけど、どうにか完結までは持っていきたい……!


23 どっちがマシ?

 大帝国への反乱を目論む反逆者達(トレイターズ)の作戦が始まった。

 長い事前準備で得てきた情報を頼りに、Sランク冒険者を筆頭とした精鋭達の武力で、一気に開戦に必要な物資や重要施設に打撃を与え、そのまま撤退を目指すという、かなり強引な電撃作戦。

 

 ダンはそれに便乗するような形で、ライラのところへやって来た。

 護衛の殆どは反逆者達の方へ行ってくれたが、最悪の戦力がまだ残っている。

 

「ライラ、あなた……!」

「「ッ!?」」

 

 再会を果たした主従の前で、二人を引き離した大魔法使いが怒気を放っている。

 ライラに対してではない。

 大魔法使いノーチェの怒りは、全てダンに向いていた。

 

「そう……! そうなのね……! 随分上手く洗脳したものじゃない!!」

「うぐっ!?」

 

 怒りの爆発。

 それが魔法となってダンに放たれた。

 

「ご主人様!?」

「あっ……!?」

 

 咄嗟にライラが庇いに入り、それを見たノーチェが直前で慌てて手加減。

 結果、ライラの迎撃の魔法がノーチェの魔法を相殺。

 しかし出力で僅かに負けて、二人は軽傷を負いながら窓を突き破り、城の中庭へと落ちた。

 

「う、ぐ……!?」

「ライラ!?」

 

 だが、そこでライラが怪我以上の何かに悶え苦しみ始めた。

 蹲り、胸を押さえて、堪えるように荒い呼吸を繰り返す。

 

「何、これ……!? 魔力が……!?」

「ッッ!?」

 

 ライラを中心に、とてつもない『力』が渦を巻く。

 前の戦場でノーチェに感じたのと同じ。

 人間のレベルに収まらないような、圧倒的すぎるエネルギーの奔流。

 

「お前!! ライラに何をしたぁ!?」

 

 二人を追い、中庭に降りてきた女に、今度はダンがあらん限りの怒りをぶつけた。

 実力差は歴然の中、剣を構え、一歩も引かずに、大魔法使いを威嚇する。

 

「あんたにできないことをしてあげたのよ。これが、この子の本当の力。そこにかかっていた鍵を壊したの」

「がはっ!?」

 

 雑に放たれた魔法がダンを吹き飛ばす。

 ノーチェからすればデコピンのような弱い魔法。

 ライラに配慮した生け捕り目的の魔法で、そこそこ優秀なだけの凡人Aは簡単に吹き飛んでいく。

 

「ダメよ、ライラ。しばらくは魔法を控えめにって言われたでしょ? 急に強くなり過ぎた力を、すぐには扱えないわ」

「ご、主人、様……!」

「……安心しなさい。不本意だけど殺してないわ。せっかくだから、ちゃんと精算しましょう」

 

 ノーチェは蹲るライラを優しく抱き起こし、彼女が必死に手を伸ばす先に目を向けた。

 

 そこでは、一人の少年が立ち上がっていた。

 

 デコピン程度の一撃で大ダメージ。

 悲しいほどに力の差があり過ぎる凡人は、根性だけを頼りに、剣を杖代わりにして、立ち上がる。

 

「ライラを、返せ……!!」

「返せ、ね。それは俺の所有物を返せって意味かしら?」

 

 そんな遥か格下を相手に、大魔法使いは対話を選択した。

 暴力だけでなく、論破という形でも、この男をへし折るために。

 

「違う! ライラは、俺の大切な人だ!」

「大切な人? ──隷属魔法の首輪を付けっぱなしにしておいて?」

「ッ!」

 

 敵意が、突き刺さる。

 

「違っ……!? それは、ライラの心が落ち着くまではって……!」 

「言い訳ね。どうせ奴隷なのを良いことに、この子の身体を貪ってたんでしょう? あんた、スケベそうだし」

「うぐっ!?」

 

 それを言われると痛い。痛すぎる。

 確かに、最初はそうだった。 

 どう言い繕っても、始まりが欲望だったことは変えられない。

 

「奴隷なら、戦勝国が敗戦国から奪うのも当然。その後、奴隷の身分を解いて、敗戦国の捕虜って扱いになれば、もうあんたとの繋がりは切れる」

「め、滅茶苦茶だ!?」

「自分は滅茶苦茶じゃないつもり? ライラのあんたに向ける感情が、調教された奴隷の思考じゃないって、断言できるの?」

「!?」

 

 ノーチェはそんな理屈を認めない。

 奴隷としての過去があるからこそ、絶対に認めはしない。

 あれが正しい繋がりであるはずがないと、自信を持って断言する。

 

「同じ滅茶苦茶なら、こっちの方が良いと思わない?

 綺麗な服を着て、美味しいものを食べて、いつかは私と同じくらいの地位を狙える。

 能力をもって自由を勝ち取り、世界最大の国で名を轟かせる。

 あんた如きの奴隷と、どっちがマシな人生?」

「ぅ、ぁ……」

 

 ダンは、その問いに、自信を持っては答えられなかった。

 今のライラが、自分を好きでいてくれているとは思う。

 けれど、それが奴隷としての刷り込みじゃないかなんて、それこそ、ずっとずっと思い悩んできた問題だ。

 

 最初は間違いなくそうだった。

 今だって、その延長線ではあるのだろう。

 始まりが変わらない以上、どう足掻いても、この問題はずっとついて回る。

 

 それでも、それを差し引いても、ダンはライラを幸せにしたいと思っていた。

 だが、ライラは今、大帝国に目をつけられた。

 吹けば飛ぶような自分とは違う、世界最大の武力と権力を持つ国。

 しかも、彼女からあふれる絶大な魔力や、着ている綺麗な服、ノーチェの話などから考えて、奴隷ではなく、一人の魔法使いとして召し上げるみたいな話だ。

 

 ここで自分が何とかライラを攫って逃げられたとして、その後は大帝国に追われる一生が待っている。

 そんな逃亡生活と、大帝国の中での立身出世の道、どちらがマシかと言われれば……。

 

 奴らのやり方は酷く傲慢で、乱暴で、横暴だったけど──それは金でライラを買った自分と何が違う?

 そうして手元に置いた後、丁重に扱っているのなら、むしろ苦労ばかりかけてる自分なんかより、よっぽど──

 

 

「『全能力増強(フルブースト)』……!!」

 

 

「えっ!?」

 

 その時、ダンの全身に力がみなぎった。

 ディオンを倒した時と同じ魔法。

 けれど、あの時とは比べ物にならない超々々強化。

 

「それでも、私は……! ご主人様と、一緒が良いです……!」

「ライラ……!」

「…………そう」

 

 ダンがゴチャゴチャ悩む中、当のライラが選んでくれて。

 それでダンの迷いは吹っ切れた。

 同時に、ノーチェの顔に、言っても聞かないかという諦めの表情が浮かぶ。

 

「まあ、一年も経てば、冷静に考えられるようになるわ。とりあえず今は──潰すわね」

「ッ!?」

「や、めて……!」

 

 ノーチェの掌に魔力光が発生。

 あの敗戦の日と同じように、絶対強者の一撃が、何もかもを奪って──

 

「……は?」

 

 ノーチェが魔法を発射する前に。

 ダンが、彼女の目の前にいた。 

 彼の剣が、喉元に迫ってくる。

 

「なっ……!?」

 

 想定を遥かに上回る超スピード。

 見えなかった。

 目で追えなかった。

 まずい、油断した、避けられない、これ、ホントにヤバ、死──

 

 

「そこまでだ」

 

 

「「「!?」」」

 

 誰かが、ダンとノーチェの間に割って入る。

 ダンの突き出した剣を、ノーチェが命の危機を感じた剣を、あっさりと素手で掴んで止めながら。

 

「ぇ、ぁ……!?」

 

 その人物を認識した瞬間、ダンは、急に、息ができなくなった。

 威圧感の塊。

 そうとしか表現できない何かが、目の前に……!

 

「陛下ぁ♡」

「どうやら、お前では少し危ないようだな。下がっていろ」

 

 バッと上着を脱ぎ捨てて、筋骨隆々の肉体美を顕にしながら。

 『皇帝』ライオース・レーオス・ジ・アレキサンドが戦闘態勢を取った。

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