※この作品はR-18です。

新米冒険者が、悲惨な人生を送ってきたダークエルフの奴隷少女を買った話。   作:仮面紳士

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毎度のことですが、遅れております……!


24 モブとラスボス

「ッッ!?」

 

 目の前に、恐ろしいほどの威圧を纏う男が現れて。

 ダンは反射的に後ろへ飛んだ。

 頭では何も考えていない。

 勝手に身体が動いた。

 本能が、目の前の男を恐れていた。

 

「さて。ライラの魔力を纏っているということは、お前がライラの元主人ということか?」

「……!?」

 

 口が動かない。

 冷や汗が出てきて、カタカタと剣を握る手が震える。

 まるで蛇に睨まれたカエルだ。

 

「そうです、陛下! そいつがライラに隷属魔法を刻んでたクソ野郎です!」

「ふむ。ノーチェ、お前の生い立ちを思えば毛嫌いする気持ちもわかるが、冷静さを失っているな。少し静かにして頭を冷やせ」

「…………はい」

 

 ノーチェは叱られた子犬のように、シュンとした。

 

「ライラの元主人。まずは謝罪しよう。悪かった。お前の大切な女を奪って」

「…………ぇ?」

 

 謝られた。

 想定外の事態に頭が真っ白になる。

 

「皇帝として、公の場ではふんぞり返る必要があるが、誰も見ていないここでは本音を話そう。

 反逆者どもに紛れ、大帝国の中枢まで女を取り戻しに来る気概は見事だ。

 ノーチェは大いに嫌っているが、私としては、お前のことが好きになったぞ」

 

 ……なんなんだ、こいつは?

 その言葉から嘘を感じない。

 侵入者のダンに対して、笑顔を向けてくる。

 意味がわからなくて、余計怖い。

 

「その上で言うが、やはり大帝国にはライラが必要だ。

 私の妻の一人となり、我が子を産んでもらいたい」

「…………は?」

「だが、お前がここまでライラを大事にしているとわかった以上、引き離すのも忍びない。

 どうだ? お前も私の配下とならないか?

 お前の子を産ませるわけにはいかないが、去勢の上でライラの情夫となる程度なら認めてやれるぞ?」

「はぁぁぁ!?」

 

 ちょっと何を言っているのかわからない。

 去勢? 情夫?

 冗談にしか聞こえないふざけた話なのに、もの凄く真剣な顔で言ってくるから、頭がおかしくなりそうだ。

 

「い、意味がわからない……!? そこはライラを返してくれるとか、そういう話になるんじゃないのか!?」

「残念だが、それは無い。さすがに、ライラを譲るほどの価値を、お前に感じはしないからな」 

 

 皇帝は語る。

 一般庶民で他国出身のダンとは、致命的に価値観も常識も異なる話を。

 

「私は侵略国家の王。必要であれば何でも奪う。悪いとは思うが、良心の呵責ごときで国益を損ねる真似はしない」

「そ、そんなのおかしい!!」

「そう叫ぶのは勝手だが、叫んだところで、誰もおかしさを正してはくれないぞ?」

 

 皇帝が歩みを始める。

 ダンに近づいてくる。

 一歩、一歩、近づくほどに、潰されそうなほどの圧力が強まっていく。

 

「利益を損ねるほどの譲歩というものは、武力で容易に解決できぬと思わせること、あるいはそれ以上の価値を示すことで、初めて引き出せる。

 この場におけるお前の価値は、ライラに想われていることと、その気概に対する私の関心だけだ」

「ぁ、ぁ……!?」

 

 威圧に、潰される。

 これが武力。これが権力。

 どれだけ理不尽だろうと、全てを押し通しうる力。

 

「これ以上を望むなら、勝ち取るしかない。世界は優しさで動いていない。私のように勝手な権力者の都合で回っているのだ」

「う、うわぁあああああああ!!」

 

 斬りかかった。

 全力で、仕留めるつもりで。

 真の力を解放したライラに貰った力を、剣に乗せて、思いっきり叩きつけて──

 

「そんなものか?」

「なっ……!?」

 

 皇帝は、ノーガードだった。

 無防備のまま、ダンの剣を肩口に受けて──無傷。

 鋼のような筋肉に、本物の鋼が通らない。

 

「今のライラに支援魔法を貰って、この程度。心意気以外は、そこらにあふれている雑兵(モブ)だな」

「ごぇ!?」

「ご主人様!?」

 

 殴られた。

 全く腰の入っていない、軽いボディブロー。

 そんな程度の拳が、ダンの鎧を砕き、巨大な魔物に衝突したかのように弾き飛ばし、轟音を立てて、彼の身体を城にめり込ませた。

 

「キャーーー♡♡♡ 陛下ーーー♡♡♡」

 

 さっきまでのシリアスを完全に忘れたノーチェが、目をハートマークにして黄色い歓声を上げる。

 

「い、ぎっ……!?」

 

 痛い、痛い、痛い。

 ダンの身体が悲鳴を上げる。

 同時に、心も悲鳴を上げる。

 

 たった一発でわからされた。

 この敵は次元が違う。

 今のライラの支援魔法を貰ってなお、かつて天才と呼ばれた幼馴染に、支援魔法なしで嬲られていた時以上の実力差がある。

 

 この皇帝はきっと、この世界という舞台の主役級だ。

 選ばれた勇者か何かが、試練の果てに対峙しなければならない最強の敵(ラスボス)。

 そういう類いの存在だ。

 

 間違っても、ライラがいなければ、ただのその他大勢に過ぎない男が戦っていい相手じゃない。

 

「さあ、どうする? 世の中には心意気だけでは越えられない壁があるぞ。どう足掻いても勝てない敵がいるぞ」

 

 現実は残酷だ。

 いくら愛を叫ぼうとも、いきなり覚醒して強くなることは無い。

 肉体も技術も、急に強くなったりしない。

 

 ライラは、特別じゃない少年の、唯一特別な切り札である。

 その切り札が切られてなお、全力の一撃で、かすり傷一つ付けられないほどの差が開いている。

 そして、これ以上の何かは彼には無い。

 

 つまり──勝てない。

 『Cランク冒険者』のダンに、『皇帝』ライオース・レーオス・ジ・アレキサンドを倒す方法は存在していない。

 

「さあ、どうする、少年」

 

 絶対に倒せない理不尽が、迫ってくる。

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