新米冒険者が、悲惨な人生を送ってきたダークエルフの奴隷少女を買った話。 作:仮面紳士
ジーグトゥース王国の東の辺境都市『イーグス』の期待の新人。
Cランク冒険者『早駆け』のディオン。
その俊足を活かした戦闘スタイルと、冒険者登録から僅か1年でCランクに至った昇進スピードの早さを称されて『早駆け』の二つ名がつけられた男。
そんな彼は今……。
「へぇ。君、ライラちゃんっていうのか。可愛いし、魔法の腕も良いし、ホントに凄いね」
「ありがとうございます」
自分の言葉に無表情で対応するダークエルフの少女を前に、若干頬を引きつらせていた。
「ディオン。いくらお前にでも、ライラはやらないぞ」
「おいおい、そんな目で睨むなよ。ライラちゃんも、こんな怖い奴より俺の方が良いって思っちまうぞ? なあ?」
「ご主人様は怖くありません」
「お、おう。そっか……」
ほんの少しだけ食い気味にそう言われて、ディオンは調子が狂うと思った。
それを聞いたダンがちょっと嬉しそうな顔になって、なんとなく甘い雰囲気になってるような気がするのも気に食わない。
(ダンのくせに……!)
ディオンとダンは幼馴染だ。
そして、同じパーティーのリーダーとメンバーでもある。
二人の関係は昔から、ディオンが上で、ダンが下だった。
年齢もディオンが一つ上。
腕っぷしも彼の方が強く、というかディオンは村で一番強く、ダンや他の子供達を手下にして、ガキ大将みたいなことをしていた。
その関係は村を出て、冒険者になってからも変わらない。
食い扶持を得るためという消極的な理由で冒険者になったダンと違って、ディオンは立身出世を求めて冒険者になった。
彼は野望を叶えるのに充分な才覚を持っていて、パッとしない子分の一人でしかなかったダンと違って、メキメキと頭角を現し始めている。
女だって、ディオンはもう二人も手に入れた。
顔の良さと実力で手に入れた女達だ。
ダンのような、大金を払って奴隷を買わなければならない奴とは違う。
そうやって、彼はダンのことを完全に下に見ていた。
彼の考えも別に間違ってはいない。
実際のところ、顔でも、強さでも、冒険者としての優秀さでも、将来性でも、彼はダンより遥かに勝っている。
だからこそ、何か一つでも上を行かれた気になると気に食わない。
今回のイラ立ちの原因は、あのダークエルフの女だ。
まず顔が良い。
ディオンが手に入れたパーティーメンバーの女達より間違いなく美しい。
さすがは、眉目秀麗で知られるエルフの端くれといったところか。
それだけでも気に食わないのに、貴重な治癒魔法の使い手ときた。
今日の依頼でディオンが結構な深手を負い、それをどうにかするためにダンが彼を宿に連れてきて、ライラに治療してもらうことで知り合ったのだが、その腕前は見事だった。
魔法の発動には必須のはずの詠唱すらしていない。
そんな能力も美貌もある女を、あのダンが手に入れているというのが許しがたい。
いったい、どんな手を使ったというのか。
奴隷として買うのなら、間違いなくダンの手持ちの金で足りるわけがない。
美貌の方はまだ亜人だからとか、そんな感じの理由で値下がりしてたんだとしてもおかしくないが、治癒魔法はおかしい。
治癒魔法を使える奴隷がそこらへんで安値で売ってるなんてありえない。
人族なら間違いなく食い扶持に困らないから奴隷になんて落ちないし、亜人ということを差し引いても、もっと大きい組織なりなんなりが購入するような高値で売るはずだ。
だって、高値で売っても必ず買い手がつくのだから。
間違っても、こんな新米冒険者の貯金で手が届くようなものじゃない。
それこそ、売る時に能力が判明していなかったとか、そういうありえないほどに間抜けな理由でもない限り。
(どんな汚い手段を使いやがった……!)
ディオンは憤る。
だが、同時に思い至った。
(汚い手段を使って手に入れたんなら……別に俺が奪っちまってもいいよな?)
ディオンはごく自然にそう考えた。
成功体験に満ちあふれ、トントン拍子で栄光の階段を登り続けている男は……どんどん傲慢という名の病に侵食されていた。
自分なら何をしても許されるような、そんな根拠のない自信が彼の中にはあった。
「なあ、ダン。ライラちゃんをダンジョン探索に連れていこうぜ」
「なっ!?」
「ウチのパーティーは戦士の俺、盾役のお前、斥候のアデル、魔法使いのミザリーだろ。ここに治癒術師のライラちゃんが加わったら、バランス最強じゃねぇか」
言われてダンは考える。
それは……確かにそうだった。
他種族ということで普通の仕事に就けない現状、冒険者としての治癒術師という道はありと言えばありだ。
というか、それくらいしか選択肢が残っていない。
けれど、ダンとしては戦闘経験の無いライラに危険な冒険者をやらせるなんて嫌だ。
「それは、お金を稼げますか?」
「ライラ!?」
「ああ、稼げるぜ。上手くいけば大儲けだ。冒険者ってのは、そういうロマンに満ちあふれた仕事だからな」
「では、やります」
「なっ!? ライラ!」
「ダメ、でしょうか……?」
「ッ!?」
ダメだ。そう言いたい。
けど、言えない。
金銭的な破綻が目前まで迫っているのだ。
情けないが、ライラにも働いてもらわなければどうにもならない。
女の子一人養えないのかと、ダンは自分の甲斐性の無さに絶望して天を仰いだ。
「なあ、許してやれよ。心配なら俺達で守ればいいじゃねぇか。最悪お前が役に立たなくても、俺一人で守ってやるから安心しろって」
「…………わかった。ライラ、一緒に冒険者をやろう」
「はい。ご主人様」
ダンは苦悩の末に、苦渋の決断を下した。
ディオンが内心でニヤリと笑い、ライラはダンの様子を見て心配そうな顔になる。
「けど、いきなりダンジョン探索は無謀すぎる。まずは普通の依頼で慣らしてからだ。いいよな?」
「オッケー、オッケー。ま、せいぜい慎重に行こうぜ」
こうして、ライラがダン達のパーティーに加入し、冒険者として働くことが決まった。