勇者パーティから追放された美人ギャルタンクは嫌そうな顔を浮かべながら、ぼっち獣使いの俺に使役されたがっている 作:猫星人/Mao-lien
10階層突破の打ち上げも終わり次の週、合宿に行くには残り9日で11階層から15階層を突破しなければならない
11階層に足を踏み入れた二人は進むペースが少しだがダウンしていることに気づく
階層が上がり、難易度が高くなったのもそうだが白雪の攻撃が通り難くなってしまったのだ
その理由は……
「敵が防具を装備するとかアリかよ、それに盾まで使ってくるのか……」
「11階層からの敵は防具を装備しているのも当たり前になってくるわ。武器もこれまでの粗雑なものじゃない、油断してたら一撃で瀕死になるわよ……!」
ゴブリンアーマーやスケルトンナイトなど、今まで戦ってきた敵が防具や盾を装備しているため、今までの一撃で仕留めてきた白雪の攻撃が三度から四度攻撃しないと倒せなくなっていた
仕留めるのに時間がかかる上に、相手に攻撃する隙を与えてしまっていた
しかし、幸いにして『レイラとの特訓』でショウマは剣技による攻撃を見切ることが出来るようになった
被弾を避けつつ更に白雪の攻撃が通りやすいように翻弄する立ち回りが刺さり、白雪との連携の動きに慣れるに連れて攻略の遅れはあまり生じなくなっていった
「最初の方はペースが落ちたけど、それでも3日間で13階層突破か!後は14階層と15階層のボスだけ。まさか俺とレイラと白雪だけのパーティでこんな早く進めるとは思わなかったな……」
「あんたがちゃんと自分にできることの範囲で頑張ってるからよ、あの時特訓した甲斐があったわね。あたしに感謝してよね〜」
レイラがショウマはへと笑みを向けると、照れ臭くなったショウマはレイラとは違う方に顔を逸らす
「そうだな、でもレイラも頑張ったもんな、あん時。打ち上げの夕食のときも、俺が隣に座って支えてやらないと倒れちゃうくらいだったしな」
「は、はぁ?!あ、あれはあんたが勝手にやってきたんじゃないっ!そ、それにあんたの隣とかに座らなくても別に大丈夫だったわよ!調子乗んなっ!」
ショウマの照れ隠しのような意趣返しに、顔を赤らめてレイラは怒鳴り返す
塔の攻略は順調で、二人の空気感も悪くはない、むしろ良いと言えるだろう
レイラ、そしてショウマでさえも後6日もあれば15階層まで突破できると思っていた
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7月29日、合宿の申し込みまで残り3日を切る中、ショウマたちのパーティには暗雲が立ち込めていた
現在の階層はまだ14階層、この3日間で二人は『何の成果も出せない』でいた
(今日で4日目、だけどここを突破できる気がしない……)
14階層から新たに出てきた敵、『ゴースト』
実体化してない間は物理攻撃が無効で、レイラと白雪の攻撃が通らなくなってしまう
『ゴースト』に対しては、魔法使いの魔法による攻撃やヒーラーの詠唱によるデバフなど有効な手段が多くあるのだが、二人のパーティには魔法使いもヒーラーもいない
結果、ゴーストが実体化するのを待たなくてはならないのだ
「幽体化されたっ!また回復されるのね……」
そして実体化している間に倒せないと、幽体化してる間に元の体力まで回復されてしまうのだ
『ゴースト』は二人のパーティで倒すのが不可能に近く、出てきたら最後、先に進むことは叶わなかった
(俺が何か出来ればっ、ここで足踏みすることもないのに!!!)
この3日間、必死に戦うレイラと白雪をただ見ているだけで何もできない自分にショウマは腹が立っていた
(何で、何で俺こんな足引っ張ってまでここにいるんだろう、プロどころか冒険者にだってなる気なんてなかったのに……)
そして次第に自分の力不足、不甲斐なさを直視してしまったショウマは、『今』自分のしている行動に疑問を持ち始めてしまった
「ショウマっ!!!」
レイラの叫び声が聞こえるとギィィンッと激しい金属音が鳴り響く
「くっっっ!!!」
ショウマに向かって振り下ろされた敵の剣を咄嗟に間に入ったレイラが間一髪で防いだのだ
咄嗟ということもあり受け流すことが出来ず、レイラにも少なからずダメージが入る
「しっかりしなさいっ!!」
しかし、レイラは自分に入ったダメージなど気にしないように後ろを振り向くと、ショウマに向かって檄を飛ばす
この場は何とか敵を倒すことが出来たが、セーフエリアに戻ったレイラからショウマに怒気がこもった言葉が放たれる
「戦闘中に何ぼーっとしてるのよ!!!」
「ご、ごめん……」
「はぁ……全然進めなくて『焦る気持ち』もわかるけどね、でもこんな時だからこそ気持ちを切り替えるしかないわ!」
レイラは最初こそ怒ったものの、ショウマが謝ると『優しく』声をかけて元気を出させる
どうやらレイラはショウマの様子が変なのは『焦っているから』だと思ったようだ
結局その日も二人は14階層を突破できなかった
二人の『すれ違った思い』は次の日にとうとう顕在化してしまう
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「レイラさん、少し良いですか?」
合宿締め切りまで今日合わせて残り2日の放課後、レイラはショウマといつもの空き教室に行こうとした所を隣のクラスの風紀委員長『出古町 木実』に呼び止められてしまう
「委員長、どうしたの?あたしこれから用事があるんだけど……」
「いえ、お時間は取らせません」
コノミはレイラに向き直ると意を決したように口を開いた
「レイラさん、私のパーティに入りませんか?」
「えっ……」
レイラはまさかパーティに誘われるとは思っていなかったので、言葉を失い動揺してしまう
「貴女は確かプロになりたかったはず。でしたら、明日に締め切りの合宿に何がなんでも参加したいことでしょう」
コノミはレイラがプロになりたいことを知った上で、レイラにパーティの誘いを持ちかけた
「合宿は冒険者ランクが『アイアン2以上』でなければいけないこと以外にもう一つ、『パーティ』で申し込まなければいけません。レイラさんのランクは『ブロンズ5』で条件を満たしていますが、パーティに参加していないので応募ができない。ですから、条件を満たしている私のパーティに入らないかという申し出なのです」
コノミ目線だと、パーティに加入していないレイラはこのままだと合宿に参加できない
ランク条件は満たしているので、パーティメンバー全員が条件を満たしているコノミのパーティに入れば確かにレイラは合宿へ行けるのだ
「そ、そんないきなり言われても……」
「そうですね、いきなりですみません。このお誘いはもっと早くしたかったのですが、レイラさんが入るとなるとパーティのメンバーへ許可を取ったり、調整が必要ですからね。それで遅れてしまいました」
レイラが困ったように言うと、コノミも目を伏せてそう言う
「でも!委員長はあたしと同じタンクでしょ?例え入ったとしても同じパーティにタンク二人だなんてそんなっ」
「確かに私は貴女と同じタンク職です。元々、私は中学の時の貴女に憧れて……ではなくっ!タンクが二人になってしまうことは安心してください。ダブルタンク構成のフォーメーションをしっかり考えて練習もしてきました」
「だ、ダブルタンク構成っ!?そんな難しいパーティ構成……」
「ええ、なのでしっかり上級生や冒険者の先輩方にもアドバイスをいただきました。やってみなければわからないこともあると思いますが、準備の点では抜かりありません」
得意気に微笑むコノミはレイラをパーティに加えるために、多くの準備を費やしたようだ
合宿だけでなくこれからもずっとパーティを組んでいこう、そういう意志をレイラはコノミからしっかりと感じ取っていた
「そ、そんな、急には決めきれないというか……」
「そうですね、と言いたい所ですが合宿の締め切りは『明日』です。レイラさんは明日までに私にパーティに入るか否かを連絡ください。もちろん、私たちのパーティに入ることになった暁にはその『バカっぽいふざけた格好』は辞めてもらいますけどね」
「ば、バカでもふざけてもないわよ!」
『ショウマとすでにパーティを組んでいるので組めません』と正直に言いたいレイラだが、ショウマとのパーティ関係は秘密である
しかしながらコノミの誘いが、今までレイラが受けた『友達からのレイラに断られること前提の形だけの誘いや無責任な紹介』と違って本気の誘いであることが伝わり、レイラは少なからず動揺していた
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レイラはコノミとの会話を終えると急いでショウマの待つ空き教室へと向かった
「ごめんっ、遅くなって!ちょっと呼び止められちゃってさ」
「ああ、別にいいよ」
レイラの申し訳なさそうな言葉にショウマはどこか心あらずだ
「ショウマの方は準備いい?今日こそ14階層をクリアするわよ!」
「なあ、レイラ。俺さ、もう無理だわ……14階層に挑むの辞める」
ショウマが俯きながらそう言うと、レイラは驚いた表情になるがすぐにレイラは声を荒げる
「な、なんでよ!まだ今日合わせて2日もあるじゃない!もう諦めるのあんた!」
「もう沢山なんだよ!足引っ張って!レイラと白雪にだけ押し付けて!俺のせいなんだよ、先に進めないのは!」
「そ、そんなことないわよっ!確かに14階層ではあんたが出来ることは少ないけど、それまでは活躍できてたじゃない!」
「やっぱり14階層をクリアできないのは俺のせいじゃないか。昨日だって!レイラと白雪をピンチに晒したのはこの俺だ……」
頭を抱えて項垂れたショウマを見たレイラは、昨日のショウマの様子が変だった理由を自分が思い違いしていたことにようやく気づく
「な、ならどうするのよ合宿は!一緒に行こうって約束したじゃない!」
「レイラはブロンズ5、俺がいなくても合宿には行けるだろ」
「あたしがブロンズ5でもショウマがいないと合宿には行けないわよ、パーティじゃないと応募できないって……」
「さっき、委員長のパーティに誘われてただろ」
ショウマはレイラとコノミの会話を聞いていた
レイラは驚いた顔を見せるがすぐに真剣な顔に戻る
「聞いてたのね。もしかしてあんたがこうやって変なことを言ってるのもそれが原因なの?なら心配しないで、あたしは委員長の誘いを断わるからっ」
ショウマを安心させるかのようにレイラは話すが、ショウマの口は止まらない
「断る理由がない、前衛も後衛もいない俺と白雪だけのパーティよりよっぽど良い。どうせ、弱体化の解除が出来たら終わるパーティだったんだ。それが早いか遅いかの違いだろ?
大体な……」
これは言うべきでないとショウマも思ったのか、一瞬躊躇うがそれでも口にしてしまった
「弱体化の解除なんて同じパーティじゃなくても出来るだろ」
ショウマはずっと思ってた、けど言えなかったことを言ってしまう
「……そんなにあたしと同じパーティ、嫌だった?」
「強くなりたいって、プロになりたいってレイラは言ってただろ。そしたら俺とパーティ続けるなんて……」
「あたしのせいにするなっ!!!あんたがどう思ってるのか聞いてるのよっ!」
レイラが過去一番の大声を張り上げた
ショウマはその気迫に押し黙ってしまうが、レイラはそれを質問に答えたくないのだと捉えた
「わかった、ごめんね。なんか目標とか立てて無理させちゃって、一人で浮かれてたみたいっ。でも短い間だけどあんたとパーティ組めてよかったわ……」
レイラはそう言うと空き教室から出て行った
そしてショウマは見てしまう、去り際に涙を流すレイラの姿を
自身が思っていたのとは違う反応に動揺してしまうショウマ
「何だよ、お、おかしいだろ、俺は獣使いで弱くて足を引っ張って、だからパーティ何て組む意味なくて、それなのに何でそんなのっ、ま、まるで……」
「『まるで彼女は俺とパーティを続けたかったみたいじゃないか。』かな?」
ショウマは背後から発せられた女の声にバッと振り向く
そこには『誰もいなかった』が、次第に空間が歪む
モヤか陽炎のようにショウマの目の前の空間が人型にゆらめくと、女の姿が次第に現れてくる
「ゆのはな、うたせ……」
「ああ、僕は湯ノ花うたせだ」
現れたのは勇者パーティの魔法使いにして、レイラの幼なじみである『湯ノ花 うたせ』だった
「知りたいだろう?レイラのこと」
「べ、別にそんな……!」
「本当かな?君の瞳はそんな風には言ってないけど……」
痴女のような格好をしているウタセがカツカツと音を立ててショウマの方へ歩いてくると、目を開いてずいっと顔を寄せてくる
彼女の異様な圧、そして強がる言葉では誤魔化しきれないレイラへの思いがショウマの首を『縦』に振らせた
ショウマはウタセに導かれるままその背中をついていく
これまで『どうせ長く続かない関係』、『深入りしたところで無駄である』と、ショウマはレイラのことを何も知ろうとはしてこなかった
『今更何か聞いたところで』とまたいつもの諦念の思考が心を揺らすが、脳裏に焼き付いたレイラの去り際の涙がショウマの心に楔を打ってその振動を止めた