勇者パーティから追放された美人ギャルタンクは嫌そうな顔を浮かべながら、ぼっち獣使いの俺に使役されたがっている 作:猫星人/Mao-lien
『二年生の六人パーティ』が35階層のボスであるバフォメットに挑もうと、セーフエリアで準備をしている
「ね、ねぇ、大丈夫なの?こんなギリギリでボス戦をぶっつけ本番なんて……」
「しっ!仕方ないだろ!今日バフォメットを倒せなきゃ俺らは二年目の合宿に行けないんだぞっ!プロになるためには合宿に行くのは絶対なんだっっっ!」
震えながら心配そうに話す女子生徒がこのパーティの僧侶だ
それに対してぶっきらぼうに応える男子生徒がリーダーの戦士である
パーティには心配と焦りが入り混じった『危険な雰囲気』が漂っている
どうやらこの二年生のパーティは、今日中に35階層のバフォメットを倒さないと合宿に行けない状況らしい
「時間がない、行くぞっ!!!」
リーダーの男は立ち上がって大きな声をあげる
パーティの雰囲気はそのままで、六人はボスの部屋に足を踏み入れる
全員が入り切るとボスの部屋の扉は固く閉じられ、中央からは黒いモヤと共に山羊の頭を持った人型の魔物、バフォメットが現れる
10mほどの巨体のバフォメットは部屋の中央に現れると、六人の人間を見下ろしてニヤニヤと笑い始める
バフォメットの魔物としての『本能』が目の前の人間をいたぶり、泣き喚きさせれば愉悦を得られると告げて笑いが込み上げてきたのだ
「うおおおおおっ!!!」
パーティのリーダーである戦士が無鉄砲に突撃してくる
戦士である男はバフォメットが魔法を使ってくるボスというのを知っているため、近接攻撃は苦手だろうと踏んで一気に突撃したのだ
しかし、その読みは甘かった
バフォメットは杖を虚空から取り出すと戦士の男を返り討ちにする
戦士の男の急な突撃についていけなかった他の五人は、十分な援護をすることができなかった
「ぎっ、ぎゃああああああああ!!!」
その結果、戦士の男はバフォメットの爪で腹を裂かれてしまった
バフォメットは戦士の男の悲鳴を口角を上げて堪能する
「ぎっ…………」
バフォメットはグリグリと爪で戦士の男の腹を掻き回していたが、その姿が忽然と消えて悲鳴も聞こえなくなる
Bhe……?
『瀕死』になった戦士の男は賢者の塔の機能によってセーフエリアに『強制転移』したのだが、そのことをバフォメットは知らない
バフォメットは続いて、あまりの状況に呆然としている後ろの女魔法使いに飛びかかり、両腕を掴んで引き裂くようにギリギリと引っ張る
「きゃあああああっ!!!痛い痛い痛いっ!!た、助けてぇぇぇ!!」
女魔法使いの悲鳴に、遅れて4人は弓や魔法で応戦するもバフォメットのいたぶりは止まらない
バフォメットは今度こそ苦痛にもがく声を楽しもうとするが、これまた女魔法使いも『瀕死』になったため、その場からいなくなってしまう
Bhhhhhhhh!!!
バフォメットは自分の思い通りにならないことへ苛立ちながらも、人間の体に一定以上ダメージを与えてしまうとその場から『いなくなってしまう』ことをうっすらと理解する
Bheeee……
バフォメットは『それならば体を傷つけずにいたぶれば良い』と考える
そして歯茎を出して笑い始めるとバフォメットは額にある閉じた『第三の目』を開眼する
「きゃっ!?な、なに?」
「な、何だこれはっ!」
第三の目が開くと、ボス部屋に残っている4人の体は黒いモヤに包まれて魔法陣が刻み込まれた
「っ!痛いーーっ!痛い痛いっ!熱い熱い!!!」
「ぐあああああああ!!!!!」
バフォメットによって刻まれた魔法陣は『幻覚』を見せる効果があり、その幻覚はバフォメットの思いのままだ
今回は『痛みを与える幻覚』を見せているようで4人の男女は口々に悲鳴を上げる
4人は耐え難い痛みにひざまづいて賢者の塔による『強制転移』を待つが、いくら経っても転移は起こらない
幻覚なので体にダメージは入らず『瀕死にならない』からだ
Bhhhhh!
バフォメットは4人の悲鳴だけでなく涙と涎まみれで苦痛に歪んだ表情、そして強制転移が為されないことに絶望する顔を見ると、「これこれ、これが見たかったんだよ」とばかりに指を指して愉快に笑い始めた
Bhe…?
しかし、しばらくするとまたもや悲鳴が忽然と止み、バフォメットの目の前には『誰一人』いなくなっていた
パーティのうちの女僧侶が塔の強制転移ではなく、『スキルによる転移』を行ってボス部屋から逃れたことで、ボス部屋の中のパーティ人数が『過半数』を切り、残りの3人が塔による『強制転移』でいなくなったのだ
Bhhhhhhh!!!
バフォメットは何がなんだかわからず、ただただ自分の思い通りにならなかったことで激しい雄叫びを上げる
すると、気づいたのだ
バフォメットが先ほど刻んだ魔法陣を持った者が、塔のどこかにいることを
バフォメットはほくそ笑んだ
そしてバフォメットは魔法陣の刻まれた女僧侶を媒介にして15階層、ショウマたちがいる場所へと『顕現』した
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「「「あああああっ……!!!」」」
バフォメットの第三の目が開眼し、既に魔法陣を刻まれてしまったショウマたちは幻覚を見せられ痛みにもがき苦しんでいる
(痛い痛い熱い痛い熱い熱い痛いっ!)
三人は全身が針に突き刺されたような痛みを受け、熱病にかかったかのように体が熱く感じると滝のような汗を流している
そして呼吸をするたびに気管に炎が入り込んだように感じ、指先一つ動かすにも鋭い痛みが伴う
これら全ては幻覚によるまやかしなため、三人の体にはダメージは入らない
「はっ!はっ!はっ!」
(し、白雪は大丈夫そうだっ、でもこいつを倒すことなんて……)
不幸中の幸いか、バフォメットの第三の目が開く前に嫌な予感を感じ取った『白雪』はショウマの影の中に入り込んだため、幻覚を受けないでいた
だからといって三人の状況は改善しないため、以前状況は悪いままである
「はぁ、はぁ、み、見下ろしてんじゃないわよっ!」
すると痛みに苦しんでいるはずのレイラがよろめきながら立ち上がり、自分よりも何倍もの大きさのバフォメットに物怖じせず対峙する
ショウマとウタセは位置的に見えなかったが、レイラは手に持った剣を『自分の脚に刺した』ことで幻覚を自ら振り払っていた
Bhhhhhhhhh!
バフォメットは唇を震わせながら歯を剥き出しにして喜悦を表に出す
脚から血を流しながら剣と盾を構えて向かってくるレイラをバフォメットは迎え撃つ気満々である
ギンッと鈍い音が部屋に響く
レイラが振るった剣とバフォメットが虚空から出した杖がぶつかった音だ
魔法陣を使ってくるように本来バフォメットは魔法を使用して戦ってくる敵だが、35階層で出てくる敵というのもあり近接戦も『並大抵』ではない
「れ、レイラっ……」
ショウマとウタセはレイラが苦しい顔をしながらバフォメットと戦う後ろ姿を見ていることしかできないでいる
Aaa……!
レイラの声が聞こえた気がした、とショウマが思ったときだろうか
剣を振るうレイラの体が徐々に『赤いオーラ』で包まれていくのを二人、そしてバフォメットは目撃する
(あ、あれは、ゴブリンリーダーを弾き飛ばした時のっ!?み、見間違えじゃなかったのか!)
5階層でゴブリンリーダーの棍棒を正面から受け、それをレイラが押し返したときに纏っていたオーラのことをショウマは思い出した
(あの後レイラは『気絶』したけど、今回は……)
そのバフォメットに剣を振るうレイラは気絶するどころか、むしろ動きがどんどん早くなり剣撃の激しさを増している
レイラの体を包むオーラの量も増えてその『異質さ』が如実に現れる
Bhe…!
そしてついにレイラの剣を受けきれなくなったバフォメットは弾き飛ばされて膝をつく
その隙を見逃さないレイラは追撃を行うために接近するまでは良かったが、何を思ったのか盾を投げ捨て剣をバフォメットへと『投擲』した
Bheeeee!!!!
剣はバフォメットの左目に刺さり、ボスは苦悶の声を上げる
バフォメットは目に刺さった剣を抜き、苛つきを露わにしながら抜いた剣を横に投げ捨てた
「れ、レイラっ!?」
ショウマはレイラが剣を投擲した後に取った行動に驚きの声を上げる
レイラは投げ捨てた剣や盾を拾いに行かず、深傷を負ったバフォメットへ『そのまま』殴りに行ったのだ
Aaaaaaaa!!!
声を荒げながらボスに殴りかかるレイラは正気を失っているようにも見え、ショウマたちが何を言っても言葉は届きそうにない
レイラはそのまま身一つで『殴り』と『蹴り』をバフォメットの体に入れ続ける
ダメージもかなり入っているようで、バフォメットは片目から血を流して苦痛の雄叫びをあげながらレイラの打撃を受け続けている
しかし、しばらくすると立ち直ったバフォメットが冷静にレイラと距離を取る
バフォメットが間合いを取ると今度はレイラが不利になってしまう
杖によるリーチもそうだが、バフォメットは魔法を撃つことで近づく行動すらも牽制できるからだ
Bheeeeee!!!
今のバフォメットには先ほどまでの悲鳴を喜んでいたときの余裕を感じさせない
バフォメットは自らを傷つけた女を嬲り殺しにしなければならないという本能に支配されている
「レイラっ……!」
レイラはなんとかバフォメットに近づいて先ほどのように拳を当てようと試みているが、バフォメットが張る『魔法の弾幕』に阻まれて近づけない
そして徐々に魔法に打たれづけているレイラの勢いは衰え、オーラの量も少なくなっている
(こ、このままだとまずいっ、レイラがバフォメットに近づけば倒せるって保証はないけど、このままだと絶対に勝てない。俺が、俺がなんとかしないとっ……)
体から滝のように汗を流し、全身に走る痛みにもう声も出すのもやっとのショウマは必死に戦うレイラを援護するのは『自分なんだ』と発破をかける
(何か、何か手は……)
ショウマは苦痛に苛まれながらも、自分にできることを懸命に考える
「う、ウタセ、頼みたいことがあるっ……」
「な、なんだ?」
ショウマは同じく苦痛に伏しているウタセに声をかける
「分身を、分身を出して欲しいんだ」
ショウマはウタセに分身を出すように頼む
ウタセの分身は本人同様に魔法を使用することができる
「む、無理だ、バフォメットの目には僕の『魔法陣』は刻まれていないっ」
悔しそうな表情でウタセはそう言う
バフォメットは現れてすぐに全員に幻覚をかけたので、ウタセの体を見たのはその一瞬だけ
何より本人であるウタセがバフォメットに分身を生み出すための魔法陣が刻まれていないことを自覚していた
「違う、バフォメットからじゃない。『俺に刻んだ魔法陣』を使うんだ」
「そ、それはっ!」
「ウタセと初めて会ったとき、お前は何もないところから現れた。思えばあれは俺の視界を『ジャック』して自分の姿を見えなくしてたんだろ?すでに俺の目にはウタセの『魔法陣』は刻まれてるはずだ」
「……確かにショウマの目には僕の魔法陣が刻まれている。でも『分身を生み出す魔力』、『分身が使う魔法の魔力』は全て『ショウマ持ち』なんだぞ?獣使いの保有する魔力では光を照らす魔法くらいしかっ……!」
ウタセは例えショウマに刻まれた魔法陣で分身を生み出したとしても、小規模な魔法しか使えないと話す
「いや、それでいい。今から俺はバフォメットの気を惹きに行く。俺が合図をしたら指定の場所にその『光を照らす魔法』とやらを放ってくれないか?」
「……わかった」
ショウマの頼みにウタセは頷くと、額の脂汗を拭ってショウマに刻まれた魔法陣を起動して分身を一体生み出す
「うっ……!こ、これはっ……」
分身が現れると、ショウマは『目眩』のような症状に襲われる
「どうやら分身を作り出すのにショウマの魔力の殆どを使ってしまったみたいだ。その反動で『魔力欠乏手前』の症状が出てるんだ。やはり攻撃魔法は使えないし、光を照らす魔法だって一発しか使えないよ……」
ショウマは体内の魔力を一気に持ってかれたことで血の気の引いた表情になる
ただでさえバフォメットの幻痛で苦しい上に、魔力欠乏によって立ちくらみが起こるがショウマは何とか耐えて立ち上がる
そんなショウマを自らも苦痛に踠いているウタセが『心配』したように、そして『諦め混じり』に声をかける
「い、いや、問題ない。魔法も一発だとしても使えるならやりようはあるさ。俺が『合図』を出したら頼んだようにお願いな」
「……わかった、無理はするんじゃないぞ」
ショウマはそう言うと、レイラに弾幕を張り続けているバフォメットの方へと近づく
ショウマは途中でレイラが投げ捨てた剣と盾を拾いながら、慎重にバレないように進む
(剣も盾も重いっ、レイラはいつもこんなものを装備しながら俺たちを守っているのか……)
装備適性のないショウマが剣と盾を持てば重くて使い物にならないというのは本人が一番理解しているが、それでも自分の立てた『作戦』のために幻痛と武器の重みに耐えてバフォメットへ近づく
幸いにして怒りに支配されているバフォメットは自分の左から近づくショウマに気づいていなかった
そしてショウマが十分にバフォメットに近づくと、声を振り絞って大きな声を上げる
「よお馬面!脇が留守だぞ!!!」
ショウマの声に初めてその存在を気づいたのか、バフォメットは魔法をレイラに打ち続けながら焦ったように左を向く
自分の目と鼻の先まで近づいてきたショウマの存在に気づかなかったことにバフォメットは驚いていた
バフォメットがショウマの存在に気づかなかったのも無理はなく、レイラに左目を潰されていて視界に入らなかったのだ
(俺は剣は使えないけど、相手にはそれはわからないはずだっ!)
ショウマは一気に駆け出してバフォメットの懐に入ると、不恰好に剣を振るう
ショウマが『使えもしない剣』を持ったのはバフォメットの気を絶対に惹きたかったからだ
無手のショウマでは近づいても軽くあしらわれて終わりだろう
ショウマの予想通り、バフォメットはショウマの方へと体を向けて杖を振りかぶる
(よしっ……!)
自分にこれから向かってくるであろう杖の一撃の恐怖に冷や汗をかきつつも、ショウマの作戦通りに進んでいる状況に心の中で自分を鼓舞するように気合を入れる
「ウタセっ!今だ!!!」
「っ!照光っ!」
ウタセはショウマの合図を聞くと、すぐに分身から魔法を放たせる
分身から放たれた魔法は速度こそ遅いものの、淡い光を放ちながらバフォメットの顔の方へと近づく
ショウマの思惑通り、バフォメットは近づいてくる魔法に気づいていない
そして『第三の目』の目の前にくると、瞬くように『強い光』を数秒だけ発した
(俺らのこの体に走る痛みはバフォメットの眉間の目が開いた時から始まった。こいつの目を封じれば……!)
ショウマはバフォメットと初見ではあるが『第三の目』が幻覚、もといショウマたちに与える痛みを生み出している『原因』だと推察していた
そして強い光を受けたバフォメットの第三の目は堪らず閉じられた
しかし、ショウマたちがかかる幻覚は止まらず痛みは続いたままだった
バフォメットの第三の目を閉じさせたとしても、幻覚が止まることはないのだ
「やっぱダメだっ……!」
ウタセは第三の目を閉じさせても止まることのない痛みに、もう打つ手はないと涙を滲ませて床に顔を伏せる
「いや、これでいいんだウタセ!暴れてこいっ、白雪っっっ!!!」
ショウマの影から呼び声に応えて『白雪』が飛び出ると、バフォメットの右目に深い爪撃を負わせる
白雪はショウマの影の中にいてバフォメットの幻覚の魔法陣を受けていないため、『全力』で攻撃ができるのだ
そして光によって閉じられた第三の目では、白雪に魔法陣を仕掛けることもできない
Bhhhhh!!!
バフォメットは一瞬にして視界が封じられ、何が起こったのかわからない様子で痛みに雄叫びをあげながら杖を振り回し暴れ回る
「かはっ!!!」
近くにいたショウマはモロにその一撃を喰らってしまうが、気力で耐えてポーションを口に流し込む
(俺が強制転移したら白雪もいなくなるっ、まだリタイアできない!)
白雪は振り回されている杖を器用に避けながら、影を出入りして的確にダメージを与えている
そして……
「っ!レイラっ!!!」
バフォメットの魔法の弾幕が途切れたことで、オーラを纏ったレイラがバフォメットへと一歩一歩近づいている
ショウマの声に返事をすることはないが、バフォメットを見るその目には闘志が熱く燃え上がっている
Ooooooooooo!!!
腹から声を出したレイラは右手をキリキリと引き絞る
レイラの纏ったオーラは『激化』し、遠くのショウマやウタセ、そして目の見えないバフォメットすらもその『圧』を感じとる
バフォメットは恐れ慄き、その気配から逃れようとするがもう遅い
レイラは一気に地面を蹴ってバフォメットへ接近し、『渾身の右の拳』を腹に叩き込んだ
Bhhh…………
バフォメットはレイラの拳の前に倒れ、消失した
スッと部屋の中央からは何事もなかったかのように台座が現れる
「白雪、ありがとう……!」
白雪はバフォメットから攻撃を受けなかったため、無傷の体でショウマに駆け寄るとペロペロと傷ついたショウマの顔を舐めまくる
「レイラは……」
バフォメットが倒れたことで魔法陣による痛みがなくなったショウマは、辺りを見るとレイラが倒れているのを見つける
先ほどまでのオーラを纏っていないレイラは制服はボロボロで体も傷だらけの状態で床に伏している
ショウマとウタセはレイラに駆け寄り、ポーションを飲ませるが意識は取り戻さない
「ウタセは大丈夫か?」
「僕は大丈夫、体にダメージは受けてないからね。それよりも……」
「ああ」
ウタセは心配そうに倒れているボロボロのレイラの方を見る
「さっきの様になったレイラを俺は一回、それも一瞬だけ見たことがあるんだが。ウタセはあるか?」
「いや、初めてだ。ずっと一緒にいた僕でもあんなレイラ、見たことない……」
目立つ変化である赤いオーラに圧倒されがちだが、一瞬だけ見えた鬼気迫る表情のレイラにショウマは『恐ろしさ』を感じていた
「それよりショウマはランクを上げないと、さっきみたいな事はもうないと思うけどさ」
「そ、そうだな!」
ショウマは部屋の中央にダッシュして台座に学生証を置く
学生証が光るとランクが更新されて、今度こそショウマは冒険者ランクがアイアン2になった
「うわぁ、この時間もう学校閉まってるよ絶対。合宿の申し込み間に合わなかったか……まあ事情を話せば何とかなるかもしれないし、とりあえず学校まで戻るか」
「そうだね」
ショウマら時計を見ると案の定、学校はもう閉まっているはずの時間だった
ここで項垂れていてもしかたがないので、未だ気絶しているレイラを白雪の背に乗せてショウマたちは学校まで戻ることにした
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塔の入り口まで戻るとショウマたちを出迎える人が現れた
「姉崎先生、どうしてここに……」
「どうしたも何も、お前らが遅いからここまで来てやったんだろうが」
塔の入り口でショウマたちを待っていたのは教師の姉崎で、その手には合宿の申し込み用紙をヒラヒラとさせて持っている
「それで、どうだったんだ?」
「はい、色々あったんですが何とかアイアン2になれました!」
「色々?」
「あー、えーっと、今日は遅いのでまた今度話しますよ!」
ショウマとウタセは入り口まで戻る間に、一先ずバフォメットをこのパーティで倒したことを『話さない』ように決めた
35階層のボスをイレギュラーとはいえ一年生だけのパーティでクリアとなれば嫌でも目立ってしまう
レイラとショウマのパーティ関係は隠すことが難しくなってしまうだろうし、レイラのあの『赤いオーラ』を纏った謎の強さの件もある
何よりレイラ抜きで決めるのは危険だと二人は判断し、今は言わないことにしたのだ
「まあ良い、ちゃんとアイアン2になってるしそこで寝ているレイラのランクは見なくてもわかる。よし、これで合宿の申し込みは完了だな。後は私の方で手続きしてやる」
「あ、ありがとうございますっ!」
「なに、生徒のために動いたまでだ。これが教師の仕事さ、よく頑張ったな」
姉崎はボロボロになったショウマの頭に手を置いて褒める
自分が目をかけていた、しかし立場上出来ることがなくヤキモキしていた生徒がいつの間にか立派に成長していたことに姉崎は嬉しくなる
「じゃあお前らは早く家に帰るんだぞ」
そういうと姉崎は学校の方へと歩いていった
「レイラは僕の方で何とかするからショウマは帰って大丈夫だよ」
「本当にいいのか、ってそういやウタセはレイラは幼なじみだったか。わかった、ウタセに任せるよ。それと、今日はありがとな。ウタセがいなかったら14階層も、バフォメットも倒せなかったよ」
「そんなことないさ、僕だけじゃない。みんなで勝ったんだ」
ショウマはウタセに手を差し出し握手をする
以前までのショウマならこんなことはしなかっただろう
こうしてウタセにレイラを預けると、ショウマ帰路に着く
「7月ももう終わりか……」
暗い帰り道、通り過ぎた電気屋のテレビには夏休みの旅行先特集の番組が映し出されていた
レイラと出会って主従契約をした7月の初め、それがきっかけでこんなことになるとは、今までの何もかもを諦めていたショウマでは予想もつかなかっただろう
「7月は終わるけど、これから続いていくんだよなこの生活は。合宿もいけるし、レイラとのパーティは続くんだ」
ショウマを変えた長い7月が終わりを告げようとしていた