ナンパの仕方を教わったことで、何かが変わった話 作:ヒルベルト
原作:艦隊これくしょん
タグ:R-18 艦これ 武蔵(艦これ) 催眠アプリ 心の一方 ナンパの仕方 独自設定
僕…鴨志田
着る物や靴の良し悪しなんて、僕にはわからない。
皆が集まって何か面白そうなことをしていても、その中に入っていけない。
…自然と、学校では独り図書室で本を読んでばかりでいる。
家に帰っても本を読んだり、動画サイトを見ること以外にすることがない。
「何見てんだ?キモいんだよ!この陰キャ!」
…そしてクラスでは、ある女子生徒から頻繁に罵倒される。
罵倒されても、言い返すことが出来ない。
それでクラスの皆は、僕自身さえも、僕が陰キャだと強く認識してしまう。
僕が通う高校には、素行の悪い生徒が何人もいる。
頻繁に僕を罵倒する女子生徒…椎名莉奈も、そんな素行の悪い生徒の一人だ。
先に挙げた罵倒の台詞からもわかるように口が悪く、気性も荒い。
それでいて、素行の悪い男子生徒の幾人かとも…関係を持っていると噂されている。
噂と書いたけど、これが事実だということは生徒全員が知っている。
紛うことなきビッチ。
椎名莉奈は、そんな女子生徒だ。
「アタシのこといつもいつもチラチラ見てるけど、何?もしかしてアタシとヤりたいの?百年早いんだよ!この陰キャが!」
…椎名はいつもいつも、こうして僕を罵倒する。
そして僕は何も言い返すことが出来ない…。
…言い返すことが出来なくても、何とも思ってないわけじゃない。
こうして椎名に罵倒される度に、僕の心には…ドス黒い何かが堆積していった。
いつもいつもチラチラ見てる?…僕がいつお前を見たって言うんだよ、自意識過剰じゃないのか?
毎度毎度、僕の視界に入る度に言いがかりをつけてきやがって…お前の方が自分を僕に見せつけてきてるんじゃないか。
アタシとヤりたいの?百年早いんだよ?…いつもいつも不良の誰かにヤらせてるビッチのクセに…自分のカラダに、値打ちがあるとでも思ってるのかよ!
僕の心は、すっかり濁りきってしまった。
そんな時、ひょんな事から僕は「催眠アプリ」を手に入れた。
……いや、マトモな判断が出来れば、こんなアプリはインチキだろうと思う。
でも濁りきった僕の心は、これで椎名に復讐できると思い込んでしまった。
僕はまずこのアプリの効果を確かめることにした。
このときの僕は、こんなに明らかなインチキを信じ切っていたのに、どうしてここで慎重になっていたのか…。
それは今でもわからないけれど、とにかく僕はアプリの実験をするために、日曜日のお昼頃、N駅に赴いた。
N駅を出て、10分ほど歩いたところにある橋の上。
僕はそこで、一人の女性に狙いを定めた。
灰色のジャケット・パンツ姿の、銀髪の女性。
僕はその女性に、後ろから近づいて行った。
…声をかけて、振り向いた所で催眠アプリを見せて、この
このとき、僕の心はこれほどまでに濁りきって、腐りきっていた。
自分がしていることがして良いことなのか悪いことなのか、そんなこともわからなくなっていた。
そんな心持ちのまま、僕は狙いを定めた女性に声をかけた…。
「お姉さん、ちょっとこれを見てくれますか…。」
僕に声をかけられて、その女性は振り返って僕を見た。
僕はその女性にアプリの画面を見せた…が…。
「お前の方こそこっちを見ろ。」
「え?」
僕は女性の顔を見上げて、その女性と目を合わせた…合わせてしまった。
「あ…が…ッ!」
一瞬、僕の心臓が止まったように感じた。
一瞬、僕は息ができなくなった。
眼鏡を掛けていた女性の目、瞳…赤い瞳。
僕はその瞳から目を離せなくなった…。
…いや、目を離せなくなっただけじゃない、全身が強ばって…体が…動かなくなった…。
「か…は…ッ…!」
体が動かない、息も苦しい。
心臓の鼓動も、何だかおかしい…!
一体、僕の体は、僕は、どうしてしまったのか…!
全く動けなくなった僕の手から、女性は僕のスマホを取り上げた。
「…催眠アプリ、というヤツか…。」
「こんなものを私に向けて、どうするつもりだったのか…。」
そんなこと、言えるわけがない。
でも女性は、僕に向かってこう言った。
「お前は話さずにはいられない。」
言えるわけがない、言えるわけがない…はずなのに…。
「こ、これであなたを僕の言いなりにして、ホテルに連れ込んで…そこであなたを犯して犯して、犯しまくって、あなたを僕の肉便器にしようと…!」
!?
…言えるわけがないことを、僕は口に出してしまっていた。
なんで…!?わからない。
本当に僕は、どうなってしまったのか…!?
女性は僕の答を聞いて、ちょっと考え込んでから…。
「…動けないのは気のせいだ。」
その言葉を聞いた途端、僕は崩れ落ちるようにその場に膝を付いた。
息は楽になったけど、僕の心臓は早鐘を打っていた。
女性もその場に屈んで、僕の顔を覗き込んだ。
…さっき僕は、この女性の顔を
この女性は僕よりはるかに背が高い。
僕の顔を覗き込んだ女性の顔立ちは、とても綺麗だった。
綺麗なだけじゃなくて、一目見ただけで「強い」ということがわかる顔立ちでもあった。
どうして僕は、こんな女性に狙いを定めてしまったのか…。
…その女性は人間ではなく、艦娘・戦艦武蔵だった。
武蔵…さんは、僕の顔を覗き込みながら、言った。
「……何だ、本当にそれだけなのか?」
…?
どういう意味だろう?
僕が戸惑っていると、武蔵さんは左手で僕の右手首を掴んだ。
「い、痛い!…な、何を…するんですか…!」
「ちょっと一緒に来てもらおうか。」
「一緒にって…ど、どこへ…。」
「下手に抵抗すると、手首の骨が砕けるぞ。」
僕は右手を掴まれ、武蔵さんに引っ張られて、そのまま五分ほど歩いた…。
それで辿り着いた所は…。
「こ…ここって…。」
「見ての通り、ラブホテルだ。」
「な、なんで…。」
「ちょっと責任を取ってもらおうと思ってな。」
「せ…責任、って…。」
「…催眠アプリで私をお前のいいなりにして、どこかで私を犯して犯して、犯しまくって、私をお前の肉便器にするつもりだった…か。」
「…………。」
このあと武蔵さんが続けた言葉は、僕を困惑させた。
「なかなか刺激的なことを言ってくれるじゃないか。」
「肉便器、という表現は好かんが…。」
「おかげで私は、すっかりその気になってしまったぞ。」
「私をその気にさせた責任、取ってもらおうか。」
僕は流されるままに、武蔵さんとホテルに入り…部屋を取って…お風呂で体を洗われて…後はコトに及ぶだけ、というところまで来た。
「さて、そろそろ始めるとしようか…。」
武蔵さんは、回りくどいことが好きではないようだ。
武蔵さんは裸になってベッドの上に腰を下ろし、僕を待っていた。
僕は…僕も裸になっていたけれど、武蔵さんを前にして、ただボサッと立ち竦んでいた。
「……どうしたんだ?」
…本当に、どうしたんだろう。
武蔵さんは裸になって、僕を待っているというのに。
肉便器、とか強い言葉を弄んで強がっても、所詮僕は惰弱な陰キャなのか…。
「……ちょっと側に寄れ。」
武蔵さんは僕を手招きした。
僕は言われるままに、武蔵さんの傍に寄った。
「私の目を見ろ。」
僕はまた、武蔵さんの言葉に従った…。
…武蔵さんの赤い瞳…また、僕はこの瞳から目が離せなくなった。
でも、さっきと違って息も苦しくないし、心臓の鼓動も平静だ…。
ただ単純に、武蔵さんの瞳から目が離せない…。
そんな僕に、武蔵さんは言葉を掛けてきた。
「…お前の内では、情欲が、精気が煮え滾っている。」
「煮え滾る情欲は、精気はお前の肉体を爆散させんとしている。」
「お前の前には、滾る情欲を、精気を受ける器がある。」
「お前の前にある器は、お前の情欲に、精気に灼かれたいと願っている。」
「お前の情欲と精気の迸りを、妨げるものは何もない。」
「お前の情欲と精気の迸りは、最早お前自身にも止められぬ。」
武蔵さんの言葉を聞き終えると…体の内側が、熱くなるのを感じた。
…いや!熱くなる、どころじゃない!
……体が…体が、爆発しそうだ!
苦しい!吐き出したい!
!?…吐き出すって…何を!?
そして僕は、考えることが出来なくなってきた。
自分のモノが破裂しそうに、爆発しそうになっているのを認めたところで、僕の記憶は一旦途切れた…。
「ああ!ああ!ああ!…ああっ!」
武蔵さんが喘ぎ声を上げているところから、僕の記憶は再び始まった。
僕は正常位で、自分のモノを武蔵さんに突き立てていた。
…これが…女の人の中…。
これが本能というものなのなのか、僕の腰の動きは止まらなかった。
僕自身にも、止められなかった。
「ああ!ああ!…こ、これほど…とは…ッ!んんっ!んんんっ!」
喘ぐ武蔵さんの声と表情は、辛そうに見えた…。
…けれど、武蔵さんの声と表情は、悦んでいるようにも見えた。
どっちにせよ、武蔵さんの中の感触に酔った僕は、腰の動きを止めることが出来なかった。
「あ…で…出そ、う…う…う…。」
無我夢中で腰を振りながら、僕は声を絞り出した。
「ああ!んんう…ッ!だ…出せ…そのまま…ッ…ううっ!」
喘ぎ、身悶えながら、武蔵さんは中に出せと言ってきた。
…そういえば、僕はゴムも何も付けてない…!
僕がそう思ったのを見抜いたかのように、武蔵さんは両足で僕の腰を固めた。
僕は欲望に抗えず、武蔵さんに促されるように、武蔵さんの中に解き放った…。
「ぬ…ふうぅ…ッ…」
僕は女の人の中に出す快感と悦びに、息を漏らした。
「あ!ああ…グ…う…!」
僕の射精を受けてなのか、武蔵さんも絶頂に至ったようだった。
武蔵さんは呻き声を上げながら、大きな体を大きく仰け反らせて…その体をベッドに落とした。
「はあ…はあ…はあ…。」
武蔵さんは硬く目を閉じて、息を整えていた。
武蔵さんの…大事な所から、僕が出したものが溢れ出ていた。
僕のモノは…まだ出せる、まだ出したい…と…僕に訴えていた…。
「はあ……はあ…ん……何だ…まだ…出したい…のか…。」
武蔵さんは薄目を開けて僕を、僕のモノを見てそう言った。
「あ…その…。」
僕が武蔵さんの問いに答えることが出来ずに居ると、武蔵さんはベッドの上で四つん這いになり、お尻と…大事な所を僕に見せつけた。
「…気が済むまで…続けると良い…今日は私も時間はある…共に堕ちて、ケダモノになろう…ああっ!」
…僕は武蔵さんが言い終える前に、僕のモノを武蔵さんの大事な所に突き入れた。
武蔵さんは、すんなり僕のモノを受け入れてくれた。
そこから後のことは…記憶には残っているけど、言葉には出来ない。
辛うじて言葉に出来るのは…武蔵さんの中の感触、肌の感触、肉の弾力と柔らかさ…辛そうなのに、それでも僕を駆り立てる鳴き声…そして…絶頂に至った武蔵さんの絶叫…射精の快感と悦び…。
およそ纏まりというものがない、印象と感覚の羅列。
それが、その時の記憶の全てだ。
「はあ…はあ…はあ…。」
ベッドの上で大の字になって、汗だくになって息を整えている武蔵さん。
ここから再び、僕の纏まりを持った記憶が始まった。
「あの…。」
僕は、息を整える武蔵さんに言葉をかけようとした。
…が、言葉は続かなかった。
もとより、僕の方には言うことなんかなかったのだ。
でも、僕の声を受けて、武蔵さんの方が言った。
「…話しかけるな。」
拒絶されたのかと思って、僕の胸に痛みが走った…けれども…。
「…今、良い気分なんだ…しばらくこの気分に浸っていたい。」
「もう一戦交えたいと言うのなら、応じるが…。」
「そうでないなら…少し放っておいてくれ。」
…良い、気分…。
「んん…それにしても…お前は…初めて、だったようだが…。」
「……ここまでやってくれるとは、な…。」
「私は…お前を…少々…見くびり…すぎて…いた…ようだ…。」
これだけ言うと、武蔵さんは沈黙してしまった。
…良い気分…ここまでやってくれた…。
僕は…催眠アプリなんかで、武蔵さんを自分の言いなりにしようとしていたのに。
僕は…武蔵さんを僕の…肉便器…にしようとしていたのに。
武蔵さんは、良い気分だと、ここまでやってくれたと…そう、言ってくれた…。
武蔵さんは目を閉じたまま、良い気分に浸っていた。
…あるいは眠っていたのかもしれない。
僕は武蔵さんの裸を、冷静で落ち着いた心持ちで眺めていた。
このときの心持ちを、賢者タイムと言うのだろうか。
とにかく僕は、どういうわけか冷静な心持ちで、武蔵さんの裸を観察していた。
巧く言葉に出来ないけれど、武蔵さんの裸は、肉体は…矛盾に満ちていた。
武蔵さんの肉体は、卑しさと気高さを、そして、ふしだらさと清らかさを併せ持っていた。
卑しくても気高くても、ふしだらでも清らかでも、僕を…人を惹き付ける肉体。
それが、武蔵さんの肉体だった。
夜は娼婦、昼は淑女、という言葉があるそうだけど。
武蔵さんの肉体は…昼夜問わず、常に娼婦であると同時に淑女でもあるようだ…。
(遊女であると同時に武士でもある、と言った方が良いかもしれない。)
僕は武蔵さんの傍に座り込んで、武蔵さんの肉体をずっと観察していた…。
そうしていると、武蔵さんはそっと目を開いて、僕の方を見た。
「…結構時間が経ったと思ったが…お前…ずっとその姿勢で、動かずにいたのか…。」
「え…あ…その…見蕩れて、しまってて…武蔵さんの、体に…。」
「……催眠アプリなんぞで私を言いなりにして、自分の肉便器にしようとしていた割には…嬉しいことを言ってくれるのだな。」
「………。」
僕が返答出来ずにいると、武蔵さんは少し億劫そうに身を起こした。
「ん…まだ立ち上がるのは、少し辛いな…。」
「…少し、話でもしようか…。」
話でもしようかと言われても、僕の方は何を話して良いかわからなかった。
それを察してか、武蔵さんは自分から話を始めた…。
「催眠アプリで私を自分の言いなりにしようとしていた、ということだが…ずいぶんと危なっかしい真似をしたものだな。」
「え…危なっかしい?」
誰かを自分の言いなりにしようとすることは、確かに「悪い」ことかもしれない。
けど、「危なっかしい」というのは、どういうことなんだろう?
「危なっかしいって…どういう意味ですか?」
「ああ、提督でない人間が艦娘を制御・支配下に置こうとする行為は、刑事罰の対象になるんだ。」
「え…それじゃ…。」
「そう、お前は立派な犯罪者、ということになるな。」
「で、でも…結局は失敗して…。」
「支配下に”置こうとする行為”と言っただろう?これは未遂であっても、失敗したとしても…という意味だ。」
「で、でも僕はあなたが艦娘だと知らなかった…んだから…。」
「法律というやつは、知りませんでしたという言い訳を認めてくれないんだ。」
「それに、想像して見ろ…武蔵や大和が、テロリストか何かの支配下に置かれて、例えば街中で46センチ砲を撃ったらどうなるか。」
「………。」
僕が黙り込んでしまうと、武蔵さんは少し焦ったように言った。
「や、すまん、脅かしすぎてしまったようだな…。」
「…まあこの法律があるのは本当だが…何、実際私はお前の言いなりにはならなかったし、私が黙っていれば何も問題は無いさ。」
「………。」
武蔵さんがそう言ってくれても、僕は不安を拭いきれなかった。
黙ったままの僕を見かねてか、武蔵さんは言葉を続けた。
「私がお前に、口止め料か何かを要求するとでも思ったか?」
「!!…そ、そういうわけ、じゃ…。」
私を見くびるな、と言われるかと思ったけど…。
「口止め料なら、もう貰っている。」
「え?」
「お前は私を満足させてくれたじゃないか…口止め料なら、これで十分さ。」
「あ…でも…。」
「それに、な。」
武蔵さんは一拍置いて、説明を続けた。
「仮に私が訴え出たところで、物的証拠というヤツがない。」
「え?で、でも僕のスマホに…このアプリが…。」
「そのアプリは明らかにインチキ…と言って悪ければ、ただのジョークアプリだ。」
「それで私を…と言うか、誰かを言いなりにするなんて、できるわけがない。」
「仮に、私が本当にお前を訴えたところで、そんなアプリは証拠にも何もなりはしないさ。」
武蔵さんの言葉は、僕の心から濁りを取り除いた。
「お前が罪に問われる確率は、ほぼ0だ。」
「だがお前がしようとしたことが、罪に問われるかもしれなかったことも事実だ。」
「その点でお前がしようとしたことは、危なっかしい真似だったと言える。」
「何でまた、こんな真似をしたんだ?」
「それは…。」
僕は、日頃から僕を人前で罵倒する女子生徒―――椎名莉奈に復讐しようとしていたことを話した。
「復讐と言うが…具体的にはどうするつもりだったんだ?」
武蔵さんに問われた時、僕は具体的にどう復讐するかまでは特に考えていなかったことに気づいた。
「私を肉便器にしようとしていた、と言う所から想像すると、催眠アプリでその女子を言いなりにして、犯しまくってやる…という流れになりそうだが。」
そうだったかもしれない…いや、やっぱりそうするつもりだったのだろう。
「…そうですね、実際そうしていたでしょう…軽蔑、しますか?」
「…それよりお前がセックスを、人を傷つける行為と捉えていることが嫌だな。」
「え?」
「私はセックスが好きだ。」
「求められれば男にも女にも、艦娘にも股を開く。」
「そして私は、誰が相手でもイケるし、楽しめる。」
「もちろんお前とのセックスも気持ち良かったし、楽しめた。」
「お前はセックスで私を悦ばせてくれた。」
「そんなお前が、セックスで誰かを傷つけようとしていたと思うと…どうにも憂鬱な気分になる。」
武蔵さんのこの言葉は…頭ごなしに変態野郎とか性犯罪者とか言われるより、ずっと堪えた。
「…その女子生徒…椎名、とか言ったか…に陰キャ、陰キャと言われ続けて、お前は復讐してやろうと思ったのだったな。」
「……はい。」
「…そんなに陰キャと言われるのは嫌か。」
「…それは……やっぱり、嫌です。」
「それなら一つ奨めたいことがある。」
「…何ですか?」
「ナンパだ。」
!?
…ナンパ?
なんで急にナンパなんか?
冗談を言っているのか?
「冗談で言っているわけではない。」
武蔵さんは、僕の考えを読み取ったかのようにこう言った。
「フランスに、ナンパのやり方を高校で教えるべき、と主張している政党がある。」
「確かに一見冗談のような主張だが、考えてみればもっともな主張でもあるんだ。」
「ナンパというのは…まあ大体男が女に声をかけて連絡先を交換したり、一時を共に過ごしたりする行為だな。」
「ナンパというと、社会の風紀上好ましくない行為だと言われることもあるが。」
「ナンパという行為は、自分とは違う存在に自分から歩み寄って、自分の気持ちや要望を伝える行為でもあるんだ。」
「これは人が人の間で、社会の中で生きていくということそのものでもある。」
「だから件の政党が、ナンパのやり方を高校で教えるべきと主張することは、冗談とは言い切れないんだ。」
「もう一度言うが、ナンパという行為は、自分とは違う存在に自分から歩み寄って、自分の気持ちや要望を伝える行為だ。」
「もちろん巧く行かないこともある…というより、巧く行くことの方が稀だろう。」
「だが、巧く行かなくても自分から歩み寄って自分の気持ちや要望を伝えることを
「誰もお前を陰キャとは言わなくなるだろう。」
武蔵さんの言いたいことはわかったけど…。
「…でも、急にナンパをしようとか言われても…何をどうすれば良いのか…。」
「そうだな…先ずは相手に『あなたもこれが好きなんですか?』と尋ねてみることかな。」
思ったよりも具体的な答が返ってきた。
でも…。
「『あなたもこれが好きなんですか?』って…『これ』って何なんですか?」
「何でも構わない。」
「あなたも猫が好きなんですか?」
「あなたも犬が好きなんですか?」
「あなたもモンドリアンの絵が好きなんですか?」
「あなたもシェーンベルクの音楽が好きなんですか?」
「本当に何でも構わない。」
「ただ、本当にお前が好きなもの、興味のある事物であることは必須だ。」
「じゃあ、『あなたもこれが好きなんですか?』と尋ねることから始めるというのは、どうしてなんですか?」
「ナンパというのは、説得の一種だ。」
「アリストテレスの昔から、説得の方法には三種類ある。」
「論理による説得、感情に訴える説得、人柄による説得だ。」
「論理による説得というのは、理由を示して行う説得だ。」
「説得の本道、と言っても良いだろうが…。」
「ナンパでは、この本道は使えない。」
「え?どうしてですか?」
「論理によってナンパをしようとすると…。」
「こういう理由があるから、僕と連絡先を交換しましょう。」
「こういう理由があるから、僕と一緒にホテルに行きましょう。」
「…こういう形式を取ることになるが。」
「ナンパの相手というのは、大抵初対面の女だ。」
「お前は、初対面の女がお前と連絡先を交換したり、一緒にホテルに行ったりする理由を、何か一つでも挙げられるか?」
「ええと…無理です。」
「だろう、だから論理による説得は、ナンパには使えない。」
「ならば後は、感情に訴える説得か、人柄による説得と言うことになるが…。」
「感情に訴える説得というのは、文字通り感情を呼び起こすことによる説得だ。」
「この場合だと、相手にお前を『好き!』だと思わせることだが…。」
「…でも今、そう思ってもらうためにはどうすれば良いのかって話をしてるんですよね…。」
「ふふふ、先に言われてしまったな…その通りだ。」
「だから、感情に訴える説得をナンパに使うことには、やはり無理がある。」
「そうなると残るのは、人柄による説得ということになる。」
「人柄による説得、というのは…話を聞いてもらえる人になることによる説得だ。」
「…話を聞いてもらえる人になるって…どういうことです?」
「何か専門的な話をする時に、専門家であること。」
「もっと一般的な話…時事などについて話をするときは、世間から絶対的な信頼・信用を得たカリスマであること。」
「…と、までは言わずとも、一応信じても良い人だと思われること。」
「そういう人間であること、そういう人間になることによる説得だ。」
「でも僕は何の専門家でも、ましてやカリスマでもありません…これじゃ人柄による説得って言われても…。」
「確かにな…だが確実と言うわけにはいかないが、一応信じても良い人になる方法はあるのだ。」
「それは…?」
「それが『あなたもこれが好きなんですか?』という一言だ。」
武蔵さんは解説してくれた。
「例えば、野良猫を愛でている女性がいたとしよう。」
「この女性は猫を愛でているのだから、猫が好きなのだろうと推定出来る。」
「そこでこの女性に『あなたも猫が好きなんですか?』と話しかければ…。」
「自分は女性の
「それから女性の反応を確認する。」
「反応が鈍ければ、あるいは悪ければ…口説くのは無理だと判断して、失礼しましたとでも言ってその場を離れる。」
「『そうなんですよ、あなたもそうなんですか?』とでも言ってくれれば…そのまま好きなもの、この場合は猫の話を続ける。」
「猫のどんなところが好きか、猫を好きになったきっかけ、自分と猫…とにかく好きなものについて語る。」
「女性の方が積極的に話してくれたら、女性の話を聞く…女性から猫について学ぶ感じで話を聞く。」
「そうすることで、自分が本当に猫好きだとアピールするのだ。」
「猫好きな人が猫好きな人を嫌うことは、そうそうあることではない。」
「猫好きの人に対して、自分も猫好きであることをアピールすることによって、その人からの好感情を得る。」
「そうして話を盛り上げ、好感情を得たところで…」
「僕たち、気が合いますね…どうです?お友達になりませんか?連絡先を交換しませんか?」
「…という流れに持ち込むんだ。」
「あ…それじゃ…。」
「まず『あなたもこれが好きなんですか?』と言うことで、人柄による説得から始めて…。」
「好きなものの話をすることで、感情に訴える説得に繋いで…。」
「好感情を得たところで、論理による説得で締める…って、ことですか。」
「ん?ああ、そうか…そういうことになるな。」
「いずれにせよ、『あなたもこれが好きなんですか?』と言うこと、人柄による説得から始めるのが原則になるわけだ。」
「強調すると、自分と相手の共通点を示すことで、自分と相手は仲間であるとアピールするところから始めるということだ。」
「そして自分と相手の共通点というヤツは、強引に捻り出し、穿り出すこともできるんだ。」
「例えば…。」
「ワッフル専門店で、自分の前に居た女性が…そうだな…紫芋ワッフルを買ったとしたら。」
「紫芋ワッフルですか、僕も好きなんですよ…と、声をかけてみる。」
「紫芋ワッフルを食べたことがなくても構わん、ワッフルってのは大体何味でも美味い。」
「自分も紫芋ワッフルを注文して、食って、好きになれば、嘘は嘘でなくなる。」
「…で、紫芋ワッフルの話を通して、好感情を得て…という流れに持ち込む。」
「また別の例を挙げると…。」
「街中を裸で出歩く人は(そうそう)居ないし、鞄などの所持品を持っている人も多い。」
「そこで服や所持品のデザインなどに注目する、というのも一つの策だ。」
「そこで、目を引くデザインの…シャツを着ている女性がいたとしたら。」
「良いデザインのシャツですね、僕もそういうデザイン、好きなんですよ、どこで買われたんですか?…と声をかけてみる。」
「好きなんですよ、と言うところを、目を引かれるんですよと言い換えるのも良いだろう。」
「…で、例によってシャツのデザインについて話して、好感情を得て…という流れに持ち込む。」
ここまで話して、武蔵さんは一息置いてから話を締めにかかった。
「『あなたもこれが好きなんですか?』からナンパを始めるには、お前自身が本当に『これ』を好きであること、少なくとも本当に『これ』に興味を持っていることが必須だ。」
「『これ』の…品揃えが豊富なら、話のネタも増えて、ナンパの機会も増える。」
「だからナンパの準備として、日頃から見聞きする物事に関心を持ち、好きなもの、興味のあるものの品揃えを増やしておくことが肝要だ。」
「好きなもの、興味のあるものの品揃えを増やすということは…人生を豊かにすることにもなるんだ。」
…ナンパって、こんなに奥が深かったのか…。
ナンパと言うと風紀上好ましくない行為だと僕も思っていたけど…って言うか、チャラいヤツがやってるチャラいことって思っていたけど…。
すると、武蔵さんは急に、ゆらりと立ち上がってベッドを降りて…僕の鞄の傍で屈み込んだ。
(書き忘れていたけど、僕は鞄を持って来ていた。)
僕は鞄にマスコットの小さなぬいぐるみを付けていた。
武蔵さんは、そのマスコット…ピンク色の、丸っこいぬいぐるみを手に取って…。
「良い物を持っているな…女性が鞄などに付けているのを、よく見かける。」
「こいつはもしかすると、ナンパに使えるかもしれんぞ。」
「…そう言えば、よく見かける割にこれが何なのかは知らなかったな…。」
「ゲームかアニメのキャラクタのようだが…。」
「ああ、それは…。」
僕はマスコットのキャラクターについて、武蔵さんに説明を始めた。
僕が鞄に付けていたぬいぐるみは、「まるっと!チェラズム」というゲームの主人公キャラ「チェラズム」のぬいぐるみだ。
30年ぐらい前にゲームの第一作が登場して、今もシリーズが続いている。
初登場から30年もシリーズが続いているからか、登場キャラも増え、ゲーム内の世界も広がり、深まり続けている。
今や「まるっと!チェラズム」は、一つの世界を創りあげていると言って良い。
この30年の間に何度かアニメ化もされていて、僕は幼稚園の頃にゲームではなくアニメの方を見て「まるっと!チェラズム」のことを知った。
このアニメは幼かった僕の心を文字通りガッチリ掴んで離さなかった。
そして何だかんだで、今も僕の心を掴んだままだったりする。
ゲームをするようになったのはもう少し後、小学生になってからだったけど、以来ゲームの新作が出れば必ずプレイしたし、アニメの新シリーズが始まれば、必ずチェックした。
それでゲームやアニメのストーリーだけど、不思議な惑星スルキュルを舞台に主人公チェラズムが、惑星スルキュルで悪さをするマグヌ大王に立ち向かい大王を懲らしめるという内容になっている。
ゲームでもアニメでも30年間この枠組みは変わっていないのに、新作が発表される度に「新しい!」と思わされてしまう。
「まるっと!チェラズム」というタイトルの感じからわかるかもしれないけど、基本的にはまったりしていると言うか、ゆるいと言うか、コミカルな内容のストーリーだ。
でも時折、本当に重く、シリアスな展開も織り込まれることもあって…。
「…………。」
僕の説明を聞いていた武蔵さんは、黙り込んでしまっていた。
どうも、引かせてしまったらしい。
「…す、すみません…引いちゃいましたか?」
「…いや、お前の知識の広さ、思考の深さに圧倒されただけだ。」
「実を言うと、私はさっきまでお前を、催眠アプリなんぞで人を言いなりにできると信じ込むようなヤツと思っていたのだが…。」
「私はこの点でもお前を見くびりすぎていたようだ…すまない。」
武蔵さんはチェラズムのぬいぐるみを持ったまま、話を続けた。
「しかし、一つのコンテンツに過ぎない『まるっと!チェラズム』とやらについて、そこまで考え、語ることができるとはな…。」
「お前にとって、『まるっと!チェラズム』は…狭い窓、なのだな。」
「狭い窓?…どういう意味ですか?」
「『まるっと!チェラズム』とやらは、一つのコンテンツに過ぎない。」
「一つのコンテンツに執着していたのでは、視野が狭くなる…狭い窓から外の景色を見るようなものだ。」
「だがたった一つのコンテンツにも、多くの人間の知や経験、思想や哲学が込められている。」
「一つのコンテンツは狭い窓だが、その窓を開けて身を乗り出して見れば、そこには多くの人間の知や経験、思想や哲学…広い世界が広がっている。」
「お前は『まるっと!チェラズム』という狭い窓から、広い世界を見渡していたというわけだ。」
「さっきも言ったが、この…チェラズムのぬいぐるみを持っている女性は、結構いる。」
「だからお前がこのぬいぐるみを持っている女性に話しかける機会も、結構ある。」
「そしてお前は、チェラズムのぬいぐるみをネタにして、いくらでも話ができる…。」
「チェラズムのぬいぐるみはナンパに使えるどころではなく、ナンパのための強力な武器になり得るだろうな。」
ここまで話したところで、武蔵さんと僕はホテルを出ることにした。
辺りはすっかり暗くなっていた。
僕は陰キャと言われ続けていた、そしてそれが嫌だった。
僕は自分でも自分を陰キャだと思っていた、そしてそれが嫌だった。
僕は僕を陰キャ呼ばわりし続けるあの女子生徒…椎名莉奈を許せなかった。
僕は催眠アプリなんてものが手に入ったとき、椎名莉奈に復讐することを考えた。
僕は催眠アプリの実験として、通りすがりの人を言いなりにしてやろうと思った。
僕は椎名莉奈を犯そうと思い、試しに無関係の女性を犯そうとしていた…。
朝、家を出たとき、僕の性根は捻じ曲がっていた。
そして僕は、道を踏み外そうとしていた。
夕方、ホテルを出たとき、僕の性根は(だいぶ)真っ直ぐになっていた。
そして僕は、道に立ち戻っていた。
陰キャ呼ばわりされるのは、やっぱり嫌だ。
…でもホテルを出たときの僕は、陰キャを脱却することなんて、そんなに難しいことじゃないと思いはじめていた。
数時間前まで僕は、僕を侮辱し続けた椎名莉奈を犯してやろうと思い、無関係の女性を犯そうとしていたのに。
それほどまでに、僕の性根は腐って捻じ曲がっていたのに。
このときの僕は、道に立ち戻り、そしてこの先征くべき道を見据えることが出来ていた…。
(ついでに、童貞も卒業してしまった。)
こんなことって、あるんだろうか。
「ああそうだ。」
別れ際に、武蔵さんは思い出したように話し始めた。
「お前が『まるっと!チェラズム』を通して得た知識や思考は、確かに強力な武器になり得る。」
「だがさっき私は、お前が語る『まるっと!チェラズム』についての説明に圧倒されてしまった。」
「ナンパでも何でも、人と話すときに自分が一方的に話すことは悪手になる。」
「お前は『まるっと!チェラズム』についてなら、いくらでも話せるだろうが」
「だからと言って一方的に話をしたのでは、相手から好感情を得ることは出来ない。」
「『まるっと!チェラズム』のネタは強力な武器だが、強力すぎる武器でもあるんだ。」
「だから、『まるっと!チェラズム』をネタにしてナンパをするのなら…そうだな…」
「まず『はい・いいえ』では答えられない『開いた質問』をして、相手の回答を静聴する」
「相手が答え終わったら、次の『開いた質問』をして、また相手の回答を静聴する…。」
「これを繰り返すことを『基本戦術』にするのが良いだろう。」
「…じゃあな。」
最後に、割と具体的な注意点を示して、武蔵さんはその場を去って行った。
僕も武蔵さんの背中に一礼してから、家路に就いた。
このとき僕が武蔵さんから教わったことは、この後一度しか役に立たなかった。
…でもその一度は、決定的だった。
月曜日の下校時間。
教室から出ようとしたその時、僕は椎名…椎名莉奈に鉢合わせしてしまった。
「何アタシの前に立ってんだよ!陰キャ!」
前日までの僕だったら、また黙って…怨念を心の内に溜め込んでいただろう。
でもこの日の僕は違っていた。
憤怒とか憎悪とかいった気持ちは湧いてこなかった。
自分の心に全く波風が立っていないことが自覚できた。
…そして、椎名とは何度もこうして顔を合わせていたけど、今まで椎名のことをちゃんと見ていなかったことも思い出した。
椎名の鞄を見ると、小さな、丸っこいピンク色のぬいぐるみ…チェラズムのマスコットが付いていた。
見た感じ、椎名はチェラズムのマスコットを、長いこと鞄に付けていたようだ。
何だかんだで僕は何度も椎名と顔を合わせていたはずなのに、どうしてこれを見落としていたんだろう?
「…な、何、固まってんだよ…?」
椎名が僕に問うた。
「…いや、君もそれ…好きなのかと思って…。」
「…それ…?」
「それだよ、それ…その、鞄に付けてるやつ…チェラズムの…。」
「……!」
椎名の目が、少し泳いだ。
それから、少し顔を赤くして…。
「だ、だから何?も、もしかしてアタシのこと口説いてんの!?…き、急に人の持ちモンのことに口出してくるって…キモいんだよ!」
本当に、僕はどうしてしまったのだろう?
武蔵さんから教わったことを、よりにもよって椎名に試してしまうなんて…。
案の定というか、また椎名は僕を罵倒した。
全く、迂闊だった。
仕方なく僕は、椎名が僕を罵倒するだけ罵倒して教室を出て行くのを待つことにした。
…しかし、椎名は「キモいんだよ!」と言った後、言葉を続けなかった…言葉を詰まらせた。
それからまた目を少し泳がせて…。
「…お前…コルがデンシにしたこと、どう思ってる?」
ここで椎名が口にしたコルとデンシっていうのは、「まるっと!チェラズム」の登場キャラクターだ。
先にも書いたけど、「まるっと!チェラズム」は基本的にまったりしていると言うか、ゆるいと言うか、コミカルな内容のストーリーだ。
でも時折、本当に重く、シリアスな展開も織り込まれることもある。
このコルとデンシというキャラクターは、そんな重くてシリアスな展開の中心になったキャラクターだった。
椎名が言った「コルがデンシにしたこと」って言うのは、アニメの…第三期でのエピソードのことだ。
コルとデンシは幼馴染みで、幼いときからずっと一緒だった。
(コルもデンシも、フワフワした雪玉みたいな、毛糸玉みたいなキャラクターだけど、コルは少女、デンシは少年だ)
コルもデンシも、お互いこれからもずっと一緒だと信じていた。
そこにインプル、という少年が現れた。
(このインプルも、フワフワした雪玉みたいな、毛糸玉みたいなデザインだけど、ちょっと虚ろな目が特徴的だった。)
インプルは慕っていた人に裏切られ、切り捨てられて、心に深い傷を負ったキャラだった。
インプルは心に負った傷が原因なのか、自分を傷つけるようなことをすることが多かった。
心優しいコルは、そんなインプルの心の傷を何とか癒やせないかと、インプルと行動を共にすることが多くなった。
デンシも、そんなコルを支えていた。
…しかし…コルはインプルと一緒に行動することで、次第にインプルに惹かれるようになってしまった。
インプルも、自分を心から心配し、自分を癒やそうとしてくれるコルに、どうしようもなく惹かれていった。
そして、いろいろあってついに、コルはインプルと共に行くことを決めてしまう。
デンシに落ち度があったわけでも、デンシのことを嫌いになったわけでもない。
それでもコルは、インプルと共に行くと決め、そのことをデンシに告げた。
コルは泣きながらデンシに別れを告げ…デンシも泣きながら、コルの決心を受け入れた…。
要はコルが(理由があるとは言え)理不尽な形でデンシを捨て、インプルを選んだという話だ。
放送されたとき、コルの選択は物議を醸したし、放送されてから何年も経った今も、時々議論されている…。
そして椎名は僕に、コルがしたことをどう思うかと聞いてきた。
僕もあのエピソードには思うところがあった。
だから、あの時思ったことをそのまま答えることにした…。
「彼女のしたことはみんなを傷つけただけだったと思うよ。」
「デンシはもちろん、コル自身も、インプルもね。」
「コルと、インプル…も?」
椎名はちょっと訝しげに、僕に問いかけた。
「だってそうじゃないか?」
「コルは別にデンシのことを嫌いになったわけじゃない。」
「インプルにどうしようもないほど強く惹かれてはいたけど、デンシと一緒に居たいという気持ちも強かった。」
「それでもどちらかを選ばなければならないと思ったから、それこそ身を引き裂かれるような思いの末に、インプルを選んだ。」
「強調するけど、身を引き裂かれるような思いの末に、ね。」
「それと、インプルについて言うと。」
「インプルは慕っていた人に裏切られ、切り捨てられて心に深い傷を負った。」
「だから人を裏切るとか、切り捨てるとかは、インプルにとって許し難い悪なんだ。」
「インプルは自分を慰め、癒してくれたコルのことを心から信頼し、愛するようになった。」
「でもそのコルはインプルの前で、デンシを切り捨てるという許し難い悪をおこなった。」
「でも、コルがそんなことをしてしまったのは…インプル自身の所為だ。」
「しかもコルは、デンシを切り捨てたことで身を引き裂かれるような思いに苛まれた。」
「心から愛する人が、自分の所為で…自分の所為で、許し難い悪を行い、そしてそのことで苦しんでいる。」
「マトモなヤツだったら、こんな状態で好きな人と一緒になっても、幸せにはなれないよ。」
「…そしてインプルは、マトモなヤツだ。」
ちょっと一方的に話しすぎたかな…と思っていたら、椎名はまた問うてきた。
「それじゃ、コルはどうしてれば良かったのさ。」
「ベストってわけじゃないだろうけど…。」
「自分は二人とも好き、どちらか一方を選ぶことなんてできないって、態度をハッキリさせることかな。」
「それでその後は成り行きに任せることかな。」
「選べないって言うのが、態度をハッキリさせることなのかよ?」
「何もどちらかを選んで、どちらかを切り捨てることだけが態度をハッキリさせることじゃない。」
「誤魔化したり、遠回しな言い方をしたりせず…」
「選べない、二人とも好き、ってハッキリ言ってしまうことも、ハッキリした態度だよ。」
「………。」
椎名が黙っていたのを受けて、僕は話を締めた。
「思うんだけど、恋愛ものって…」
「…一緒になって良い相手は一人だけ、という前提があるんじゃないかな。」
「こんな前提があるから、コルは自分の心を引き裂いてでもデンシを捨ててインプルを選んだ。」
「こんな前提があるから、デンシもインプルも、コルの選択を受け入れた…コルはあんなにも辛そうだったのに、ね。」
「だとしたら三人を傷つけたのは、一緒になって良い相手は一人だけ、という前提だったんじゃないかな。」
「だとしたら…一緒になって良い相手は一人だけという前提…掟は、本当に唯一絶対の正義なのかな…。」
「あのエピソードを見たとき、僕が思ったことは…まあこんな所かな。」
「…………。」
椎名は黙ったまま、僕をじっと見ていた。
「…お前、頭でっかちのガリ勉じゃなかったんだな…何つーか、思ったより…。」
「…いや、何でもない。」
「…じゃあな。」
それだけ言って、椎名は教室を出て行った。
このときの椎名は、いつもの椎名とは違ってた。
いつもの椎名とどこが違ってたのか?
言葉にはできなかったけど…とにかく、このときの椎名はいつもの椎名とは違ってた。
「なあ、ちょっと聞きたいんだけど。」
この日から、椎名は僕に近づいて来るようになった。
そして僕は椎名と、色々な話をするようになった。
初めのうちは「まるっと!チェラズム」について。
それからだんだんと、他のことについても話すようになっていった。
もちろんというか何と言うか、椎名の学業成績は良くない。
でも椎名と話していると、椎名は別に頭が悪いわけじゃないことがわかってきた。
もっと言うと、頭が良いか悪いかで人を見ていた僕の方が、ある意味ずっと頭が悪かったってことがわかってきた。
僕と話をするようになってから、椎名の見た目は変わってきた。
前は派手で、品がなく、一目で何人もの男とヤってるってことがわかる見た目だった。
でも僕と話をするようになってから、少なくとも品のなさは薄くなっていった。
人間関係も変わってきたらしい。
椎名は素行の悪い男子生徒の幾人かと肉体関係を持っていた。
でも僕と話をするようになってから、その男子生徒たちとは距離を置くようになった。
それで、椎名の態度に腹を立てた男子生徒の何人かが椎名を輪姦したという噂も流れたけど…。
「おめーが気にすることじゃねーよ。」
椎名は噂の真偽について、明言はしなかった。
「”テメーの替わりなんざいくらでも居る”ってよ…あのクソヤロウども。」
「テメーらなんざ、こっちから願い下げだ、っての。」
…たぶん、輪姦されたというのは事実なんだろう。
でも椎名は、少なくとも表面上は、何事も無かったように振る舞っていた。
辛いのを我慢しているだけなのか、それとも本当に精神力が強いのか…。
いずれにせよこの頃から、僕の目は椎名に釘付けになっていった。
そして…。
これは巡り合わせというやつだったのだろうか。
その日、僕の部屋で…僕の家で、僕と椎名は二人きりになっていた。
いつも通りとりとめのない話をしていると、椎名は急に…。
「なあカモ、そういや、家の人はどうしたんだよ。」
カモ、というのは僕のことだ。
もう一度書くけど、僕の名前は「鴨志田景生」だ。
それは置いて、僕は椎名の質問に答えた。
「え?ああ、今みんな出てるよ…今この家に居るのは、僕と椎名だけだよ。」
「ふーん…そんで、いつ帰ってくるのさ?家の人。」
「夜中まで帰ってこないよ…もしかしたら、僕が寝てからになるかもね。」
「ふーん…。」
「なあカモ、知ってる?噂によれば、アタシとアンタ、付き合ってるんだってさ。」
椎名に言われて、僕はちょっと動揺してしまった。
そういう噂は、本当にあった。
…そしてこの頃の僕は、この噂が本当にならないかなと、思うようになっていた。
僕の動揺を確かめてから、椎名は…続けた。
「……この噂、本当にしねぇ?」
「え?本当にって…それ…んんっ!」
僕は椎名に唇を奪われた。
僕も椎名も、裸になった。
僕は床に身を横たえて、椎名は僕の側で腰を下ろし、僕を見下ろしていた。
この状況で、僕のモノは…もう爆発してしまいそうになっていた。
そんな僕のモノを見て、椎名は笑って言った。
「アハ!…もう準備万端じゃん?…お前って、結構ムッツリスケベだったのな。」
…反論は出来なかった。
僕の体は、否、このとき僕は心底から、椎名の中に入りたいと強く強く願っていた。
「…アタシも、もう辛抱堪らねーんだ。」
「じゃ、いきなり本番、行かせてもらうよ…んんっ!」
椎名は僕の腰に跨がり、一気に腰を下ろして、僕のモノに喰らいついた。
椎名の中!
僕は忽ち果てそうになってしまったけど…何とか堪えることが出来た。
「ン…う…な、何だよ…お前…初めてじゃ、なかったのか…。」
何でわかったんだろう?
誤魔化した方が良かったのかもしれないけど、椎名の中は、僕にそんな計算をさせなかった。
「ご…ごめん…は、初めてじゃなくて…で、でも…君の中…あ、あ…。」
「いーよ、そんなこと…お前が誰とヤってようと、お前のこと、アタシなしじゃいられないようにしてやるだけだから、さ…んんっ…!」
そして椎名は激しく腰を動かし始めた。
こうして僕と莉奈は結ばれた…結ばれてしまった。
僕も莉奈も、獣に成り下がって、お互いに求め合い、貪り合った。
僕は何度も莉奈の中に出したし、莉奈は何度も達して絶叫した。
莉奈の絶叫は僕を狂わせ、僕の射精は莉奈を狂わせたようだった。
…コトが済んだとき、僕も莉奈も、起き上がれなくなっていた。
「…ヤるじゃん…何かアタシの方が、お前なしじゃいられなくなっちゃったよ…。」
「僕も…もう君なしじゃ、いられないみたいだ…。」
「噂…これで、ホントにホントになっちゃったよなぁ…。」
「…うん…。」
莉奈はこの後も、僕以外の男とセックスすることはあった。
「誰とヤっても気持ちイーけど…やっぱアタシ、お前なしじゃいられないよ。」
でも莉奈はこう言って、だんだんと僕以外の男とはセックスしなくなっていった。
僕という”最高の”相手が居るのに、他の男をあさるのは面倒になってきたのだそうだ。
「お前も浮気してイーんだぜ?誰とヤろうが、お前はアタシなしじゃいられないって、わからせてやるだけだからさ。」
莉奈はそう言ったけど、僕の方も、莉奈以外の相手にはあまり興味が湧かなくなっていた。
こうして僕は莉奈と結ばれることになった。
あれだけ僕のことを罵倒してきた、莉奈と。
僕の方もあの時まで、莉奈を恨んで、レイプしてやろうかとまで思っていたのに。
僕も、莉奈も、僕と莉奈の関係も、何もかもがすっかり変わってしまった。
武蔵さんで童貞を卒業して、ナンパの仕方を教えてもらった。
思い返してみれば、きっかけは本当にこれだけだった。
たったこれだけのきっかけで、本当に何もかもが変わってしまった。
この変化を、何と呼んだらいいんだろう?
…下剋上…大逆転…良い名前が思いつかない。
でもこの変化は、僕にとっては良い変化だったのは、間違いない。