英雄戦姫GOLD ボクが考えたブリタニア漂着ルート 修正版 作:シベリア!
どうか寛大な心で読んでやってください。
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その日、チハヤは夢を見た。
夢の中で、誰かがチハヤに罵声をあびせていた。
世界を壊すと叫んでいた。
それは確かに夢であったったし、その事はチハヤ自身が一番良く理解していた。
だけどそれは、ただの夢にしては異様な迫力があった。
そして、心臓をえぐられているかのような焦燥感もあった。
あれは誰だったかな?
何度思い出そうとしても、思い出せない。
頭の中が暗く冷たい靄のようなもので覆われているかのようだった。
『俺は答えを知っている、たぶん、知っている』
チハヤはそう思った。
答えが何なのか、何故知っているのか、そして何故思い出そうとしているのか。
夢ではないのかな?
いいや、これは確かに夢だ。
そんな思いが頭の中でいったりきたりして、
脳髄がぐちゃぐちゃになっていくような感覚がした。
まるで……まるでそれは……
……
…………
………………
「……んがっ!!!!」
鼻腔にすさまじい刺激臭が突き刺さった。
「げほっ、ごほっ……ぐ、うぅ……」
青年がが盛大にむせる。
反射的に飛び起きると、その青年は見知らぬ部屋の中で、ベッドに寝かされていた事に気がついた。
そして3人の少女が目を丸くしながらこちらを覗きこんでいるのにも気がついた。
「おおっ! 飛び起きた」
「この前調合した気付け薬。 ただちに悪影響はない……たぶん、おそらく……」
「いや、たぶんじゃまずいっしょ」
「トリスタン以外にはお勧めできない……」
「え、何? それ大丈夫なの? 死んじゃわない?」
「ま~ま~、結果お~らいということで~」
「ランちゃん、ホント適当だよね……」
3人の少女達はどこか幼い感じがして、どこか気の抜けた雰囲気がした。
まるで何十年も付き合いのある旧友同士のようであった。
「ええっと……ここは……」
そんな突然の出来事に戸惑いながらも、青年はなんとかそれだけ口に出せた。
「はい~、ここはブリストルの兵舎ですよ~」
一番年下らしき女の子が、やや間延びした声で教える。
その娘は純白の学生服らしき格好にピンクの髪飾り、それに対してやや不釣合いな印象のある白い腕甲をして、大きめの剣を腰に差していた。
「ああ~、私達は怪しい者ではないですよ~。
こ~見えて公務員、ブリタニア王国に仕える円卓の騎士ですからね~」
「ブリス……トル……? 円卓の騎士……?」
どこかで聞いた事があるような……ないような……なんとももどかしい思いをしながら、青年は記憶の糸をたどっていた。
「……あの、俺はどうしてここに?」
「それはむしろこっちが聞きたいよ」
「港の近くで行き倒れていたので~、3人でここまで運んできました~」
「ええっ、行き倒れ!? 俺が?」
青年が目をぱちくりさせる。
「重かった……だいぶ……」
「見た目は結構細いのに、がっしりとした骨と筋肉があって。
うんうん、ちょっと不謹慎だけど眼福でした」
緑の髪の少女がうんうんと頷く。
「(倒れてたって……う~ん、何で倒れていたのか全く身に覚えはないけど……
俺は彼女達に助けてもらっていた……のかな?)」
青年がそう結論づけて、少女達に深々と頭を下げた。
「それはすまなかった。 助けてくれてありがとう」
「い~え~、これも円卓の騎士としてのお仕事のうちですから~、
気にしないでくださいね~」
一番年下らしき少女が嬉しそうに笑う。
嫌味でもなんでもなく、他人の役に立てたのが嬉しいのだろうか?
「(……まだ若いのに、優しい子だな)」
そう思うと、青年は少しだけ警戒心を緩めていた。
それはそうととして、少女が言った『円卓の騎士』という単語に妙な引っかかりを覚えてた。
どこかで聞いた事があるような気がした。
しかし何時、どこで聞いたのか、そもそも円卓の騎士とはなんなのか……何度も頭を捻ってみたが、どうしても思い出せなかった。
「あに……失礼ですけれど、円卓の騎士ってのは、なんでしたっけ?」
……なので青年は思い切って聞いてみる事にした。
思い出せないままにしておくには、どうにも居心地が悪すぎる。
その位、奇妙で奇怪で、それでいて大きな引っかかりだったのだ。
「はい~円卓の騎士というのは、ブリタニア騎士団のリーダー格のようなものですよ~。
わたしは円卓の騎士の一人で、名前はランスロットといいます~。
で、こちらがボールスさんと、パラメデスさんです」
「ボールスだよ、よろしくね」
「パラメデス、はっぴーうれぴーよろぴくね……」
ブリタニア……ブリタニア騎士団……円卓の騎士……どうも、これらの単語に聞き覚えがあるような気がした。
しかし、彼には具体的な事は何一つとして思い浮かばない。
「助けてもらって、感謝の言葉もないよ」
妙な感覚だが、今はとりあえず捨て置いて……青年は彼女達に対して深々と頭を下げて、感謝の意を伝えておく。
一瞬だけ、こちらも名乗り返した方が良いとも思ったのだが……どうも頭が混乱しているせいか、その機会を逃してしまった。
少女達の名前に聞き覚えが無い。
だからたぶん……イマイチ自信が持てないが、初対面なのだと思った。
「それじゃあ自己紹介も終わったところで~ごはんにしましょ~。
きっとおなかがすいていると思いましたので、たくさん用意しましたよ~」
そう言うと彼女……ランスロットさんは近くのテーブルにドカドカと食材を並べる。
それは一体どうやって持ち歩いていたんだ! とでも叫びたくなるような量で、
かなり大き目だった筈のテーブルは、瞬く間に多種多様な食材で満載になる。
「ええっと……4人分ですよね?」
一人で食えと言われたら死ぬ。
それだけは確信を持って言えた。
「え? 1人分ですよ~。
ああ、食べきれないときはおっしゃってくださいね~
わたしが責任を持っていただきますから~」
「これが1人分……1人分……え、ギャグ?」
テーブルの上には10人分といわれても信じられるような量の食材があった。
おそらく過半数……いや、8割程度の食材が食べきれずに残ると思った。
「ほぉらランちゃん、自分の感覚で食べ物を持ってきちゃダメだって言ったでしょ」
「そんな事してませんよ~。 わたしなら、この10倍はいけますから~」
青年の想像の中で、目の前にある食材が10倍になる。
どう考えてもこの娘の体よりも大きいし重い。
もしそんな量を一人で完食したら、妊婦どころか力士……いや、膨れたヒキガエルのようになるだろう。
「……うげぇ」
……とても嫌な想像をしてしまい、思わず吐き気がした。
こうやって食べ物を目にして青年は初めて気がついた。
自分は今、けっこう空腹になっている事にだ。
「……じゃあ、いただきます」
……
…………
………………
「……ぐふっ」
……しかし、食べきれなかった。
分量が多い事は食べ始める前からわかっていた事だが、問題は量だけではなかった。
「な、なんだこの雑な味付けは……」
襲い来る吐き気を堪えながら、青年は戦慄していた。
味がおかしかったのだ。
もう一度言おう、味がおかしかったのだ。
味がもう、根本的におかしかったのだ。
かなりの割合で調理前の食材と呼ぶべき、干し肉やらネギやらイモやらが混ざっている上に、やたらに硬く乾いたパン、焼きすぎて焦げた上に時間も経ったせいで風味も食感も壊滅的になっている肉や魚、煮込みすぎで具材がグズグズになっている上に、薄味にも程があるスープ……もしや嫌がらせかと思いたくなるような冒涜的な食事を、空腹感のみを武器に平らげていくのは限界があった。
「う~ん、あの感じだと、ブリタニア出身じゃないのかな?」
「円卓の騎士のことも知らないみたいですし~、
ブリタニアのごはんを不味いって感じるなら、たぶん海外の人ですね~」
「胃の中に入れば……みんないっしょ……」
「そういう考え方がブリタニアごはんの進歩を否定してると思います」
「こんなにフランスとブリタニアで意識の差があるとは思わなかったよ……」
「おおぅ……霧が出てきた……」
3人の少女達がひそひそ声で話しているのが聞こえた。
「(ど、どうやら俺の味覚が異常だった訳じゃなさそうだ……
嫌がらせの線はまだ消えてないけど、ちょっと安心したな)
安心はしたが……この延々と続く苦境、そろそろ限界が近かった。
そもそも未調理の食材をガリガリと齧ろうとしていたのがそもそも間違いだったのではないかと思った。
薄すぎる味付けのスープも、温めなおして調味料を足せば多少はマシになるだろうし、硬すぎるパンやこげた肉は刻んでスープに放り込めばいい。
それならば……
「調理場、借りてもいいかな?」
そう思った瞬間、自然にそう尋ねていた。
「ほえっ!? 調理場? あったっけそんなの?」
「一応ありますよ~、使っているところは一回も見た事がありませんが~」
「一昨年……毒薬の調合に使った……たぶん、おそらく、めいびー……」
何故か調理場を借りたいと言っただけで驚かれた。
もしかして俺は不思議の国にでも迷い込んだのか……と、青年は密かに青褪めた。
「お料理っ! できるんですか~!?」
小柄な少女が……先程ランスロットと名乗った娘が瞳を輝かせ、身を乗り出してきた。
「……ん? まあ、人並みにはできると思うけど」
それに関してははっきりと言う事ができた。
先程のような奇妙に引っかかる感じはしなかった。
「そ、その人並みというのはブリタニアの人並みなのでしょうか……」
「もぉ~ブリタニア人のアレやソレは料理の範疇に入りませんよ~」
「ブリタニアの人がどのくらい料理が出来るのかはわからないけど、
生の食材をガリガリかじるよりはマシに出来ると思うよ」
「おお~それは凄いです~」
すると何故か尊敬のまなざしを受けた。
ブリタニアの人並みって一体……
……
…………
………………
「……あちゃあ、こりゃ思ってたよりひどい有様だね」
「キャメロット城の調理場は、ガレスさんやメイドさん達が毎日手入れをしていますけど、
こっちでは手入れどころか、使ってすらいないみたいですね……」
少女達の案内で到着したそこは、埃と蜘蛛の巣にまみれていた。
包丁や鍋は錆が浮かんでいて、調味料は……いくつかはカビが生えていたが、幸いな事に無事なものもあった。
「でも、調理具は磨けば使えそうかな。 かまどに穴は……良かった、無さそうだ。
薪は……少ししけっているけど、使えそうだな」
その言葉に、ランスロットが目を輝かせる。
「ああ~、早くも期待で胸が膨らんできましたよ~。 こりゃたまらん! ヨダレずびっ!」
「ランちゃんのおっぱいは平原そのものだけどね」
「もぉ~ボールスさん~、それは言わない約束ですよ~」
「……再起……可能?」
「ああ、このぐらいならどうにかできそうだよ。
でも包丁は少し手入れをしないと、研ぎ石はあるかな?」
「武具倉庫にいけばありますよ~。
刃物を研ぐのはおしごとでやってますから、わたしでも手伝えます~」
「手伝ってくれるのか? 助かるよ」
「ちなみに……完成したら分けてもらえますか~? 分けてもらえますよね~?」
ランスロットが瞳をキラキラさせながら、ぐいいっと顔を近づけてくる。
「ああ、それはもちろん。 これだけの量だと、どうせ一人では食べきれないだろうし」
「わぁ~い、これは久々にまともなごはんが食べられるかもしれません~」
ランスロットの瞳は本当に異様なまでにキラキラしていた。
「料理が出来る人は、ブリタニアでは絶滅危惧種だからね。
ケイはかなりの凄腕だけど、なんやかんやで忙しい人だから、
運が悪いと何ヶ月も……ううっ」
「絶滅……え、絶滅って? ……ギャグだよな?」
「それじゃ~、わたしはおなべや包丁を磨きますので、ボールスさんは埃取り、
パラメデスさんは不足しそうな調味料の買い足しをお願いします~」
「あいあい、了解っと。 ランちゃんは食事に関しては妥協しないねぇホント」
「何……だと……数に入れられた……?」
「それだと今度は俺のやることがなくなりそうなんだけど」
そう言うと、パラメデスさんに左手をクイクイと引かれた。
「毒薬ならともかく、調味料はなにを買えばいいのか……わからない……へるぷみー……」
「ええっと、それなら俺が買出しを……
いや、どこで何を売っているか知らないし金も持ってないから駄目か」
「道案内はまかせろー……ばりばり……」
「んじゃー戻ってくるまでに、こっちはこっちでやっとくからさ、なるはやでよろしくー」
「期待してます~」
……
…………
………………
買出し、調理場の手入れ、そして調理が終わる。
時間がかかったし手間もかかったが、3人の少女達が頑張って手伝いをしてくれたおかげで、青年にとって楽しい時間だった。
「それじゃあ、あり合せの物で作ったから期待にそえるかどうかわからないけど……」
完成した料理を机に並べると、ぐ~きゅるる~という空腹を知らせる音が周囲に響く。
「食欲がわいてくる、いいにおいです~。 も~早く食べたいです~」
「こらランちゃん、食べる前のお祈り忘れないの」
ランスロットがボールスに促されて静かに手を合わせる。
「父よ、あなたのいつくしみに感謝してこの食事を頂きます」
「同文です~」
「ここに用意されたものを祝福し、私たちの心と体を支える糧として下さい」
「ボールスさんの言う通りです~」
「ランちゃんランちゃん、もうちょっと真面目にお祈りしようよ」
「ボールスさんが2人分祈っているから大丈夫ですよ~」
そして2人の少女が神に対する感謝の言葉を述べている中で……瞬間、パラメデスが流れるような動作で蒸したジャガイモを口の中に放り込んだ。
「私はキリシタンじゃないので……せーふ……」
「ああ~~っ!! じゃがバターが!! じゃがバターがぁ~~!!」
「先手必勝……ぶい……」
口をリスのように膨らませながらにこやかに笑うパラメデスを、ランスロットは羨ましそうに見上げる。
「あ、味は!? 味はどうですか? おいしかったですか~~」
「ふむ……これは……シンプルだけど、ホクホクの食感……
バターが良く合って……たいへん美味……」
「わぁ~~ん!! わたしも食べたかったです~~」
「ええっと、他にも色々作ったから泣かないでくれ。
そうだ! このシチューとか、美味しく出来てると思うぞ」
涙目になっていたランスロットだったが、硬すぎる干し肉や、にんじんや玉ねぎ、えんどう豆を利用して作ったシチューを一口飲むと、すぐに機嫌を直す。
「こ……これは……あのありあわせの材料で作ったとはおもえません~。
お肉の旨みに、牛乳のほど良い甘さが合わさって、口の中がしあわせです~
硬くて味気なかったパンも、このシチューに浸すと味も食感も良くなります~」
「そんなに褒められるような物じゃないと思うけど……」
「いや、普通に美味しいって。
基本をしっかり抑えていて、ハズレがないって言えばいいかな?
野菜とかを刻んだり、火加減を調整したりする手際も良かったし、
けっこう入念に練習しないと出せない味だよこれ」
「味噌や醤油が無かったから、献立を考えるのに苦労したけど、喜んでもらえて嬉しいよ」
「ミソに……ショーユ? 何それ、おいしいの?」
「ミソとはどんな効果だ……? いつ発動する……?」
ボールスとパラメデスが興味津々に尋ねてくる。
「わたし知ってます~、ジパングのお料理さしすせそですね~。
ジパングでよく使われる調味料の、砂糖、塩、お酢、醤油、
味噌を一文字づつとっていくと、さしすせそになるんですよ~」
「薀蓄を語っている間に……サラダはもらった……」
パラメデスさんが大皿に用意してあったサラダを根こそぎ攫う。
「あぁ~っ!? サラダがぁっ!? サラダがぁ~~っ!!」
「甘いよパラっち、円卓の騎士に同じ技は二度通用しない、常識っしょー
ほらランちゃん、サラダは既に確保してあるよ」
がっくりとうなだれるランスロットの前に、ボールスが小皿によそってあるサラダを差し出した。
「おお~、このドレッシングは……
もしかして伝説の調味料と謳われるマヨネーズですか~?」
「フランスでは肉料理に時々使われるけど、野菜にも合うもんだね。
でも、この辺でマヨネーズなんて売ってたっけ?」
「いや、卵とワインビネガー、あとオリーブ油があったから、それで作った
乳化するまでかき混ぜるのはけっこう苦労したけど、喜んでもらえて嬉しいよ」
「それにしても、ジパングで使ってる調味料を知ってるだけじゃなくて、
フランスの調味料も知ってるんだ……
もしかして、各国を回って料理修行をしてる人……なのかな?」
「ああ、それはわたしも知りたいです~」
「……こくこく」
3人の視線が青年に集まる。
「いや、俺は……」
そう言われて俺は自分のことを話そうとする……
するんだが、どうしても言葉が出てこない。
「俺は、ええっと……たしか……」
その時、青年は初めて気がついた。
自分の生まれ故郷も、仕事も、年齢も、それどころか名前だって思い出せない事に。
「俺は……その……誰なんだろう?」
3人の少女達はずこ~っと崩れ落ちた。