※この作品はR-18です。

英雄戦姫GOLD ボクが考えたブリタニア漂着ルート 修正版   作:シベリア!

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第10話『貴公の首は柱にでも吊るされるのがお似合いだ』

「その顔を見る限り、どうやら上手くいっていないみたいね、チハヤ」

 

「そっちこそ、目の下にクマができてるぞ、ナポレオンさん」

 

ビザンティンの首都、コンスタンティノーブルにて合流したチハヤ達は、お互いの疲れきった表情を見て笑った。

別行動をしていた期間はそう長いものではなかったが、その長くない期間で互いに互いをアテにしてた事に気づいた様子だ。

 

「それでどっちから話す? 私から? チハヤから?」

 

「そうだな……それじゃあ、まずはナポレオンさんの話から聞かせてくれないか」

 

ナポレオンはチハヤが淹れた地獄のように熱く、絶望のように黒いコーヒーを豪快に飲み干す。

 

「う~ん苦い、熱い、でももう一杯欲しくなる。

 やっぱりコレがないと調子が出ないわね。

 眠〇打破もユOケルも最近はあまり効かなくなってきて困ってたのよ。

 今度からユンケルフOンティに代えようかしら」

 

「徹夜は程ほどにな」

 

ナポレオンに促され、チハヤは2杯目のコーヒーを淹れる。

最初に会った時と比べてずいぶんと色褪せた印象を受ける髪や肌、それに眼の下には隈……ナポレオンの苦労を察し、チハヤは心の中で涙した。

 

「チハヤ達がいない間大変だったのよ、闇の玉の回収をしくじって味方が暴れだす事7回、

 玉がどこかへ飛び去る事12回、眠気が酷くて落馬する事2回。

 暴れる民衆を叩き潰すまでは容易だけど、その後の処理が面倒臭いったら無いわ。

 作った奴の性根が知れるってものよ」

 

「いっつもこの箱を使って回収していたからな。

 しかしこの箱、誰がなんのために作ったのだろう?

 どうして俺達の荷物に入っていたのだろう? どうして俺だけが扱えるのだろう?」

 

「さぁ、今はまだ情報が少なすぎるわ。

 ただ……その箱と闇の玉とやらが同じ人物によって作られたものだとすれば。

 その箱を使って玉を回収するのは、その誰かの思惑に乗っかるのと同じ事。

 その箱以外に闇の玉をどうにかする方法が皆無っていう今の状況はよろしくないわ」

 

「どうして同じ人が作ったって思うんだ?」

 

「闇の玉ってやつはその黒い箱を使わないと回収困難な癖に、

 箱を使った時は呆れる程に簡単に回収できるのよ。

 わざと回収しやすくなる仕組みがあるような気がするわ」

 

「自然発生の物ではないかも、か……

 そうなんだよな、やっぱり玉も箱も分からない事が多すぎる」

 

「なので、一旦チハヤと別行動をとって独力での対処を試みたんだけど」

 

「どうだった?」

 

「試行錯誤はしたし苦労もしたけど、

 ビザンティンの暴動騒ぎはどうにか収束に向かいつつあるわ。

 回収した闇の玉は当面箱に入れずに研究することにさせてもらう」

 

「そうか、それは良かった」

 

チハヤは心底安堵した様子で笑みを浮かべる。

 

「それにしても、ビザンティンといい、ワラキア公国といい、

 なんで国家元首が2人も同時期に行方不明になるのかしら?

 おかげで暴動への対処がやりにくくて仕方がないわ」

 

「……ん? ビザンティンの話はこの間、聞いたけど、

 ワラキア公国の王様も行方不明だったのか?」

 

「ワラキア公国の君主・ブラド3世……通称はブラド・ツェペシュ。

 王様じゃないからそこは注意して。

 そいつが無責任な事にカール大帝とほぼ同時期にいなくなっているのよ。

 ああそうだ、チハヤは『ギアナ高地』って知ってる?」

 

ギアナ高地……言葉の感じからすると、どこかの地名のようだが、

残念ながら俺の記憶にはない。

 

「カール大帝の書置きがあったの。

 それを見る限り『ギアナ高地』って場所に向かったみたいなのよ。

 でもそれが何処にあるのか、どうやったら行けるのか誰も知らなくて困ってるのよ。

 地図帳にも載っていなくてね」

 

「う~ん、ギアナ高地か……すまないけど、俺にはわからない。

 でも書置きを残す余裕があったのなら、誰かに誘拐されたとか、

 闇の玉に憑かれているって可能性はなさそうかな」

 

「でもねえ、大帝が書置きを書いた時点では無事だと言えるかもしれないけれど、

 今現在、無事なのかどうかはわかっていないわ」

 

「しかし、欧州全体で謎の暴動が起きている時期に、

 国家元首が2人も同時期に行方不明……確かに心配になるな」

 

「それで、そちらはどうだったのかしら?

 たしかローマのカエサルに会いに行ったのでしょう」

 

今度はGOLD商会の話に切り替わる。

あまり愉快ではない事を思い出しながら、チハヤは深くため息をついた。

 

「それがな、カエサルさんからネロって人を捕まえるように依頼されたんだが、

 逃げ足が速すぎて全く捕まえられないんだよ。

 不幸中の幸いと言っていいのか、しつこく追い掛け回したおかげで、

 ネロさんがこれ以上罪を重ねる事だけは防げているけど」

 

最初に実行した追い込み漁作戦を含め、ネロを後一歩まで追い詰めた事は何度かあった。

しかしネロの周囲にいる人々が、身を挺して庇うかのように邪魔をしてくるので、彼女本人を捕らえることが困難になっているのだ。

 

「ネロ……ああ、あいつか。 それはまた厄介な事を頼まれたものね。

 それであの娘、今度は何をやらかしたのかしら?」

 

「テンプル騎士団の拠点を襲撃したり、放火したり、団員を拉致監禁したり、

 悪口を書いたビラをばらまいたり……まあ、色々とね」

 

それを聞くと、ナポレオンさんはしばし目を瞑り、考え込む。

 

「テンプル騎士団だけ……テンプル騎士団だけを狙って、か……

 それはもしかしたら……いえ、まだそうと決めつけるには早すぎるか。

 あれは早とちりなところもあるし」

 

「何の話だ?」

 

「私はね、闇の玉が自然発生したとか、事故や偶然でばら撒かれたとか考えるよりも、

 誰かが意図的にばら撒いていると考えた方が自然だと思っているわ」

 

「誰かが……もしかしてテンプル騎士団が、それをやったって……」

 

「もう一度言うけれど、そう決めつけるのは早すぎるわよ。

 テンプル騎士団は何人かいる容疑者の一人ってだけ。

 ネロの悪戯が容疑を固める根拠になりはしないかと思ったけど、

 考えて見たら、あの娘がたいした理由も無く他人に迷惑をかけるのはいつものこと、

 あまり有力な根拠にはなりそうもないわ」

 

「何人かいる容疑者って誰なんだ?」

 

「そりゃあ今回の暴動騒ぎで得をしそうで、

 しかも闇の玉なんて秘密兵器を隠し持っていそうな連中でしょうね。

 暴動への迅速な対応で大きな名声を得たテンプル騎士団。

 事実上ローマの属国でありながらローマからの搾取を跳ね除けようとしているカルタゴ。

 そして冬でも凍らない港(不凍港)を奪取しようとしているロシアとか……

 特に怪しいのはこのくらいかしら。 チハヤ、コーヒーもう一杯くれる?」

 

ナポレオンさんは3杯目のコーヒーを飲み干し、おかわりを要求する。

 

「あんまり飲み過ぎると夜に眠れなくなるぞ」

 

「はいはい、次で最後にするわよ。

 後は変わった魔法技術を保有するエジプト、大華帝国、ジパング、

 あるいは新大陸のアステカやインカ帝国あたりも容疑者に入るかしら。

 もっとも、アステカとインカ帝国は欧州各国に恨みがありそうだけど、

 他の国々は欧州が混乱してもあんまり得をしなさそうなのよね」

 

「テンプル騎士団、カルタゴ、ロシア、エジプト、大華帝国、ジパング、

 アステカ、インカ帝国と……ずいぶんと容疑者が多いな」

 

「あとは……」

 

「あとは?」

 

ナポレオンが急に言い淀む。

 

「あとは……個人的にはローマがかなり怪しいって思っているわ。

 ローマが今回の騒擾に一枚噛んでるから……真っ先に被害を受けたのかも。

 騒乱の被害が出るのは早かったのに、被害そのものが軽いと言うか……

 手ぬるい、感じがするのよ」

 

「クックも同じような事を言っていたな。

 でも、それだけで怪しいと決めつけても良くないだろう」

 

「昔ね、ポエニ戦争っていう戦争があったのよ。

 ローマと、当時は結構な強国だったカルタゴが戦争した。

 ローマが勝って、カルタゴは負けた。

 カルタゴはローマの事実上の属国になって生き永らえた」

 

「それは……ええっと……」

 

唐突な話題の切り替えに、チハヤが戸惑う。

 

「この際、どっちが正義でどっちが悪かとかは言わないで。

 戦争なんてどっちも自分が正しいと信じてやるものよ」

 

「なら、それがどうしてローマが怪しいって話に繋がるんだ?」

 

「その後ローマが落ち目になった。

 西はオドアケル、東はメフメト2世に思い切り領地を削られて、

 かつてのローマ一強時代は最早見る影もない。

 だけどかつての栄華を未だに忘れられないのか、

 ローマ元老院は最近どうにも……キナ臭いと言うか、そういう雰囲気なのよ」

 

「具体的には何を?」

 

「あれこれ理由をつけてカルタゴを絞りまくってるわ。

 属国や植民地ってのは絞り過ぎてはいけないの、程々に絞って従わせるのが常道。

 最近のローマは……いえ、元老院は何を焦ってるのか、

 自分達が落ちぶれているのを認めたくないのか、

 異様にカルタゴを絞って、国民の生活を圧迫している。

 アレじゃ反乱を誘発するだけだって、新大陸の事で学んでいないのかしら?」

 

「でもクックはローマを金持ち国家だと言っていたぞ」

 

「それはクックの情報が古いわね。 オドアケルとメフメト2世に領地を削られて、

 収入は減っているのに支出は殆ど削れない国。

 外から見ればかつての威光を十二分に保っているように見えるけれど、

 アレでは長くは続かない。 だからカルタゴを絞りに絞り、

 カエサルは執政官の職務を全うするために借金に借金を重ねているの」

 

「え? あの人、借金をしてるのか?」

 

「あら知らなかったの?

 カエサルが破産したら借金取りも首を括らなきゃいけなくなるくらい、

 莫大な額を借りてるわ。 本人は涼しい顔をしているけれどね」

 

「し、知らなかった……」

 

「何にせよ、ローマは再び強国に返り咲くのを夢見て闇の玉を諸外国にばら撒いたのかも。

 真っ先にローマに被害が出たのに被害そのものは軽いのは、

 自国民でテストをしていたのかも」

 

「……例の元老院がか?」

 

「そうでなければ……元老院が闇の玉に取り込まれているのかしら?

 前にジャンヌが言っていたのだけれど、

 あの玉の影響下にあると、恨みとか、憎しみとか、怒りとか、

 そういうドス黒い感情が次から次へと湧いて出て止まらなくなるのよ」

 

「だからローマの元老院がおかしくなった……」

 

「かもね、でも証拠は何も無い、単なる私の当て推量。

 まあ誰が犯人だったとしても必ず追い詰めて痛みの叫び、

 恐怖の悲鳴、そして後悔の鳴き声をあげさせてやるわ。

 私(の睡眠時間)を殺した責任、取ってもらうんだから」

 

ナポレオンがぐるぐる目で何やら訳の分からない事をわめきたてる。

 

チハヤはああ、徹夜明けなんだな……と思った。

しかし奇妙な事に、そんな彼女の姿を見て妙な安心感を覚える自分もいた。

 

その時、机の上においてあった通信石が急に振動を始めた。

それはナポレオンがフランス本国との連絡に使用している石だった。

 

ナポレオンは不機嫌そうな目で通信石を睨みつけながら、石に向かって話しかける。

 

「こちらはナポレオン・ボナパルト……ブーリエンヌよね?

 今は就寝時間よ余程の事がない限り連絡するなって言ったと思うのだけど」

 

特濃コーヒーを3杯も飲んだ人の台詞とは思えないが、その直後、ブーリエンヌの大きくハッキリとした声が部屋中に響いた。

 

「こちらフランス本国のブーリエンヌ、カルタゴがローマに宣戦布告!!

 繰り返します……カルタゴがローマに宣戦布告!!」

 

カルタゴ……それはつい先ほど、闇の玉による暴動の黒幕の可能性があると言われた国の一つであった。

 

……

 

…………

 

………………

 

カルタゴによる宣戦布告の一報の後、GOLD商会及びフランス軍は急ぎローマ軍と合流した。

 

なお、テンプル騎士団は来ていない。

騎士団は民衆の味方はするが、特定国家の味方はしないようにしているらしい。

故に彼女らは国家間の紛争が起きた場合、どちらか一方を利する行動は自粛するのだとか。

つまりはテンプル騎士団なりの処世術である。

 

それに対して、フランスとローマは同盟国同士であり、一方が他国から攻撃を受けた場合、

もう片方の国が援軍を出す旨の約定がある。

 

「いわゆる一つの集団的自衛権ってヤツやな。

 ホンマはビザンティンも援軍を出さなアカンのやけど、

 大帝もおらんし、暴動の影響で動かせる軍が無いんで、今回は参戦できへんみたいや」

 

「ローマ軍もずいぶんと数が少なかったですぅ。

 たぶん、暴動騒ぎへの対応に追われて消耗してるですぅ。

 カルタゴはフランスやローマに比べると小さいですけど、

 国土が狭い分だけ暴動騒ぎの影響も少ないですから、

 きっと今なら勝てるって考えてるですぅ」

 

「だから、フランスの暴動騒ぎが収束した直後に攻め込んできたんだろうね。

 これ以上国力を回復されると、勝ち目なくなるだろうし」

 

なお、GOLD商会がここに居る理由は……ナポレオンに強引に連れてこられたからである。

 

「がああぁぁ~~、ぐおおぉぉ~~」

 

チハヤの隣の席ではナポレオンが豪快ないびきをかいている。

女の子にあるまじき音と共に寝入っていた。

 

「軍議が始まるまでの間、イメージトレーニングをするのだと言っていたよな?

 どう見てもただ寝てるだけに見えるんだけど……」

 

「わらひは……じかんちょうじん……むにゃむみゃ……」

 

寝言も聞こえてきた。

どう考えてもイメージトレーニングには聞こえない。

 

「そういえばカルタゴって、どんな国なんだ?」

 

眠る彼女を起さないよう、小声でクックに尋ねる。

 

「地中海の向こう側にある小国ですぅ。

 私らが赤ん坊だった頃はローマとも肩を並べる強国だったらしいですけど、

 ローマとの戦争に負けて、領地の一部と莫大な賠償金を取られたせいで、

 すげー貧乏になっちまったらしいですぅ」

 

「ナポレオンから聞いているよ、

 今でもその莫大な賠償金と延滞金を払うために、

 国民の生活は困窮の一途を辿ってるって」

 

「戦争に負けるってホント悲惨だよね。

 ブリタニアも一歩間違えればカルタゴと同じ立場になってたかも」

 

「きっと貧乏生活が嫌になったですぅ。

 隣国のローマが、自分達が支払った賠償金で優雅な生活をしているとなれば、

 そりゃあいい感情は抱けねーですぅ」

 

「賠償金を踏み倒す気なんじゃないかな?

 額が莫大過ぎて、未だに払い続けてるから」

 

「いやいくら何でもそれは……いや、あるかも。

 ここ何年か、ローマ元老院がおかしいって噂だし。

 カルタゴの方も前々から隠れてこっそり再軍備してるって噂はあったからね。

 最近の暴動騒ぎでローマが混乱している今なら、勝ち目があるって思ったんじゃない」

 

そんな事を話しながら、ローマ側の指揮官を待っていると、つい先ほどまで熟睡していたナポレオンが、前触れ無く目を開く。

 

「カエサル、敵将の情報は?」

 

その時はまたも寝言かと疑ったが、すぐさまカエサルがいくつもの書類を抱えて天幕の中へと駆け込んできた。

 

「カルタゴ軍の指揮官はハンニバル・バルカ。

 先のポエニ戦争でカルタゴ軍を率いたハミルカル・バルカの娘よ。

 幼少の頃からローマへの復讐戦を挑むために、

 ハミルカルから武術と軍略の手ほどきを受けているわ」

 

「連中の動きは?」

 

「宣戦布告後、船で地中海を渡ったわ。

 バレンシアの辺りで上陸、その後イタリア半島の方角へ移動しているわ」

 

「そう、海戦は避けたか……スペイン海軍は?」

 

「宣戦布告の報が届いてからすぐに海上封鎖を行ったらしいけれど、

 ハンニバルの行動の方が少しだけ早かったようね。

 現在はカルタゴの港を閉鎖中よ」

 

「流石はマゼラン提督、行動が早いわね。

 これでカルタゴ軍は補給ラインを切断された……とすると、敵の狙いは短期決戦か。

 カエサル、ローマの元老院は何て言ってきてるの?」

 

「当然、国土への侵入を許すなと言っているわ」

 

それからも、次々とナポレオンの質問やカエサルの提案が飛び交い、イタリア半島への侵入を拒むための作戦が形作られていく。

 

つい先ほどまで熟睡していた人間とはとても思えないほど、ナポレオンは明瞭な言葉を発し、鋭い眼光で地図を見つめていた。

 

しかしその内に、ある一点についてだけ睨み合いや怒鳴りあいが起きるだけで、話が全く進まなくなる箇所ができた。

非現実的だの、夢物語だの、無謀だの、自殺と同じだの、そういった単語がカエサルの口から次々と発せられている。

 

「……なんや、揉めとるで」

 

「そのようだな……ナポレオンさん、何かあったのか?」

 

論争を続ける2人が、同時にチハヤを睨みつける。

 

「……一旦話を整理しましょうか、カエサル」

 

「ええそうね、ナポレオン」

 

ナポレオンさんが先ほどまで議論に使っていた地図を机に広げ、

推定されるカルタゴの現在位置を書き込んだ。

 

「いい、チハヤ。 ローマ帝国の領地であるイタリア半島は、

 アルプス山脈っていうかなり険しい山々で、フタをされてるみたいになっているの。

 だからカルタゴの将軍ハンニバルの軍勢がローマに攻め入るには、

 アルプスの東か西に迂回するか、アルプス越えをするかの三つの手段があるわ」

 

ナポレオンが地中海周辺の地図を示しながら説明を始める。

 

「それで私達ローマ軍が東ルート、

 ナポレオン率いるフランス軍が西のルートを固めて、

 ハンニバルを迎え撃つことまではすんなりと決まったのだけど……」

 

「肝心要のアルプス越えルートを誰が固めるのかがまだ決まっていないのよ」

 

ナポレオンが、山脈の両側にローマ、フランスの文字を書き込み、最後に山を突っ切る太い矢印を記した。

 

「あのねぇ、ナポレオン……東西ルートを固めれば十分でしょう。

 必要以上に兵力を分散させると各個撃破される危険があるから、

 私はアルプス越えルートまで固める案には反対するわ」

 

カエサルが困った顔をしながら矢印にバツ印を付け加える。

直後、ナポレオンが筆記具をひったくる。

 

「駄目よカエサル、アルプス越えルートこそが本命、肝心要、

 一番重要な箇所なのよ、信用できる指揮官と精兵を配置するべきよ」

 

「そう思う根拠は何かしら?」

 

「私がハンニバル・バルカならアルプス越えルートを使うからよ」

 

ナポレオンは自信満々にそう言い放つ。

 

「私がハンニバル・バルカなら、絶対にアルプス越えルートだけは使わないと思うわよ」

 

カエサルが盛大に眉間に皺を寄せながら言った。

 

「じゃあ逆に聞くわカエサル、何故アルプス越えルートを使わないのかしら?」

 

「道が狭いので大軍は通れない、道が険しいので多数の脱落者が出る、

 物資の補給も困難、道に迷えば全滅すらありうる、

 カルタゴ軍の長所である戦象部隊が通れない、攻城兵器も通れない。

 疲労困憊した戦象も攻城兵器も兵糧も無い僅かな兵でローマ攻めなんて不可能。

 それに今は真冬、時期が悪いわ。

 貴女は真冬のアルプスがどれほど寒く険しいかを知らないからそんな事が言えるのよ。

 はっきり言うわ、自殺行為よ」

 

カエサルさんは再びひったくるように筆記具を持ち、地図に『悪路』『兵站』『戦象』『攻城兵器』『季節』の文字を書き込んでいった。

 

「不可能? 自殺行為? はっ、私の辞書に不可能なんて文字は存在しないわ」

 

「そんな辞書は欠陥品だから捨ててしまいなさい」

 

「フランス、ローマ連合と真っ向からぶつかるよりはよほど勝算があるわよ。

 何よりの利点は、ローマの誰もがあのルートを使うのが自殺行為だと思っていることよ。

 ここまで攻めて来るはずがないと安心しきっている都市なんか、

 象も攻城兵器も兵糧も無くても十分落とせるわ。

 後は奪えるだけ奪って、持ちきれない財産や建物は焼き捨てる。

 そしてフランス、ローマ連合軍が戻ってくる前に逃げればおしまい。

 誰がどう考えても完璧な作戦じゃない」

 

対するナポレオンは、大声でまくし立てながら筆記具を奪い取り、地図上の文字に斜線を引いていく。

 

「机上の空論に過ぎないわ。 奇跡的に冬のアルプスを抜けられたとしても、

 その作戦ではフランス、ローマ軍が無傷のまま残る事になるわ。

 残った軍勢に蹂躙されてだけではないの?」

 

「荒廃した首都を放っておいて追撃なんてできないわ。

 一体どこから兵糧を持ってくるのよ。 一応、念のために言っておくけれど、

 今のフランスの財政では連合軍全体の兵站を担うのは無理よ。

 身動きが取れないローマ兵が困り果てているところで停戦。

 その後、奪った財宝で軍備強化。

 ローマは首都の復興や暴徒への対応で軍備どころじゃなくなるから、

 数年でカルタゴ軍と連合軍の兵力差は劇的に縮まるでしょうね。

 ああ、下手したら逆転してるかもしれないわ」

 

暫くの間、2人は無言で睨み続ける。

しかし少しすると、カエサルが僅かに息を吐き、肩の力を抜いた。

 

「貴女がそうまで言うのなら、わかったわ。

 アルプス山脈にも兵を配置しましょう。 指揮官は誰にしましょうか?」

 

ナポレオンがこちらをチラリと見る。

 

「ジャンヌ・ダルクならば安心して任せられる……と言いたい所だけど、

 あの娘はつい先日退職したばかりなのよ。

 新しい雇い主の許可がないと、彼女は動かないでしょうね」

 

ジャンヌがコクコクと頷く。

 

「それは困ったわね……私やナポレオンが直々に動くわけにはいかないし、

 ネロは未だに逃げ回っているし、

 スキピオはヴェネツィアの防衛を担当してもらっているし」

 

「一人適任がいるのよ、ここに、引き受けてくれるかはわからにけれど」

 

そう言うとナポレオンは親指でチハヤの方を指してくる。

 

「……え? 俺? なんで俺?」

 

「そうよ、チハヤが行くのなら、当然ジャンヌも行くでしょう?」

 

「当然です」

 

ジャンヌが即答する。

 

そう言ってくれるのは素直に嬉しいとチハヤは思ったが、それはそれとして国家間の紛争に介入しようというのだ、流石に即答するわけにはいかない。

 

「いやでも、今の商会の戦力じゃ流石に一国の正規軍の相手は無理じゃないか?」

 

「そんな事は言われなくてもわかっているわ。

 フランス陸軍から100年戦争を生き抜いた精兵を貸すわ。

 カルタゴがアルプス越えルートを使うなら、兵站の関係で大軍勢は連れて行けないし、

 相応の脱落者が出るでしょうから、十分勝負になる」

 

「皆が来ているのですか?」

 

ジャンヌが少し嬉しそうに羽根飾りをはためかせる。

 

「ええ、来ているわよ。

 カルタゴから宣戦布告を受けたと聞いた時に呼んでおいたの。

 こんな事もあろうかと思ってね」

 

「……あの時点でジャンヌにアルプス越えルートを固めさせようと思っていたのか?」

 

「ナポレオン・ボナパルトの辞書に『不可能』の文字はないわ」

 

ナポレオンさんが自慢げに鼻を鳴らす。

俺は高鳴る心臓音を感じながら、地図を見つめる。

もしもこの作戦に穴があれば、商会の皆を危険にさらしかねない。

参加、不参加を決める前に、思いつく限りの難点を指摘しておきたい。

 

「俺達はアルプスの地形を把握していないから、どこで待ち伏せるべきかがわからない。

 それどころか、こちら側が先に道に迷うかもしれないんじゃないか」

 

「あ~、総帥。 アルプスの地形ならウチがだいたい把握してるで」

 

今まで沈黙を守ってきたダ・ヴィンチが、ここで小さく手を挙げた。

 

「ウチな、以前風景画に凝ってた頃があるんやけど、

 そん時にアルプスに登ったこともあるんよ。

 大気の様子やとか、山の形とか入念に記録しといたから、

 道に迷ったりとかはせえへんと思うで」

 

「不安なら以前アルプス越え用に用意した地図も預けるわ、

 こんな事もあろうかと、アルプス山脈で軍勢が通れそうな場所を調べておいたの」

 

ナポレオンが隠し持っていた一枚の地図を見せる。

そこにはアルプス山脈の全体図と、数本の太い線が記されていた。

 

「ねえナポレオン……どんな状況を想定したら、

 アルプス越え用の地図を用意するのかしら?

 これって、どう見ても軍勢を通すための下調べの証拠よね」

 

カエサルが怖い笑顔でナポレオンに迫る。

 

「ええカエサル、もちろんローマに喧嘩を売る時を想定したものよ。

 今は同盟国とはいえ、いつまでも同盟国とは限らないからね。

 私のローマ攻略作戦は108式まであるから、今さら一つや二つバレたって問題ないの」

 

「そうか、地形の把握の問題は大丈夫そうだ。

 それなら残る問題は……」

 

怖い笑顔を見せ合っている2人を無視しながら、商会のメンバーの内、今回の介入に肯定も否定もしていない者……ボールス、パラメデスそれにクックの3人を見る。

 

「(カルタゴとの戦争に介入するとなれば、彼女達にも大きな危険にさらされる。

 ここまでの戦いは人道支援と言って良いかもしれないけれど、これは本当の戦争だ。

 ブリタニアとカルタゴとの関係が悪化する可能性だってある。

 戦いが終わった後、ブリタニアに戻れなくなる可能性もある)」

 

チハヤは肩を大きく震わせると、もう一度3人の方に向き直る。

 

「……そーすいの意思に……したがう」

 

パラメデスは、特に反対をしないようだ。

 

「あんまし国家間のいざこざに巻き込まれんのは気乗りしないけど……

 カルタゴが闇の玉ばら撒いてる可能性があるんなら、

 一回とっちめて色々と質問しとくべきかな。 という訳で、私は賛成」

 

そこまで言うとボールスは、チハヤの耳元に顔を近づける。

 

「一応、私らとブリタニアは無関係ってことになってるから。

 あんましブリタニアの国益を気にしすぎる事はないよ。

 流石にブリタニアに殴りこんで国民から略奪するとか言ったら止めるけどさ」

 

チハヤにだけ聞こえるような小さな声で、そう付け加えた。

 

「……カルタゴとブリタニアの関係が悪化するんじゃないのか?」

 

ボールスに小声で聞き返す。

 

「今回は向こうから喧嘩吹っ掛けてきたのを防衛するのが目的だから、

 致命的な程に悪化はしないんじゃないかな。

 ってか、そこまで気にしたらなんもできなくなるって。

 それに、本当に闇の玉をばら撒いてるかも確かめないと」

 

「そうか、わかった。 それじゃあ最後に、クックはどう思う?」

 

「ウチは慈善団体じゃねーですぅ。 タダ働きはごめんですぅ」

 

「まあ、当然の要求よね。

 もちろん、命懸けの仕事を頼むのだから無報酬とは言わないわ」

 

クックの要求に対し、カエサルは小さな紙片になにやら数字を書き込む。

 

「そうねぇ、ローマの財政も最近の暴動騒ぎのせいで、余裕があるとは言えないのだけど、

 ローマや周辺の村々が略奪を受けた場合の損失を考えると……この位でどうかしら?」

 

「もう一声……と言いたいところですけど、正直に言って悪くねー数字ですぅ。

 ここで高いの安いのと押し問答する時間ももったいないですし、

 額に関しては文句を言わねーですぅ。

 でも、商会としてはローマ国内での交易許可の方がありがてーですぅ」

 

「う~ん、GOLD商会はブリタニアとも交易をしているのでしょう?

 ローマは国策として、ブリタニアとの交易を認めないことにしてるのよ……」

 

「ああ、大陸封鎖令の事なら解除するから、

 ローマとブリタニアが交易再開しても、フランスから文句は出ないわよ」

 

「それは知っているけれど、元老院がなかなか再開を認めようとしないのよ。

 なんとか説得を試みるから、今回は金銭報酬だけで満足してもらえないかしら?」

 

「またのらくら戦術で誤魔化す気じゃねーですね?

 アーサー王は上手く騙せたみてーですけど……」

 

「良いでしょう、ローマ筆頭執政官として必ず元老院を動かして見せる。

 何なら誓約書も用意するわ」

 

「その言葉、期待させてもらうですぅ。 総帥、私は参加に賛成するですぅ」

 

クックも賛成に回った。

 

「そうか……後は俺がやると言えば、

 GOLD商会はローマとカルタゴ間の戦争に巻き込まれる事に……

 いいや、巻き込まれるじゃない、自ら参戦するんだな」

 

今までのように、闇の玉でおかしくなった人々を助けるためではなく、国家間の殺し合いに参加する……その事実が、GOLD商会の総帥としての責任の重さに、チハヤは震える。

 

間違いなく、敵味方共に多くの死人が出る。

今までのように刃を潰した練習用の武器や、その辺で拾ってきた日用品では戦えない。

人殺しのための武器で、お互いに殺すつもりで戦うのだ。

 

「(考えてみれば俺は……ナポレオンに参戦を要請されてから、

 やらない理由ばかりを考えていたな……

 俺はきっと、自分の判断で皆を殺し合いの中に引きずり込むのが怖かったから……)」

 

しかし、怯えてばかりではいけないとチハヤは自身を奮い立たせる。

 

怖い物を怖いと感じるのは良い、危険な物を危険と感じるのも良い、だけど恐怖に負けて、大切な誰かを言い訳にして、嫌だ嫌だと目を瞑るのが総帥としての責任だとは決して思わない……思ってはいけないのだと自分自身に活を入れる。

 

「総帥……」

 

ジャンヌが、心配そうな顔をしてチハヤを覗きこんでいた。

さっきはチハヤの意思に従うと言っていたが、本当は祖国フランスのために戦いたいのだとチハヤは思った。

 

「皆の意思は既に確認した。 後は……俺がどうしたいかだ……」

 

チハヤは大きく息を吐き……肩を震わせ、手を震わせ、奥歯を噛み締め、大きく眼を開く。

 

「……戦おう」

 

口に出したら、少しだけ心が重くなった。

もう撤回はできない、チハヤは自らの意思で、自らの判断で皆を戦争に引きずり込んだのだ。

 

「皆を危険にさらしたくはないし、人殺しをさせたいわけでもない。

 でも……ローマの人々を守るために、闇の玉の情報を得るために、

 俺はカルタゴと戦うべきだと思う」

 

「向こうは借金苦から解放されるために戦争を起こしているのだとしても?」

 

ナポレオンが横槍を入れる。

カエサルが……自身も執政官としての職務を遂行するため、膨大な借金を抱えているカエサルの表情が僅かに曇る。

 

「そうだとしても、ローマの都市に攻め入って、

 暴力で賠償金を無かった事にさせるのが正しいやり方とは思えない。

 まず止めて、それから……それから考える」

 

「……ですって。 ローマ執政官のカエサル殿、何か一言」

 

「分かってる、分かっているわ。 元老院の連中がなんやかんやと屁理屈をつけて、

 かつての講和条約の条件以上の苛烈さでカルタゴから搾取していたのは。

 ここしばらくカルタゴの人々が極貧の生活を強いられているのも知っていた。

 その内どうにかしなければと思いながら、どうもしなかったのは私の罪。

 この戦争が終わったら、元老院にカルタゴの生活安定を掛け合うわ」

 

カエサルが深々とため息をつきながらそう述べる。

 

「元老院が聞く耳を持つかしらねぇ?」

 

「……分からないけれど、最善は尽くすわ」

 

ナポレオンがカエサルの肩をぽんぽんと叩く。

 

「……何にせよ、カルタゴとは戦う。 皆に危険な事をさせるのは心配だけど」

 

「命懸けは覚悟の上だよ、総帥。 ブリタニアを出た時から、ずーっとね」

 

「私らはダ・ヴィンチ以外全員元軍人ですよ。

 今さら戦争になったくれーで逃げたりしねーですぅ」

 

「ウチかて逃げんでー、総帥についてくからな」

 

「そう言ってくださると信じていました、総帥。

 ジャンヌは戦います。 この命燃え尽きるまで、戦い抜きます」

 

既に皆はやる気だ。

 

「(俺は……俺だけが、指示をするだけで戦いに参加せず、

 安全な場所に身を置く事になるな……)」

 

それがたまらなく嫌だった。

そして自分だけは安全だと喜ぶ自分自身の心も、嫌だった。

 

……

 

…………

 

………………

 

時は少し遡る。

 

チハヤ達GOLD商会の面々と、ナポレオン・ボナパルト率いるフランス陸軍が合流する前日の事である。

 

「ランスロット、貴女の体重、今どの位なの?」

 

ナポレオンがランスロットにそう尋ねる。

 

「ええ~、女の子に体重を聞くのはデリカシ~ってのが無いですよ~」

 

「良いから答えなさい、大事な事だから」

 

ナポレオンは有無を言わせない、鬼気迫る表情だった。

 

「……大体90kgくらいですよ~」

 

ランスロットはそう答える。

表情はにこやかだが、頬に僅かに汗が流れているのをナポレオンは見逃さない。

 

「軽ぅっ!? え、何それ、軽すぎるわ。 ダイエットでもしてるの!?」

 

「えっと~……まぁ、今の私は恋する乙女なので~」

 

「嘘おっしゃい、武者修行中の貴女はもっと重かった。

 三日三晩不眠不休で戦い続けても息切れ一つ起こさなかった。

 肌もゆで卵みたいにスベスベだったし、髪にも艶があった。

 今の貴女は……息切れが早すぎるわ」

 

「も~、私だって年を取ったら食欲も体力も無くなりますよ~」

 

ランスロットはにこやかに笑いながらそう答える。

しかし、ほんの僅かに視線を伏せた事にナポレオンは気づいてしまう。

 

「ブリタニアの財政難が予想より酷いのか、

 それともランスロットの体質に気付いていないのか……

 どっちにしろ、放置はできないわね」

 

そしてナポレオンは大きく大きくため息をつき、頭の中で今年度のフランス政府の軍事から自分の一存で処分できる範囲を暗算する。

 

そして……

 

「ランスロット、全額フランス政府のツケにしても良いから、

 しばらく食べ歩きでもしてなさいな」

 

「ええ~!? 良いんですか~!? 私すっごく食べますよ~!?」

 

ランスロットは目をキラキラと輝かせ、涎をだらだらと垂らしながら確認する。

 

「全責任は私、ナポレオン・ボナパルトが取ると言っているの。

 できるだけ短期間で体力を回復させて頂戴、必要になったら呼ぶから」

 

「本当にほんとぉ~に良いんですか~、遠慮とかしませんよ~?」

 

「知ってるわ。 ウチも物凄く贅沢ができる程、予算潤沢って訳じゃないけれど、

 今のブリタニア王室に比べればカネは余っているわ。

 戦闘中に空腹で倒れられる方がよっぽど怖いもの、遠慮なく食いまくりなさい」

 

「ではでは、遠慮なく行ってきます~!」

 

そう言うとランスロットは凄まじい速さで……それこそ、100mを5秒フラットで駆け抜けるような速度でどこかへと走り去っていった。

 

そして……

 

「はぁ……後で物凄い額の請求書が届くわよね……憂鬱、見たくないなぁ……

 いっそフランス軍を辞めてGOLD商会に拾ってもらおうかしら……」

 

残されたナポレオンはそう呟くと、深く深くため息をつくのであった。

 

 

 

 

 

GOLD商会構成員

チハヤ(総帥)

ランロット(別行動中)

ボールス

パラメデス

クック

ジャンヌ

ダ・ヴィンチ

 

協力者

ナポレオン

パイヤン(別行動中)

 

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