英雄戦姫GOLD ボクが考えたブリタニア漂着ルート 修正版 作:シベリア!
「総帥、待ち伏せ部隊から定時連絡が来ました……敵影なし」
ジャンヌが双眼鏡を構え、遠方からの手旗信号を確認している。
予想進軍ルートの中で、細い谷間を通る地点にフランス軍を配置、侵攻中のカルタゴ軍の頭上から岩を降らせ、敵を前後に分断、その後弓矢でもって敵を殲滅する作戦であった。
そして敵が全滅する前に谷を抜けられた場合に備え、GOLD商会のメンバーがこうして谷の出口を塞ぐように待ち構えている。
張り込みを開始して7日が過ぎた……今のところ、他の地点を守るフランス軍やローマ軍から、カルタゴ軍と交戦したとの連絡はない。
「これで誰も来なかったら……すごく……まぬけ……」
「前金はもう受け取ってるですぅ。 戦闘が無かったとしても、商会に損はねーですぅ」
チハヤはナポレオンから受け取った地図と、ダ・ヴィンチの絵図面を見比べながら、もう一度カルタゴ軍が通れそうな道を一つ一つ、順番になぞっていく。
「待ち伏せの場所が悪くて、既に通っていたのを見失ったのか?」
「う~ん、ナポちゃんとダーヴィーがどこかで道を見落としてなければ、
そんな事にはならないと思うけど……」
「まーウチもナポレオンも完璧超人って訳やないし、その可能性もあるやもしれんな。
兵力分散のリスクを飲み込んで、見張りは何箇所かに配置しといたから、
最悪、山を降りた所を追いかければいーんちゃう?」
「そうだな、ナポレオンさんは完璧超人じゃなくて、時間超人だからな」
「……へ? じかん……なんやって?」
「いや、なんでもない」
できることなら、このままカルタゴ軍が来なければ良いとチハヤは思う、思ってしまう。
だけどそれは、フランス、ローマ軍のどちらかが代わりに戦うということだ。
それではただの責任転嫁に過ぎない。
チハヤは自らの心をもう一度鼓舞する。
「総帥、物見隊が敵を確認っ! 合図が来ました」
ジャンヌが叫ぶ、同時にやや遠方から雄叫びと断末魔が聞こえ始める。
「総員……戦闘配置」
息が詰まりそうになりながらも、何度も何度も繰り返したイメージトレーニング通りに発音をする。
「合点っ!」
「総員戦闘配置に着くですぅっ!! カルタゴ軍はすぐにここまで来るですよっ!」
ランスロットは、ついに間に合わなかったようだ。
間に合うどころか、現在絶賛音信不通である。
何かトラブルに巻き込まれていなければ良いのだが……いや、今はそんな事を考えている場合ではなさそうだ。
多くの馬や人が駆ける音が聞こえる。
どうやらフランス部隊による奇襲のみで敵を全滅させる事はできなかったようだ。
ジャンヌやボールスが商会の兵達に次々と指示を出していく。
「総帥、敵がすぐそこまで迫っています。
この場は私達に任せ、後方へ下がっていてください」
「いや……俺の安全の事は気にしなくてもいい。 戦いに集中してくれ」
念のためにと渡された長剣を握り締める。
腕が震える、心臓が恐ろしく速い、全身が熱病にでもかかったかのように熱いのに、拭っても拭っても汗が吹き出てくる。
「(だけど……俺の判断で皆を危険にさらしているのに、
自分だけが安全な場所まで逃げ隠れするのは嫌だよな……)」
戦闘の恐怖、緊張から汗が止まらない。
それでもチハヤは震える腕を必死に力を籠めて、剣を握って前を向く。
「わかりました……最悪の場合、私が肉壁になってでも御守りいたしますので。
その時は私の屍を踏み越えて逃げてください」
ジャンヌが真紅の戦旗を槍のように構え、2~3度素振りをしながら言う。
「あれ……? 俺がこの場に居座った方が、
皆をより大きな危険にさらす事になるような……やっぱり下がった方がいいか?」
「是非、そうしてください」
「待った、もうそんな時間は無さそうですから、ジャンヌは総帥のお守りを頼むですぅ。
指揮に集中できねーから、次回以降はとっとと隠れてろですぅ」
「……すまん」
フランス軍が配置されていた方角からの足音は、次第に大きくなる。
クックが言うように、俺が安全な場所まで逃げる時間はなさそうだった。
そしてついに、目視しうる位置にまでカルタゴ軍が迫った。
「……くそっ、やはり谷の出口にも伏兵が居るか。
我々はここで全滅する訳にはいかんっ!! 全軍、足を止めるな!
このまま突破するぞぉっ!!」
戦闘を走る指揮官らしき女性が声を張り上げる。
彼女こそカルタゴの将軍、ハンニバル・バルカだ。
カルタゴ軍はその声に従い……いや、更に加速をしながら突き進んでくる。
彼我の兵力はおおよそ同等。
「左右に展開っ! 圧し包み、殲滅せよっ!!」
ジャンヌが負けじと叫ぶ。
その直後、ボールスと重装備の歩兵達がカルタゴ軍の勢いを止めるべく、
正面から激突した……
……戦闘開始……
「開幕直後のスーパーチャージ! か~ら~の~……」
「カミサマの力を借りて、今必殺の……アーク・ド・ラ・ピュセル!!
ジャンヌ・クラアアアァァァーーーシュッ!!」
「ここまでか……なんて、無様な……」
……戦闘終了……
チハヤは思う……違う、必死さがまるで違うと。
戦いを眺める俺は、闇の玉に操られたのではない、
自らの意思で死地に赴く戦士の強さを感じていた。
カルタゴ軍は最初の激突でボールス隊の隊列を崩しきれなかった。
その時点で勝敗は決していた。
動きを封じられたまま、弓矢や鉄砲、魔法による攻撃に晒され、
カルタゴ軍は一人、また一人と絶命していった。
最初はほぼ同数だった兵の数も、今では絶望的としか表現できない差が開いている。
それでも、何度阻まれても、何度何度何度阻まれても、カルタゴ軍はぶつかってきた。
どれほどの味方が倒れても、どれだけの血を浴びても、
なお諦めることなくボールスの部隊を押し続けていた。
じりじりと……少しづつ少しづつ、ボールスの部隊に綻びが生じていた
「まずいな……ランちゃんに別件頼んだのがここまで響くなんて……
ヤバッ! 抜かれた!? ジャン子、総帥、逃げて……」
ボールスの部隊に生じた綻びを抜け、一人の兵士……いや、指揮官のハンニバル・バルカが飛び出してきた。
そのまま俺やジャンヌの居る位置まで一直線に駆け上がる。
ボールスはそれを止めることはできない、生じた綻びを埋め、後続が突破するのを防ぐので精一杯だった。
ハンニバルは鉄砲隊、弓隊、魔法隊の放つ射撃をすり抜け、手にした鉄槌を振り上げる。
「貴様が指揮官かぁーっ!!」
ジャンヌは避けない……すぐ真後ろに俺がいる、だから避けられない。
そして鉄槌を受け止めるために掲げた戦旗は、ほんの一呼吸だけ、遅かった。
致命的なまでに……遅かった……
……
…………
………………
アルプスでの衝突にて、なんとかハンニバルや、分断されたカルタゴ軍を捕らえることに成功したチハヤ達は、再びフランス、ローマ連合軍と合流をしていた。
ちょっとした代償としてチハヤの右腕の骨がごちゃっと折れていたが、ボールスの治癒魔法のおかげで1週間程度で完治するらしい。
「いやはや……総帥の腕、魔法で治癒できる程度の傷でよかったよ、
完全に千切れ落ちてたら流石にくっつけられなかったからね」
「うん……一生義手かっこ、ロケットパンチ、かっことじですごすハメになってた……」
「ロケットパンチか~、いっぺん作ってみたいなって思うてるんやけど、
あれがなかなか難しくてな~」
「そ~う~す~い~……」
私は怒っていますと全身で表現しながら、ジャンヌがチハヤの頬を左右に引っ張る。
「が……がっきゅうう〇こ~……」
「うOこ等どうでも良いのです!
言いましたよね、場合によっては肉壁になってでも御守りすると言いましたよね」
思い切り引っ張られた頬を放し、今度はぺちんぺちんとはたいてくる。
「いやでもな、あの時何もしなかったらジャンヌが死ぬと思ったから……」
そう言うと、ジャンヌは眼前5cm位の距離から、ジトー……とチハヤを睨む。
「……う~……うう~……」
「ジャン子~そこはうう~、よりも、ありがとうって言った方が総帥は喜ぶよ~」
「カミサマは言いました、下手に褒めるとこの人はまた無茶をしそうだと」
「いや、すまない、次からは無理をしない程度に助けるよ」
「せめてもの罪滅ぼしに、完治までの間、私が総帥の右腕になります。
何なりとお申し付けください。 おしめでも尿瓶でも!
おはようからおやすみまでこのジャンヌ・ダルクがお世話をします!」
「と、トイレの世話まではいらないかな……」
「こう見えて農村の生まれなので、う〇この処理は慣れたものです」
「おめーら他人が真面目な話してる間くらい静かにしてろですぅ!
それと総帥は私が忙しいときばっかりイチャつくなですぅっ!!
ジャンヌは聖女のクセにう〇この話すんじゃねぇですぅっ!!」
ナポレオンさんやカエサルさんと深刻な顔つきで何かを語り合っていたクックが、もの凄く不機嫌そうな顔と語調で天幕の外から怒鳴り込んできた。
ジャンヌは慌てず騒がず、自らの口を両手でぐいぃっと広げ……
「がっきゅうう〇こ~」
……と、何の意味も無くクックを挑発した。
「カミサマは言いました、自分の女は平等に愛するべしと」
「ちーがーうーですぅ! 私は総帥の女じゃねーですぅ!
ただのビジネスライクな関係ですぅっ!!」
「カミサマは言いました、ビジネスライクなら何故いつも同室なのかと。
ハッキリ言って羨ましいので代わってください」
「総帥が不純異性交遊しねーか見張ってるだけですぅ!
あと性病とかが怖いだけですぅ! 全然そんなふしだらな関係じゃねーですぅ!」
「カミサマは言いました、本日只今をもってジャンヌ・ダルクが総帥の右腕となったので、
同室を明け渡すべきだと」
「右腕なら物理的にも比喩表現的にも私がやっとくから、
おめーは引っ込んでろですぅ!!」
クックとジャンヌがぎゃーぎゃー騒いでいるのを横目に、
手足を鎖で縛られているハンニバルの顔を覗きこむ。
「すいません、なんか騒がしくて……」
「いや、いい……」
ハンニバルは、必要最小限の言葉だけを述べると、すぐに無言になる。
闇の玉について、尋ねるべきかとも思ったが……やめた。
己の意思で、自ら死地に飛び込んでいったカルタゴ軍の戦士達が、他者の意識を奪い、正気を失わせる闇の玉に関わっているとは思えなかったからだ。
「……武術の心得は、無いと聞いていたのだがな」
ハンニバルが、天井に向かって語りかけるように呟いた。
「え~と、俺が? それともジャンヌが?」
「両方がだ。 だからあの時飛び込んだ、殺せると思ったからな……
だが結果として、お前の右腕を砕くのが精一杯だった」
「あの時は死に物狂いだったよ……頭が真っ白になったと言うか、
気がついたら全てが終わっていたと言うか」
「死に物狂いになった程度で、人は普段以上の力は出せないものだ。
だがあの時のお前の動きは……相当な訓練を積んでいると感じたぞ」
「相当な訓練か……」
チハヤはここまでずっと皆にばかり戦わせて、自分は単なる足手纏いになっているのを心苦しく感じていた。
怪我が治ったら、戦闘訓練を受けるべきかもしれない。
皆の足を引っ張らないためにも、自分の記憶の手がかりを得るためにも。
「それにしてもナポレオンさんや、カエサルさんは何をしているのだろう?
随分と長い時間、待たせるな……」
……
…………
………………
「カルタゴの都市は完全に破壊。 その跡地に塩を埋めて、
一切の作物が実らないようにしろ……ですって」
カエサルが、渋い顔をして言う。
ハンニバルが奥歯をかみ締める音がした。
「住民は? カルタゴの民はどうするつもりだ?」
「一人残らず殺すか、奴隷にしろ……命令とはいえ、気が滅入るわ」
「気が滅入る……か……気は滅入るけど、しかたない。
元老院からの厳命なのでしかたない、私は悪くない、攻め込んできたカルタゴが悪い。
とでも言いたそうな顔をしている」
両腕を鎖で縛られたハンニバルが、ぽつり、ぽつりと呟く……
「そんな顔をした奴に殺されるくらいならば、
いっそ虫けらのように踏み潰された方がまだマシだったよ」
カエサルさんが、槍の穂先をハンニバルの眼前に突きつける。
「怒ったのか? いいや違うな、侮辱されれば怒るのが常識だから、
怒ったフリをしただけだ。 誰かの指示がなければ怒る事すらできないのか?
たいした執政官だ、恐れい……」
グサリと、槍の穂先がハンニバルの右目に突き刺さる。
「やめなさいっ!! カエサルッ!!」
ナポレオンがカエサルに体当たりをして、槍から引き剥がした。
あとほんの少しでも力が込められれば、ハンニバルは絶命していただろう。
「私も殺すのだろう? ならば、できるだけ早く済ませてもらいたいものだ」
槍に抉られ、おびただしい出血と、だらりと垂れた眼球を意に介さずに言葉を繋ぐ。
致命傷ではない……だけど、あの瞳はもう二度と光を取り戻す事はないだろう。
「……当然よ。 貴女を生かしておけば、ハミルカル・バルカのように、
再びローマに害をなすでしょうから。
けれどそれは今ではないわ、ローマで処刑する事になったのだから」
「つまりは見せしめか。 まあ……それも良かろう。
既に私が祖国のためにできる事など、何一つないのだからな」
「あまり……人の死をショーに仕立てるのは、好まないのだけれど……」
「元老院とやらの指示だからしかたない……だろう?
ふん、そうやっていつまでも目を背け続けるがいい。
最後に戦った相手が貴様でなくて本当に良かったよ」
再びカエサルの身体に力が籠められる。
だが、即座にナポレオンが間に入り、腕づくで彼女らの接触を妨げた。
「だから、やめなさいったら!
ハンニバルもヤケになって変な挑発するんじゃないのっ!!」
カエサルが疲れ果て、その力が抜けるまでの間、もみ合いが続いた。
「私だって……できる事ならこんな事したくないわよ……」
カエサルは疲れきった表情をしていた。
ハンニバルは血で真っ赤になった顔を拭おうともせず、どこか遠くを見つめていた。
「本当にどうにかできないのか?」
祈るような気持ちで、俺はそう質問していた。
「無理よ……ローマの元老院は既に結論を出してしまった。
執政官の私には、それを覆す事なんて……できない……」
「できない……ねえ……ずいぶんと簡単に諦めるじゃない。
失望したわよ、カエサル」
「貴女にはわからないわよ! フランス人の貴女にはっ!!」
「できる、できないは聞いてないわ、やるか、やらないかを聞いているのよっ!」
「できないってさっきから言っているでしょう! しつこいわよ!!」
ナポレオンとカエサルの怒鳴りあいは、
今にも殴り合いに発展しそうな勢いである。
だがチハヤは思う……勇敢に戦い抜いたカルタゴ軍の人達や、彼らが守りたかった人々の命だけでも、どうにかできないのだろうか?
あんなにも一生懸命に、あんなにも堂々と戦い抜いた戦士達の結末がこれでは、あんまりなんじゃないかと思う。
「いっそ、今すぐハンニバルを連れて逃げ出そうか?
捕虜となっているカルタゴ軍の人達も、不意を打てば、
ある程度は助け出せるかも……」
チハヤが物騒な事を呟き始める
だが、そんな事をしてどうなる? チハヤはすぐさま思い直す。
カルタゴをフランス、ローマ連合軍から守りぬけるのか?
闇の玉をばら撒いていないかもしれないが、元はと言えば向こうから宣戦布告をしてきたのだ。
多少は苛烈な扱いを受けても、自業自得と……いや、多少か? 本当に多少なのか?
故郷を完全に破壊され、全員処刑か、奴隷にされるのが多少と言えるのか?
そこまでされる程、カルタゴは非道な事をしたのか?
そもそもカルタゴは、何故宣戦布告をしたんだ?
ローマ元老院が昔の栄光を忘れきれずに絞り過ぎた……そうナポレオンは言っていた。
ハンニバルを見る……一度は殺されかけたけれど、それでも、
カルタゴのために命を賭けた彼女が、見せ物のように殺されるのは嫌だった。
『できる、できないは聞いてないわ、やるか、やらないかを聞いているのよっ!』
つい先ほど聞いた、ナポレオンの言葉を心の中で反芻する。
そしてチハヤは自問自答する……俺はどうしたいのだと?
……一方、ナポレオンもまた高速で思考を巡らせていた。
「(さて……カルタゴ軍を張り倒してみたけど、闇の玉が出てこなかった。
そうするとカルタゴが今回の件の黒幕である可能性は著しく低くなるわね。
相対的にローマ……特に暴動騒ぎへの対応が妙に遅かったり、
カルタゴをあり得ないレベルで絞ったりしている元老院が非常に怪しくなる)」
そしてチラリとカエサルに視線を向ける。
「(カエサルはアテにできない。 元老院が今回の件の黒幕か、
既に闇の玉の影響下にあるのか分からないけど、
どちらにせよ普通の説得でどうこうできる状態じゃない。
背中から刺されるか、闇の玉の支配下に置かれるか。
あの国はカエサルの手腕でギリギリ国体を維持している落ち目の国家、
カエサルが死んだら爆発四散するわね……流石にそれは避けたい。
とするとこの状況下における最善手は……)」
……ナポレオンがニタァっと趣味の悪い笑みを浮かべた。
「ならば最善手は……同盟をかなぐり捨てて元老院をぶん殴る」
その物騒にも程がある呟きは、誰の耳にも届かなかった。
「……良し、決めた」
それとほぼ同時に、チハヤが何かを決心した。
そしてチハヤはゆっくりとハンニバルに手が届く位置に移動して彼女を抱きかかえる。
まるで結婚式で花嫁を抱きとめるような体勢になりハンニバルがキョトンとしているが、チハヤはあえて無視する。
「なっ、なんの……なんのつもりだ?」
ハンニバルが真っ赤な顔で……いや、流血で真っ赤という意味だが、とにかくそんな顔で尋ねてくる。
そこでようやくチハヤは気づく。
どうしたいかはさっき決めたが、どうすれば良いのかを全く考えていない事に。
しかし、今さらやっぱりやめましたと言う訳にもいかない。
チハヤはその体勢を維持したまま考え、考え、考え抜いた末……
「逃げるっ!!」
とりあえず彼女を連れて逃げる事にした。
「お、おい……どういうつもりだ!? 何を考えている!?」
腕の中でハンニバルが抗議の声を上げたのが聞こえたが、あえて無視して走る。
どたどたという音と共に、商会の皆が俺を追って走っているのが見えた。
そして右腕がグキリと嫌な音を鳴らし、およそ人体の構造からして不可能な曲がり方をした。
叫ぶようなことはなかったが、目の奥で火花が散るようなひどい激痛があり、足が止まる。
「総帥、代わります」
追いついてきたジャンヌがハンニバルを受け取り、再び走り出す。
同時にパラメデスが針金らしきものを器用に折り曲げ、即席の鍵を作成、ハンニバルの両手、両足の拘束を外した。
「貴女達、一体何をするつもりなの!?」
後ろの方からハンニバルが叫ぶ声が聞こえる。
幸いな事に、フランス、ローマの兵はうろたえるばかりで、チハヤ達を追跡しようとする者はいない。
今の内にできるだけ距離を稼いでおかなくては。
そんな中、ナポレオンもまた天幕から飛び出し、凄まじいまでの勢いで追走を始めた。
そして疾走するナポレオンはハンニバルのいる方向へとこう叫ぶ。
「何するつもりって、決まってんでしょう!
元老院をブチのめして、カルタゴを救うのよっ!!」
……その言葉はチハヤの予想と180度異なるものであった。
ナポレオンはスピードを緩めず、すぐにチハヤ達に追いついた。
「チハ……じゃなかった、総帥。 フランス軍総司令はたった今、辞めてきたわ。
今日から私とハンニバルは商会の構成員だから、コンゴトモヨロシク」
「はい!? いや、確か欧州の混乱が収まってからって……」
「さっきと今とでは状況が違うのよ。 ハンニバルもいいわね?」
「いや、私は……」
「全フランス軍に告げる! プランB発令っ!」
ハンニバルが何かを言おうとすると、ナポレオンは手にした通信石に対し命令を発する。
その直後、後ろの方から足音がした……1人や2人のものではない、
水牛の大移動でもあったかと思うほどの、多くの足音が重なっていた。
フランスの将兵達が次から次へと軍服や勲章、国旗等を投げ捨て、チハヤ達GOLD商会の元へと駆け出していたのだ。
そしてその中には、捕虜となっていたはずのカルタゴ軍も混ざっている。
「あれは……カルタゴ軍だと!? なぜ連中を解放した!?」
「無論、我がGOLD商会に勧誘するためよ。
ローマに殴り込みをかけるのだから、少しでも戦力を増強しなくちゃね」
純白のハンカチを取り出しながら、当たり前だと言わんばかりの口調でナポレオンが答える。
「それは……そうだな。
ローマの連中に処刑されるよりも、奴隷となるよりもずっといい……
カルタゴ軍はまだ戦える、祖国のために、生き延びるために」
ハンニバルはナポレオンから渡されたハンカチで右目の傷口を固く縛り、
大きく息を吸い込み……叫ぶ。
「聞けいっ!! カルタゴの同胞達よっ!!
これより我らはローマ元老院を討つため、祖国に平和と安寧をもたらすために、
GOLD商会の指揮下に入るっ!!」
GOLD商会構成員
チハヤ(総帥)
ランロット(食べ歩き中)
ボールス
パラメデス
クック
ジャンヌ
ダ・ヴィンチ
ナポレオン(New!!)
ハンニバル(New!!)
協力者
パイヤン(別行動中)