※この作品はR-18です。

英雄戦姫GOLD ボクが考えたブリタニア漂着ルート 修正版   作:シベリア!

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第12話『完敗』

 

 

ナポレオン及び彼女が率いる国軍が突如としてGOLD商会入りを宣言し、ローマ元老院をブチのめすと宣言してから数日が過ぎた。

 

元フランス軍とGOLD商会の面々(ランスロットを除く)はカエサル率いるローマ軍の追撃を振り切って国境を越え、一直線に首都へと進んでいた。

 

ローマの法では執政官は軍を率いたまま国境を越える事は禁じられており、国境を越えたチハヤ達を追跡、撲滅する事ができないのだ。

 

「右目はまだ痛むか?」

 

「いや、痛みはもうない」

 

ハンニバルの右目に巻かれた白い布は、流血により痛々しく染まっている。

治癒魔法等による治療を受けているが、流石に抉られた眼球を元に戻すことはできない。

 

出血は既に無い。

無いが、彼女の瞳は抉られたままだ。

 

とはいえ、片目の視力を失った程度で彼女の闘気は衰えず、おとなしく引退する気もさらさらない様子である。

 

「そのハンカチ、けっこう高かったんだから、後で洗って返しなさいよね」

 

「わかっている。 元老院の連中に一泡吹かせたら、洗って返そう」

 

ローマ兵達から必死になって逃げていた頃は全く意識しなかったが、落ち着いて確認すると、ナポレオンのハンカチには繊細かつ奥ゆかしい刺繍が施されていて、生地には柔らかな光沢があった。

 

「絶対に返しなさいよ、ちゃんと自分の手でね」

 

「こんな高級そうな布っきれを洗濯したことはないのだが……

まあ、なんとかやってみよう」

 

「それにしても……まさかカルタゴ軍がここまで少数だったとは、

 このナポレオンの目をもってしても見抜けなかったわ」

 

「やはり……ごがくじん……」

 

「やかましい」

 

ナポレオンが後ろを振り返る。

カルタゴ軍の数はフランス、ローマ連合軍と比べてかなり少数であり、装備も破損や欠落が目立っていた。

 

アルプスでの戦闘の影響からか、負傷している者もかなりいる。

治癒魔法の使い手はあまり多くないため、全ての負傷者を一気に完治させることは不可能であった。

 

「良くこんな乏しい戦力でローマに喧嘩を売る気になったわね。

 全盛期に比べてば落ちぶれたとはいえ、これじゃ相当厳しいわよ。

 私が鍛え上げたフランス軍も一緒に相手をする必要があるのだから、猶更」

 

「カルタゴは……ああ、カルタゴは貧乏だったからな。

 フランスやローマと真正面から戦えるだけの軍備は用意できなかった」

 

「フランスに……ローマ……?」

 

パラメデスが何かに気づき、考え込む。

 

「どうした、何かあったのか?」

 

「一国足りない……気が……ビザンツ帝国は国王不在、暴動も酷いから除外として……」

 

パラメデスが首をかしげる。

 

「カルタゴ軍の皆には悪いけれど、

 今の私達に負傷者の回復やランスロットの合流を待つ余裕は無いわね。

 『兵は拙速を聞くも、未だ巧の久しきを賭ざるなり』って孫子も言ってことだし、

 ローマ側が防衛態勢を整える前に、一気に勝負を決するわよ」

 

「ああ、カルタゴ軍に問題はない。

 あの程度の傷で動けなくなるほど、ヤワな鍛え方はしていないからな」

 

片目の視力を失いながらも、ハンニバルは危なげなく馬を操る。

馬上で鋸めいた片手剣を軽く振り、自己の視界を確認しているようだ。

 

ハンニバルの後に続くカルタゴ兵達は、手痛い敗北の直後だというのに、脱走どころか弱音を吐く者すらいなかった。

 

「……孫子って、誰だ?」

 

記憶喪失故に、割と世情に疎いチハヤがこっそりとナポレオンに耳打ちした。

 

「大華帝国の有名な武将よ。

 兵の動かし方を記した本を執筆した人で、私も愛読しているのよ。

 この間のキカク・メソッドもその人の本で紹介されていたわ。

 ああそれと、若くて可愛い女の子みたいよ、噂だと」

 

最後の一文はともかく、軍事の天才と呼ばれる彼女が参考にするほどの本を書く人らしい。

 

「どんな人だろう……できることなら、一度会ってみたいな」

 

「総帥、また女口説く気ですか?」

 

クックがじと~っとした軽蔑の眼差しをチハヤに向ける。

 

「いやいや、口説きに行くわけじゃないぞ」

 

「この総帥は少し目を離すとすぐ女口説きに行くですから、正直信用できねーですぅ」

 

「そんなことはない……と、思うぞ……たぶんな」

 

歯切れの悪い返答を聞き、クックがさらに不機嫌そうな顔でチハヤを睨んだ。

 

「カミサマは言いました、口説くのではない、口説いてしまうのが総帥だと」

 

「……だからこっちは困ってるですぅ」

 

「しかし、そういう総帥だから、貴女は好きになったのではありませんか?」

 

「好きじゃねーですぅ!! 全然好きでも何でもねーですぅっ!!」

 

「では同室を私に明け渡してください」

 

「それはそれで……なんか……嫌ですぅ……」

 

「先っちょだけ、先っちょだけでいいので」

 

「聖処女のクセに卑猥な事言うなですぅっ!!」

 

クックとジャンヌの言い合いも、もう何度目になるかわからない。

この2人はチハヤの事が話題になる度に、こうやって口論をして、喧嘩を始める。

 

「……その話、本当なのっ!?」

 

そんなやりとりを眺めていると、やや前方を進むナポレオンが驚く声が聞こえた。

 

「どうした? なにかあったのか?」

 

「総帥? ええとこれは……いえ、この話は総帥にも聞かせた方がいいか。

 ハンニバル、悪いのだけれど、今の話もう一度最初から聞かせてもらえる?」

 

「あまり愉快な話でもないのだがな……」

 

ハンニバルは気が乗らない様子だった。

 

「カルタゴがローマに戦いを挑んだ理由を聞かれた……ただ、それだけの話だ。

 だが、敗軍の将に過ぎない私が今さら何を言っても……」

 

「GOLD商会は例の暴動騒ぎについて探っている。

 欧州の混乱を終息させて、総帥の記憶の手がかりを見つけるためにね。

 その件とさっきの話に繋がりがあるかもしれないのよ」

 

「……記憶? 総帥の?」

 

ハンニバルが怪訝そうな目でこちらを見る。

 

「ああ、俺はブリタニアに漂着する以前の記憶がないんだ。

 どこで産まれたかとか、どんな家族や友人がいたかとか……そういった記憶が全部無い。

 ただ闇の玉っていう、人に憑依して正気を失わせる玉の事を何故か知っていて、

 今回の暴動騒ぎが、その玉が関わっているんだ。

 もちろん、欧州の混乱を鎮める事をおろそかにする気はないけれど、

 自分がどんな人間だったのか、知りたくないって言えば、嘘になる」

 

「しかし、カルタゴでは暴動は数える程度しか起きなかったぞ。

 それに先ほどの話が、暴動と関連するとも思えないのだが」

 

「頼む、ハンニバル」

 

躊躇するハンニバルをじっと見つめる。

彼女は少し悩んで……それから、諦めたようにため息をついた。

 

「あまり愉快な話ではないが、命の恩人の頼みでは仕方がないな」

 

「命の恩人兼カルタゴの救世主よ」

 

ナポレオンが訂正を入れる。

 

「そう呼ぶのはまだ早いな、ローマに勝ったらそう呼ばせてもらう。

 しかし再び祖国のために戦う機会もらったのは、感謝している。

 だから……話そう。 ただし、役に立つ情報かは保障できないぞ」

 

そう言うとハンニバルは、少し悔しそうに奥歯をかみ締める。

 

「カルタゴがローマに宣戦布告をした理由は、

 賠償金支払いの取立てが厳しくなった、たったそれだけだよ、

 しかし我々にとっては死活問題だ。

 先の戦争で敗北した結果とはいえ、いくらなんでも餓死者、

 過労死者が続出するような苛烈な取立てにまで応じるつもりはない。

 だから宣戦布告を決意し、表向きはローマとの友好を示しながら、

 裏では軍備を整えることにした」

 

「大勢死んだのか?」

 

「違う、殺されたのだ……皆真面目で、良く働き……家族を愛して……」

 

ハンニバルが俯き、両手をぎゅっと握り締める。

 

「いや、不甲斐ない指揮を執り、皆を戦死させた私も同罪だな」

 

ここで、ナポレオンがチハヤに小声で話しかける。

 

「総帥、闇の玉に憑かれた人の共通点を思い出して、

 ありえない妄想、破壊的な思考、自制心の欠如……暴力性の発現」

 

そう言われて、チハヤはジャンヌやダ・ヴィンチ、ベートーヴェンの言動を思い浮かべる……

 

「前にも言っていたな、元老院が闇の玉の影響下にあるかもしれないって。

 だからカルタゴへの搾取が以前よりも苛烈になった」

 

「良く分からないが、

 何者かがカルタゴを滅ぼすために元老院に闇の玉とやらを使ったのか?」

 

俺とナポレオンの話を聞いていたハンニバルの瞳に冷たい殺意が生じる。

彼女は散っていった同胞を想い、冷静、それでいて激しく怒っているのだと感じた。

 

「ええ、だからローマ元老院の連中は半殺しぐらいですませておきなさい。

 ただ操られていただけの存在を殺すのは無駄だし、

 もしかしたら黒幕について何か知っているかもしれないもの」

 

「ふん、やむをえんか。 だが2~3発は多めに殴るから、それは止めてくれるな。

 それともし、元老院の連中が自らの意思でカルタゴの民を害そうとしていたのなら……」

 

「その時は止めやしないわ、せめて苦しまぬよう一撃であの世に送ってやりなさい」

 

「ふふふ……その約束はしかねるな」

 

ハンニバルが鉄槌をぶぉん、ぶぉんという音と共に振り抜く。

もし鉄槌の軌道上に人間の頭が存在したら、一瞬の痛みを感じることもなく即死することだろう。

 

そんな事を話していると、街道の彼方よりローマの城壁が見えてくる。

それと同時に……おびただしい数の騎馬兵がこちらを待ち構えているのも見えた。

 

「防衛態勢を整える前に攻撃する作戦……使えねーみたいですぅ」

 

「でもあれ、ローマ兵じゃないっぽいよね? どこの軍だろ……」

 

ボールスが言うように、ローマの前に展開する軍勢は、カエサルが率いてきた軍とは明確な違いがある。

鎧の面積が少なく、致命傷になりやすい部分のみを覆う形になっている。

また、鎧や兜の形状に差異があり、ローマ兵のように大型の盾を持つ者がいない。

そして何より目に付くのが、軍の大部分が馬に乗り、弓矢を背負っていることだろう。

 

「カミサマは言いました、馬上で弓を引くのは相当な訓練を要すると」

 

「それをあれだけの数を揃えられるのか。 歩兵主体のローマ軍ではありえないわ。

 東方の騎馬民族……モンゴル辺りから援軍でも来たのかしら?」

 

「いや、ありえねーですぅ。

 ローマから騎馬民族の土地までどれだけ距離があると思ってるですぅ」

 

兵達に交戦準備をさせつつ、ナポレオンは注意深く敵軍を観察する。

ナポレオンもそれに従う将兵も全く淀みなく行動する。

 

「ローマとモンゴルが友好関係にあるなんて聞いたことねーですぅ。

 それに、モンゴルの旗を掲げているヤツは一人もいねーですぅ」

 

「むう……そーすい、あれはたぶん……」

 

パラメデスが俺の袖を引き、ボソボソと呟く。

 

「何か知っているのか?」

 

「たぶん……フン族……」

 

「フン族? なんだかどこかで聞いたような……」

 

商会メンバーの全員の顔が、見事なまでに青ざめていた。

 

「いやいやいやいや、それはいくらなんでもねーですぅ。 ねーですよね?」

 

クックが半分涙目になりながら、ナポレオンの方をチラリと見る。

 

「ありえないわね、だいたいあの数のフン族が団体行動をとれる訳がないわ。

 あいつら蛮族なのよ。

 そんな事を実現できたのなんてそれこそアッ……アイツくらいなものよ」

 

「そーそー、アッティ……例のアレでもいない限り無理だって」

 

ボールスとナポレオンが滝のような汗を流しながら、必死になって敵軍を視界に入れないようにしている・

 

「カミサマは言いました、現実は非常であると。

 歴史の本で見たフン族の特徴とピタリと一致します」

 

「嘘だと言ってよ、バーニィ……」

 

「ジャンヌですが何か?」

 

ナポレオンとジャンヌの訳のわからないやりとりをよそに、フン族の軍勢は隊列を保持したまま、強い殺意を持ってこちらを睨んでくる。

 

「いよお~~~、欧州のクズ共よぉ~。

 俺様が死んでいる間、平和だったかぁ~? いい物食ってたかぁ~?

 金は稼いだかぁ~? 羨ましいじゃねーか、妬ましいじゃねーかぁ」

 

そんな軍勢の中で、最も豪華な装飾、重厚な武装、体格の良い馬を有する人物が、大きな声でゲタゲタと笑っていた。

 

「あれがフン族の指揮官……いや、族長と呼ぶべきか」

 

「どっちでも構わないわよ。

 それよりも、フン族を訓練された軍隊のように従えるなんて、

 死んだアッティラ以外の誰にもできなかったこと……アイツもきっと只者じゃないわ」

 

ナポレオンの声が聞こえたのか、先頭の人物がさらに大きな声でゲタゲタと笑う。

 

「ち・が・う・ねぇ~、違うんだよぉ~……俺が死んだ?

 ああ死んださ、確かに死んだとも。

 だけどなぁ、俺様は今、こうして生きてここにいるぜぇ~」

 

商会の皆の表情が固まる。

 

「そうさぁ~~~、誰も俺様の真似なんてできやしねぇし、させやしねぇ~。

 俺様だけが、俺様で、俺様なのさぁ~……」

 

「も……もしかし……マジ? マジモン?」

 

「フン族を従える、そんなありえない事ができるのは、もしや……」

 

「野蛮人と呼ばれるガリア人の中でも一際恐れられるヘグウェティイ族ですらビビる

 ゲルマン人すら追い散らしたフン族の親玉の……」

 

「宴会中に鼻血を出して死んだはずの……」

 

「いや、ちょ、その死に様は俺様も恥ずいからやめて」

 

「宴会中に原因不明のなんやかんやで死んだはずの……」

 

商会の全員がガタガタと震え始める。

兵達の中には立ったまま失禁する者すらいた。

異様な寒気が、俺の背中に走る。

 

「アッティラアアアァァァーーーーーッ!!?」

 

「そぉ~~さぁ~~、俺様だよぉ~~~」

 

その人物……アッティラが悠然とした態度で両腕を広げてみせる。

 

「聞いたぜぇ~、俺様が死んでからフン族は分裂してよぉ~、

 欧州のクズ共に追われてるってなぁ~! 貧乏人だと思ってナメやがってよぉっ!!

 てめぇら全員ブチ殺してぇっ! 全部奪ってぇっ! 女は全員慰み者よぉっ!!」

 

激高するアッティラの叫び声に反応し、フン族達が咆哮した。

 

「死姦趣味の蛮族にヤられるなんて御免ですぅ!! てめーら気合入れていくですよ!!」

 

 

 

 

 

……戦闘開始……

 

「開幕直後のスーパーチャージ! か~ら~の~……」

 

「さぁて、それじゃあ正式参戦した私の実力を見せてあげようじゃない……

 絶対可能砲! てぇーーーっ!!」

 

チョドーン!

 

「んがっ!? 馬鹿な? 今回は負けイベントのハズだろーがよぉ!?」

 

「正直、クリアボーナス込みなら十分に覆せる戦力差なのよね。

 まあ、やりこみプレイヤーなら一周目でも勝つけど」

 

「いや、あんたさ、空気読んでよ、いきなり出てきてあっさり負けましたじゃ、

俺様なんのために出てきたのかわかんねぇよ」

 

「私の辞書に『空気』という文字は無いわ。

 戦闘が終わったら負けてたって事にしとくから早く散りなさい」

 

「約束だぞぉ! 嘘ついたら化けて出るからなぁ!!

 やぁ~らぁ~れぇ~たあああぁぁぁ~~~……」

 

「もう少し力入れて演技しなさいよ……」

 

「うるせぇよ金持ちっ!

 俺様は百戦百勝のアッティラ様だぜ、やられ方なんて知らねーんだよぉっ!!」

 

……戦闘終了……

 

 

 

 

 

咽返るような血の匂いと、赤い霧のように舞い散る血飛沫の中で、一人、また一人と商会の兵が倒れていく。

 

さっきちょっとだけ勝てそうな雰囲気だったが、どうやらチハヤの気のせいだったようだ。

 

「ぎゃああぁっ、コイツら強すぎぃ!」

 

「ナポレオン! 何とかできねーですかぁっ!?」

 

「無理よっ! 不可能よっ!

 ローマ軍お得意のファランクス戦法を想定して装備や陣形を組んでるのよ!

 いきなり騎馬民族の大群が出て来るなんて想定してないわっ!」

 

ナポレオンが思わず弱音を吐く程に、その戦いは最初から最後まで劣勢極まりないものであった。

フン族は恐るべき疾さと冷酷さでもって俺達に襲い掛かり、各隊の連携を瞬時にズタズタに引き裂いていく。

 

GOLD商会及び元フランス軍の前衛部隊は必死の抵抗を続けているが、既に全滅寸前になっていた。

大砲やマスケット兵達も休まず銃撃を続けるが、騎馬民族特有の疾風のような速さ、変幻自在の戦術に翻弄され、ロクに有効打を与えられない。

 

「総帥、このままでは全滅します、撤退許可を」

 

全体の指揮を執るジャンヌがじりじりと後退する味方を見据えながら具申する。

味方が総崩れとなり、敵がここまで押し寄せてくるまでそう時間はかからないだろう。

 

「だが、前線を支えるボールスやハンニバルを見捨てる訳には……」

 

「馬鹿っ! 総帥が逃げなきゃ、あいつら死ぬまで時間稼ぎを続けるわよ!

 今は1秒でも早く、1cmでも遠くに逃げるのがあいつらの助けになるの!」

 

ナポレオンに怒鳴られ、俺は撤退を指示、そしてすぐさま馬上へと引っ張り上げられる。

 

「ジャンヌよりGOLD商会全部隊に告げます。 総員撤退せよっ!!」

 

「今は速度を優先、大砲は全て捨てていきなさいっ!!

 ああもうっ!! 速攻で首都を落として元老院共をブチのめす算段がパァよっ!!」

 

ジャンヌやナポレオンの号令が戦場に響き、商会の兵達が戦場から離脱を始める。

元フランス軍が持ち込んで来た大砲……どれもかなり高価な物なのだが、それを持ち帰るだけの余裕は既になかった。

 

「重くてお高い大砲はこんな時に便利よねぇ!

 敵が大砲を拾うのに夢中になってる間、距離が稼げるわっ!」

 

「ナポレオン、涙目になってるですぅ」

 

「泣きたくもなるわよっ!! 高かったのにぃっ!!」

 

……

 

…………

 

………………

 

それからどの位の間、逃げ続けたのだろうか。

チハヤ達は時間の感覚さえ失いつつあった。

 

前線を支えていたボールス、ハンニバルの隊は完全に見失ってしまった。

フン族の追撃部隊は昼夜を問わず襲い掛かり、元フランス軍およびGOLD商会の気力と体力を着実に奪い続けている。

既にかなりの人数が殺され、または拉致されていった。

 

そして……

 

「……ちっ、ここも略奪された後か」

 

ナポレオンが歯噛みする。

 

コイン一枚、麦の一粒、布切れ一つ残らず略奪された村が目の前にあった。

男は皆殺しにされ、女は犯されてから殺された跡があった。

その光景に、チハヤ達は吐き気を覚えた。

 

フン族によって拉致された仲間達の末路もきっと……そう考えると、チハヤは全身の血が怒りで煮えたぎるかのような気分になった。

 

「でも実際のトコ、ウチら相当危ういんちゃう?」

 

ほぼ不眠不休で走り続けたせいか、ダ・ヴィンチの顔に生気がない。

少しでも騎馬兵が走りにくい場所を選んで進んでいた事もあり、他の全員も疲れきった表情をしていた。

 

「いい加減……キツイですぅ……」

 

「カミサマが言いました、諦めたらそこで人生終了だと」

 

「う~ん、おかしいわね……そろそろ海岸線が見えてくると思うのだけど……」

 

ナポレオンとクックが血と泥に汚れた地図と太陽光によって生じた影を見比べ、現在位置を割り出そうとしていた。

 

……だがその時、ここ数日で聞きなれた、蹄鉄が大地を蹴る音がした。

 

フン族の追っ手がこの近くまで来ている音だ。

 

「……まったく、昼寝をする時間すらもらえないようね。 クック、西はどっち?」

 

「あっちですぅ! てめーら、慌てず騒がずとっとと逃げるですぅ!

 死姦趣味の蛮族どもが来てるですよ!!」

 

クックの掛け声を聞いた数少ない生き残り達は、皆無言で荷物を掴み、即座に西に向かって走り出す。

少しでも躊躇をすれば殺されて慰み者にされるか、慰み者にされて殺されるかのどちらかだという事は、

この数日で何度も目撃し、十分すぎるほど理解していた。

 

しかし、それでもフン族の行動は素早く、必死に駆ける俺達の周りには、すぐに多数の追撃部隊が現れた。

 

「走って……そのまま真っ直ぐ……」

 

そんな中、どこからか声が聞こえた。

それは俺の知らない少女の声だった。

 

周囲を見渡す……しかし、そこにいるのは全て見知った顔で、声の主らしき人影はない。

 

「これよ、これっ!」

 

ナポレオンが上着の内ポケットから通信石を取り出す。

 

「こちらはナポレオン、もう合流ポイントまで来ているの?」

 

「もっちろん! それよりもピンチなんでしょ? すぐに上陸して駆けつけるから……」

 

「待ちなさい。 貴女が合流しても今から巻き返すのは難しいから、

 今は動かずに撤収の準備。 いいわね?」

 

「わかったよ。 漕ぎ手のみんな~、もうすぐ出番だから配置に着いてーっ!」

 

少女の号令と共に、通信石の向こう側で多くの人が忙しなく動く音が聞こえてくる。

しかし、フン族の追っ手は想像以上に足が速い。

こちらに飛んでくる矢の数も、脱落する商会の兵も徐々に増えている。

今の通信について尋ねる余裕は、既になかった。

 

「皆、聞いて! もうじき連中を撒ける場所まで辿り着くわ。

 だからもう少しだけ踏ん張りなさい!!」

 

ナポレオンの激励を聞き、商会の皆に生気が戻る。

僅かではあるが確実に、その足取りが軽く、そして速くなった。

 

騎馬兵の足を遅くするため、そして少しでも目的地までの距離を縮めるため、チハヤ達は雑木林の中を突き進む。

 

無秩序に延びる枝葉や、飛んでくる矢によって傷つき、何人かは倒れ伏しながら、走り、走り、走り……林を抜けたとき、そこには広大な水平線と、切り立った崖が見えた。

 

「……行き止まり!? マズイ、フン族の追っ手はもうそこまで来ているぞ!」

 

「違うわ! ここが目的地、合流ポイントよ!

 全員、その勢いのまま跳べえええぇぇぇーーーっ!!」

 

チハヤはナポレオンに引っ張られ、崖から海に飛び降りる。

一瞬とも……数秒とも思えた浮遊感を感じ……そのまま海上にある船の甲板へと着地した。

 

「えっ……船!? なんでこんな所に?」

 

そこには10隻前後の船団があり、商会の生き残りが俺達を追って、次々と船上へと着地してくるのが見えた。

そしてフン族の追撃部隊も、当然のように船に飛び込む。

 

乗船していた船員達が曲刀や拳銃を手に応戦を開始する……今はまだ数人しか敵が乗り込んで来てないため、辛うじてこちらが優勢であるが、じきに数え切れない数のフン族が船団に殺到するだろう。

 

今すぐこの場を離れるべきだろうし、どこの誰だかわからないが、この船団の責任者もきっとそう判断するだろう。

だがしかし、前線を支えていたボールスやハンニバルと別れたままで、彼女らの無事がまだ確認できていない。

 

「大丈夫だよ、ブルペンで肩を温めておいたからね」

 

そんな事を考えていると、紅い髪の少女が、船室から甲板へと上ってくる。

 

「要は馬に乗ってる人達を足止めすればいいんでしょ? なら……ボクがやるよ」

 

「提督、お願いしやす」

 

船員が頭を下げ、少女に鉄球を渡す。

少女は鉄球を強く握り締め、その重さを確かめるように、軽く肩を回す。

 

「こ……この船……スペインの国旗……それに提督って……もしかして……」

 

クックが目をグルグルさせながら、少女の一挙一動を注視する中、船上立つ赤毛の少女が、先ほど通信石から聞こえたものと同じ声で気合を入れ、手にした鉄球を大きく振りかぶる。

 

「ここでリリーフエース登場っ! いっくぞおぉーーーっ!!」

 

ぶぉんっ、という風切り音とともに、鉄球が凄まじい速度で、まるで重力というものを踏みにじるかのように一直線に飛ぶ。

 

そして鉄球は先ほど通過した崖に吸い込まれ、岩肌に無数の亀裂を発生させる。

 

「もいっぱーーーーーっつ!!!」

 

先ほどの鉄球をも越える速度と回転が加えられ、二発目の鉄球が一発目のやや左上を撃ち貫く。

 

崖にはさらなる亀裂が走り、今にも崩れそうになった。

それを見たフン族の追撃部隊の足が止まる。

 

そして追撃部隊の動きが止まった次の瞬間、まるで血液のプールを力泳してきたかのような姿をした2人の少女が、先の鉄球に負けないほどの速度で飛び出してくる。

 

「いよぅし、抜けたぁ! ハニバさん、先に跳んで!」

 

「どうする気だ!?」

 

「いいから先に行って!!」

 

ボールスに背を押され、ハンニバルが崩れかけの崖から飛び出し、多少よろけながらも船上に着地する。

 

ただ一人残ったボールスは躊躇する追撃部隊の方へと向き直り、手にした戦槌に己の全魔法力を注ぎこむ……

 

「クレシューズ……最・大ぃ・出力ぅっ!!」

 

クレシューズが金色の輝きに包まれ、後方の噴射口から爆炎が上がる。

直後、洋上の船をも大きく揺らす轟音と衝撃が迸り、崩壊寸前だった崖が爆発した。

 

夥しい数の破片と、いくつかのフン族の死体が海へと降り注ぐ中、ぐったりとした様子のボールスが落下する。

 

甲板に激突する寸前、チハヤが落下地点に滑り込み、ボールスを抱きとめた。

 

「あはは……ごめんね総帥……負けちゃったよ……」

 

血と汗でぐしゃぐしゃになった顔と、疲れきった表情でボールスがそう告げる。

 

「いいんだ、いいんだよ……ボールスが無事なら、それで……」

 

その言葉を聞いて安心したのか、少しだけ彼女の表情が和らぎ、そのまま気絶するように眠りに入った。

 

きっと、崖を崩した一撃に残った力の全てを注ぎ込んだのだろう。

鎧は所々が砕け、凄い量の汗が出ているのに、体温は低い。

その上、生々しい傷口がいくつも開いていた。

すぐに止血をしなければ、このまま絶命するのではないかと思うくらい、酷い状態だった。

 

崩れ落ちた崖の方を見ると、フン族の追撃部隊は船上に飛び移るのを諦め、弓矢でこちらを狙っているのが見えた。

 

「よーし出港!! 漕げ漕げ漕げ漕げぇ~~~!!」

 

赤い髪の少女の号令が響き渡り、船が急発進をする。

意識のないボールスが転げ落ちないよう、全身を抱きしめながら、チハヤは遠ざかる陸地を見送った。

 

……

 

…………

 

………………

 

陸地から離れ、重傷だったボールスやハンニバルの手当ても終わり、GOLD商会の面々はようやく窮地を脱した事を実感できた。

 

商会の幹部クラスは全員生きて乗船できたのだが、その代わり兵士の大部分は脱落してしまっていた。

それこそ、僅か10隻のガレー船に分乗できてしまう程に……

 

「完敗……だな……」

 

「いいえ、ここから巻き返すわよ」

 

ナポレオンが甲板にいくつもの通信石や地図を並べ、何かの計算式を書類上に書き連ねながら、俺のぼやきに反論した。

 

「当然だ、一度や二度の敗北程度で諦めてたまるものか」

 

全身に包帯が巻かれながらも、ハンニバルの瞳は未だに闘志を宿している。

 

「だが……できるのか?」

 

チハヤの声は震えている。

アッティラの軍勢は恐ろしく強く、多勢で、しかも一つの生き物のように連携しながら襲い掛かってきた。

どんなに精強な軍を揃えたとしても、あれに勝利するのは容易ではないだろう。

 

「私……ナポレオン・ボナパルトの辞書に『不可能』の文字は無い。

 勝機は必ず見つける、アッティラは必ずこの手で倒して見せる」

 

ナポレオンも決して少なくない傷を負っているが、諦める気は全くないようだ。

それならば、俺だけが早々に諦める訳にもいかない。

 

「マゼラン提督、来て早々悪いのだけれど、貴女の力もアテにさせてもらうわよ」

 

艦の先頭部分に立ち、腕組みをしながら風に当たっていた少女が、その名を呼ばれ振り返る。

 

「わかってるよー。 このマゼラン&スペイン無敵艦隊が仲間になったからには、

 絶対無敵の元気爆発、熱血最強で完全勝利だよ!!」

 

「こ……言葉の意味はわかんねーですけど、とにかくすげー自信ですぅ」

 

「作者は最近、勇気爆発ってのにハマってるらしいわ」

 

「唐突にメタネタを出すなですぅっ!!」

 

憧れの人……フェルディナンド・マゼランを前にしながららもいつものようにツッコミ眼鏡をやっているクックをよそに、マゼランは何かを思い出し、手をポンと叩く。

 

「……あっ、そーだ。 国王陛下からナポレオンさんに伝言頼まれたんだった。」

 

そう言いながら彼女は、何かを探して服のあちこちを探り始める。

 

「ん~? アレはどこにしまったかな……えっと……ここじゃない……ここでもない……」

 

「……あっ」

 

そんな中で、パラメデスが何かを思い出し、俺の服の袖を引っ張る。

 

「そーすい、思い出した……足りない一国……」

 

パラメデスは天に向かって指をさす。

そこにはメインマストと、風にはためくスペイン国旗、そして雲一つ無い青空が広がっていた。

 

「足りない一国って?」

 

「ローマの同盟国……フランスと、ビザンツ帝国、それとスペイン」

 

「む……言われてみれば、何故スペインの艦隊が助けに来たのだ?」

 

「ハンニバル? 何か知っているのか?」

 

チハヤの疑問にハンニバルが答える前に、マゼランが胸の谷間……と表現するには、彼女の乳房は豊満な方ではないのだが、とにかく胸と衣服の間にあったメモを見つける。

 

「……あった! あったよ、ナポレオンさん。

 ホラ、忘れちゃいけないと思ってメモを取っておいたんだよ」

 

「何か猛烈に悪い予感がするけど……聞くわ」

 

ナポレオンが強い潮風が吹いているにも関わらず、凄い量の汗をかいていた。

 

「おっけー、じゃあ読むよ。 前略、フランス軍総司令官ナポレオン殿、

 貴女が提唱した大陸封鎖令により、スペイン経済は少なくない打撃を受けました。

 我々スペイン政府は明確に反対の意を示したにも関わらず、

 フランス軍の武力による威嚇によって、強制的に賛同させられたことは、

 決して忘れる事ができません。

 しかし先日、提案国であり、どの国よりも封鎖令を堅持すべきフランスが、

 真っ先にブリタニアとの交易を再開しました。

 スペインに対して何の根回しもしませんでした。

 たいがいにしろよカスが、マジで親のダイヤの結婚指輪のネックレスを指にはめてぶん殴るぞ。

 貴公の首は柱にでも吊るされるのがお似合いです……以上」

 

(意訳)スペインはフランスに対し宣戦布告をします。

 

ナポレオンは震える腕でハンカチを探したが、

ハンカチはハンニバルの傷口を隠すのに使っていることを思い出し、服の袖で汗を拭った。

 

「……考えて見たらカルタゴ軍は、

 ずいぶんとあっさりスペイン海軍の警戒網を突破していたわね。

 それに、上陸地点もスペイン領だった……」

 

「す……すまない……てっきりもう知っているものだと思い込んで、言い忘れていた。

 予想よりもローマへの援軍として派遣されていたフランス軍が多いと思ったが、

 そうか、まだ知らなかったからか……」

 

ハンニバルは『やべぇ、やっちまった~』とでも言いたそうな顔で目を背けていた。

 

「カミサマは言いました、つまりどういう事だってばよと」

 

「カルタゴとスペインの同時宣戦に決まってるでしょう!

 大ピンチよ! 大ピンチッ!!」

 

ナポレオンはそう叫ぶと頭を抱えてしまうのであった。

 

 

 

 

 

GOLD商会構成員

 

チハヤ(総帥)

ランロット(食べ歩き中)

ボールス

パラメデス

クック

ジャンヌ

ダ・ヴィンチ

ナポレオン

ハンニバル

マゼラン(New!!)←注目

 

協力者

パイヤン(別行動中)

 

 

 

 

 

「……って何故この流れで仲間になったですぅーーー!!」

 

クックの叫びが海上に響き渡った。

 

「え? 今の流れは完全に仲間になる流れじゃなかった?」

 

「おめー……じゃなくて、マゼラン提督は状況がわかってるですか!?

 スペインがフランスに宣戦布告したですよ、敵同士ですよ!」

 

「え……え~と、敵対してるのはスペインとフランスで、君達はGOLD商会で、

 ボクも今日からGOLD商会……あれ? どっか問題あった?」

 

「しっかりするですぅ! 提督はスペイン海軍所属ですぅ!!」

 

「でもほら、ボクらスペイン海軍が友達のピンチに駆けつけて、

 さあ、巨大な悪に力を合わせて立ち向かっていくぞ~。 って流れだったよね?

 あれ? ナポレオンさんってGOLD商会だったっけ? フランスだっけ?」

 

「GOLD商会よ」

 

ナポレオンは間髪入れず返答する。

 

「じゃあ無問題だね!!」

 

「歓迎するわ、マゼラン提督。 ようこそGOLD商会へ」

 

……そういうことになった。

 

船上でナポレオンとマゼランがガッシリと握手を交わす。

そしてクックが頭を抱えながら、理想のマゼラン提督像が崩壊していくのを呆然と眺めていた。

 

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