※この作品はR-18です。

英雄戦姫GOLD ボクが考えたブリタニア漂着ルート 修正版   作:シベリア!

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第4話『漆黒の箱』

 

ロンドン港にてブリタニア王国が放ったの追っ手(?)を蹴散らしたチハヤ達であったが、その後は特に何事も無く出港してドーバー海峡を横断、ブルッヘの港へと入港できた。

 

「チハヤ、先に言っておくですけど、交易許可証はしばらく隠しとけですぅ」

 

「え? どうして?」

 

クックの言葉にチハヤが首を傾げる。

その手には円卓の騎士からの追及(ただし凄く三文芝居っぽい)を受ける前に取得したブリタニア王国の正式な海外交易許可状が握られていた。

 

「総帥、フランスの法律ではウチの国との交易は違法行為なの。

 馬鹿正直に役人に許可状を見せれば、最悪の場合その場で射殺されちゃうんだからね」

 

「ブリタニア経済に打撃を与えるため、

 かのフランスの英雄・ナポレオンが旗振り役になって、

 欧州のほぼ全ての国々を巻き込んで実行された、大陸封鎖令ってヤツですぅ。

 ぶっちゃけ、これがここしばらく続いている不景気の原因ですぅ」

 

「海外から物が買えない、物を作っても海外に売れない。

 物価はどんどん高くなって、収入はどんどん減っていくって訳だ」

 

「皆がお金を節約しようとして~、誰も何も買わなくなり~、

 どうせ売れないので誰も何も作らなくなり~、皆がお腹ぺこぺこになっていきます~」

 

「海洋国家のブリタニアを弱らせる……最良の一手……

 カネの切れ目が縁の切れ目……カネが無いのはクビが無いのと同じ……」

 

ランスロット、ボールス、パラメデスの3人がうんうんと頷き合う。

記憶喪失のチハヤにはやや実感が薄いが、国の中枢を担っていた円卓の騎士である彼女ら3人には、大陸封鎖令の恐るべき効果を肌身に感じている様子である。

 

「ウチの国は元々羊毛とか甲冑とかの輸出でカネを得ていたですし、

 東方でしか採れない茶葉や香辛料は生活に深く根付いちまって、

 今更捨てられねーですぅ。

 だから輸入がほぼ途絶えたら価格が天井知らずに上がっちまったですぅ」

 

「食い物の恨みは恐ろしい事を~ナポレオンさんに教えてあげたいですね~」

 

ランスロットはにこやかに笑いながらそう話すが、眼が笑っていなかった。

 

「しかし、それなら何のために交易許可証を入手したんだ?

 これを取るのに結構面倒な手続きをして、お金も時間もかかったのに」

 

「そりゃ後で必要になるからですよ」

 

「後でって?」

 

「ナポレオンさんに大陸封鎖を解除してもらった後ですよ、ししょ~」

 

「……ランスロット、商会を作った後も師匠呼びは続けるんだな」

 

「そりゃそ~ですよ~。

 ししょ~は私に新たな食の喜びを教えてくれた偉大な人ですから~」

 

俺は普通に料理をしてただけなんだけどなぁ……と、チハヤはやや複雑そうな表情で天を見上げる。

 

「話を戻すですぅ。 数年前にブリタニアとフランスが講和をした時、

 ナポレオンは大陸封鎖令を解除すると約束してるですぅ。

 そろそろ約束を履行させたい……んですけど……」

 

クックがランスロット、ボールス、パラメデスの3人をギロッと睨みつける。

3人の円卓の騎士達は揃ってバツが悪そうに視線を逸らしてしまった。

 

「あれ? 講和の時に約束してたって、

 それならどうして大陸封鎖令がまだ解除されてないんだ?」

 

若干聞くのが怖かったが、チハヤは意を決してクックに聞いてみた。

 

「講和条約の文言を良く読まなかったアーサー王がマヌケだったからですぅ」

 

「そうそう、大陸封鎖令の解除は約束してたけど、

 何年何月に解除するかまでは書いてなかったって」

 

「解除する……解除するが、まだその時と場所の指定まではしていない……

 その気になれば大陸封鎖令の解除は10年20年後ということも可能だろう……」

 

「20年後にはウチの国民は軒並み一文無しの失業者ですぅ。

 しかも私掠船の廃止っていうこっちに不利な約束は即座に履行したですぅ、

 ウチの国王陛下様は」

 

「い、いやぁ、そっちは時期とか方法とかキッチリ条文に書かれてて……」

 

「いっそ戦争で失った信頼を少しでも得るためにって~

 自ら率先して動いていましたね~アーサー様は~」

 

「……やむを得ない犠牲だった」

 

「てめぇら円卓の騎士なら講和文書くらいちゃんと読んどけですぅっ!!

 アレが新米国王って分かってたハズですぅ!!」

 

「そ、それを言われると……」

 

「少し……厳しい……」

 

「王位継承のゴタゴタで、旧女王陛下の家臣は大体追い出してしまいましたからね~。

 国王も新米なら~私達円卓の騎士もみ~んな新米です~」

 

「言い訳すんなですぅ、この給料泥棒ぉっ!

 海軍の予算がどんだけ減ったか知ってるのかですぅ!!

 そんな事だからドレイク提督が愛想尽かして出て行ったですぅ!!」

 

3騎士が恐縮しきって小さくなっていく。

 

「なら、ナポレオンって人に約束通り大陸封鎖を解除させれば良いんじゃないか」

 

「ちなみにフランス側は、複数の国々で連携してやってる事だから

 一国の判断で解除はできねーって言ってるですぅ。

 どこどこ国の特産物が売れなくなるだの、

 どこどこ国はブリタニアの私掠船に深刻な被害を受けていて態度を硬直させてるだの」

 

「しらじらしい……」

 

「アーサー様も初心者なりに頑張ってますから~、多めに見てあげましょうよ~」

 

「まあ、その辺は今後の成長に期待しましょうって事で、こっちはこっちで頑張ろっか。

 今回の欧州動乱で被害を受けてる国って、だいたい大陸封鎖令に賛成してる国だから、

 上手く恩を売って、陸封鎖令を解除してもらわないとだね」

 

「あくまでブリタニア王国とは無関係って体裁は忘れんなですぅ」

 

「そうですよ~、私達は生まれ故郷の苦境に義憤を募らせ~、

 正義の心でやってきた円卓の騎士とは無関係な団体ですから~」

 

「まあ、王様にヘタな三門芝居までさせたんだし、その辺は上手く誤魔化さないとだね」

 

「でもナポレオンさんには~、

 食い物の恨みは海よりも深く~山よりも高いって事を~

 念入りに教えてあげましょうね~、正義の心で~」

 

「話がこじれるから絶対にやるなですぅっ!!」

 

そんな事を話しながら、パラメデスが持ってきた地図を広げる。

 

「……けっこう詳細な地図があるんだな」

 

「ここからオレルアンの辺りまでは、ほんの少し前までブリタニア領だったからね。

 当然、その頃に測量は済ませてあるって訳よ」

 

「この線が当時の国境?

 だとするとフランスの3分の1から半分くらいを占領していたのか。

 案外、優勢だったんだな」

 

……そう言うと、ランスロットを除いた3人が一斉に視線を逸らした。

 

「その地図はナポレオンとジャンヌ・ダルクが戦場に出てくる直前の時期ですぅ……」

 

「そこから先は……かなりひさん……ぶっちゃけ、フルボッコ……」

 

「ドレイク提督がいなかったら終わってたですぅ」

 

「いや頑張ってたよ、頑張ってたんだけど、

 こっちもアーサー様の即位のゴタゴタもあったんだよ……

 コミックスにすると13巻分くらいになる、王位争奪サバイバルマッチがね。

 おかげで当時はフランスどころじなくなってたし」

 

どよんとした空気が、あたりを包む……

 

「しかしまぁ、幸いにしてランちゃんはそのナポレオンと面識があるから……

 まずはパリを目指すべきかな」

 

そんな空気を振り払うかのように地図を開き、ボールスとクックは道順を確認し始める。

 

「ランスロット、ナポレオンさんって、どんな人なんだ?」

 

「んっふっふ~、ナボナはお菓子のホームラン王ですよ、ししょー。

 チーズ風味のクリームとカステラ生地の相性が……」

 

「菓子の話なんて誰もしてねーですぅ!

 ナポレオン・ボナパルトの話に決まってるじゃねーですか」

 

「ナポレオーネさんはですねぇ……えーと……どんな人でしたっけ~?」

 

ボールスとクックは互いに視線を交わし、次いで青ざめ、

ランスロットの肩をガクガクと揺さぶる。

 

「しっかりしてランちゃん! 正直その人しか頼れるアテないんだよ!」

 

「しかも名前間違えて覚えてるですぅ!? ホントに知り合いですかっ!?」

 

「ああ、着やせするタイプでした~」

 

「んなどーでもいい情報はいらねーですぅ!!」

 

「頭クルクルパーマの臭いフェチのチビですね~」

 

「それタダの罵倒だから! 特徴じゃないから!」

 

「食い物の恨みは海よりも深く~山よりも高いって事を~念入りに教えないとですね~、

 正義の心で~」

 

「もう良いランちゃん! 黙ろう! ちょっと黙ってよう!」

 

2人がランスロットを揺さぶっている間に、俺は凄く暇そうにしているパラメデスに同じ質問をした。

パラメデスはたっぷり10秒ほどう~ん、と唸り……

 

「……フランスの……ごがくじん?」

 

その語調からすると、あまり自信のある解答ではないらしい。

 

「言葉の意味はわかんねーですけど、それも褒め言葉じゃねーことはわかるですぅ」

 

そうやってぎゃーぎゃー騒いでいると、示し合わせたかのように喧騒が止まる。

ついさっきまでの緩い空気は瞬時に雲散霧消して、全員が軍人らしい緊迫した表情になった。

 

「……ランちゃん」

 

「ええ……来てますねー」

 

どうやら円卓の騎士3人が、何かに気がついたようだ。

 

「何かが近づいているのか?」

 

「こっちが風下、近づけばわかりますよ~」

 

「いやわかんねーですぅ!? 匂いでも嗅いでるですか?」

 

「ええ、そ~ですよ~」

 

そんな無茶な……チハヤやそう口から出そうになったが、やめた。

ランスロットなら匂いで数km先の状況を察知したとしても不思議じゃない。

 

パラメデスが波のように曲がった剣を港町の中心部に向ける。

剣の先からは、虚ろな目でどこか遠くを見ながら歩く集団があった。

 

鎧の類を身に着ける者はごく僅かで、大部分は普段着の一般市民のように見える集団は、鍬や鎌等の農具や包丁、金づちやスコップ、モップ等の日用品で武装をしていた。

 

「壊せ……殺せ……」

 

「我らが……主の……ために……」

 

奇妙な呪文のような、あるいは熱病にうなされる患者の譫言のような言葉を呟きながら、集団は周辺の建物や噴水、露店等を殴り、叩き、刻み、破壊していく。

この街の一般市民は、既に避難しているか、建物の中に隠れているようだ。

 

「あれ……闇の玉ってやつに取り付かれてるのかな?」

 

「ああ、たぶんそうだ」

 

この凄惨な光景を目の前で見て、チハヤは確信した。

あの人達は闇の玉の影響を受けて正気を失っているのだと。

 

「ししょー」

 

チハヤとランスロットの視線が交差する。

無言だが、止めに行かせろ……そう訴えているのがわかった。

 

「武装はちぐはぐだし、数も錬度も大したことなさそーかな。

 総帥、今の戦力でも十分いけるよ」

 

ボールスが愛用の戦槌、クレシューズを構える。

まるで引き絞られた弓のように、敵に突入する瞬間を待っていた。

 

「(俺の命令を待っているのか……?)」

 

チハヤはランスロット達の意図を察し、静かに呼吸を整える。

 

「(……俺は総帥として、命令しなくてはならない。

 例え消去法のような形で就任したのであっても、

 彼女達は確かに、俺を総帥として認め、筋を通そうとしているのだ。

 彼女達の無言の信頼に応じるためにも、俺は今すぐ命令を下さなくてはならない)」

 

大きく息を吸い、息を吐く。

他人を戦えと命じる責任がチハヤの両肩に強く強く伸し掛かる。

 

しかし……

 

「あの人達を止めよう。 皆、力を貸してくれ」

 

意を決して、チハヤは総帥としての命令の言葉を告げる。

その言葉が言い終わる前に、ランスロットとボールスは全速力で集団のいる方向へ駆け出していった。

 

「んじゃ、とっとと気絶させるですぅ。 おめーら! 到着早々出番ですぅ!!」

 

クックの掛け声を聞いた水夫達が、次々と船の中から飛び出してくる。

パラメデスはクックとともに迅速かつ的確に水夫達をまとめ、進撃を開始した……

 

 

 

 

 

……戦闘開始……

 

「開幕直後のスーパーチャージ。 か~ら~の~……」

 

「対マゼランちゃん用の特殊弾を喰らうですぅ!!」

 

「あの……どちら様ですか?」

 

「やあ、ジパング王……じゃなくて、総帥。 こっちの世界線ではじめましてだね。

 ボクの名前は太公望、呂尚とも姜子牙とも呼ぶ人もいるよ。

 クリアボーナスで参戦してるけど、戦闘中以外は物語に関わらないから安心してね」

 

「戦闘が始まった途端、兵士が物凄く増えているんですけど、貴方の仕業ですか?」

 

「それもクリアボーナスだよ」

 

「クックが会った事もない人用の特殊弾を……」

 

「それもクリアボーナスだね」

 

「クリアボーナスとは一体……うごごご!」

 

「この作品は英雄*戦姫GOLDっていうゲームの

 二週目に遊べる特別シナリオを妄想するものさ。

 だから戦闘は簡易シミュレーション風になるし、元ネタのゲームで猛威を振るった、

 玉手箱とグリンブルスティを持たせた英雄に

 開幕直後のスーパーチャージを使わせる戦法も使うって事」

 

「な、なるほど……」

 

「WWでは装備可能な宝具がキャラごとに決まってるから、

 その戦法は使えないんだけどね。

 その代わりにもっとエグい戦法が何個かあるんだけど」

 

「分かった! 分かったから!」

 

「皆も買おう! 英雄*戦姫GOLD!

 そして英雄*戦姫WWオフライン版(仮)も買おう!!」

 

……戦闘終了……

 

 

 

 

 

「そーすい……おわった……」

 

正気を失った暴徒達は、早々と蹴散らされていた。

きっちり手加減をしていたらしく、死んでいたり重傷を負っている者はいない。

 

そしてパラメデスがドヤ顔でチハヤを見つめてきた。

褒めろ……という事なのだが、チハヤは今それどころではない。

 

「な……なんだろう、今何か見えてはならないモノを見たような気が……

 まだ会った事が無い人と会ったというか、

 まだ入手してない筈の必殺技を見たというか……」

 

「パラっち、何か総帥の様子がおかしいよ」

 

「なでなではおあずけ……ざんねん……」

 

とりあえず、パラメデス達はカルチャーギャップに苦しむチハヤをしばらく放置する事にした。

 

「それにしてもクーちゃんの集めてきた水夫達が喧嘩慣れしてて助かったよ」

 

「あいつらは元私掠船団の船員ですぅ。

 私掠船の追放の頃から、職にあぶれて浮浪者同然になっていたから拾ってきたですぅ」

 

気絶をした人々の身体から、黒い水晶玉のような物体が浮き上がる。

 

「あれが……闇の玉……?」

 

「総帥の話だと、触れるとさっきの人達みたいになるんだったよね」

 

「丈夫でブ厚い皮袋は用意してあるですぅ」

 

「よし、それじゃあ触らないように袋に回収するぞ……」

 

クックがあらかじめ用意していた皮袋を受け取ったその瞬間……周囲に落ちていた闇の玉が突如宙に浮き、次々と袋の中に飛び込んできた。

あれよあれよという間に、数十個はあった闇の玉は、全て皮袋へと吸い込まれてしまった。

 

「クーちゃん、何か……した?」

 

怪現象を目の当たりにしたボールスが、多量の冷や汗を流しながらクックに恐る恐る尋ねる。

 

「しっ……してねーですぅ!? なんですかあの怪奇現象は!?

 驚かそーったって、そーはいかねーですぅ!」

 

クックの顔にも凄い量の汗が浮かび、やや青ざめている。

 

「じゃあ……総帥?」

 

「いや、俺も特に何も……」

 

クックから渡された皮袋を覗き込む……袋の底に、奇妙な漆黒の箱が見えた。

 

「玉はない……だけど、黒い箱がある……」

 

「ししょー、素手で触ると危ないかもしれませんよ」

 

箱に手を伸ばそうとしたら、ランスロットに止められる。

ランロットは暴徒の一人が持っていた麺棒を拾い、器用に袋の中から箱を取り出した。

 

「なんですかあの箱は……あんなの入れた覚えねーですぅ……」

 

「みおぼえ……ない……」

 

「う~ん、わたしも初めて見ます~」

 

「俺も見覚えは……」

 

……ない、そう続けようとした瞬間、チハヤは胸の奥に妙な引っ掛かりがあると気がついた。

どこかでこの箱を見た事があるような気がすることに。

 

「見覚えが……ある……気がする」

 

「あれ入れたのおめーですか!?」

 

クックに胸倉を掴まれ、チハヤは必死になってここ最近の記憶の糸を手繰り寄せる。

ランスロットから別れを告げられたこと。

クックが商会を結成すると宣言したこと。

あまり多くない私物の中から、今回の旅に持っていく物を厳選したこと。

商会の総帥として、必要な書類を役所に提出しに行ったこと。

アパートを引き払い、職場に頭を下げに行ったこと……

 

どの記憶の中にも、あの奇妙な箱が登場することはなかった。

 

「……わからない。 袋に入れた覚えはないし、あの箱がなんなのかも……」

 

「それでも……みおぼえは……ある?」

 

チハヤがこくりと頷く。

奇妙な感覚だが、確かに見覚えはあるのだ。

見た事も聞いた事もないのに、闇の玉を知っているのと同じように、奇妙な引っかかりも感じている。

 

「それなら、ししょーがブリタニアに来る前に見たのでしょうか~」

 

「そうかも……ああ、そうかもしれないな。

 もしそうだとすれば、あれが俺の記憶の手がかりになるかもしれない」

 

「それよりさ、袋の中に黒い玉がないってことはさ、

 あの箱の中に闇の玉ってのがみっちり詰まってるってことだよね……」

 

「ひぅっ!! 怖いこと想像させるなですぅ!」

 

ほぼ同時に恐ろしい想像をしてしまい、全員が肩を強張らせる。

 

「たたきこわす……?」

 

「ダメですよー、ししょーの記憶の手がかりかもしれませんからー」

 

「かと言って、このまま眺めていても何も進展しないよな……触って調べてみるか。

 ランスロット、もし俺がおかしくなったら2~3発ぶん殴って気絶させてくれ」

 

ハッキリとした記憶ではないが、なんとなく、かつてアレを触った事がある気がした。

だからたぶん、触っただけで正気を失うことはない……と、チハヤは思う。

 

「(確信を持って言える訳ではないけど……

 今は『たぶん』に賭けてみるしかないよな……?)」

 

そんな事を考えながら、慎重に腕を近づけていくと……突如、横から麺棒を押し付けられ、

ランスロットが奪い去るように漆黒の箱を拾った。

 

ブリタニアにいた頃に着けていた純白の手甲はない。

素手のランスロットの手の上で、漆黒の箱が不気味に沈黙している。

 

「……ランスロット、無事か?」

 

「はい~。 気分が悪くなったりはしてないです~」

 

「ふぃ~、ヒヤッとしたぁ。 ランちゃんを叩きのめすハメになるかと思ったよ」

 

全員の視線がそこに集中する中、ランスロットは奇妙な箱を様々な角度から、注意深く観察を始める。

 

「昔ジパングで見た、寄木細工に似てますねー。

 あと、あれだけの数の玉が入ったにしては軽い感じがします~」

 

破壊をしないよう慎重に色々試してみたが、蓋が開く気配は全くない。

それならばと鍵穴や取っ手か何かを探してみたが、それも見つからない。

せめて中身を推察できないかと、軽く振って見みるも、特に何も聞こえない。

 

「どー思いますか、ししょー」

 

「どうだろう、空箱のような感じがするけど……

 闇の玉は、やっぱりこの中に吸い込まれていったと考えるのが自然だよな。

 でも、妙に軽いし、音もしない……まるで玉が蒸発して消えたみたいだ」

 

あーだこーだと箱の正体について話をしていると、周囲を警戒していたパラメデスが肩を叩いてくる。

 

「そーすい、何かが近づいてくる……」

 

波のように曲がった剣の先から、鎧で身を固めた集団が駆け足で近づいてくる。

その全員が良く手入れされた武具を持ち、走りながらも隊列はほとんど乱れない。

 

「フランスの正規兵……暴徒を鎮圧するために出撃してきたかな」

 

一瞬、逃げた方が良いかとも思ったが、おそらく今からでは逃げ切れないと思いなおす。

軍勢は良く訓練された迷いの無い動きで、俺達を包囲した。

近くで観察してわかったが、その集団は少し殺気立っているように感じる。

 

「カミサマは言いました……」

 

軍勢が二つに割れ、奥から一人の少女が歩いてくる。

 

まるで太陽のように輝く金色の髪をした少女は、誰もが見惚れてしまうほど美しかった。

だがそれ以上に強く印象に残った事は、その娘が酷く怒っていることだった。

 

目つきも、眉間にできた皺も、歩きかたも、旗を握る腕も、背中に付けたれた羽根飾りも、その全てが彼女が怒っている事を雄弁に語っていた。

 

「ブリタニアみな殺すべし、慈悲は無い、お前も殺す、インガオホー!!」

 

……先頭の少女は真紅の旗を振り上げ、高らかにそう宣言した。

 

「その神様、物騒すぎないかっ!?」

 

「フランス人です」

 

俺の渾身のツッコミをよそに、ボールスが即座に切り返す。

 

「生まれも育ちもフランスです~」

 

ランスロットが続く。

 

「あらぶ……の、あたり……たぶん、めいび~……」

 

パラメデスは、私は関係ないね……とでも言いたげな表情でつぶやく。

 

「俺は……ええっと、信じてもらえるかわからないけど、記憶喪失なんだ。

 だから自分の出身地はわからない」

 

「お料理ができる人なので、ブリタニアの人でないことだけは確かです~」

 

酷い言われようだなと思うが、一応、軍勢達は納得したようだ。

どうもフランスの人達にも、ブリタニア人の料理の不味さは伝わっているらしい。

 

そして、その場にいる全員の視線が残った一人……クックに向けられる。

 

「生まれも育ちもブリタニア……ですぅ」

 

次の瞬間、軍勢の目が怒りに燃えた。

各々が武器を握る腕に力が入り、クックの面前に突きつけられる。

 

「カミサマは言いました。 ハイクを読め、カイシャクしてやると」

 

「フ、フランスとの確執を甘く見てたですぅ!?」

 

少々涙目になっているクックを背中に隠すよう、チハヤが軍勢との間に割って入った。

 

今にも殺し合いが始まりそうな空気……睨み合いの中で、ドォンッ!! という腹に響く大きな音とともに、大地が震えた。

 

「やめなさいっ!!」

 

場が静まり返った一瞬に、大きく良く通る声が響き渡った。

その声の方向に全員の注目が集まる……そこには大砲を運ぶ軍人達、そして赤い巻き毛の少女がいた。

 

「暴徒が出たと聞いて出撃してきたけど……

 どうやら、そこいらで倒れている連中が暴徒だったもののようね。

 貴方達がやったのかしら?」

 

「ああ、そうだ」

 

赤毛の少女や、周囲の軍勢に気圧されないよう、必死になって奥歯をかみ締めながら俺は答えた。

 

「……殺した?」

 

「いや、手加減はしてある、気絶しているだけだ」

 

赤毛の少女が後ろの方で状況を確認する軍人に視線を移す。

軍人らしき少女が、気絶した市民の脈を診ながら、コクリと頷いた。

 

「……そう、所属と目的は?」

 

「俺達はGOLD商会、この前結成されたばかりの貿易商だ。

 俺は総帥のチハヤで、こっちが船長のクック、あの3人は用心棒だ。

 目的は……えっと金儲けだ」

 

……嘘は言っていない。

 

クックの冒険航海にも、ブリタニア経済の建て直しにも金は必要だ。

もちろん、フランスの混乱を鎮める事も目的の一つではある。

しかしここで、義侠心からフランスを救いに来たと言ったとしても、信用されるかどうかは微妙なところだ。

 

「金儲け……へぇ、金儲けねぇ?

 それはブリタニアとフランスとの間での貿易を行うって事?」

 

「いいや、腕っぷしを売りたい。

 国中で暴動が起きて、鎮圧の人手が足りないだろうと思って、売り込みに来た」

 

「……へぇ。 それで、貴方達が私達の頭痛のタネを取り除けるとでも?」

 

「俺達はこの暴動について、貴方達が知らない事を知っている」

 

……軍勢が、ほんの少しだけざわめく。

 

しかし、赤毛の少女が軽く手をかざすと、即座にざわめきが止まった。

 

「自己紹介が遅れたわね……私はナポレオン・ボナパルト」

 

「ええと……ごがくじんの人だっけ?」

 

俺が迂闊な事を口走った時、ナポレオンさんは数秒ほど、目を見開いてこちらを見据え、そして眉間に皺を寄せながらニコリと微笑んだ。

 

「ふぅん……呉学人ねぇ……初対面の相手に呉学人と……へぇ……

 よりにもよって呉学人呼ばわり……ねぇ……」

 

……どうやらナポレオンさんは『ごがくじん』の意味を知っているらしい。

そして同時に理解したが『ごがくじん』は凄く失礼な言葉だったらしい。

 

「ひぃ!? やべーですぅ……いきなり怒らせたですぅ……」

 

「そーすい……ほねはひろっておく……」

 

「カミサマは言いました、スゴイ・シツレイと」

 

「レンガか何かない? ああ、そこの金づちでいいわ」

 

フランス軍人の一人が、やたらと俊敏な動きで気絶した暴徒の一人が握っていた金づちを拾う。

そしてナポレオンさんは金づちを受け取り、2~3回素振りをして……

 

「アンタら私に喧嘩売りに来たのかあっ!!」

 

猛烈な速度で飛んでくる金づちの柄と、ゴキャンという音とともにやってきた激痛を感じながら、チハヤは意識を手放し……てはいない。

 

「そーやって初対面の相手に怒ったフリする癖、直した方がいいと思いますよ」

 

金づちの射線上に、アロンダイトが割って入っていた。

ゴキャンという音は、チハヤの眼前で金づちが弾き返された音だったらしい。

 

「ああ、貴女も来てたの? 気がつかなかったわ。

 それで、はるばるドーバー海峡を越えて、

 貴女も私に喧嘩を売りに来たのかしら……フランス人の裏切り者さん」

 

「お久しぶりですね~、藁っくずさ~ん」

 

フランスの英雄達との出会いは、早くも険悪な雰囲気が流れ始めていた。

 

 

 

 

 

GOLD商会構成員

 

チハヤ(総帥)

ランロット

ボールス

パラメデス

クック

 

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