※この作品はR-18です。

英雄戦姫GOLD ボクが考えたブリタニア漂着ルート 修正版   作:シベリア!

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第5話『A・クイック』

 

チハヤ達GOLD商会の面々はナポレオンに連れられ、フランスの首都、パリへとやって来た。

チュイルリー宮殿と呼ばれる荘厳な建物にて、近年続発する正体不明の暴動について話し合う事になったのだ。

 

「お帰りなさいませ、司令。 随分とお早いお帰りでしたね……おや、そちらの方々は?

 あれ、ランスロットさん!? ブリタニアに仕官したのでは?」

 

執事らしき格好をした少女が、宮殿前で出迎えてきた。

 

「客人よ、ブーリエンヌ。 少し話をするから、人払いをお願い」

 

「あ……はい、かしこまりました」

 

ブーリエンヌと呼ばれた少女は、すぐさまキビキビとした動作で周囲の将兵達に指示を出し、会談の準備を整えていった。

 

「なんと言うか……綺麗な建物だな」

 

チハヤは思わずそんな言葉が口から出る。

 

彼の記憶の中にあるどんな建物よりも優美な装飾と、きらびやかな調度品に溢れており、足元にひかれる絨毯にすら触れるのが恐れ多いように感じてしまう。

 

「ジャンヌが初めてココに来た時も、そうやってキョロキョロしていたわ」

 

若干挙動不審なチハヤの様子がおかしかったのか、ナポレオンが苛めっ子のような笑みで指摘した。

 

ボールスはチハヤの顔を横目で見ながら苦笑していて、ランスロットとパラメデスは……特に変化が無い、いつも通りだ。

逆にクックは、自分の落ち着きの無さが霞むほどアワアワと取り乱していた。

 

「クーちゃんクーちゃん、

 調度品が襲い掛かってくる訳じゃないんだから堂々と歩けばいいんだよ」

 

「むっ……無茶言うなですぅ、こういう場所には慣れてねーですぅ」

 

「ナポレオンさんも昔はクックさんみたいでしたよ~。

 ああ、あの時はナポレオーネでしたか~?」

 

「ランスロット、余計な事は言わなくていいの」

 

ランスロットとナポレオンが軽口を言い合っている内に、チハヤ達は宮殿内にある窓が無い部屋へと案内される。

 

この部屋の中も、非常に格式の高そうな絵画や、テーブル、照明具が並べられ、なんとも荘厳で、なんとも落ち着きにくい雰囲気だ。

 

「ブーリエンヌさんは変わりないですね~」

 

「そんな事はないわよ、ランスロット。

 あの娘は変わったわ……昔より、頼れるようになったのだから」

 

「そう言われてみれば、そうかもしれません~」

 

「ブリタニアはどう、苛められたりしてないの? ちゃんと食べてる?」

 

「いえいえ~、みなさんとってもやさしくしてくれますよ~。

 でも……ごはんはちょっと……」

 

「相変わらず不味いって? 本当に貴女は変わらないのね」

 

「む~、そんなことはないですよ~。 昔よりも……昔よりも頼れるようになりました~

 それに食材が乏しくなった原因の何割かは~ナポレオンさんでしょうに~」

 

「おおっと、それを衝かれるとちょっと苦しいわね」

 

まるで母と娘の会話のような優しい雰囲気に、チハヤは思わず見惚れてしまっていた。

今にも衝突しそうな軍勢の間で眉間に皺を寄せていた時よりも、ずっとずっと綺麗だと思った。

 

だが注目を浴びている事を察したのか、すこし顔を赤らめながら咳払いをしてすぐに元の威厳のある表情に戻ってしまった。

 

「ごほん……まずはお互い、自己紹介から始めたいと思うのだけど、いいかしら?」

 

この場にいる全員と面識のあるランスロット以外がそれに同意する。

 

「よろしい……私はナポレオン・ボナパルト、フランス軍の総司令官をやっているわ。

 ナポレオーネではなくナポレオン、間違えないように」

 

「軍学校時代のあだ名は~藁っくずでした~」

 

「張り倒すわよアンタ」

 

「私はルイ・アントワーヌ・フォヴレ・ド・ブーリエンヌと申します。

 司令の個人秘書を勤めております」

 

「ナポレオンさんとは~軍学校時代からのお付き合いなんですよ~」

 

「ええ、はい、長くお付き合いさせていただいています」

 

「いちいち反応しなくても良いわよ、ブーリエンヌ」

 

なお、ジャンヌ・ダルクは先ほどの暴動の現場に残り、被害状況の確認等の事後処理を行っているため、この場にはいない。

 

「ああそれと、ベルサイユ宮殿にマリー・アントアネットってのもいるけど、

 ここに呼ぶと話がややこしくなるから名前だけ紹介しておくわ」

 

「あり? あの人ってだいぶ前に王政をやめる、

 やめないで揉めてた頃に処刑されたんじゃなかった」

 

「ああ、そういえば表向きは死んだことになってたわね。

 ロベスピエールってのが夢みたいな目標を掲げて過激な事を始めたから、

 処刑が実行される直前にとっちめて、適当な囚人にカツラ被せて断頭台に叩き込んだの。

 マリーの才能は使い方しだいでは有用なものだし、

 ほっとくと後で共犯者扱いされる気もしたしね」

 

「ロベスピエールさんを讃える論文は今でも大事に取っておいていますよ~」

 

「とっとと捨てなさいあんなモンッ! 他人の黒歴史だって分かるでしょ!?」

 

「あの……司令。 あのお方の生存は一応、国家機密になっておりますので、

 あまり軽々しく他国人に漏らさないでいただきたく……」

 

「ブーリエンヌ、マリーを内密に匿い続ける自信あるの?

 どう隠したって絶対バレるわよ、あんな歩く特異点は」

 

「うぐっ!? そ……それはその……」

 

「マリーの生存は遅かれ早かれ公になるわ、どうせ。

 だからこの情報の機密としての価値は正直に言ってあまり高くないのよ」

 

「すくなくとも……MI6には……つつぬけ……」

 

「あらそう? 情報提供ありがとう、たぶんそうだろうとは思っていたけれどね」

 

「へっ!? そうだったのですか!? あの時は念入りに情報統制を……」

 

「あのねえブーリエンヌ、

 MI6のエージェントがあのマリー・アントアネットを見間違える訳がないじゃないの。

 連中は貴女が考えているよりも優秀なのよ。

 料理と兵器開発以外は出来が良いのよ、あの国は」

 

当然だと言いたそうな顔で言うナポレオンさんを見て、ブーリエンヌさんが頭を抱える。

 

「情報統制、指示したのは司令ですよね……」

 

「私の辞書に『不可能』の文字はないわ」

 

「私の辞書にはあるんですよっ!! いやさっきどうせ隠しきれないって言いましたよね、

 『不可能』の文字認めましたよねっ!」

 

「じゃあ次はそっちの話を聞きましょうか」

 

「スルーしたっ!? スルーしやがりましたよ、このクソ司令官っ!!」

 

「ブーリエンヌ、減給……っと」

 

「総司令官様に『不可能』などございませんわ」

 

……フランス流の漫才をたっぷり観賞した後、俺達は一人ずつ自己紹介をした。

 

「お2人とも、相変わらず仲良しですね~」

 

ランスロットは、嬉しそうに笑っている。

ブーリエンヌはそれに対し視線で抗議の意を示しているが、ナポレオンの方は自慢げに笑い返す。

 

「さて、たしか暴動について何かを知っていると言っていたわね」

 

「……ああ、そうだ」

 

「聞かせてもらえるかしら。 この際だから打ち明けるけれど、

 正直に言って私達には今回の暴動騒ぎ、手探り同然の状態で対応しているの。

 少々胡散臭い連中の話でも、聞かざるを得ない程にね」

 

ナポレオンに促され、チハヤは自分が覚えている限りの闇の玉についての情報と先ほど見つけた漆黒の箱について語った。

 

「(情報を小出しにして、交渉を有利に……とかは、考えない方が良いだろうな。

 下手に策を講じると不興を買ってしまうだろうし、

 ランスロットとのやり取りを見る限り、信頼できそうだ)」

 

チハヤは自分の知る限りの事を話した。

記憶喪失である事、ある日突然ブリタニアに流れ着いた事も含めて、包み隠さず打ち明けた。

 

「……悪いけれど、信じられないわ」

 

……でも駄目でした。

 

「ナポレオンさん~、確かめもせずに切り捨てるなんてひどいですよ~」

 

「ボクは記憶喪失です~、根拠はないけどそんな気がします~……

 なんて言ってきても困るわよっ!

 もうちょっと信用できるような根拠を出しなさいよ! 根拠を!」

 

「ブルッへの港で出会った暴徒達は、気絶したときに闇の玉を出した。

 それは根拠にならないか?」

 

「ならないわよ。 その暴徒達だけが特別だったのかもしれない。

 闇の玉とやらが外れても、また暴れだすかもしれない。

 結論を出すには情報が少なすぎるわ」

 

「そう言われると……ぐぅの音も出ないな」

 

「それじゃあさ、結論を出せるだけの情報が集まったら信じてくれるってことかな?」

 

ボールスの問いに、ナポレオンさんは少しの間、考え込む……

 

「そうねえ……ランスロットが手を貸してくれるのは、助かると言わざるをえないわ。

 昔から腕っぷしだけは確かだったもの」

 

「それなら、情報が集まるまで、暴動の鎮圧をお手伝いしますので、

 信じられると思ったらこちらのお話、もう一回聞いてください~」

 

「ウチに永久就職してくれると判断しても良いかしら?」

 

「GOLD商会はあくまで貿易商社ですので~、騒動が収まったら商売に戻りますよ~」

 

「あら、それは残念。

 おフランスの高貴な食事を沢山ご馳走してあげようと思っていたのに」

 

「ししょーの手料理はその万倍幸せになれる味なので~謹んで辞退しますね~」

 

「成程、それでは仕方が無いわ。

 さてランスロットはともかく、他の円卓の騎士2名は……

 失礼を承知で言わせてもらうけれど、

 ブリタニアからの破壊工作要員って線が捨てきれないのよ。

 あまりフランス国内で動き回ってほしくはないけれど……」

 

「司令、暴動の鎮圧に向かった部隊が、

 逆に暴動に参加することが頻繁にありますが、もしや……」

 

「そうね、さっき言っていた闇の玉のせいかも……なら……」

 

ナポレオンが、むむむ……と呟く。

 

「なにがむむむだ……」

 

「パラっち~、話がややこしくなるからしばらく黙ってこーかー」

 

「……それでは、そちらの要求は?

 まさかタダ働きをしてくれる訳ではないわよね」

 

「大陸封鎖令、いい加減に解除しやがれですぅ。

 講和条約から何年経ったと思いやがるですか」

 

クックが、そう返答する。

 

「やっぱりそう来たか……あのね、今あれを解除したら、

 ブリタニア経済が崩壊する事になるわよ」

 

「……うん? どうしてそうなるんだ?」

 

「ブリタニアの国内産業は、長年続いた戦争と、

 輸出入を禁止された影響で大打撃を受けているでしょう。

 今下手に自由貿易に戻したら、欧米各国にいいように翻弄されて、

 植民地同然になるってことよ。

 100年戦争終結の時に、大陸封鎖令の解除時期を明記しなかったのは、

 ブリタニアへの嫌がらせのためじゃないのよ」

 

ナポレオンの指摘に、チハヤは思わずたじろいでしまう。

正直なところ、大陸封鎖令の解除後のことまでは考えていなかった。

しかし、クックだけは少しも慌てる様子を見せない。

 

「おっと、それはあくまで講和条約の締結時の話ですぅ。 今はそうはならねーですぅ」

 

その指摘を受け、ナポレオンさんは僅かに眉を上げる。

 

「……へぇ、どうしてそうならないのか、教えていただけるかしら?」

 

「ここ数年で、欧州全体でとんでもねー数の暴動が起きてるのは知ってるですぅ。

 もちろん、それで各国の産業が少なくない打撃を受けてるのも調査済み。

 崩壊寸前のブリタニア産業でも、一方的に翻弄される事にはならないですぅ」

 

ナポレオンが興味深そうにクックを見つめる。

そしてブーリエンヌやランスロットと2~3回、視線を交差させ……

 

「ジェームズ・クックだったかしら?」

 

「おやおや、フランス軍総司令官殿に名前を憶えられていたとは意外だったですぅ」

 

「貴女けっこう良い読みをするわね、ブリタニア海軍なんか辞めてウチに来ない?

 今の10倍以上のお給料は約束するわ」

 

「その100倍以上は荒稼ぎするつもりだからいらねーですぅ」

 

「あら残念ね」

 

「なあ、クックの給料ってそんなに安いのか?」

 

チハヤがひそひそ声でボールスに尋ねる。

 

「騎士の待遇は良いよ。 領地も貰えるし、色々な特権もあるし。

 でも海軍はちょっと……うん、ちょっとアレかもね」

 

チハヤは心の中で、クックに優しくしてあげようと決意した。

 

「それにしても、アーサー王ならさっきので十分に煙に巻けたのだけど……

 流石にそこまで甘くないか」

 

少し残念そうな顔をしてそう語った。

 

「アーサー様はそこまで抜けてませんよ~」

 

ランスロットが抗議をするが……ボールスとパラメデスは何故か視線を合わせようとしなかった。

 

「まあ仕方無いか、牛歩戦術もそろそろ限界とは思っていたもの。

 だけど今回の騒動解決に目途が立つまで、ちゃんと協力しなさいよ」

 

「もちのろんですよ~」

 

そこまで話した所で、パラメデスがチハヤの手首を引く。

 

「そーすい……そとが、さわがしい……」

 

そう言われて、パラメデス以外の面々も気づいた。

確かに外から妙な振動や、声が聞こえるようだと。

 

「全く、しばらく近づくなって言ってあるのに……ブーリエンヌ、確認してきて」

 

「はい、わかりました」

 

ブーリエンヌさんは、すぐに部屋を飛び出し、パタパタと駆けていく。

彼女が外を確認して戻ってくるまで、そう時間はかからなかった。

 

「たっ……大変です司令っ!! ジャンヌ様の部隊が帰還なされたのですが、

 なにやら殺気立って、司令を出せと怒鳴っております!」

 

「……え、ジャンヌが? 何で?」

 

「わかりません、何度聞いても司令を出せとしか言わないのです」

 

ナポレオンは腑に落ちないといった顔で、宮殿の門へと向かう。

 

外に近づくほど、極度に興奮した集団が出す声や振動が強くなる。

窓から外を覗くと門の前に立つジャンヌと宮殿を取り囲むように展開するフランス正規兵達がこの騒ぎの元凶である事がわかった。

 

「ジャンヌ、この騒ぎは貴女の仕業?

 どういうつもりなのか説明してほしいのだけれど……」

 

そう言いながら、ナポレオンが宮殿の門をくぐる。

その瞬間、ジャンヌは手にした真紅の旗を振り下ろした。

後ろに控える軍勢は次々と矢を番え、ナポレオンに弓を向ける。

 

「……え?」

 

猛烈な嫌な予感を感じ、チハヤがナポレオンの服を掴み、全力で後ろに引っ張った。

ナポレオンは想像以上に軽く、また無警戒であったためか、身体ごと門の影まで隠すことができた。

 

……ナポレオンがいた場所に多数の矢が突き刺さったのは、その直後であった。

 

「ししょー! ナポレオンさん!」

 

チハヤ達が崩れた体勢を立て直すより早く、ランスロットが宮殿から飛び出し、2人まとめて宮殿の奥まで無理やり押し込められる。

即座にボールスが門を閉ざす……門に何かが当たる音が何度も響いた。

 

「攻撃された……みたいね。 あの娘が突飛な行動を取るのはいつもの事だけど、

 なんでウチの正規兵まで加わってるのよ」

 

周囲を見ると、宮殿の窓が次々と割れ、そこから矢が飛び込んでくるのが見えた。

 

「ジャンヌッ! どういうつもりか説明しなさいっ!!」

 

ナポレオンが窓の影から叫ぶ。

 

「カミサマは言いました、何事も暴力で解決するのが一番だと」

 

ジャンヌはそう言って、宮殿の窓にさらなる矢を撃たせる。

 

「全然説明になってないわよ、ジャンヌッ! 人の話を聞いているの!?」

 

「ブリタニア殺すべし! ブリタニアに国を売ったナポレオンも殺すべし!

 インガオホーッ!!」

 

「いつどこで誰がどこに何を売ったって!? もう一度言って見なさいっ!」

 

しかし、既にジャンヌはこちらの話を聞く気はなさそうだ。

無言で旗を振り、ナポレオンの声がする窓にさらなる矢が降りそそいだ。

 

「訳がわからないわ……最近、妙に情緒不安定だと思っていたけれど、

 あそこまで極端な事はしなかったのに……」

 

ナポレオンが深く深~く、ため息をつく。

 

宮殿内の警備をしていたと思われるフランス兵達が、続々と集まってくる。

幸運な事に宮殿内の兵達に正気を失っているものはいないようだ。

 

「どう思う、総帥。 あれも闇の玉の影響かな?」

 

ボールスに聞かれ、チハヤは矢の雨が降り注ぐ中、慎重にジャンヌ達の姿を観察する。

 

「カミサマは言いました、面倒は殺すに限ると」

 

前以上に物騒な格言らしき言葉を叫びながら、真紅の旗を振っている。

 

「ほら、あれはもう情緒不安定とかそういうレベルじゃないっしょ」

 

ボールスの指摘に全員がうんうんと頷く。

 

「目に生気が無い……確かに闇の玉が憑いている可能性はあるな。

 一度気絶させてみればわかる筈なんだが……」

 

ランスロットはその辺で拾ってきたモップに無地のクッションを縛りつけ、

木炭で目鼻を描き、遠目から見ると人の頭のように見えるカカシモドキを作っていた。

 

完成したカカシモドキを近くの窓からそ~っと外に出すと……即座に多量の矢が突き刺さる。

 

「……う~む、無策で突っ込んだら死ぬわね」

 

ナポレオンがまたため息をつく。

 

先ほどまで彼女が率いていた部隊が有する大砲は、全て宮殿の外に置いてきてある。

そしてジャンヌさんが率いる部隊は弓兵が主体で、遠巻きに矢を打ち込んでくる。

大砲の無い砲兵隊や、宮殿の警備兵達では分が悪い。

 

クックが率いていた水兵達や、パラメデスを中心に魔法の心得がある者達が、矢の雨が降り注ぐ中で、窓から反撃を試ている。

 

「クック、鉄砲は何丁ある?」

 

「50しかねーですぅ、玉も火薬もあんまり持ち込んでないですから、

 このまま撃ち合っていたらこっちが圧し負けるですぅ」

 

「パラメデス」

 

「しょうじき……キツイ……」

 

状況はあまり良くないようだ。

 

「このままではジリー・プアー(徐々に不利)ということか……」

 

「総帥うつってる。 忍殺語がうつってるよ」

 

「本当に厄介な事になったわね……

 チェイルリー宮殿は篭城を想定して造られた訳じゃないから、

 こうやって隠れていても、いずれ雪崩れ込んでくるわよ」

 

「し……司令、ここは脱出するべきです。

 もしも今、司令の身にもしものことがあれば、

 ただでさえ、ここ最近の暴動で疲弊しているフランス軍は再起不能になります」

 

ブーリエンヌが叫ぶように進言をする。

 

「駄目よブーリエンヌ。 ジャンヌはチェイルリー宮殿の脱出ルートを把握しているわ。

 あの娘は軍人としての訓練を受けていないけれど、戦地での判断能力は並じゃない。

 全ての抜け穴に伏兵が配置されていると考えた方が良いわ」

 

「それではどうなさるというのですかっ!?」

 

「もう一度言うわ、あの娘は軍人としての訓練を受けていない。

 それに対して、こちらには円卓の騎士が3人もいる。

 勝利は不可能ではない……どころか、いっそ負けるほうが難しいわよ」

 

ナポレオンがニヤリと笑う。

そして大きく腕を伸ばし、片目を閉じながらジャンヌとの距離を目測する。

 

「450……いや、400mくらいね……ランスロット、アレやるわよ」

 

「A・クイックですね~」

 

ランスロットはアロンダイトを引き抜き、どこかから拾ってきた騎馬用の鞍を左手で持ち上げて見せた。

そのやりとりを聴いた瞬間、ブーリエンヌの顔が瞬時に青ざめた。

 

「あの司令、A・クイックというのはロディやマントヴァでやったアレですよね!?

 アレは心臓に悪いのであまり多用してほしくは……」

 

「代案」

 

「はひっ!?」

 

「代案はある? ブーリエンヌ」

 

ブーリエンヌさんは滝のような汗を流しながら嵐のような勢いで降り注ぐ矢をチラチラと確認する。

 

「ええ、代案……代案は……ないです」

 

がっくりとうなだれながら、そう言った。

 

「ではA・クイックでいくわ。 ランスロット、やり方は覚えているわね」

 

「最初は強く当たって後は流れですよね~、おっけ~です~」

 

そう言うや否や、2人は宮殿の扉を同時に蹴り開け、ジャンヌさん目掛けて全力で走り始める!

 

「突撃っ!! 私に続けーーっ!!」

 

その声に応じるように、宮殿にいたフランス兵達が雪崩をうって駆け始める。

だが、戦闘を走る2人を目掛け、数え切れないほどの矢が殺到してくる。

 

「無茶だ、死ぬぞ!」

 

「無策で突っ込んだら死ぬって言った本人が、真っ先に突っ込むって何コレ!

 コレ作戦!? ただのヤケクソにしか見えないんだけど!?」

 

「この作戦は……恐るべきことに3度目です……」

 

「マジでっ!?」

 

全速力で追随しながら先頭を走る2人を見る。

ジャンヌさんのいる場所まで、まだ半分以上の距離がある。

 

「アロンダイト・ディフェンダー!!」

 

……その時であった。

 

ランスロットの持つアロンダイトが、虹色の輝きを放つ。

その輝きがまるで剣の形をした防壁のような形状となり、飛んでくる矢を弾く。

 

「あと200m……ランスロット、保ちそう?」

 

「なんとかしますっ!」

 

ナポレオンが駆ける……弓矢はまるで引き寄せられているかのように剣の防壁まで飛び、そして弾かれていく。

 

ジャンヌが旗を振るたびに、恐るべき数の矢が防壁に叩きつけられる。

ついに防壁で防ぎきれない矢がナポレオンさんの肩や、先ほどランスロットが拾ってきた鞍を貫き始める。

 

「ナポレオンさんっ!」

 

「構うなっ! 進めぇーーっ!!」

 

突き刺さった矢を抜かず、ナポレオンはさらに速度を上げる。

さらに密度を上げて飛んでくる矢は、光の防壁、鞍、そしてアロンダイトを器用に使い分け、防いでいく。

 

ナポレオンさんに突き刺さった矢が1本から2本、3本になった頃……

 

「射程距離……入ったぁっ!!」

 

先頭を走る2人が、全身を叩きつけるように、ジャンヌさんにぶつかった。

 

 

 

 

 

……戦闘開始……

 

「開幕直後のスーパーチャージ! かぁ~らぁ~のぉ~……」

 

「目覚めろ不壊の剣・魔法剣アロンダイトッ! イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

……戦闘終了……

 

 

 

 

 

「ばたん、きゅ~……」

 

戦いは、あっけないほどに早く終わった。

ジャンヌさんはその辺から拾ってきた長老でブン殴られ、目を回している。

闇の玉は既に回収してある。

 

あの奇妙な箱が闇の玉を回収したのはこれで2回目になる。

闇の玉と何らかの関係があることは明らかであろう。

 

「ジャンヌは軍人としての訓練を受けていない。

 接近しての殴り合いなら円卓の騎士にかなう訳がないってこと。

 ……あとランスロット、長老がぐったりしてるから放してあげなさい」

 

「支えてんのは左手だ~、利き腕じゃないんだぜ~」

 

「罪の無い長老を殺す気かアンタらは。

 あっこら、やめなさいランスロット、普通に放しなさい。

 崖まで持って行こうとするんじゃないの」

 

気絶している長老やジャンヌを含め、怪我をした人たちの治療が行われる。

とりあえず長老は軽傷のようだ。

 

「さっきのがA・クイックなのか?」

 

「そうよ、先頭を走る指揮官に矢玉が集中するから、

 後ろを走る主力部隊の損害を最小限にできるの。 どう、実に効率的でしょう?」

 

「名づけて『Aroundight quick』ですよ、ししょ~」

 

突き刺さった矢による負傷の手当てを受けながら、ナポレオンが作戦の解説をする。

 

「心臓に悪いから使わないでくださいと言ったじゃありませんか~。

 ああ、膝にも矢が……」

 

「ひざに矢を……うけてしまってな……」

 

「これはもう衛兵になるしかないね」

 

「アホな事を言ってねーで、おめーらも手当てを手伝うですぅ!

 特にボールス! 治癒魔法を使えるのは希少なんですからとっとと治せですぅっ!!」

 

「はいはーい。 じゃあ重傷っぽい人から順番に、片っ端から治していくね」

 

先ほどの衝突で、少なくない数の将兵が矢に当たっており、その後の肉弾戦でも負傷者が出ている。

治療魔法が使えるボールスが重傷者の手当てを担当し、他のメンバーは軽傷の者達に包帯を巻いていく。

 

その間にチハヤは黒い箱を持ち、残った闇の玉を回収していた。

理由はわからないが、チハヤが箱を持ち歩いている間だけ、闇の玉を回収する機能を発揮するらしい。

他の誰かが箱を使おうとしても、何も起きない理由は不明だが……

 

「俺の欠けた記憶に、その答えがあるのだろうか……」

 

チハヤのその呟きに答える者はいなかった。

 

……

 

…………

 

………………

 

「ぜぇ……はぁ……はぁ……ふ、うぅぅ……」

 

ランスロットが息を荒げていた。

 

「げほっ、ごほっ……く、うぅぅ……」

 

全身から滝のように汗を流し、肩を震えさせていた。

皮膚は土気色のようになり、唇は青褪めていた。

 

ぐうううぅぅぅ~~~……と、ランスロットの胃が大きく鳴った。

 

「おなか……へったぁ……」

 

全身が悲鳴をあげていた。

全身が養分を求めていた。

 

エネルギーが不足している中で魔法剣アロンダイトを無理矢理目覚めさせた反動が、ランスロットを蝕んでいた。

 

その様子を……

 

「……ランスロット?」

 

……その様子を、ナポレオン・ボナパルトが気づいた。

 

 

 

 

 

GOLD商会構成員

 

チハヤ(総帥)

ランロット

ボールス

パラメデス

クック

 

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