英雄戦姫GOLD ボクが考えたブリタニア漂着ルート 修正版 作:シベリア!
フランス陸軍から借りた馬に乗り、GOLD商会とナポレオン・ボナパルトはビザンティンの都市、ウィーンへと向かっていた。
フランスに上陸した頃は僅か500人程度であった商会所属の兵達は、およそ倍程度にまで増加していた。
「初めての募兵、思ったより上手くいってよかったね、総帥」
「かねのちからは……いだい……」
「いいえ~ししょーのひとがらですよ~」
「……あんまり褒めないでくれ、恥ずかしいから」
チハヤは新しく集まった兵士達の前で演説をしたことを思い出す。
あまりの緊張から何を喋ったのか全く覚えていない。
「カミサマは言いました、過ぎたる謙遜はかえって嫌味になると」
「そう言われても、あれは当分慣れそうもないよ……
クック、もしかして募兵をするたびにああやって演説をしないといけないのか?」
「毎回やれとは言わねーですけど。 これからどんどん演説する機会は増える……
と言うか、増やすから今の内に覚悟しとけですぅ」
チハヤは小さくうげげ、と声を漏らした。
「何か言ったですぅ?」
「いや、何も言っていないよ。
そ、それよりも、商会の資金についてもう少し詳しく教えてくれないか」
クックはジトー、とチハヤを睨みながらも、すぐに説明に入る。
「ここまでの貢献を交渉材料に、ナポレオンに大陸封鎖令の解除を飲ませたですぃ。
おかげでGOLD商会はブリタニアとフランス間の交易ができるようになったですぅ」
「つまりコソコソと密貿易をする必要は無くなったという事か?」
「総帥、たぶん密貿易は無くならないよ」
「関税回避……ご禁制の品の輸出入……危険な薬物……密貿易の旨味は、未だに健在……」
「新大陸では~、茶葉への課税に反発から~、
ボストン港に茶葉を投げ捨てるデモ活動があったみたいですね~」
「ボストン茶会事件だね、あの時はブリタニアでも色々大変だったよね」
「てめぇら話を逸らすなですぅ!!」
「ごめんごめん、クーちゃん続きをどうぞ」
「大陸封鎖令の解除に加えて、フランス政府からの報奨金やら謝礼金やらを受け取って、
交易収入もあったから、商会に結構な余剰資金ができたですぅ。
この余剰資金で各部隊の兵数の増加や補充、
それに宝具の購入ができるようになったですぅ」
「宝具の購入……?」
「英雄の能力値を上げる凄ぇアイテムのことですぅ。
だいぶ前に貿易商をやってた伝手で、そういうのも入手できるようになったですぅ」
「ぶきや ぼうぐは かならず そうびしてください!
もっているだけじゃダメですよ!」
「ランちゃん、そのネタは平成生まれには通じないよ」
「令和生まれには……もっと通じない……」
「だからてめぇら話を逸らすなですぅ!!
何にせよ販路が増えれば、商会の収入や購入できる宝具の種類も増えるから、
部隊を強化しながら、暴動が起きている欧州各国を片っ端から救援するですぅ!」
「ブリタニアには交易品が何もないって言ってたけど、その辺は大丈夫なのか?」
「ああ、それなんだけどね、
アーサー様が今まで細々と続けていた羊毛産業を大々的に復活させるって。
ブリタニアの高品質の刀剣、甲冑、大砲なんかは諸外国でも需要があるから、
たぶん大丈夫だと思うよ」
それはブリタニアにとってかなり明るい材料であるが、それを報告するボールスはあまり良い顔をしていない。
「良い話じゃないか。 どうしてそんな浮かない顔をしてるんだ?」
するとボールスは、アーサー王から送られてきたと思われる手紙をヒラヒラと振ってくる。
「それがねぇ……羊毛産業は本当に壊滅寸前ってくらいの規模だから、
外国に売れる程の品質と量を確保するにはやっぱ時間もお金もかかるって。
そして武具の類は今すぐにも輸出できるけど、
敵国にブリタニアの高品質の武器を与えるとは何事か~って、
騎士団員や地方領主達が続出してるから、なんとか説得できるまで輸出は難しいってさ」
「あ~あ、相変わらず騎士団の連中はブリタニアの懐事情ってのを理解してねーですぅ」
クックはやれやれといった顔で額を押さえる。
「まあ、ブリタニアの輸出産業については、
何か良さそうな物を見つけたらアーサー王に教えてやればいいですぅ。
うまく新しい交易品を発見できれば、商会の収入はドカーンと増えるし、
ブリタニアの輸出産業も増えるしで良い事ずくめですぅ!」
「カミサマは言いました、人生は冒険だと」
「販路拡大、新しい交易品の発見のためにも、今回の遠征は失敗が許されないですぅ!」
「だけど、いくら商会の抱える兵が2倍近く増えたからって、
フランス軍を全員置いてくるのはやりすぎだったんじゃないのか?」
チハヤが心配そうな表情を浮かべる。
今回の旅路にフランスの将兵は1人(ナポレオン・ボナパルト)しか来ていない。ジャンヌはつい先日フランス軍を退職してGOLD商会に加入したので計算外としても、1人の将兵も連れてこないというのは不可解だと思った。
「チハヤ、私達が何処に何をしに行くのか、もう一回復唱してみなさい」
「ええっと……隣国のビザンティンという所で、暴動が急増しているんだったよな。
あっちの暴動も闇の玉によるものかもしれないから、
俺達はそれを鎮めに行く……だったよな?」
「そーそー、んで総帥、私らが何のために円卓の騎士を辞めて来たのかは覚えてる?」
「円卓の騎士がフランスに来たら、侵略だと思われるから……
ああ今回も同じ理由なのか?」
「そうそう、ビザンティンとフランスは友好国とはいえ、
いくらなんでも正規兵に国境を越えさせたらいらぬ誤解を受けるの。
だから正規兵は置いてきたの。 とはいえ戦力的には多少不安があるから、
状況次第ではビザンティンの状況把握だけして撤収する事も視野に入れるわ」
「部外者が商会の行動を決めんなですぅ……」
クックが不満げに抗議をする。
「むっ、それもそうね……では総帥、ビザンティンの状況によっては、
内部事情の把握のみで撤収するべきと考えますが、いかがですか?」
先ほどの話とほぼ同じ言葉を、今度はチハヤに対して向けてくる。
「そうだな、ナポレオンの言う通りだ。 ここで無茶をして全滅するのは避けよう」
「ほらクック、これで文句ないでしょ?」
「ぐぎぎぎぎ……」
「カミサマは言いました、なにがぐぎぎだと」
「てめーら私にだけ辛辣すぎですぅっ!!」
……英仏の確執が解ける日は、まだまだ遠そうである。
「こ、これだからフランス人は……だいたい、何で雪合戦をしたら、
あのジャンヌ・ダルクが商会のメンバーになってるですぅ?」
「総帥は言いました、お前が好きだ、お前が欲しいと」
ジャンヌが当然のことのように言うが、チハヤの方はそんなことを言った覚えはない。
即座に集まる全員の視線に対し、チハヤはブンブンと首を横に振った。
「言ってない、言ってないからな」
なあんだという声と共に、全員が前に向き直る。
「総帥は言いました、一生私のミソ・スープを作ってくれると」
「いやそれも言ってな……ああいや、言った……かも……」
「ねえ、ランスロット。 ミソ・スープって何か知ってるかしら?」
後ろの方で、ナポレオンがランスロットに耳打ちをする。
「おミソはですね~、ジパングに古くから伝わる保存食でして~、
それをお湯に溶かすとミソ・スープになるんですよ~
特に仙台の伊達政宗公が考案した仙台味噌は絶品という噂です~」
「へぇ……それって美味しいの?」
「とってもおいし~です~」
「チハヤ、今日の夕食はミソ・スープがいいわ!」
「またタカリに来る気ですか!? ちょっとは自重するですぅ!」
「いいじゃないの、GOLD商会総帥が直々に来ても良いって言ったのよ。
そうでしょう、チハヤ」
「ああ、いつでも歓迎するよ」
味噌は栄養価、保存性が高いために陣中食としても重宝されている。
遠くジパングで作られているが故に、ブリタニアで入手するのは困難であったが、戦闘要員の皆が少しでも力が出せるようにと、ここフランスに持ち込んでいた。
「それとですね~、ジパングでは情熱的なプロポーズの言葉として、
『一生味噌汁を作ってください』というのもあるそうです~」
「へぇ、味噌汁ってのはさっき言ってたミソ・スー……んん?」
ランスロット以外の全員が同時に何かに気づく。
そして再び視線がチハヤに集中する。
「ちぃ~はぁ~やぁ~……」
クックから呪怨が籠められた声が響き渡る。
両手の指をパキパキと鳴らしながら、気配がゆっくりと近づいてくる。
チハヤは怖くて後ろが振り向けなくなる。
「チハヤ、今晩のミソ・スープは作って欲しいけれど、一生分はいらないわよ。
だからとりあえず今晩までは生き残りなさいね」
「いや、今晩まで五体満足でいられるかなぁ……?」
たらたらと冷や汗を流しながら、両手をゆっくりと上げる。
他のメンバーは巻き込まれないよう、そそくさと隊列から離れていくのがわかった。
「私がクソ寒い中で貴重な睡眠時間を削って林の中をあても無く彷徨ってた時に、
てめーはフランス人の金髪美女とイチャついてたですかーーーっ!!!」
「みぎゃーーーーーっ!!」
耳元で全力の大声を出され、思わずみょんな叫び声を出してしまう。
ランスロット達はくすくすと苦笑しながら、そんなチハヤとクックの様子を眺めていた。
「全く……冒険航海に出るときは総帥も連れてった方が良さそうですぅ……
放っておいたら何処で何人嫁を作るかわかんねーですぅ」
「ししょーが行くのでしたら、わたしもついて行きたいです~」
「ランちゃん放っておくと心配だし、それだったら私も行こうかな」
「せかいをめぐって……さいきょうのどく……さがす……」
「カミサマが言いました、総帥のいる場所こそが、ジャンヌのいるべき場所であると」
「おめーら全員ついて来る気ですか!? 誰が商会の運営をするですぅっ!?」
「ああ、それなら私がキッチリこなしておくわよ」
「部外者に任せられる訳ねーですぅっ!!」
クックが何度も何度も大声を出したせいか、ぜーぜーと肩で息をするようになる。
GOLD商会のメンバーからも、フランスの将兵達からも、彼女は『ツッコミメガネ』という不名誉なあだ名で呼ばれつつあった。
「もういっそ私も商会に入ろうかしら」
「いーですね~。 ナポレオンさんが仲間になったら、百人力です~。
ししょーのごはんも毎日食べられますよ~」
「それはけっこう魅力的かもしれないわね、一生分はいらないけれど」
「てめーまでついて来る気ですか!? フランス軍の総司令はどーするですぅ!?」
「ブリタニアとの戦争が終わって暴動も沈静化したら、たぶん物凄く暇になるわ。
もう少し深刻な状況になっていたのなら、
混乱に乗じて皇帝になる手もあったのだけど……」
「カミサマは言いました、やめとけと」
「こういう時のジャンヌの勘に逆らうとロクなことにならないから、やめたのよ」
ナポレオンさんは、あー残念残念、と全く感情がこもっていない顔で言う。
「それはそうとして、数学が得意だから、経理の仕事ができるわ。
フランス軍で砲兵を率いた経験があるから、荒事もいけます。
一家に一台、便利なナポレオン・ボナパルトはいかがでしょうか? 総帥」
「ええ!? 俺が決めるのか?」
「来てもらいましょうよ~、ししょ~。
ひとがらと、のーりょくはわたしがほしょーしますから~」
チハヤがどう返答したものかと迷っていると、クックがじと~とナポレオンやランスロットを見つめてくる。
「朝っぱらから下手くそなコントに巻き込まねーなら、歓迎するですぅ……」
そして深々とため息をつきながら、ナポレオンの商会参加を認めるのだ。
「三徹を余儀なくされる程の仕事が来ない限りやらないわよ」
「反対する人はいないみたいだよ。 どうする、総帥?」
ボールスに促され、チハヤはしばしの間、ナポレオンが商会に参加してもらうべきか考えてみる。
ここ最近、フランス国内での暴動が激減したためか、ナポレオンの顔色や睡眠時間は劇的に改善している。
一日に3時間しか眠らないと噂される彼女であったが、実際には体力という意味でもストレスという意味でも、無理をして起きていただけに過ぎなかったようだ。
とはいえ、これまでフランス軍は彼女の手腕によって支えられてきた事は確かであるし、フランス国内の暴動はほぼ沈静化したとは言え、ビザンティンを含めた欧州の多くの国々では、未だ暴動による混乱が続いている。
今すぐにフランス軍からナポレオン・ボナパルトを引き抜けば、フランスの国防上、大きな問題が生じるおそれがあるだろう。
ジャンヌを引き抜いたおかげで、優秀な指揮官を一人減らしてしまったのだ、これ以上フランス軍に無用な混乱を生じさせたくはない。
「……フランスの周辺各国の混乱が収まるまでは、
ナポレオンさんに移籍を願うわけにはいかないよ。」
「なら、欧州各国の暴動を鎮められたら採用って事ね、言質は取ったわよ、
後で撤回とか認めないわよ。 内定の撤回は労働基準法違反だからね、ハイ決定」
ナポレオンが強引にそう決めつけた。
「えぇ!? いや、ナポレオンさんが来てくれるなら嬉しいし、
欧州各国の暴動を鎮める気もあるけど……本当に大丈夫なのか?」
そう言うと、ナポレオンはそっと馬を寄せて、小声で話しかけてくる。
「……ランスロット達が大事なら、黙って受けなさい」
「ランスロット? いや、どうしてそこでランスロットが出てくるんだ?」
「いい? あの娘達はねえ……」
ナポレオンが深刻そうな顔で何かを言おうとした、しかし……
「……欧州の暴動がおおよそ片付いたら言うわ」
とだけ言って、すぐに離れていった。
「ランスロット達が……大事なら……?」
どういう意味だったのだろうか?
何故ナポレオンさんはその意味を教えてくれなかったのだろうか?
俺がそれを知ると、何かまずい事が起きるのだろうか?
チハヤはナポレオンの真意が読めず、頭の上に『?』マークを浮かべるばかりだ。
「……ランスロット」
「はい~、どーしましたか? ししょー」
「フランスの危機は救ったのに、まだ商会の手伝いをしていてもいいのか?」
「故郷の危機はすくいましたけど、まだブリタニア経済はすくってないですよ~」
「ブリタニアの経済、まだ危ういのか?」
「フランスとブリタニアの交易が再開しただけじゃ、ちょっちねー……
あと2~3国くらい交易相手が増えればなんとか持ち直せるかもしんないって」
ボールスが横から補足をする。
「大陸封鎖令が解かれたなら、他の国々とも交易できるんじゃないのか?」
「暴動のせいで経済が混乱してるから、交易どころじゃないだって」
「ですので、このままししょーたちといっしょに戦うことが、
ブリタニアのためにもなるんです~」
「つまり、これまで通りブリタニアとは無関係な営利団体として、暴動を鎮圧すべし。
ってな感じでいこーと思っております。 総帥」
「カミサマは言いました、ブリタニアに恨みがあるのはフランスだけではないと」
「そーいうこと。 悲しい事にね……」
ボールスが深くため息をつく。
「……ま、わざわざガウェイン様に猿芝居をさせてまで無関係を装っているんだし、
こりゃ~失敗したら減棒どころか、クビかな~」
「猿芝居?」
ボールスはブリタニアで発行されている新聞紙をこちらに投げてよこす。
それは俺達がフランスに渡った直後の日付が書かれており、その一面には『円卓の騎士謀反! ガレス、ガリヘスを病院送り!』という文字が大きく強調されていた。
「おいおい……あの娘達、重傷だの入院中だの書いてあるぞ」
チハヤの記憶が確かならば、彼女達はやられたフリをしただけであって、実際にはカスリ傷一つ受けていなかった筈だ。
「もしかして、表向きは重傷って事になっているのか」
記事の続きには、ガウェインという人が強硬にGOLD商会の成敗を主張するも、アーサー王はその意見を退け、謀反の理由がわかるまで様子を見ることにしたとある。
「(こうやって念入りに無関係を装わなくてはならない程、
ブリタニアは諸外国と仲が悪いって事なのか……)」
チハヤは今のブリタニアの微妙な外交関係に想いを馳せて、胸を痛めていた。
「まあそんな訳だからさ、ランちゃんパラっちともども、
もうちょっとだけ厄介になる感じかな」
「よろしくおねがいします、ししょ~」
「我が名はパラメデス……コンゴトモヨロシク……」
「ああ、うん、よろしく」
欧州の混乱を鎮めたら、ランスロットとボールス、パラメデスの3人とは別れなくてはならない。
思えば、初めて出会ったときから3人には世話になりっぱなしで、どう返せばいいのかわからないくらいの恩義がある。
別れが近いと思うと少し……いや、かなり寂しく思う。
「さて……もうすぐ国境、連中との待ち合わせ場所がそろそろ見えてくるはずなのだけど」
チハヤがそんな事を考えている間にナポレオンが地図を広げ、道や目印となる地形を指でなぞる。
「そーすい……あっち……」
パラメデスが何かに気づき、指をさす。
その先には騎士甲冑を纏った1000人程度の集団がいた。
「どうやら、先に到着して、待っていたようね」
「お初にお目にかかります……」
騎士団の中ほどから、長身の女性が歩み寄ってきた。
「私は、テンプル騎士団の指導者を務めております……ユーグ・ド・パイヤンと申します。
高名なGOLD商会の皆様にお会いできて、光栄です」
その瞬間、ぞわり……と、チハヤは全身の毛が逆立つような嫌な感触がした。
GOLD商会構成員
チハヤ(総帥)
ランロット
ボールス
パラメデス
クック
ジャンヌ
協力者
ナポレオン