深い意味はない、自己満妄想垂れ流し。
「起立、礼!」
「「「ありがとうございました〜」」」
教師の号令で四限目が終わり、教室は授業中とは打って変わって瞬く間に喧騒に包まれた。
クラスはすでに昼食を取り出す者、購買に向かう者、談笑する者、部活に向かう者などで分かれており、いつも通りの昼休みの光景が広がった。
教科書やノートを鞄にしまい、いつもの様に昼食の弁当を食べながら朝新しく見つけた“アソビ”を楽しもうとスマホを取り出すと、ふと自分の席を囲む様に女子が3人、席を囲む様にして立っていた事に気づく。
「どうかした? 大濱さん」
その中でも一等身長の高い、190はあろうかという女子。この女子3人のグループの中心でもある大濱春香へと声をかけると、長濱はニヤニヤとした顔でスマホを取り出すと、一枚の写真を送信してきた。
「いやぁ、委員長にちょ〜っと聞きたいことがあってさァ」
「……!」
「委員長さァ……夜の街で草臥れたOLとこんなとこ入って何したんだ?」
トーク画面を開き、送られてきた写真を見ると、160程の黒髪黒目で、この学校の制服に身を包んだ少年が、パンツスタイルの黒いスーツに身を包んだ30半ばくらいの女性と手を組んで、
言わずもがな、少年とは僕、この叡智学園高校2-A組の学級委員こと古町遊であり、そしてこの場面は誰が見てもママ活、若しくは
「この写真に写ってるの、委員長だよなァ?制服もウチのモンだしよォ?グループに貼ってみんなにも聞いてみよっか?」
「……僕に何して欲しいの?」
「おっ、物分かりが良くて助かるわァ〜。それじゃあ放課後東棟5階の空き教室に来な。来ないとどうなるかは……言わなくてもわかるよな?」
イケナイコトがバレた。弱みを握られている。それに怯えている
気を良くした大濱率いるギャルグループはそのまま教室を後にし、顔を青ざめさせた僕が取り残された。
喧騒に包まれた教室の出来事、気付いたものも少なく、また気付いたものも内容までは聞こえなかったのか興味を失ってそれぞれの放課後へと戻っていく。
と、そこにただ一人、僕に声をかける者がいた。
「ゆ、遊くん……さっきの……」
「……え、あぁ大丈夫だよ寧々ちゃん。何でもないから」
根倉寧々。僕の家の隣に居を構える根倉家の3人姉妹の次女で、僕の幼馴染である。
このクラスのカーストで最上位に位置するギャルグループに絡まれて顔を青ざめさせた僕を気遣って声をかけてくれる彼女を安心させる様に、少し歪な笑顔を
「それでね、僕、放課後に用事が出来たからさ、先に帰ってても良いよ?」
「え?いや……それ、さっき」
「あ!そうだ!そんなことより久しぶりに一緒にお昼食べない?」
「うぇ!?あっ、えと、ごめん。文芸部の友達と食べる約束してるから……」
「……そっか!楽しんで行っておいで!」
「う、うん……」
いつもより少し大きな声で誤魔化す様に、何か言いたげな、でも口に出せずにいる彼女を尻目に気まずさから逃げる様に、今日は天気も良いし中庭で食べようかなとわざとらしく溢して弁当袋を手に廊下に出る。
そこで購買で買い物を済ませ帰って来た先ほどの3人から、すれ違いざまに羊を狙う狼の様な視線を向けられ、少し震えつつ教室から離れていった。
それから昼食を済ませ、5限6限と授業を受けつつも、背中から感じる熱を孕んだ視線にチラと後ろを振り返ると、大濱さん達が浮かべていた笑みをさらに深くし、寧々ちゃんは心配そうな目でこちらを見つめていた。
前を向いた僕は、その後の授業がまともに入ってこなかった。
そしてついに放課後を迎え──
「おっ、きたきたぁ〜」
東棟5階、空き教室。
簡単に言えば人通りの滅多にないこの区画でも、一番奥に位置する隠し事にはもってこいの場所。
そんな教室の前で僕を待ち構えていた3人は、僕が来たとわかった瞬間、ついにエサにありつける野良犬の様に僕の周りを囲んだ。
「……」
「そう怖がんなって……なぁに、大人しくしてればすぐに済む……ってわけにもいかねェな、何たって3人も居るんだからよ!」
「さっきから春香下品〜。遊くん縮こまっちゃってるじゃん〜」
「うるせぇな美桜、お前だってさっきまでだらしねぇ顔してたじゃねぇか」
「……早く入ろ、人が来たら面倒」
「あァ〜それもそうだな、それじゃあ委員長〜、入ろっか♡」
「……あの、言うこと聞いたら、その、写真……」
「あーわかったわかった。そんなことはいいから早く入ろうぜ?正直もう待ちきれないんだわ♡」
僕の肩に腕を回して右を抑える大濱春香に、左腕を抑える中川美桜、後ろを見張る小波皐月。
3人に囲まれて、僕は教室へと足を踏み入れる。
この後に待つ、 を予感しながら。
☆☆☆
私、根倉寧々には幼馴染がいる。
古町遊、整った目鼻立ちに引き締まった体。性格は明るくて気さくで人懐っこく、他人の世話を焼くのが好きな根っからのお人よし。
こんな陰気な私にも気兼ねなく接してくれる、私にとって大切な友人で……初恋の人。
歳の近い子供がいて、家が隣だったこともあり、幼稚園の頃から古町家と根倉家は仲が良く、そして姉妹の中でも同い年の私が一番遊くんとの付き合いが長い。
昔から、どこか大人っぽいところもあるけど、笑うと年相応な顔を見せる、そんな男の子。
少しでも長く一緒に居たくて同じ高校に入ったけど、遊くんは高校でもすっかり人気者となり、最近ではあまり一緒に過ごせていない。
高校生なのだから、昔みたいにほとんど毎日遊べるとは思っていなかったけど、それでもどこか寂しさを覚えてしまう。
遊くんのことで私が口を出すのも烏滸がましいし、彼女でも無いのに隣に立っているのも申し訳なってくるので、昔から本を読むのが好きだから図書委員や文芸部に入って友達を作ったりしようとしたけど、やっぱりどこか物足りなくて。
そんなある日だった。
(今日は一緒に帰れる日だ……嬉しいなぁ)
図書委員も文芸部も活動しておらず、遊くんも学級委員や周りとの約束がない日は、昔みたいに一緒に帰ることができる貴重な日だ。
真面目で生徒会の仕事柄もあってか朝早くに学校に向かっている遊くんとは違い、夜遅くまでゲームのしすぎで朝に弱くなってしまい、遅刻ギリギリで学校に着きがちな私には、好きな男の子と登下校をする機会というものは限られているのだ。
そんな貴重なイベントに浮かれていた私は、ふと遊くんの席の周りに人が集まっているのに気付いた。
(あれは……大濱さんと中川さん……それに小波さん……)
大濱さん率いるギャルグループは、このクラスでそれなりの影響力を持っており、イベントや体育の授業では彼女らが中心になることが多い。
リーダーの大濱さんは190センチ近い長身と、スラリとして、それでいてしっかりと筋肉の付いたアスリート体型の女子で、金色に染めた髪を豪快にまとめ上げたポニーテールと健康的に焼けた小麦色の肌が特徴の美人。硬式野球部に所属していて、2年生ながらチームの4番を務めるガチガチのスポーツ陽キャだ。話しかけられても上手く話すどころか縮み上がって謝り倒してしまいそうになる。
中川さんは170前半の平均的な身長に緩く巻いたストロベリーブロンドの髪と煌びやかなネイルとピアスが特徴的な、典型的なギャルだ。
両親がアパレル関係の仕事をしていて、それ故にセンスがいいらしく、いろんな服を着こなせ、香水やアクセサリーにも明るいから男子ウケもいいのだとか。
正直私にとってはよくわからないのだが、遊くんはそういうのに興味あるのだろうか……?
そして小波さん。
160後半の少し小柄な身長にグレーの癖っ毛のボブ。ものぐさでよく授業で居眠りをしていて、それを先生に指されていたりと、どこか猫っぽい印象を持つ彼女は、長濱さん達と幼馴染であるからギャルグループに属しているものの、どこか
そんな彼女らが、遊くんの周りを囲む様にして立っていた。
何かを話しているのだろうかと見ていると、優くんの顔色が段々と悪くなっていった。
そして大濱さんが「東……教室……」と話すのを辛うじて聞こえたところで、彼女らは席を離れていった。
未だ青褪めた表情をした遊くんに、たまらず声をかけたはいいものの、その後なんて言おうか迷っていたら、「大丈夫」と笑ってくれた。
でも、その笑顔はどこか変で、まるで無理に笑っているような感じがして……。
思えば話題を変えたのか、久しぶりに2人でお弁当食べようと誘ってくれた時は、慌ててことわっちゃったけど、今にしてみれば勿体無いことをしてしまったと後悔している。
(気になって待ってたけど、帰ったほうがいいのかなぁ……)
結局、遊くんの事が気になって、『用事終わるまで待ってるから、一緒に帰らない?』とラインを送り、暫く教室や図書館で待ってみたものの、既読は付かずに2時間が経とうとしていた。
(東に教室……東棟の教室の事かな……?)
この学校の校舎は東棟と西棟と中央棟に分かれており、昔まだ東棟のみだった校舎を増設した作りとなっている。
それに伴い、新設した校舎には1〜3年生の教室が、西棟には体育館やプール、柔道部や剣道部の道場が。東棟には、理科室や技術室といった実習教室が配置された。
実習教室で、部活動の活動場所となっている主な教室は1〜4階に固まっており、5階から上は資材保管庫だったり準備室だったり空き教室となっている。そのため人の出入りが少なく、交際しているカップルが隠れて情事を行ったりするのにうってつけと噂されている。
恐らく遊くんは長濱さん達にそこに呼び出されたのだろう、しかしリアルの情事に疎い私は、身近でその様なことが起こり得るわけ無いと考えていた。
(でも話してた時、いつもの遊くんにしてはおかしかった……)
話してた時にだんだん顔色が悪くなっていった様な……何か弱みを握られた?いやでもそんなフィクションみたいな展開あり得る?でも今日の遊くんは何かわざとらしかった……本当に?いやいやまさか……
頭ではあり得ない。遊くんがそんな事する訳ない。何かの勘違いだ。と考えるも、体は勝手にゆっくりと動き出していた。
なんだかんだ言って、遊くんとはずっと一緒にいられると思ってたし、初めても結婚も私とするものなのだと考えていたのかもしれない。
遊くんとは長い付き合いだが、そういった関係になりそうな事は実際何回かあった。
でも、その度に遊くんは顔を赤らめて恥ずかしそうにしていたため、無理強いをするのも良くないと自分に言い聞かせてきた。
そこから、遊くんはそういった事に忌避感を持っていると思っていた。
しかし、もしもあれが、私がもう少し押していれば許されたのであれば。
私も年頃な女の子だ。そういったことに興味がないと言えば嘘になるしぶっちゃけしたい。
女子高校生なんて性欲の化身みたいなものだ。今まで何回遊くんのことを考えてシーツを汚したかはもう数えるのも諦めた。
ただ、いざそうなると勇気が出ない。陰キャな私には、遊くんとの関係が壊れるのが恐ろしくてとてもじゃ無いが言い出せない。
遊くんは離れて行かない。いつかはそういう関係になれるけど、今じゃない。そのうちそうなるきっかけが来るさ。と、現状に甘んじていたのだろう。
(でも、他の子に取られるのなら……)
自分の気持ちに正直になれば良かった。
今までの安心し切った自分を殴りたい。
後悔を噛み締めながら、段々と急ぐ足で東棟へと向かう。
どうか、これがただの勘違いで済む様にと神に願った。
何も起きていないでくれ、ドアから遊くんの嬌声が聞こえた日には、もう窓硝子を破って飛び降りよう。
(お願い……神様……仏様……遊くん……!)
どうか
どうか……
どうか!!!!
階段を駆け上がる。運動不足で息が乱れるのをよそに、4階と5階を繋ぐ階段の踊り場を回ろうとした、その時だった──。
「あれ? 寧々ちゃん?」
「──え? 遊……くん?」
何気ない顔で、階段を降りる遊くんと目が合った。
「どうしたの? そんなに慌てて、息すごいよ?」
言われてやっと、階段の手すりに寄りかかって息を整える。
久しぶりに動かした体は所々悲鳴を上げており、髪なんて流れる汗で肌にくっついている始末だ。好きな男の子に見せるには、あまりにも不格好だった。
「……ふふっ、迎えに来てくれたの?」
恥ずかしさで顔が熱くなっているのを見られまいと俯いていたが、そう言われてハッと顔を上げて遊くんを見る。
「……あっ……大濱さん達に……何か……されてないかって……それで」
息も絶え絶えにそう伝えると、合点がいった様に手を叩く遊くん。
「あー、あれはね、空き教室の掃除を手伝ってって言われたんだ」
「ーーへっ? ……そ、掃除?」
「うん、
思わず変な声がでる。
「先生に押し付けられちゃったみたいでさ、結構汚れてたから、もう一人くらい手伝って欲しいって、昼休みにね」
「ーーでも!話してる時、顔色がどんどん悪くなって……」
「散らかった空き教室の写真送られてさ、あまりの散らかり具合に思わずうえって顔顰めちゃったよ〜」
それを聞いて、やっと自分が思い違いをしていたことに気づく。
ほっと、安心してため息を一つこぼすと、階段を登れずに踊り場に座り込んでいた私に気遣ってか、優くんが目の前に来て手を差し出した。
「立てる? 寧々ちゃん」
「あ、ありがとう遊くん」
掴んだ手は、私の手汗か少し湿っていた。恥ずかしくてちょっと泣きそうになってくる。
──と、ふと優くんの制服のボタンが第二ボタンまで外れているのに気づいて、そっと伝えると、少し恥ずかしそうに慌てて直しかけて、その手が止まる。
「今日暑いし、寧々ちゃんしか見てないからこのままでいいや」
「ええっ!? だ、だめだよ遊くん、男の子がそんな」
「ふふっ、冗談だよ。さっきまで
「う、うん。わかった……」
「よし、それじゃあ待っててくれたことだし、一緒に帰ろ!」
「……!うん!」
その日は帰りに一緒に前々から気になっていた新しく出来たカフェのスイーツを食べて帰った。
その時に遊くんから返信が来てた事に気付いたが、丁度階段ダッシュの最中だったからか気付かなかったのだろうか。
2人とも体を動かして疲れていたからかいつもよりも多く注文してしまい、体重が怖いと笑い合ってその日は別れた。
お店の雰囲気も良かったし、バイト応募しようかななんて話もしてたっけ。
(一時はどうなるかと思ってたけど、何事もなくてよかったなぁ……)
不安も解消したし、汗だくだったのがシャワーでさっぱりしたしその日はゆっくり休めた。
次の日、久々の運動で全身が筋肉痛になってしまい、遊くんに呆れられてしまった。
治ったら運動始めようと心に決めた。
☆☆☆
「……お゛っ……ほぉ゛っ……♡」
「あ゛っ……はぁ……ん゛っ♡」
「…………ビクッ……ビクン……♡」
ふー、と息をつき、目の前の光景を噛み締める。
生まれたままの姿で床に転がる3人は、使い終わった
「それじゃあ、
シャツのボタンを掛けながら、聞こえてるかどうかわからない3人に向かってそういった。
「あー、忘れてた忘れてた」
思い出してスマホを取って電源を入れると、通知が一つ入っていることに気がついた。
「ん……2時間前……寧々か。やはり寧々ちゃんは可愛いですね」
内容は、待ってるから一緒に帰ろうといった文言。俺への気遣いが溢れ出てる文面だな。陰キャがよ。可愛いね♡
『今終わったよ!まだ待っててくれてるかな?』と返信を済ませ、カメラアプリを起動して、床に転がる3人をパシャパシャと撮っていく。
「うん。よく撮れてる。じゃ、あとは任せたよ〜。このことバラしたらどうなるか分かる……って聞こえてなさそうだね。ちゃんと片付けておくんだよっと!」
バシッ!
「んお゛っ!!ほぉ゛っ……お゛ぉ゛……♡」プシッ
去り際に転がってる中で一番デカいケツをシバく。あぁまた床汚しやがって、掃除用具としての自覚は無いのかな?
そうして教室から出た俺は、寧々ちゃんからの返信が来てるかなとトークアプリを開くと、階段を駆け上がる何者かの気配を感じて咄嗟に隠れようとしたが、それが見知った人物……というか今探していた相手であるのに気づき、スマホを仕舞う。
踊り場にへたり込んで息も絶え絶えな彼女に、今日も可愛いなと思いながら彼女の前での仮面をつける。清楚な学級委員、気安い幼馴染、この世界ではか弱い男の子の、古町遊という仮面を。