全話エロを公約します
「若、こんな……あなたは、なんてみだらな」
潤んだ視線が降る。
欲望に歪んだ目だ。
アリスは太ももで腰をホールドし、唇を落としてくる。
さっきまでの遠慮した切ない口づけじゃない。
獣の荒い息遣いで、彼女の舌が口腔にねじ込まれた。
「ん、ちゅ……は、ぁ……」
白いしなやかな腕が、頭を抱えて離さない。
全身が動けなくって、自分の感覚が口に集中しているように思えた。
粘ついた糸が唇をつなぎ、妖しく光を反射する。
全身がくべられているみたいに熱い。
幸福感と快感は、脊髄を痺れさせる。
「私は、従者です……あなたのことを、護るために、います」
「アリス、落ち着いて……!」
「今夜、今夜だけは、どうか」
彼女の、雪のように透明な声が、泥と同じ粘着質な質量で、けがれていた。
無意識だろうか、アリスの拘束が強まる。
湿り気のある肌。柔らかさも伴って、包まれていく幸福に溺れてしまう。
「ぇ……ろ、れろ……」
彼女の舌先が首筋を這う。
静止も利かず、俺の汗ばんだ肌を堪能し続ける。
アリスの理性はとっくに消し飛んでいた。俺への忠義は、彼女自身の欲望に容易く塗り替えられてしまった。
ぞっとするほど官能的な美貌が、俺の耳たぶを甘噛みしながら囁いてくる。
「あなたが、私に意味をもたらしました。私は、望むがまま振るわれる刃でよかった。こんな歓びを味わったら、もう手放せない」
「あ、りす」
「はい。はい。私は、アリスです。あなたのアリス。私のあるじ」
「落ち着いて、初夜ってもっとこう、節度あるものじゃないの……!?」
童貞の幻想に過ぎないけど!
腰をずらそうとすると、否応なしに彼女の股に触れてしまう。蜜で編まれた水の糸。擦れるたび、ぐちゅぐちゅと水音を立ててアリスの背中を震わせた。
腕をマットレスにつき、彼女が顔を上げる。
濡羽色の長髪が
アリスだけしか見れなかった。
変になる。視線の逃げ場所はどこにもなかった。
「うぁ……」
「私はあなたのもの。ですので、
「論理、破綻してるぞ……!」
「でも、若だってこの状況に興奮しているのでしょう?」
「…………」
図星だ。彼女のありのままの性欲が、この上なく心地よかった。
唇をつぐみ、喉からせりあがる羞恥を呑み込もうとする。
粘ついた口のなかで、無意味な言葉が転がった。
何も言わない俺を見下ろし、彼女が微笑む。
「あなたも望んだ状況です。私は、ハル様の命令に従います」
それで、彼女は免罪符を手にしてしまった。
もう静止は利かない──唇が誘う。再度のキスで流し込まれた
「ん、く。若、唇、気持ちいいです」
彼女の体が離れると、甘い匂いが全身に移っていると気づいた
アリスの恋人繋ぎが、獲物を捕食する蜘蛛の脚と幻視する。
彼女の指がそのまま、胴体をなぞった。
導く先は、苦しく張り詰めた股間。
くすりとした含み笑い。
滑らかな仕草で、
「布越しでも、感触がわかります……」
「ちょっと、それ、やばい……!」
「若、年頃の男児が私のような女に興奮してはだめじゃないですか……どれだけあなたが高潔であろうとも、体は正直なんですね」
「そんなエロ親父みたいな言葉やめてくれよ」
「お覚悟を、若──」
アリスが息荒く、股間を嗅ごうと顔を押しつける。
爛々とした目の輝きで、彼女はズボンを下ろした。
「──ぁ、あ」
ぺちん、と。怒張が彼女の鼻を叩き、彼女の息が直接吹きかけられる。
アリスから与えられる絶え間ない快感のせいで、先端は少し濡れている。
解放された
湿り気のある息が刺激し、全身から力を吸われる感覚に襲われる。
息を呑む。くそ、こんな、恥ずかしいなんてものじゃない。
「触ります、もう、駄目」
まさぐり、彼女の細い指に触れられた。
快感に反応し、全身に電流が流れたみたいに俺の腰は浮き上がる。
包むように握られる。
人形と評される彼女の手は、ひんやりと冷たかった。
「硬い……それに、震えてます」
「アリス……そのまま、少しずつ、上下に動かして」
「はい。はい……!」
たどたどしいストロークで、快感が蓄積される。
往復するたびに腰が勝手にマットレスへ沈んでいく。
自分でも、どういう状況かわからなくなる。
悶えながら天を仰いだ。視界が白黒と明滅し、自分が出してると思えない呻き声が口から漏れ出す。
「気持ちいいのですか? 私は、ちゃんとできていますか?」
「うん、う……」
「もっと、なんでも、仰せください」
「……アリスを触らせて」
ほとんど声になってなかった。でも、従者の彼女は聞き分けよく頷き、手のストロークをそのままに上体を密着させてくる。
欲情に輝く目。間近で俺の顔を眺め、アリスの興奮もエスカレートしていくようだった。
「あなたも、私を愛したいのですね」
少し腑に落ちる。俺が彼女の様子を窺っているように、アリスも俺が向けている性欲を敏感に受け取っているのだ。
「ハル様、どこでも、好きに触ってください……」
「胸、直接触りたい」
快感の波に溺れまいと堪えるあまり、回答に余裕がなくなってくる。
俺の首に手を回しながら、彼女が胸を差し出す。
一つずつ、制服のボタンを外す。
もどかしさが、自分の興奮を更に誘っている。
黒の下着に覆われた熱っぽい体。
手には収まりそうにない、主張のある胸。
熟れてはない、発育途中の果実。
黒髪が枝垂れ、彼女の谷間にじっとりと張り付いている。
「アリス、もっとこっちに寄って」
「はい……若、下着をいま外し──」
「──もう、外してる」
支えをなくし、彼女の胸が
黒い下着をズラし、はだけた姿。
剥き出しとなる白磁の肌。
制服と黒の下着とのコントラストが、背筋をぞくりとさせる背徳と結びつく。
感嘆の息が漏れる。
「着痩せするんだね」
「交戦時、胸の揺れが邪魔になりますので」
恐る恐る触れると、アリスは手を止めた。
じっと、胸の感触に集中しているようだ。
唇を引き結んだ緊張の表情が、たまらなく愛おしい。
「柔らかいよ、アリス」
「……ハル様、もっと」
「アリスの体、全部がほしい」
「夢にも思いませんでした。私が、こんな幸せを」
「俺だって同じだよ。初めてがアリスでうれしい」
身じろぎで、胸が指に吸い付く。
きつく胸を押すと、発育のいい形が拒むように歪んだ。
細く、切れ切れの喘ぎ声が耳を撫でる。
「あぁ……ハル様……!」
「乳首、こんな尖らせて、かわいい」
「ひぅっ」
小さな突起を指先で弄ぶと、甲高い息を鋭く漏らした。
理性なんかなくして、ひたすらになで回す。
快感のままに動く肉体。
その反応が嬉しくて、俺はとうとう、彼女の太ももに手を伸ばしていた。
滑らかな腹。若い少女の筋肉。
緊張で張った肌は、汗と蜜ですぐに指先を濡らす。
下着の中に、蒸れた淡い茂み。
「…………」
唾を飲み、アリスは全身を硬直させてしまった。
一周回って冷静になったのか。
動転を浮かべ、俺の挙動を一心に見つめてくる。
「こんな、身に余ります。胸はおろか、そこまで」
「好きにさせてくれるんでしょ」
「ですが、私などの……その、恥部を」
「などなんかじゃなくって、アリス
「立場が、あべこべになってしまいます……」
「これから挿れるんだから、具合を確かめるだけ」
イタズラっぽく笑う。
熱を帯びた頬が、更に紅潮していく様子を眺めた。
互いの視線がそろうのを合図に、口づけを交わす。
舌先がもつれて、呼吸が苦しい。
触れあう肌の全て、どちらの熱かわからないくらい溶け合っていた。
感情の波が大きな瞳に表れている。
不思議な感覚だった。意識せずとも、彼女が何を求めているか理解できた。
「アリス、もっとこっちにきて」
太ももの間に沿わせ、指が彼女の突起に触れた。
体温と同じ蜜の滴り。
掌にまで伝わる。
指先が少し沈み、強く締め付けられる。
「人差し指、挿れるよ」
「ぁ、ぁああ」
アリスは奉仕の手を止め、はしたなく漏れる声を抑えようと自分の口に宛がっていた。背が弓のように反り、マットレスをひどく軋らせた。
指の中腹まで潜り込んでいく。
圧迫感のある内側。粘度の高い熱が手に広がる。
呻くアリス。長い睫を伏せて、荒く肩で息をしている。
かすかな苦悶のあと、すぐに続きを請う。
「若、若、こんな、もどかしい、です」
すすり泣きの口調で哀願し、彼女がまたキスを求めた。
何度目かの口づけか。
甘い香りを孕ませた少女の髪。
くらりと痺れる女の薫り。
酩酊の心地だ。互いの愛撫で水音を上げる度、絶頂を予感させて意識が遠のいていく。
茫洋とした広がりで、喘ぎ声と淫らな吐息が静かな空間に浸透する。
寄せた眉、半ば開いた口。
放心の様で、アリスはもう欲望を紡ぐことしかできなかった。
「……ハル様、挿れさせて。挿れさせてください。あなたを犯したい」
艶めかしい媚び。
顔を離し、思い詰めた表情で、彼女が上体を起こす。
両膝をついて、俺の鈴口が、スカートの奥に潜まされる。
しなやかな手で、俺の芯を自分のものに導く。
彼女が腰を下ろしたら……
数瞬先の光景を想像した途端、血流がすべて自分の芯に集まっていくのを感じた。唾を呑み、アリスを見つめて頷いた。
「めちゃくちゃにして」
「はい、主様……」
従順に首肯し、その腰を落とす──
◆
〝アンヘル〟に跨がり、彼女がヘルメットを差し出してくる。
刀をバイクのボディに横差しで構え、しなやかな脚で路面を踏む。
黒の流線型のモデリング。
直列4気筒のロングマフラーにより、スピードに洗練されたエンジン。異様な出力特性。ニュートラルで噴き出す排気は、一定のリズムで俺の男心を甚振るようにくすぐりやがる。
手綱を握る彼女は、追っ手のせまる状況下だってのに心なしか『むふー』と満足げだ。愛機見せびらかしやがって
呆れながら、後部に座る。
「ヘルメットにインカムが付属しています。耳に取り付けて、そのまま装着してください」
「結構、サイズきついね」
「ハーネスを側面から伸ばして──」
「──? 腹に手を回せばいいよね」
「え──!?」
くびれた胴に手を回し、役得だと言わんばかりに悟られないくらいで体を接触させてみる。あ、花の薫りがする。
相手が断れない状況で、自分もその行動をせざるをえないならば、下心は無限にも膨らむのだと実感してしまう。
「わ、わっわわ、若、こんな、私のようなものに、いけません」
「ごめん、イヤだよな。すぐに離す」
と、そのときだった。
「申し訳ありません、若。しばしの無礼をお許しください」
「え、急にどうしたの」
狼狽する少女が、一瞬で武人の研ぎ澄まされた意識に切り替わった。
抜刀を彷彿とさせる俊敏さだ。
いきなりのことに呆けたが、即座に理由へと行き着く。
さっきまで俺達が上ってきた階段から、慌ただしい足音が無数に聞こえてきたのだ。
追っ手だ。思い至ると同時に、違和感が生じる。
「まって、
「強行突破します」
「え、いやいやいや! 屋上からワンチャンダイブとか洒落にならないって!」
「一時の辛抱です。もう少し強く、体が密着するまで、腕をしっかり回してください」
「やけに入念なトーンだ……これくらい?」
「もっと、両腕で、忘れられないくらいに掻き抱いてください」
「…………」
もう十分強く抱いてると思うんだけど。
切迫とした緊張感だから深入りできず、大人しく従う。
「はい。はい──私の前に、障害はありません」
下半身から伝わるエンジンの鼓動。
蓄積されるトルクの挙動。
鋼鉄の怪物が、彼女のスロットルに呼応して叫び声を響かせる。
「〝アンヘル〟──まいりましょう、共に」
「いたぞ、侵入者め──!?」
解き放たれるスロットル──!
トップスタートの爆音が、屋上に突入してきた女性達を威圧する。
後輪の駆動だけでその場で転回し、
「どあぁああ!?」
正気かよ!? 激突でミンチと化す未来を予感し、狂ったように叫んだ。
車両を避けようと散り散りとなる集団。
開けた視界。少女の挙動に目を奪われる。
一瞬のスイッチ制御で、バイク側面からグレネードが都合二発射出され、爆風が総身を包んだ。息を止め、きつく瞼を閉じる。素肌に火花と粉塵が飛散するが、強い衝撃は感じなかった。
壁ごとドアを破壊してのけ、学校の屋上から階段に飛び出る。
浮遊感。スローモーションに引き延ばされた時間感覚で、絶技を垣間見る。
浮き上がった車体を抑え、空中にカーブが敷かれてるかのごとき転身で、両輪が直角方向に曲がる。
次の瞬間には、廊下をタイヤが荒く削り、下の階に車体を投げ出していた。
踊り場への着地。このありえない状況のなかで、機械じみた精密さのステアリング操作で、踊り場でカーブを曲がる。
「すっげえ……!」
自分では及びつかない技巧に舌を巻き、背中に感じる彼女の頼もしさに震えた。
下駄箱まで駆け抜け、ガラス扉を破壊しながら校庭に踏み入る。
夜闇を上塗りする濃さで、黒煙が炎を逆巻いている。
チロチロと伸びる蛇の火が、グラウンドのあちこちで這いまわっていた。
校庭では、絶え間なく銃声が響いている。
先ほど屋上で目撃した武装姿の女性と同じ人影が、十数名、数機の二足歩行ロボと交戦していた。人間と同じサイズ感だ。車両をバリケードにした人影に対し、機械の捨て身で銃を乱射する。
「なにあれ、ロボット?」
「自律駆動支援機体です」
言うや彼女は、片手のハンドル操作に切り替え、銃弾飛び交う戦場でジグザグと迂回しながら何事かを連絡する。当たり前に片手で扱ってるけど、少女じゃあり得ない膂力である。何者なんだよ。
「プランDへ移行、仲間と合流し、あなたの安全を確保します」
「そのプラン、俺も知りたいな」
「敵戦力の一部無力化で脱出経路を開き、奪還作戦の完了を目的とするものです」
強烈な前輪操作。
バイクが浮き上がり、校庭脇のガーデニングを踏み荒らした。
校舎の影に潜むように、巨大な装甲車両が配置されていた。
装甲車両の横に急停止すると、彼女はヘルメットを脱ぎ、呼びかけてくる。
「若、車内に仲間がいます。すぐに合流を」
「分かった。早く行こう」
慌てて降りるが、彼女は続かなかった。
そのまま、まっすぐな視線で俺を見てくるだけだ。
「最期に会えてうれしかったです。ほんの数分でしたが、逢瀬のようで──」
「いや、死のうとしてる?」
「政策に刃向かって計画しましたから、ケジメを付けなくては」
「冗談でしょ」
突き付けられた覚悟に声が震えた。
やめてくれ、名前も知らないのに。
背後で爆発音。数十メートル先で着弾した砲撃に煽られ、足下がふらつく。
額と頬を熱風が撫でていった。
目覚めたばかりで右も左もわからないけど、この場所はどうしようもないくらいの死地だった。
明確な命の危機で、鼓動が高まるのを感じる。
眼差しに射抜かれ、声が詰まった。
爆発の炎で照らされる陰鬱な表情。
冗談なんかじゃない。彼女は、俺なんかのために命を投げ打つつもりだ。
「あなたの安全が最優先です」
「だめだろ、それは」
「昔、あなたと出会えたから、私はこの刃に意義を見出せました」
柔らかな笑みで、名前も知らない少女が俺に覚えのない記憶を謳う。
大きな目からは、大粒の涙がこぼれるらしい。
「だから──あなたを社会のリソースに捧げて、人類の200年の存続を担保するセカイよりも、誰の隣であっても、あなたが生きていてくれる未来を選びたかった」
「言う相手が、違うだろ……」
俺は、あなたの知る少年じゃないはずだ。
やるせなく、中空に手が挙がる。
縋り付こうとする手を見送り、彼女はバイクに騎乗する。
銃声に溶け込むエンジン音。
「さよなら、若──ずっと、お慕いしております」
透明で柔らかい、秋風めいた台詞。
──それを切り裂く、暴力的な横槍。
「いつまでやってるの」
無遠慮に、突然現れた白髪の少女。
その子は、俺の横にいつの間にか控えていた。驚愕で肩が跳ね上がった。
目を開き、死地に赴かんとしていた手を止めて、黒髪の少女が呼びかける。
「レティ、持ち場を離れないでください」
「もう〝ロボ〟の耐久値が限界なの。技術支援をするだけ無駄と判断した」
「……勝手な判断で状況を乱さないで。どういう了見ですか」
「愁嘆場に付き合ってられないだけ。惚れた腫れたとか、恋心とか──ナンセンス、不要な材料ね」
上品なブレザーで身を包み、思い切った切り方をした短髪の少女が、俺を振り仰いでほくそ笑んだ。
「やるなら、全員が助かる作戦──そっちの方が、有意義じゃない」
人物紹介
・レティ(白髪の子)
情事をする2人の様子をモニターして脳を破壊され続けている。哀れ。