※この作品はR-18です。

終末世界であべこべ   作:ピザ暇膝

5 / 10
感想・評価、力になってます!
ビッグラブを差し上げます……


2

「わたしも見て……」

 

 口端に白い泡を溜め、らしくない上ずった声で懇願する。

 秘部に差し込まれたバイブ。

 加速度的に下着を汚し、透明な液体が水音を鳴らす。

 淫靡さと滑稽さが混ざった姿。

 背筋がゾクゾクと震える。射精したばかりなのに、もう準備万端になってしまった。

 

「レティ、どこを触ってほしい?」

「……わたしの、あそこ」

 

 いつもは簡潔に物事を告げる彼女のいじらしい口調。

 羞恥心で口ごもりながら、熱っぽい瞳で媚びてくる。

 彼女は自ら、控えめな乳房をほぐすように揉み、細い脚の股間(スリット)に指をまさぐり入れている。

 

「機械じゃ、やだ……切ないよ……」

「…………」

 

 長い息を吐いた。

 向き合う彼女の瞳で、理性の枷が外されていく感覚。

 

「でも、レティは俺に欲情してないんだよね」

「…………ぇ」

「のぞき見はおろか、オナニーまでしてたのに、ね」

 

 言葉で攻めながら、彼女の太ももをなぞった。表面は愛液でコーティングされ、俺が触るだけで身悶えしていた。

 物欲しそうな視線を向け、唇を引き結ぶ。

 その素直になりきれない態度が、たまらなく愛らしい。

 

「レティは俺のことがすき?」

「……なによりも、すき……」

 

 切れ切れの回答。

 獣欲の渦に呑まれながらも、切なく告げる。

 本能に爛れた純情(プラトニック)。

 小さな彼女を狂わせる背徳。

 襲い掛かりたい衝動が膨れるけど、張り詰めた彼女をもっと見ていたい。

 

「うれしいよ。俺もレティが好きだ」

「ひぐ、あぁ──!」

 

 一際強い嬌声を上げ、ぷしぷしと間の抜けた水音が股間から聞こえてくる。

 

 まさか、言葉をきっかけに?

 

 稲妻に打たれた衝撃で、自分の体が打ち震えた。

 やばい、可愛すぎる。大量の愛液が滴る秘部に、目が釘付けになってしまう。暴れまわるバイブを、下着が力なく押さえている。布地の水気。少女のスカート。光沢を帯びた肌。激しく上下する胸。

 姿態を観察すればするほど、自分の欲望が胸を掻き回すのを感じる。

 彼女の顔の横に手を着き、体を覆った。

 

「レティ」

 

 至近距離に、美しい造形のレティの顔。

 乱れた吐息が胸にかかってこそばゆい。

 視線で絡み合う。虚ろに見上げた眼差しが、細められる。

 

「ハル……わたし……」

 

 応じて、彼女のパンツをずらす。

 戒めを解かれたように、バイブが暴れる。

 

「あ……ぁ」

 

 切なそうな涙声で、レティは太ももをくねらせた。

 根本まで呑み込まれたバイブの挙動が激しくなって、ぐるぐると円運動を機械的に繰り返している。

 色素の薄い陰唇があらわになる。

 薄い体毛はぐちょぐちょで、品性の欠片もない。

 

「はやく、わたしにも……!」

「もっと言葉にしてくれなきゃわからない」

「わたしに、オチンコ、ちょうだい……! バイブじゃ、切ないよ……!」

 

 駄々をこねる甘い声。無意識だろうか、太ももを密着させてくる。

 心地よい体温が、けだるさを生む。

 退廃の蜜。少女の生む体液は、粘ついて離さないのだ。

 

「わたしも、あなたを穢したい…………」

 

 劇的だった。快感に呑み込まれた彼女は、俺の顔に舌を伸ばしてくる。

 意識が裏返るような衝撃が、総身を貫く。

 乱暴にレティの股を開かせ、体液に塗れた亀頭を、彼女の尻に擦りつける。

 膝を抱え、彼女の腰を浮かせる。

 華の蕾(つぼみ)みたいに閉ざされた尻穴は、ひくひくと快感に揺れ動いている。バイブの挙動で弁が狂っているのか、亀頭を押し付けると、いまにも沈んでいきそうな感覚があった。

 

「そ、そこ、ちが────!」

「つ(・)か(・)え(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)ちゃんと掃除してるでしょ?」

「でも、わたし…………」

「大丈夫、きっと気持ちいいよ」

 

 嘯き、ゆっくりと腰を押す。

 膝を押さえつけられ、逃げ場を探そうと、レティはみっともなく尻を揺らしている。

 小ぶりな尻を揺らす姿は、求愛行動みたいに動物的だった。

 

「勘違いしてるみたいだけど、俺だってレティを穢したいんだよ」

「あ────!」

 

 カ(・)リ(・)を超えると、簡単に竿の部分まで侵入した。

 膣よりも、もっと熱い。狭い。

 圧迫される陰茎は、すっかり根本まで姿を隠してしまった。

 竿の裏側に、バイブの刺激を実感する。

 奥歯をかみしめ、天を仰ぐ。

 やばい、すぐに果ててしまいそうだ。

 

「あ、あぁあああ──!」

 

 挿入の直後、彼女は俺の股間に愛液を噴かせた。

 アルビノの白い肌からは想像できないほどの、体温の熱量。

 痙攣する太ももを抱え、腰を引く。

 

「ま、いま、イって──る──や、こわ、れ──!!」

 

 全身にまで伝播した快感が、彼女に白目を剥かせている。

 膣よりも、ストロークはしやすかった。腰を持ち上げ、膣の裏側を刺激するように、亀頭で腸をなぶる。

 腰を打つと、低い喘ぎが漏れた。

 

「レティ、尻で感じちゃってるの?」

「あ、ぇ、ああ、ぇ、いぁ、こん、な……!?

 

 下の口に反して、上の口は情けないほど締りがなかった。

 理性の欠片も残さず、彼女はされるがままになっている。

 ゆっくりと腰を動かすと、マットレスを軋らせるほど上体を反らす。

 ペニスが痛みを覚えるほどの体温。彼女が内側で性感を刺激される度、熱量が上がっていく。激しく直腸を荒らされ、彼女は喘ぎを絶えず漏らす。

 抱えた膝を開かせ、彼女の舌に自分の舌をなぞらせる。

 

「ひ、ぁ、あ、んっ」

 

 品のない鼻息。彼女は無我夢中に舌を絡ませてくる。

 腰の速度を上げると、全身で痙攣を伝えてくる。

 ほの白い顔。体液でべとべとに汚れた表情。

 控え目な胸に触れる。柔らかさより、肉感が手に納まる。

 

「は、る、ぅ、はる、はる」

 

 狂ったように呼ばれ、彼女の深い絶頂を予感する。

 俺も腰の動きを最大限速め、自分の快感を高めた。

 

「レティ、出る、よ……」

「ぁ、あ、ぁ……!!」

 

 両足で、彼女は俺の腰を固定してくる。

 レティの尻に密着し、自分の欲望をそのまま快感を解き放つ──!

 

「ぁあっぁあっ──! …………!」

 

 腸に注ぎ込まれた精液の熱を感じているのか、身がわなないている。

 彼女の熱と精液の熱とが作用し合い、溶かす快感で竿が包まれた。

 最後の一滴まで注ぐと、総身を疲労が襲ってくる。

 息を吐き、ゆっくりと引き抜く。

 濃厚な精液が尻穴から水音と共に漏れ、バイブも膣の動きに耐えきれず、シーツの上に落ちた。濡れそぼった花弁と、白く汚れた尻穴。

 レティは息を乱し、全身から力を抜いてしまったようだ。

 途方もない充実だ。

 横に寝転ぶと、アリスの寝息が俺の耳を刺激した。

 

「…………」

 

 暖かい部屋に、甘い香り。

 全身を襲う疲労感に抗えず、そのまま泥のような眠りに襲われた。

 


 

「一名様ご案内〜!」 

「お邪魔しまぁす」

 

 両開きのバックドアから乗り込む。

 マツリカの緩い雰囲気に釣られ、少し砕けた調子で声をかけた。

 大型車は、狭い作戦室のようだった。

 後部座席を取り外し、テーブルとロングシートが据え付けられている。

 周囲の警戒を解き、レティちゃんと黒髪の少女も乗り込んできた。

 

「追跡は校庭方面に向かっているようです」

「敷地内で姿を見失い、唯一の門に護りを固めようとしてるわね」

「推測ですが、私達の侵入経路はまだ抑えられていません。政府は、我々の制圧から現場の混乱を鎮静させることに移ったとみます」

「なによ。やっぱりあなたが死ぬ必要はなかったじゃない」

「若の離脱を確実にするためです。上空からの支援が途絶している現状ですから」

 

 車内の壁面に設置された機材(モニター)は、どうやら付近の地形を観測しているらしかった。

 レティちゃんは猫耳っぽい形状のヘッドホンを装着し、オペレーターっぽい座席(ポジション)に納まった。小柄な体がすっぽりと包み込まれてる。なんだそのあざとさ。 

 

「包囲部隊の編成を更新しておくわね」

「これってGPS?」

「いいえ……ここの地形情報にそのまま人間のスキャンデータを紐付けるだけのソフトよ。リアルタイムで人間の動きを観測できるわけじゃない。現状だと部隊の編成に施設のマップ自体を入手できたらもっとよかったのけど」

「饒舌だね」

 

 あれかな。RPGにおけるダンジョンのマッピングみたいなことをしてるのかな。

 モニターの光彩でぼんやりと光る彼女の顔は、病的な白さだ。けれど、目を惹く。

 

「おぉ、キーボード打つの早い」

「……わたしにとっては、発声よりも容易いの」

「ブレインだ。すごい、頼もしい」

「…………」

 

 一瞬指が止まったかと思ったら、とんでもない速度でデータ入力を始めた。

 うわ、エンターキーを押すときやたらと指が弾むようになった。

 触れづらい結界を周囲に形成した彼女を尻目に、黒髪の少女を視線で追う。

 

「カナデ、作戦を修正します」

「りょーかい。おねえさん待ちくたびれちゃった」

 

 陶然とした声だ。

 濃紺のスーツ姿の女性が、運転席を回転させて向き直ってくる。

 

「若、彼女は化学担当のカナデ」

 

 ウェーブのかかった栗色の長髪。知的な赤眼鏡。穏やかに垂れた目元。眼差しの色気を際立たせるホクロ。

 薄く縁取った口紅に余裕たっぷりな微笑を浮かべ、彼女は俺を迎え入れた。

 

「初めまして、カナデだよ。少年が相手だと緊張しちゃうね」

 

 ダウナーな雰囲気。

 タイトなスーツは、制服姿の少女達の中では顧問教師みたいに馴染んでいた。

 明らかな年長者の登場で身構えた。

 

「ハルです。厄介になります」

「お姉さん、運転頑張っちゃうからね。少年はドンと構えててよ」

 

 まじかよ。『少年』呼びのお姉さんって実在していいんですか。いいんですか。

 手早く挨拶を済ませ、俺はシートに背中を預けた。

 腰に差し込んだ鋼鉄の感触。

 さっき病室で手渡された銃が、ゴツゴツと背中を苦しめる。

 銃を抜き、その質感に触れて動悸が速まった。

 血の苦みに似た感覚が、胸の奥から湧いてくる。

 

「生きてはいるんだよな……」

 

 状況は不透明だけど、少し息をつく暇くらいはありそうだ。

 ぼーっと、運転席のふたりの会話に耳を傾ける。

 

「で、どう修正するの?」

「敵戦力の分散を狙いましょう。幸いにして、部隊の練度は想定よりも低いです。まずは迷彩(フラージュ)を起動し、施設の裏手側に回ってください。そちらで体勢を整えます」

「つまり、脱出は一旦保留ね。かなり思い切ったじゃない」

「腐っても政府の部隊です。戦場の混乱もあと8分もすれば停滞してしまいます。倉庫を押さえ、私達も持久戦に対応できるように態勢を整えます」

「へー。じゃあ、貴女も最後まで一緒にいるんだ?」

「ええ、まあ……私の投下を遅らせます」

「歯切れ悪い。なに、考えが変わった?」

「未練です」

「いまの世の中で未練、ね」

 

 乾いた声だ。不意な沈黙。

 ほどなく、エンジン音。砂利を力強く踏む駆動。

 

 運転席を見ると、視線が、深蒼の双眸と交錯する。

 仏頂面だ。表情から彼女を探るのは、かなりの難易度だ。

 

 ……わからない。

 

 彼女の名前も、立場も。

 俺を助けに来たとは言うけれど、本来の体の持ち主が目的のはずだ。

 死んで、また拾ってもらった命。このまま助けてもらえるのは渡りに船だが、どこまで身を預けていいのやら。

 

「隣失礼しま~す」

 

 花の香りを連れ、マツリカが隣に腰掛ける。

 見やれば、大きく開いた襟元が強烈に眼を惹いた。

 薄い鎖骨とくっきりとした谷間の線。

 彼女の肌が、やたら白く輝いてる。

 やばい。湯気が出そうだ。

 俺の下卑た思考などつゆ知らず、マツリカは屈託ない笑みを向けてきた。

 

「もう安心だよ。みんなすごいんだから」

「ぉす……」

「疲れてるよね。ドリンクなにか飲も? 好きなの教えて」

「俺、危ない店に来た気分だ」

「へ……? あ、危なくないよ!」

「マツリカ、離れなさい。危険はあなたです。座席の端に着きなさい」

「え、でも……」

 

 チラチラと視線を投げかけてくる。

 対し、蒼い視線は鋭い。

 

「立場を弁えなさい」

「ごめんなさい……」

 

 糾弾の勢いで、マツリカは俺の反対側に追いやられた。

 縮こまった様子がすっげえ庇護欲をかき立てるな。

 まあでも、あのまま隣に座られていたら気が変になっていた。彼女の指摘は適切である。

 

「じゃあ、お水あったら──」

「──うん!」

「はっや、椀子蕎麦形式?」

「消化に優しいゼリーも用意してるよ」

「あっ、じゃあそれも」

 

 フォローのつもりでねだったら、いつの間にか手にコップを握らされていた。

 マツリカはそのまま、冷水を注ぎ入れてくれる。甲斐甲斐しい。

 その仕草に目を奪われそうだけど、マツリカの顔から目線を剥がす。また注意を受けて居心地悪くするのは勘弁だ。

 

「そのゼリー、結構イケるわよ」

「へー……」

「あたしとカナデさんの合作なんだよ! 味はあたしが、栄養バランスはカナデさんが! 味見はレティちゃんが!」

「ほー……」

 

 レティちゃんが小さな口にストローを宛がいながら、俺の手元に用意されたゼリーを指さす。もう作業は一段落したみたいだ。猫みたいにくりくりとした瞳で、俺の仕草を観察している。

 勧められるがままゼリーを吸い込む。

 冷水をごくごくと飲み干す。

 ずっと緊張が続いているからか、喉の乾きが尋常じゃなかった。

 

 ……と。

 

 びっくりした。車内の全員が俺に注目してた。

 あれ? 俺なんかやっちゃいました?

 キョロキョロと見回す。運転席のカナデさんと、バックミラー越しに視線が合った。気まずい。

 口ごもりながら、マツリカが尋ねる。

 

「も、もう一杯のむ?」

「え、いいの? みんなすっごい見てくるけど。もしかしてお水も食料も貴重だった?」

「ああ、いや、なんでもないの。エロいとか思ってないから、ほんとに」

「なんだそれ」

 

 首を傾げる。変な嗜好だな。

 俺も大食い系の動画をしょっちゅう見るけど、それと同じ好奇心での視線だろうか。あんま見られても気持ちよくないし、俺は縮こまる。

 そうだ。注目集まってるし、せっかくだから訊いておこう。

  

「もう聞いていいかな。君達って、どういう集まり?」

 

 疑問を投げかける。

 

「あなたを救うために、各地の自治体(シェルター)から募った精鋭です」

「寄せ集めの無政府主義(アナキスト)達ね」

 

 黒と白の少女ふたりが、遠回しな回答。

 シェルター、アナキスト。

 いまいち腹に落ちない。

 まあ、迷い込んだ世界の背景を知らないからそれも当然といえる。いまの俺は、常識が欠如しているのだ。

 

 顎に指を添えて考える。

 

 衰退した街並みと、要塞化している学校。

 おまけに銃やグレネードみたいな武器が平気で横行してる。

 現代日本とは明らかに乖離してるだろ。

 黒髪の少女が告げた言葉を思い返す。

 

『あなたは人類絶滅の保全戦略の人柱(キーパーソン)として選ばれ、永続的な精子提供──あなた自身の肉体を、国家に捧げることを義務づけられました』

 

 人類絶滅、精子提供……これが要か。

 

『だから──あなたを社会のリソースに捧げて、人類の200年の存続を担保するセカイよりも、誰の隣であっても、あなたが生きていてくれる未来を選びたかった』

 

 もやもやする。要点をまとめたいけど、得心には至らない。

 知りたいのだ。彼女の発言の真意について。

 つまるところ、彼女を動かす理由を。

 ……というか、名前くらい教えてくれよ。

 ともあれ、前提に必要な足場がない以上、与えられた回答より深い部分を考えるのは厳しいものがある。もう少し範囲を絞って質問を繰り返すべきか。気分はランプの魔人である。

 

「じゃあ、俺と知り合いってのは誰だっけ」

「私です」「わたしよ」

「2人だけかぁ」

「え、ハルくん覚えてないの?」

「部分的にそう。記憶が混濁してて……話す分には問題ないはずだけど」

「ひゃー、大変だ」

 

 大変て。その通りなんだけど。一言で収めるマツリカに苦笑する。

 猫耳(ヘッドホン)をヒョコヒョコと動かしながら、レティちゃんが顔をのぞき込んでくる。

 

「麻酔の効果かしら?」

「カナデ、あなたの見解は」

「麻酔状態にしては妙。受け答えも運動もしっかりしてる。臨床中の記憶形成が齟齬を生んだか……併用された薬物との構成を分析しないと、適切に評価できないね」

「そういえば、俺が居た部屋にカルテがあったな。薬液の種類とか、なにかしらのデータとかが載ってた」

「核心じゃん!」

 

 驚愕に目を剥くマツリカ。

 げっそりとして肩を落とす。まずったかな。

 持ってくればよかったけど……あの緊迫した状況じゃしょうがない。後悔しても遅い。

 それに、この体に俺(ハル)の意識が根付いているのは、医学的に証明できないと思うし。

 脱線した話を戻そう。

 

「俺とはどういう関係だったの?」

「主従関係です。幼い頃に謁見の栄誉に触れて以降、若に仕えるため修練を積んで参りました」

「わたしは遠目で見かけた程度ね」

「じゃあ、同郷の人間なのかな」

「ええ、オオミヤ南自治体(シェルター)出身よ」

「大宮って……」

 

 埼玉のどっかだよな。ここは日本ではあるのか。

 シェルターってのは、どっかの建物や組織を指しているのだろう。

 考え込んでいると、頬に視線を感じた。

 黒髪の少女、思い詰めた表情だ。大きな瞳に、探る色がある……気がする。

 

「若、あなたはど(・)こ(・)ま(・)で(・)覚(・)え(・)て(・)い(・)る(・)の(・)で(・)す(・)か(・)」

「え、いや……自分の名前と、年齢くらい」

 

 しどろもどろに答える。

 正直、自分の境遇についてどう説明すればいいのかわからない。

 死んだ『魂』みたいなものが、今の体に宿った。

 彼女達のことは微塵も記憶しているはずないのだ。

 

「こうして喋れてはいるけど、考えというか、常識というか、そういうのに齟齬があって……みんなが、そこまで俺にしてくれようとする理由がわからない」

 

 組み合わせた指を見下ろす。

 こんな、居合わせただけの他人に尽くす必要なんてないだろ。

 

「気を遣わないで、俺の立場をもっと詳しく話してほしい。俺が実験されかけていたのは理解した。あとは、世界のこと、俺が実験されるに至った経緯のことを知りたいんだ」

 

 全員の顔をひとりずつ見回す。

 固い靴音を響かせ、黒髪の少女が近づいてくる。

 そのまま、狭い車内だってのに膝をつく。

 

「時は1968年まで遡ります」

「ずいぶんと思い切りで舵を切ったね」

「かつての大国が撒いた戦禍が、大陸間に発展し、世界中の社会を崩壊させました」

「それ、突拍子もないな」

 

 困惑で頭を掻く。

 架空の世界観だ。

 けれど、目を逸らそうとしても、現実は透明の声となって告げられる。

 

「人類衰退の技術革新(モノリス)は三つ。『核』『遺伝子操作』『オートマタ』──発展に伴い、いくつも代理戦争が起きました。特に『遺伝子病』による衰退が、絶滅に爪を掛けた……そう、言われています」

「…………」

「『遺伝子病』の影響でもたらされた百万の死(メガデス)が重なり、国家は分裂──自治体(シェルター)を各地に形成し、それぞれが個別の国家として今日まで生きながらえました」

 

 質量に目眩がする。

 起きてはいけないことが起きてしまった世界。

 自分の立場が分かれば、胸中の不安も取り除けると思っていた。しかし、ここまで行き詰まった世界では逆効果だった。

 

「病は、場所、人種を問わずに男性器の不能を与えたと聞きます。ですので……その、治療が必要でした」

「勃起不全にね」

「言葉を慎みなさい! カナデ、若の御前で!」

 

 悲鳴のような声を上げ、少女が顔を怒りに紅潮させた。

 ただ、カナデさんの無遠慮な言葉の方が納得しやすかった。

 

 股間に視線を落とす。

 

 事態の輪郭が見え始めた。

 精子提供と、遺伝子由来の勃起不全(ED)。

 点と点が結ばれる。

 世界中で子どもが産まれない状況ならば、確かに人類も滅びる。

 内側から炎に燃えてるような頬で、蒼い瞳が向き直ってくる。

 

「元々が数の少ない男性です。ひとりの男性で支えられていた自治体(シェルター)は、そ(・)れ(・)で崩壊を余儀なくされました。残存したニホンの旧政府は『遺伝子病の克服』を命題に掲げ、複数の自治体(シェルター)を吸収して現在の研究機関(シンクタンク)を再構築しました」

 

 戒めを与えるように静かな口調だ。

 また、彼女の瞳は曇る。土砂降りを予感させる暗い雨の色。

 

「二ヶ月前のことです。私が以前所属していた自治体(シェルター)は、政府と──つまり、機関(シンクタンク)と取引を行いました。あなたを遺伝子治療のリソースとして提供する代わりに、自治体に一定の権利と精子バンクを貰い受ける契約でした」

「でも、遺伝子から作用したEDなんて、どうやって治療するの。報酬が用意できない相手との取引に応じたってこと?」

「…………凍結保管された精子を交渉材料にしたのでしょう。治療方法は、不能に作用すると思われる絶滅分子(エンド・ポイント)の切除を行おうとしたはずです。それだけは、子どもの設計段階で切除できませんから」

 

 腕、足に刻まれた『×』印を眺める。

 状況を整理する意識に、その印は影を落としてくる。

 男性としての機能しか求められていない。

 世界を延命させるために設計されようとしていたのが、俺の体の正体。

 

 自分が足を着けようとしてる世界の危うさに、恐怖さえ感じていた。

 ──死ぬ直前の光景が、鮮明に蘇る。

 何もできなかった後悔と無力感、喪失。

 また、ア(・)レ(・)を味わうのか。

 悪寒が声を震わせる。

 

「じゃあ尚更、俺を助ける必要はなかったんじゃ」

「いえ……!」

 

 弾けるように立ち上がった彼女の顔は、ひどく凍り付いていた。

 言い切って気付いた。

 いまの発言は、命を賭してまで俺の体を救おうとした彼女への心ない裏切りだ。

 

「…………」

 

 互いに掛ける言葉を亡くし、視線をさ迷わせてしまう。

 失言だった。

 訪れた沈黙を破ったのは、全身の皮膚を引きつらせるほどの爆発音。

 遠方で響くサイレン。

 褪せた世界を照らす鈍い閃光。

 車体がきしんだ。

 その場の全員が、戦況の変遷を感じていた。

 

「申し訳ありません、若」

 

 整った少女の顔は、武人の面差しとなり、強い覚悟を宿す。

 痛々しい表情だ。俺がそうさせているのか。

 

「あなたが生きるための奉公を、許してほしい」

 




人物紹介

・ハル
 転生直後でメンタルが不安定。転生先もハードモードでお先真っ暗。
 この絶望を覆す策なんてあるのか……!?

・アリス
 なかなか名乗らない

・レティ
 アナルがだめになっちゃった

・マツリカ
 雰囲気はガールズバーの店員。正体は全肯定ギャル

・カナデ
 ダウナーお姉さん。媚薬をつくるのが得意、匂いフェチ
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