※この作品はR-18です。

終末世界であべこべ   作:ピザ暇膝

7 / 10
絶対お昼に投稿すべきじゃない


ラブ×セックス=ピース
1


「腰、よじっちゃったかなぁ……」

 

 呻きながら廊下を歩く。連戦を乗り越えて身体が重い。

 キッチンで水を飲もう。

 打ちっぱなしのコンクリート壁は、ジメッと冷えた空気を蓄える。 

 床面のカーペットが、点々と薄いシミで汚れていた。

 液体がこぼれた跡→昨日はなかった→昨夜ここにレティがいた。

 連想ゲーム式で、昨夜のレティの痴態が思い浮かぶ。

 ……ああ、このシミって愛液?

 

「大人のヘンゼルとグレーテルかよ」

 

 児童書のはずだろ、あれ。

 本人の名誉のためにも、この事は黙殺しよう。

 キッチンから明るい光が洩(も)れている。

 ふたりはまだ寝室だ。消去法で、室内の人物は絞れた。

 

「マツリカおはよー」

「…………おはよう、ハルくん」

 

 優しく垂れた瞳と、人なつっこい笑み。

 桃髪を後ろに結い、寝間着(キャミソール)のラフな恰好でエプロンを着けている。薄い布地のショートズボンの裾から、健康的な脚が伸びている。

 隣に並んで彼女の手元を見ると、発育豊かな胸の曲線(カーブ)が目に付いた。服のしわが、体型を追随できていない。背筋がピンと伸びてるだけに、主張は激しかった。

 昨日までの俺ならば、多少は目に眩しかったろうが、今は違う。一皮剥けたのだ。がはは。チチでけーな。

 

「気になる?」

「お、おいしそうな匂いだから。何これ?」

「生クリームパンつくってるの」

 

 オーブンから焼き上がった小麦の薫り。

 天板(グリル)には、丸形のパン生地が綺麗に整列していた。

 取り出すや、マツリカは俺を振り返った。

 

「焼きたてのパン生地だよ、味見する?」

「食べたい食べたい!」

 

 小皿にほかほかのパンを載せ、手渡してくる。

 

「柴犬と焦げ茶の中間の色から焦げ茶を抜いたみたいな焼き色だ」

「なにそれ、変な例え」

 

 解し割ってみる。湯気をまとって薫りが立ち上った。

 口に含むと、久しく食べてなかったパンの味わいが広がる。

 ほのかなバターの甘み。焼けた麦の舌触り。

 美味しいと感じるのと同時に、安心する。

 感動だ。転生してからどうも栄養食が続いてたし、人の温もりに直接触れられたような感慨がある。

 

「パンも作れるなんてすごいね」

「作り方だけはたくさん視聴(ラーニング)してきたから」

「勤勉だ。自己研鑽に余念がない」

「食べ物がなきゃ無駄になっちゃう知識だけどね。やっぱり、すごいのは調達経路を確保したふたりだよ」

  

 にこやかなマツリカの表情。だけどちょっと、疲れて見えた。

 

「目、充血してるよ。寝不足?」

「あ……ううん、なんでもない」

 

 化粧下地で隠れてはいるものの、隈が少し浮かんでいる。

 覗き込んでいると、その頬に赤みが差してきた。

 

「それより! これからクリームを入れるからもっと美味しくなるよ!」

「おー」

 

 絞り器を片手に、華やいだ声で誤魔化された。

 無理に気分を上げているのか、大仰に手を掲げている。脇がエッチでした。

 

「ほら、そっちで見てて」

 

 ダイニングテーブルまで追いやられてしまった。

 手持無沙汰だ。

 水を飲みながら、マツリカの後ろ姿を眺める。

 露出した白い首筋。

 胴から腰にかけての、魅力的なくぼみを作る体型(ライン)。

 ……女性的な彼女の姿を見てか、胸がざわついた。

 さすがに自制しよう。

 

「俺にもやらせてよ」

「手伝ってくれなくていいのに」

「こういう作業すきなんだよ。ワガママに付き合ってよ」

 

 渋々と、絞り器を預けてもらえた。

 生クリームを絞り、注入する。

 ここ1ヶ月で生活拠点を整えたおかげで、とても終末世界とは思えない豪勢な食事にありつけている。

 隣では、マツリカが洗い物を始めていた。

 

「……身体、平気なの?」

「んー、ちょっと脱水気味になったけど、もう大丈夫」

「どこも変なとこないんだよね」

「なんだろ。しいて言えば、脇腹のとこ……蚯蚓(みみず)腫れになっちゃったくらいかな」

 

 服をめくり、脇腹を露出する。

 爪痕が、ちょっと皮膚の少しだけ深いところをなぞっていた。

 今朝、夢中になったアリスが文字通り掻き抱いたのだ。男冥利に尽きる。下手人はまた失神してしまった。被疑者不在につき、糾弾はできません。

 

 パキン、とシンクで陶器の割れる音。

 

 こっちを見ていたマツリカは、割れた食器に目もくれず、食い入るように俺の腹を見つめていた。

 さっきまでの笑顔は失せていた。光が亡い。

 限界まで開かれた飴色の瞳。

 凝視され、俺はたじろいだ。

 

「それ、してるときの?」

「……うん」

 

 話題が話題だし、頷くのに躊躇した。

 そりゃやることはやってきたけど、赤裸々に告げるのは品がなさすぎる。

 

「痛くない?」

「ちょっとズキズキするくらい」

 

 冷水で濡れたタオルを絞り、甲斐甲斐しく腫れた箇所に触れてくる。

 作業を中断し、されるがままになった。

 彼女の世話焼きにも、そろそろ慣れないとな。

 

「……やっぱり、あたしは反対だな。ハルくんの負担が大きいよ」

「俺は大丈夫だって」

「だめ。絶対に無茶してる」

「無茶って……いや、俺はみんなと深くつながれるから、むしろ歓迎だ。それに、もう決定したことだし」

「だけど、ハルくんが傷つくだけで、あたし達だけが得をしているだけじゃない」

「大げさだよ。昨夜だって悪くなかった」

 

 この話題は、どうにも着地点が見つからない。

 俺達の安全を保証させるために、俺には命尽きるまで種付けする義務が課せられた。今更撤回しようものなら、この生活は立ち行かなくなる。

 マツリカは、まだ俺を案じてくれている。レティみたいに。

 思い違いだ。俺は、性的興奮で勃起できるから、無理なんかしてない。

 気まずい。横腹をタオルで拭う彼女の手に触れて、離れるよう促す。

 

 その手が、絡まる。

 

「マツリカ?」

 

 握られた手。

 ……少女の膂力は、俺の動きを容易く封じてしまった。

 逃げられない。振りほどけない。

 動物的な恐怖が刺激され、息が固まる。

 マツリカの剣幕は尋常じゃなかった。

 

「次、誰とするの?」

「次って……」

「…………あたしじゃ、だめ?」

 

 だめなわけがない。

 生唾を呑む。互いの息が溶け合うほどの距離。これが、最後の呼吸と思えるほど、腹の底に息が溜まってきた。

 手と、身体から、彼女の緊張が伝わってくる。

 悲壮とすら思えるほどの覚悟だった。

 俺自身も震えてた。

 

 視線を下ろす。

 

 切なそうに見上げる彼女は、ひどくアンバランスに思えた。

 マツリカの目は、陰鬱(いんうつ)に翳(かげ)っていた。

 色彩(ヴィヴィッド)で縁取ったピンク系のアイライン。

 ほのかに飾られた唇。

 艶っぽい色づきの表情は、彼女自身の気持ちに振り回されているのか、興奮で真っ赤だった。

 

「…………」

 

 沈黙を拒絶と受け止めているのか、マツリカの表情が曇っていく。

 眦に溜まる小粒の涙。小刻みに開く唇。俺を拘束する力が弱くなる。体温が、遠のく。

 

 ああ、もどかしい! こっちはバッチこいなんだよ!

 

 無防備な彼女の唇に、口づけを降らせた。

 

「────!?」

 

 薄目を開くと、目を白黒とさせるマツリカが視界に広がった。

 触れあうだけのキス。

 気持ちは十分注げた。

 胸元で感じる息は、炎のように熱くなった。

 細い鼻梁の横で、飴色の瞳が落ち着きなく揺れている。

 

「い、いいいきなり……?」

「マツリカは、俺のことがだめだった?」

「そんなわけない!」

「じゃあ合意だね」

 

 手を握り返す。

 鼓動が高鳴る。

 身体を引き寄せると、彼女の花の香りが鼻腔いっぱいを満たした。

 どこを触れても柔らかい。心地良い。ずっとここにいたい。

 

「ハルくんって……いっつも、反則みたいなことばっかり」

「幻滅する?」

「何回惚れ直させるのって感じ、むかついちゃう」

「俺にどうしてほしい? ……いや、俺をどうしたい?」

 

 初夜を経て、少し誘い方を学んだ。

 俺の優位で進めるよりも、女性側の性欲を増進した方が、最初はうまくいく。

 クリームの味がした唇で、甘い声を囁く。

 

「口で、したいの」

「…………」

「唇で、ハルくんをめちゃくちゃにレイプしたい」

「そう……」

 

 マツリカは、ガラス細工を触るような手つきで、頬の輪郭をさわり始めた。

 夢じゃないか、疑うみたいに。

 こそばゆいんだけど。

 やがて意を決したマツリカが、体温と同じ息で呟いた。

 

「準備できたら、言って」

「いや、準備っていうか」

「言って」

「え……」

 

 肩を尋常じゃない力で拘束され、睨むような表情で俺を見据えた。

 俺の了承を得た時点で、それってレイプじゃなくなるのでは?

 疑問符は、熱量(ボルテージ)を高めたマツリカの大粒の瞳に掬い取られていってしまった。

 

「……よしこい」

 

 理性の箍(たが)が外れる感触。もう戻せない。

 踵を上げ、頭を引き寄せてくる。

 体が傾けられた。

 唇が舌で割られる。歯列をなぞられる。舌と舌が絡まる。

 甘い匂いと、やけどしそうなほど熱い唾液。

 灼けるほど喉が渇く。

 俺の背に絡みついた手が、服の下をまさぐり始めた。

 

「……ん、ふ」

 

 唇をきつく押し付けてくる。

 胸を惜しげもなく密着させ、意識を蕩けさせてくる。

 キッチンカウンターに腰を据えると、マツリカとの距離はなくなってしまった。

 背中を這う指が、ぎこちない仕草で服を脱がせようとしてたのに気づいた。

 口が触れあったまま、俺は薄く笑う。

 

「裸、興味があるの」

「……黙って脱いで」

 

 半目で睨まれた。

 挑発を受け取って、マツリカは俺の服を乱暴に剥ぎ始めた。

 彼女の支配欲を刺激したのか、服を脱がせながら、首筋が舐められる。

 触れる舌が、神経を敏感に刺激して皮膚が粟立つほどの快感が走った。

 そのまま、露出した肌に舌が這いまわる。

 赤々とした舌先は、傷口を緻密に舐めた。

 執拗だった。骨の浮き出た箇所が特に気に入ったのか、鎖骨や肋骨、そして、腹筋の輪郭を舌でなぶる。

 耳たぶを噛まれて呻いた。

 

「……マツリカも、脱いで」

「ん……あっつい……」

 

 彼女は自分で服を脱ぎ始めた。

 白い素肌。双丘を包むレースで縁どられた下着。

 下着に手をかけるのも待てず、俺は下着(ブラ)の上から揉みはじめた。

 重質な肉感。掌で納まらない事実に、情欲を滾らせた。

 切ない喘ぎが、小ぶりな唇から漏れていた。

 唇を合わせる。抱擁のまま、胸に触れ続ける。

 マツリカの目が潤んでいた。

 

「ハルくんの唾液、飲みたい」

 

 せがまれるまま、口のなかで溜めた唾液を、彼女の舌先に溢した。

 そのまま、粘っこい液を繋ぐ梯子を辿って、口が触れ合う。

 胸を揉んでいると、窮屈そうな乳房が、少しずつはみ出てくる。

 布地よりも柔らかい。下着(ブラ)をズラし上ると、下乳が指先に滑らかな感覚を伝えてきた。

 指に誘われ、尖った乳首が露出する。

 

「マツリカ、胸……やわらかいな」

「ハルくんも、硬いところばっかり」

 

 直接肌を密着させる。

 熱い吐息。お互いの口を通じ、体の中を共有し合う。

 暴発しそうなほど、俺の体の芯は熱を持ち続けていた。

 ペニスの先端から漏れた分泌液が、マツリカの股を伝う愛液と混ざりあっていた。

 

「……ここが、一番硬いんだね」

 

 柔らかく手足がしがみついてくる。

 獣の口が、告解をこぼす。

 

「ずっと、ずっとだよ。あたし、こうしたかった」

「好きにしてよ。マツリカなら大丈夫だから」

「あなたに会ってから、ずっとこうなの。ごめんなさい、あなたの気持ちに甘えて」

「俺も、マツリカに甘えたい。同罪だよ」

「ふふ、そっか。おんなじだね。あたしたち」

 

 甘い呟き。

 こつんと、汗ばった額が俺の胸にぶつかる。

 ぐりぐりと、愛し気に桃髪が押し付けられる。湿った髪は、肌によく絡まってきた。

 顔を見せようとしない彼女。髪に指を滑り込ませて頭を撫でてみる。

 

「あたしなんかにこんなこと許していいの」

「マツリカだからだけど」

「あたし、もうふたりに遠慮しなくていいよね」

 

 小悪魔めいた彼女が、尻尾をみせていた。

 それを掴むように、俺は体を預けた。

 


 

 一足。踏み込んだ踵を中心に、亀裂が迸る。

 弾丸の速度を超越する槍先の速度。

 少女の目には、金属の反射が閃光に映った。

 振る動作では槍の立ち回りに追いつけない。

 正面に刀を構え、槍の切っ先を逸らす。

 肌の感覚で身体を捩る。避けきれない連撃が、少女の肌に生傷を刻んでいく。

 鋭い痛みが熱を生む。風が血潮を巻き上げる。

 

「……っ」

「あなたも、昂ぶってきましたかっ?」

 

 甚振る快感か、はしたない笑みで令嬢が唇を歪める。

 二十合を越えても、互いの息は乱れない。

 刀が、槍が、洗練されていく。

 打ち合う金属音は、削岩しているかのように轟く。

 何者も近づけない破壊の嵐。

 絶対的な速度の結界。 

 吹きすさぶ轟風が、屋上の設備を破壊していく。

 制服が、白衣(ドレス)が、赤黒い液体で染みる。

 

「ほら、感じているのではなくって? ああ、わたくし、こんな野良犬のようなメスになぶられてしまいます!」

「…………」

 

 性質(タチ)が悪い。槍の猛攻を斬線で分割しながら、内心で毒突く。

 少女とエマの技巧は、不気味なほど拮抗している。

 エマがボルテージを上げれば、少女もその上昇分に追いつかなくてはならない。

 乱撃。頬に迫る穂先に刀を差し入れ、軌道を逸らす。

 下段に刀を揃え、優美な太刀筋をなぞった。

 

「甘いっ! ですわ!」

 

 エマが牙を剥く。

 槍の持ち手を返し、衝突。

 ふたりの間で衝撃が伝播する。

 刀と槍。異種の鍔迫り合いが重なり、エマが猛々しい歯並びを見せた。

 力の押し合いでは、エマに分がある。

 弾かれ、少女は体勢を崩してしまう──

 

「──っ」

「そこ、感じやすいのでしたね」

 

 横薙ぎに振るわれた槍が、少女の腹を直撃する。

 内臓が裏返る衝撃(いたみ)。

 肺腑が無理矢理に呼吸を絞り、意識が瞬間的な空白に襲われた。

 ゴム鞠のように、地面で跳ねる。

 崩れかけた鉄条網が背中を叩き、かろうじて少女は起き上がった。

 吐き出す息に血が混じる。

 追撃を警戒してエマを睨むが、槍に熱っぽい視線を送り、法悦(エクスタシー)に全身を震わせていた。

 

「ああぁ……最っ高……」

「けほっ……」

「ほら、まだ果ててしまっては困ります。早くお立ちになって?」

「さっさと、殺せばいいものを……何が、狙いですか」

 

 時間稼ぎの問いで、きょとんと令嬢が呆ける。

 頬は興奮で紅潮しているが、妙に冷静だった。

 

「人的リソースの確保に決まっていましてよ。我々の世代で子種が尽きましたし、消耗人材(クローン)では短命すぎて文明社会を創ることができませんもの。母胎のみで完結する単為生殖の方法を掴み、我々が管理することでこの終末の世界を統括する……自治体(シェルター)を襲う際、皆々様に声明を出したはずですが、存じ上げなくって?」

 

 少女は地面に血色の唾を吐いた。

 ダメージが回復してきた。起き上がりながら、思考を冴え渡らせる。

 政府の狙いは、一貫して人類保全戦略。

 その内訳は、不能の男から生殖器官だけを摘出し、実質的な単為生殖を成立させるプラン。設備(ハード)と手段(ソフト)が不明だが、男性という存在を排除するのは間違いなかった。

 そこに、利権への支配的な感情が透けて見えた。

 

「甘言を囁く者は、悉(ことごと)く斬り捨てました。下品なまでの拡大主義など、僭越ながら唾棄いたしますゆえ」

「…………なるほど、得心しました。あなたの抵抗がしぶといから、機関はあなたの離反を引き起こすように、オオミヤへと働きかけたのですね」

 

 嘆息と共に、下品な熱を帯びた言葉が少女に向けられる。

 

「わたくしの鞘になりなさい。貴女の生んだ損失を、その身で支払っていただきます」

「誰が、あなたなどに」

「どうかそう仰らないで。貴女も群れのリーダーならば理解できますとも。誰(・)が(・)世(・)界(・)で(・)実(・)権(・)を(・)握(・)る(・)べ(・)き(・)か(・)。この世界は黙示録(アポカリプス)──逆転させる必要があります。わたくしが、世界を変えます」

「世界など、簡単に変わります──たったひとつの出会いで」

 

 刀を握り直し、静かに立ち上がる。

 上体が振り子のように揺れていた。

 刀を構える。刀身には、少女の晴れやかな顔が映った。

 

「メルヘンなことを仰いますのね。血も涙もない〝殺戮人形〟と耳にしましたが、ユーモアが堪能でありませんこと……おーほっほほほ!」

 

 哄笑が響く。

 淫らに蕩けた目は、もはや少女を映していない。

 少女は嘆息し、腹をくくった。

 

「あなたの間抜け面は見物(みもの)でしたが、そう勝ち誇るのも、そろそろ見苦しくなってきましたね」

「口が減りませんこと」

 

 仕切り直しだ。

 もう、互いの意思は示された以上、問答は無用となった。

 嵐を予感させる気配。

 張り詰めた空気。次の瞬間には、雌雄は決する──

 

「ちょっと待ったぁぁぁぁ!!!」

 

 そこに、少年が現れた。

 

 ──裸体で。

 

 世界はその瞬間、衝撃にひっくり返った。

 

 屹立する少年の股間。

 ふたりは目を奪われ、自分の獲物を取りこぼすほどの混乱に襲われた。

 エマが唇をわななかせ、そ(・)の(・)槍(・)で腹の底が熱されるのを実感する。

 

「な、な、な、なんですの、あれ……」

 


 

 戦闘の余波で、あちこちに瓦礫が飛散している。

 3階の廊下は、天井が所々落下していた。

 瓦礫で灰色と化す大地。

 築き上げられた牙城。

 屋上へ続く踊り場。階段はほとんど崩れてしまっている。

 

 三人を説得した俺は、打合せもそこそこにして、屋上へと駆け出していた。

 

「あっちか!」

 

 バツ印の書き込まれた体。

 不要な足(パーツ)で大地を踏み締める。

 地を揺るがす震動。足を縺れさせ、転倒してしまう。

 立て、立て、立て──!

 焦燥が脚を動かしていた。

 

「はっ、はっ、──! ぅづ!」

 

 鋭い痛みが腹部に走る。

 くそ、鉄骨が擦り傷つくりやがった。

 狂ったように堰を切る。

 ああくそ、ちゃんと走り込んでおけよ、この体の持ち主!

 知らないのか、体づくりは積み重ねが大事なんだぞ!

 男には必ず土壇場が訪れるって心得ろ!

 まあ、俺は死んだから、そんな機会はなかったけれど!

 

「は、はは──」

 

 なんてブラックジョークだ。

 そう、俺は単に命拾いしただけなんだ。

 少女達が繋ぎ止めようとした命。

 超常的に移植された俺の意思。

 生き残るための考察。

 すべての事柄には理由がある。そう思いたい。

 誰が、俺になにを求めている?

 つまり、俺がここにいる理由。

 

 少女達は『若』の面影を尊び、

 絶命寸前の社会は延命を望み、

『俺』は、誰にとっても異分子、

 

 そうだ。社会の構造的に必要な問いだ。

 誰しもが役割を持つ。

 どこにでも、隙間みたいに居場所はあるはずだ。

 けれど俺はどうだ。

 振り上げた腕すら、肌に✖︎を記されている。

 合理的な判決が、俺をどんな理念で改造しようとしていたのか示している。

 種馬としての性能。逆算で得られる答えは、最悪なシナリオ。

 滅びかけた人類を延命させるための生命線、それが俺の体に記された意義だ。

 男性のEDで終末を迎えそうだから、生存戦略としてデザインされる生命線──精子をとことん生産する、それが、俺の肉体に与えられた役割。

 

 だったら!

 

「だったら、とことん孕ませてやる! なりふり構わず──俺が、少子化に、終止符を打ってやる!!」

 

 顎を伝う汗が粒になり、瓦礫の海に落ちる。

 行き詰まった絶望。極まる希望。

 背反する心境。

 狂った充実だ。思考が血走って、変なロジックに結びつく。

 俺は俺の意思で、10000人を抱いてやる!

 というかちょっと役得だと思ってる!!

 それなら、誰もが納得するはずだ。

 元々の役目を推し通す。

 システムそのものが構造的に破綻しかけているなら、俺が土台として支えれば良い。

 そこに、俺という自我があるかないか、それだけの誤差でしかない。

 血流の熱。

 火花の激情だった。

 思考はほとんど無茶苦茶な軌道で論理を辿る。

 みんな『若』と呼ばれる少年の面影を見ていた。

 俺はここにいる。

 ただそれだけを発する信号が、魂の叫びとなって口をついて出る。

 

「俺のことを、少しは見てみろってんだ──!」

 

 不安定な足場を蹴り、一直線に屋上へと駆ける。

 俺がどうすればいいかなんて、はっきりしている。

 やることはいつもと変わらない。

 迷いはとうに晴れた。

 そうだ。こんなにも丁寧な舗装路、走り抜けるなんて簡単だ。

 破裂しそうな心臓。胸を掻き抱き、膨張する肺を抑えようと努めた。

 患者服を脱ぎ捨てる。

 鋼鉄を握りしめる。

 武器を左手に、渾身の力で瓦礫の海を駆ける。

 

「誰に求められて、いなくても──! 誰が望まずとも──俺は、ここで俺自身を曝け出してやる!!」

 

 これが、俺の全身全霊──正真正銘、ズル剥けの命乞いだ!

 




各人物から見た主人公(ハル)の感想

・アリス
 運命の人。行き倒れていたところを少年に見つけてもらい、忠誠を誓う。
 情事では勝てないと奴隷精神を体に刻まれてしまった。

・レティ
 わたしが最も彼に寄り添えると自負している。薄幸美少年に見えているため、彼が性欲を露骨に出すと脳が破壊される性質を持つ。一生煉獄だね。哀れ。

・マツリカ
 生きる幸福を思い出させてくれた存在。いつかふたりだけの楽園をつくりたい。

・カナデ
 ハルのう〇こを水で薄めたらどんな臭いがするか気になってる。

・エマ
 見せ槍。
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