ふかふかな世界の甘々ヒーラー 作:カタナちゃん
砂地の地面が西日を反射し、長い影が二人を包んでいた。
旗はゆっくりと揺れ、どこか緊張感を孕んだ風が頬を撫でる。
「ふー……」
勇者と名乗るセイと言う少女は小さく息を整え、剣を持つ手の指先に力を込めていた。
対峙するのは――偽装を解き、更には素顔を見せ、そして今は手品のような早着替え? で黒衣に身を包んだ、得体の知れない男。
先ほど偶然(……いや、確信的に)路地裏で見つけた、例の“犯人”だ。
彼の“声”が全く聞こえないことに対して、セイは初めて動揺した。自分でも解るほどに。
こんな事はそれこそ初めてだからだ。
「やっぱり……お兄さんは強そうだ。ほんっと、これまで相手した中でもーーー別格? ってやつだね」
「そう見える?」
「うん! 見える。っていうか、わかるんだボク。打ち合ったら特に解るんだけど、見ただけでここまで解ったのはお兄さんが初めて!」
そう得意げに笑うセイ。
……だがその笑みは、相手の返事を聞く前に少し曇った。
「――でも、声が全然聞こえないのが厄介だよねーほんと。こんなの初めてだ」
普段なら、剣を構えた瞬間に相手の考えが雪崩れ込んでくる。
次の動きも、弱点も、まるで開いた本を読むみたいに。
けれど今、彼女の頭の中は不自然なほど静かだった。
「ん〜。それでどうする?」
「? どうするって?」
「肯定も否定もしてないけどーーー。まあ、良いか。うん。否定はしないよ。助けて回ってるのは俺だ。頼まれたから」
男の言葉にセイは思わず笑う。
確かにセイは確信をもっていた。目の前の男が亜人を解放して回ってる犯人だと。
でも、その方法が摩訶不思議。
どうやってあの数を解放させているのかが、全くわからない。セイも同じで、怪奇現象と結論づけようとも思っていた。
たった1人で、あれだけの数を、痕跡を残さず、解放させている。
その時点でもはや相手は普通じゃない。
「立場上、お兄さんを素通りさせる訳には行かないんだよねー」
軽口を言うセイだが、脳内はフル回転している。
ここまでの人外を相手にしたことは無い。ふかふかダンジョンに行けば、相応の相手がいるかも知れない、とは思っていたが、まさかこちら側の大陸でお目にかかるなど、誰が想像しただろうか。
「というわけでーーー。タイホ、させてね。お兄さん!」
セイのやや低い声と共に、砂がふっと舞い上がった。
その刹那、セイは迷わず踏み込んだ。
打ち放つは鋭い突き。
――が、男はほんの僅か刀身を傾けただけでそれを逸らす。
その動きがあまりに自然すぎて、反撃すら感じさせない。
無論、その一発で終わるわけがない。セイの怪力、人あらざる力を駆使した。
そして逸らされた衝撃を利用し、セイは即座に腰を回す。
繋がる攻撃、それら刃は下から上へ、獣が牙を振り上げるように弧を描き――。
カン、と乾いた音が次に響く。
虚をついたと思われた斬り上げは、男の刀身によってあっさり止められていた。
その瞬間、セイの口元が吊り上がる。
「まだ――っ!」
振り上げた勢いを殺さず、逆袈裟の一撃へと繋ぐ。
燕が空を裂くような切り返し。速さは先ほどよりも増し、刃の軌跡が夕陽を反射する。
――しかし、その一撃すらも。
男は一歩も動かず、腕のわずかな捌きだけで受け止めた。
まるで、流れる水に石を投げても沈まないように。
ほんの一瞬の刹那の時の攻防。
いや、これを攻防と言って良いのか。まるで遊ばれるようなーーー
「う、そ……今の全部あっさり防がれるの?」
いや、遊ばれるとは少し違う。
「うん。凄い凄い。剣筋は悪くないし、幾重にも用意した斬撃は見事」
剣戟を褒めてくれる。
ひょっとしたら、側にいたら頭を撫でてくれたかもしれない。
まるでーーそう、稽古をつけてくれいるかのよう。
「でも、やや振りが大きいかな? もう少しコンパクトに、最短最速が良いよ」
「えー、でも、ほらこうやって大きい方が勢いあってかっこいいじゃん!」
「うーん、その感性嫌いじゃないけど、隙もできるし、的も大きくなるし。同格以上の相手にはちと厳しいと思うよ?」
「むむっ……!」
セイは言われっぱなしでなるものか、と地に落とした刀身を跳ね上げて切り返す。
それもいなされる。
更に刃を滑らせ、逆袈裟に振り下ろす――しかし、それも軽く受け流される。
何度やっても当たらない。
力重視ではなく、速度重視にしても変わらない。
まるで攻撃の全てを“知っている”かのように、寸前で躱される。
「……っ、じゃあこれなら!」
セイは半歩引き、踏み込みと同時に低い姿勢から斬り上げた。
その刃も、彼は柄をわずかに傾けるだけで軌道を外す。
「うん、鋭さに重さ、全部良くなってきた。でも……その分癖が顔に出てきたかな?」
「何それずるーい! こっちはお兄さんの癖どころか考えてることもわかんないのに!」
「“読み”を過信してたら危ないぞ? って良い勉強になったでしょ?」
焦燥感と同時に、胸の奥で何かが弾ける。
不利なはずなのに、楽しい――そう、楽しいのだ。
ここまで全力で剣を振りたいと思える相手なんて、いつぶりだろう。
体力面には自信がないセイだけど、永劫打ち合いたい欲に苛まれてくる。
大量の汗、そして息遣い。如実に表れてきて、それを見逃す相手じゃない事も解るけど……それでも、辞めたくないのだ。
「ふ、ふ、ふっ……へへへっ! なんか、面白くなってきた」
「それは良かった」
男の返事は淡々としているが、口元がほんの僅かに緩んでいた。
「――じゃあ、次は本気でいくよ!」
「よし。3度目の本気、受けて立つ」
砂を蹴る音が一層鋭くなる。
剣と剣がぶつかるたび、金属音が空気を裂き、砂粒が舞い上がった。
セイの呼吸が乱れ始める。頬が赤く染まり、瞳がぎらつく。
「ほらほら! 今のどう!?」
「さっきより速い。でも――まだまだ甘い」
「くっそー! じゃあこれは!?」
「んん? 悪くなった。力任せは良くないぞ」
まるで稽古をつける師匠と弟子のようなやりとりが続く。
しかしセイの心は、不思議と負けず嫌い以上の感情で満ちていた。
もっと見ていたい。この人の戦い方を、近くで。
そして――一太刀でもいい、届かせたい。
男が不意に間合いを開く。
「……まだ動けるか?」
「当たり前! ここからが本番なんだから!」
そう叫んだセイの声は、風よりも高く、訓練場に響き渡った。
次の瞬間、二人の影が夕陽の中で交錯する。
砂煙が立ち、鋼の音が乾いた空気を震わせる。
その頬には、戦いの熱と――わずかな高揚の赤みが宿っていた。
刃が弾かれ、体勢を立て直すために踏み込む。
その瞬間、互いの距離は一気に縮まり、剣を押し合う形で視線が重なった。
熱を帯びた吐息が頬をかすめ、汗の匂いが混じる。
ほんの一瞬、セイの心臓が剣戟のリズムとは違う速さで高鳴る。
「……あれ? 近すぎじゃない?」
これまではいなされる事が殆どで、刃と刃の鍔迫り合いの様な展開は無かった。でも今は目と鼻の先、なんなら本当に触れれそうなくらい近い位置に顔がある。
「趣向を変えて、超接近戦ってやつかな? ほらほら、距離を詰められるのが嫌なら、押し返さないと」
低く、耳元にかけられた声は、鋼のぶつかる音よりも鮮やかに彼女の鼓膜を震わせた。
男も、実は楽しんでいた。
少女、セイとのやりとりは、かつての記憶を思い出させる。
こうやって稽古をして、ムキになって向かってきて、軈ては強引にーーー。
「むーーーー!!」
パッ! と、セイは武器を捨てて抱きついてきた。
「捕まえた!!」
自暴自棄にも見えるが、少し違う。
男との刃が交差し、耳元で金属の悲鳴が弾けつづけた。
何度も何度も、幾度も幾度も重ねた打ち合い、踏み込みも切り返しも、もう限界にまでセイは来ていた。
いつまでも楽しみたい、と言う気持ちも身体がついてきてくれない。
呼吸は荒く、視界の端が揺らぎ始めている。
――勝てない。どうやっても、届かない。でも続けたい。
そして、心のどこかが叫んでいた。
せめて、触れたい。
剣で勝てないなら、この距離で。武器も防御も捨てて――。
だから、セイは決意と同時に剣を放り、体を前へと投げ出したのである。
金属が地面に落ちる甲高い音より早く、彼女の両腕が男の体を抱き締める。
その瞬間、全身に電撃のような感覚が走った。硬い胸板の感触、彼の体温、鼻腔をくすぐるわずかな汗と土の匂い。
自分の鼓動が暴れるように早まり、彼の心臓の音と混ざってしまいそうだ。
防具の類は一切身につけてない薄い黒衣の肌着だけ。こんなにも男の人に強く抱きついたのは初めてだった事もあり、セイの体温は急上昇する。
男の腕がゆっくりと回され、背中を包み込む。
それは戦いの最中とは思えないほど穏やかで、温かくて、逃げ場のない抱擁だった。
広い掌が後頭部に添えられ、指先が髪をやさしく梳く。
「……よくがんばりました」
低く落ち着いた声が、耳の奥に染み込む。
背中をぽん、ぽん、と規則正しく叩かれるたび、胸の奥に溜まっていた焦燥と悔しさが、雪解けのように少しずつほどけていく。
――勝てなかった。でも、触れられた。包まれた。
その事実だけで、セイの胸は甘く満たされていく。
頬が自然と熱を帯び、視線は彼の胸元から上がらない。
動けば、この温もりが離れてしまう気がして――セイはただ、抱きしめられるまま、静かに呼吸を整えた。
「でも、これがもし戦場で、相手が敵なら、良い策とは言い難いね? ここから先の攻撃手段があるのなら別だけど」
セイは抱きつくだけで精一杯。
全て見透かされているのを感じたけれど、それ以上にあまりにも心地よ過ぎて顔を思いっきり埋める。自身の体を相手にこすり続ける。マーキングをするかのように。
軈て軈て、強く密着させたからか、男と女とは違う部位がある、と言うのが分からされる様な感触がセイの下腹部に有った。
「こ、こうげき方法ならあるもん!」
それを意識した瞬間、急上昇をさらに超えた上昇を見せ、その熱とともにガバッ! と顔を上げて、回していた右手を下げて、……その感触の部位へと手を伸ばした。
「って、こらこら」
ぽこっ!
と撫でられていた頭が、今度は叩かれる。
名残惜しいけれど、こっちの方が重要!と言わんばかりに、セイは手を伸ばした。
「お、おとこのこって、ここがきゅーしょ! なんだよね!」
「そ、そりゃ、金的は有効手段だけど……攻撃って感じしないぞ? っこら、だから落ち着いて」
握り潰す。思い切り叩きつける、蹴り上げる。
金的に対しての攻撃手段に対する対応策も勿論持っていて、防護しているけれど、セイのその手の動きは明らかに攻撃とは毛色が違う。手のひらの中で、揉み、息遣いが荒くなり、睾丸部分と竿部分を交互に弄り続ける。まるで、カタチを確認するかのように。
「あ、あれ!!? お、おとこのこって、さわるとおっきくなるんじゃないの!?」
最早発情状態。
ゴブリンやレッドキャップと言った、亜人たちの特性だと思っていたんだけど、人間にもそう言うの?があるのかもしれない。
顔を真っ赤にさせてるところをみると、どうやら彼女は初めてな様子。でも。
「てっきり、そっち方面は興味ないって思ってた。斬り合い打ち合い、戦いが全て、って感じ」
「し、しっけーな! ボクだって女の子だし! そのーーーこんなに強い男の子初めてだし……!」
ハーハーと荒い息遣い。
胸も開けさせて、衣類の上から性器同士を擦らせてくる。
そうこうしている間に。
「セイーーーー!!!!」
騒ぎ過ぎたのか、2人の少女が飛び込んできた。