★★★(みゆ)
最近、悠介さんが忙しい。
一緒に住んできて、一番な気がする。
朝早くに出て行って。
夜遅くに帰ってくる。
それはいつものことなんだけど。
それが、休日にも及ぶ。
しかも、完全に。
悠介さん、休みなしで働いている。
大丈夫かな……?
私は心配だ。
夜は疲れ果ててベッドに入ってくるし。
可哀想……
私は毎晩、隣で眠る悠介さんの顔を撫でていた。
理由は詳しくは聞いてない。
ただ、大きなトラブルが起きたらしいんだけど。
……心配させないようにしてるのかな?
★★★(悠介)
会社でトラブルが起きた。
主力製品に、致命的な不具合が出たんだ。
営業からその不具合について、写真を交えての説明があったんだけど。
……とんでもなかった。
顔から血の気が引くのが自分でも分かってしまった。
これはまずい。放置できない。
下手すると、僕の所属している研究所に併設されている工場が吹っ飛ぶかもしれない。
商品としての機能が足りない、どころじゃない。
どこをどう見ても不良品。そういう状態だ。
何故そんな商品が出来たのか?
原因は?
製造方法? 素材? 製品詰め?
そんな普通の原因ではないかも知れない……
室長は言ったよ。
「ウチの部屋一丸となって、今回の不具合の原因究明と解決を行います」
……そこから、僕らの運命が決まった。
まず、僕らの休日が完全にふっ飛んだ。
みゆと一緒に過ごす時間がほとんど無くなった。
そして一日の自由時間が1時間半に限定された。
通勤時間と寝る時間を考慮に入れると、自由に使える時間がそれくらいしかない。
その一時間半で、新聞をチェックしたり、入浴したり、食事をしたりしなければならない。
……だから。実質、会社と自宅の往復の生活になってしまった。
こんなことは初めての経験だ。
こころが すりへって いく
★★★(みゆ)
私が台所で、髪を括り、エプロンをつけて、夕飯の準備をしていると。
インターホンが鳴った。
帰って来た!
10時過ぎだからちょっと遅くなるけど、少しの時間でも一緒にいたい。
私は出迎える。
トトト、と玄関ドアに向かって。
開けた。
「ただいま」
そこには、私の旦那様である、疲れた顔の悠介さんが居た。
★★★(悠介)
……今日も仕事が終わった。
好きな仕事ではあるけれど、キツ過ぎる……
やっと帰ってこれた……
「ただいま」
家のドアを開けてもらうと、みゆに出迎えてもらえる。
みゆ……
疲れているけど、みゆの顔を見ると元気になれる。
「おかえり!」
みゆが笑顔になった。
「今日はシチューを作ったから! 一緒に食べよう!」
手招きして、僕を案内する。
くるりと身をひるがえし、食卓に誘う。
その後ろ姿……
僕は、ムラッとした。
最近、僕はみゆを抱いていない。
そんな時間が無いからだ。
彼女の身体はスラリとしてて、抱くととても……
僕はそのまま、衝動のまま後ろからみゆに抱き着いた。
★★★(みゆ)
え……?
私は、後ろから抱き着いてきた悠介さんに驚き、混乱する。
悠介さん……?
ぎゅうううう
強い力。
男の人の力。
わわっ
悠介さん! いきなり何!?
こんなところで!?
その力強さに、私は悠介さんが何をしようとしているのかに気づいた。
悠介さん……ここで?
私は考える。
悠介さんの事は愛している。
大好きだ。
だけど……
ここでは嫌!
私にとって、セックスは大切なもの。
こんなところでしたくない!
「悠介さんっ! ここじゃダメ!」
暴れる。でも力じゃ勝てないから……
「ヤダぁ! ヤダよっ! 悠介さん!」
いくら大好きな人でも。
玩具みたいに抱かれるのは嫌。
だから私は必死で暴れた。
でも、離してくれない。
悠介さんの手が、私の身体を弄りはじめる。
ヤダッ……!
「やめてよ! 悠介ッ!」
そのとき
悠介さんの手が止まった。
★★★(悠介)
ハッ、とした。
みゆが僕の名前を呼び捨てで呼んだとき。
僕は我に返ってしまった。
……僕は無理矢理、ここでみゆを抱こうとしていた。
……最低だ。
いくら疲れてても、そんなことをみゆにしてしまうなんて……
僕は彼女を解放し
「……ゴメン」
「いいよ……疲れてたんだよね?」
怖かっただろうに、微笑みながらそう言ってくれる。
みゆ……
「……さ、食べよ。時間無いんでしょ……?」
そう、言って僕を食卓に連れて行こうとしたときだった。
みゆの顔が強張り、口を押えてトイレに駆け込んだのだ。
ワタタタタタ
おげええええええええ
……トイレで、みゆが嘔吐していた。
僕は、彼女を助けるために駆け寄ろうとして
ふと、気づいた。
これは……悪阻?
まさか……
洋式トイレに向かって嘔吐する彼女の背中を見つめる。
みゆ……!
僕の中で、彼女への愛が高まってくる。
ジャアアー
吐き終わったみゆは、トイレの水を流して。
口を拭って、立ち上がってくる。
「………」
無言の彼女。
俯いている。
僕は彼女の前に立ち。
そっと、抱きしめた。
僕に抱きしめられた彼女は
「……悠介。私、お腹にあなたの子供が出来たみたい」
そう、僕の腕の中で言ったのだった。
悪阻は外せないよ(HR属性的に)