これ書いたときはまだ、鈴木が谷家の家族に紹介されてなかったんよ
★★★(みゆ)
病院で検査して。
私の妊娠が確定した。
会社で産休の手続きをしないと。
総務で産休についての会社の規定を確認し。
その手続きを行った。
産休……
ついに来たか、って感じ。
悠介さんと結婚したときから、この日が来ることは分かっていたけど。
ほぼ3年社会人をやってきたけど。
会社内で産休を取ってる人はちょくちょく見かけたことがある。
中には産休明けにそのまま会社を辞める人も居た。
私の未来の姿と思って、よく観察していた。
……自分の場合はどうなってしまうのか?
「谷さんさぁ、産休に入る前に引き継ぎ書書いておいてね」
上司の営業課の課長が、そんなことを言った。
谷。
私は悠介さんと結婚したとき。
私は旧姓で仕事することを選択しなかった。
旧姓で仕事をする制度がちゃんとあったんだけど。
でも。
苗字が変わったことが、悠介さんの奥さんになった証。
そう思っていたから、仕事上不利になるのを知っていたけど、敢えて旧姓を選択しなかった。
名刺も作り直したし。
かなり、大変だった。
で、今度は産休。
……評価、かなり落ちるかもしれないなぁ。
まぁ、解雇はされないと思うけど。
妊娠したから解雇、なんて話は聞いたことないから。
大体、そんなのがまかり通るなら、産休の制度も無いはずだし。
私は自分のデスクで、お客さんの名前やら、抱えている案件やらをノートパソコンを使って書類にまとめながら、今後の私のキャリアを考える。
……私、およそ1年、いや2年は職場から離れることになるんだろうか。
営業部に配属されて。
私の才能を発揮できる仕事はこれだ、と思ったんだ。
だから、一生懸命仕事したし。
それで、ボーナスの査定が良くなったときは、本当に嬉しかった。
でも、2年……
私は、営業の職場から離れる。
私の今やってる仕事は、他の人が引き継ぐ。
産休と育休が終わって。
私が職場に帰って来たとき。
……果たして私の席は残っているのかな?
気持ちが、沈む。
……勘違いして欲しく無いんだけど。
私は別に、悠介さんの子供を身籠ったことを後悔しているわけじゃない。
それは嬉しい。望んでいたことだし。
でも、それとは別に、自分が好きだった仕事ができなくなる。
それが悲しい……
……ここでふと、子供が出来ても働き続けられる悠介さんの顔が頭に浮かんだ。
私は別に、女に生まれたことを後悔したことは無かったけど……
このときは少し、男の人が羨ましいと思ってしまった……
「……谷家の嫁としてありえないとか言われないようにしないと」
私は地味目だけどみすぼらしくないワンピースの服装で、スーツケースを後ろ手に引き摺りながら。
大きな家の前に立っていた。
和風の立派な門構え。
立派なお庭。
駐車場には立派な日本車。
谷家。悠介さんの実家。
卑しく聞こえるといけないから、確認したことは無かったんだけど。
……絶対にお金持ちだよね。
たらー、と汗が流れて来た。
私は汗を拭う。
……冷や汗だろうか?
一般家庭の私が、こんな門構えの家の嫁になるなんて。
……これはちょっとした冒険だよね!
進めボウケンジャー