第一子誕生回。
★★★(みゆ)
お義父さんに車を出してもらい。
予約していた産院に向かう。
私は車に乗ったまま、陣痛に苦しむ。
ああ、イタイイタイイタイイタイ!
破水はしてないみたいだけど、痛すぎる!
早く着いて欲しい!
……あ!
大事なことに気づく。
それに気づいた私は、陣痛に悶えながら、やらなければならないことをやった。
スマホを取り出し、痛みで定まらない手でメールを打ったのだ。
悠介さんに。
『産まれる』
産院に着くとすぐ、私は分娩室入室に向けての各種準備、検査をしてもらい……
その後分娩台に乗せられた。
いよいよだ……
陣痛はどんどん強くなる。
額に脂汗が浮いて来る感覚があった。
これからどれだけ苦しいのだろう。
私の頭の中で、谷の家で過ごした時間が流れていく。
大きくなっていくおなか。
ずっと一緒にいた、私の……いや、私たちの赤ちゃん。
それが、今日生まれる。
嬉しい……頑張る!
そして、とてつもない激痛が来た。
「ああああああああああああっ!」
私は叫んでしまう。
声を出すとお産が上手く行かない。
お母さんにそう聞いていたのに。
でも、止まらなかった。
どのくらい苦しんだのか分からない。
気が付いたときには……
ほぎゃああああああ
……終わっていた。
お産が終わって。
ベッドで横になっている。
産後の疲れか。
半ば放心状態で。
おなかの中に長く入ってた子供が、外に出たことについて。
私はボーっとしながら考えていた。
とうとう産んでしまった……
なんというか、現実感が無かった。
自分が母親になったんだ、っていうことが。
おなかの中に十ヶ月以上赤ちゃんを抱えて、その存在感は感じていたけど。
その子が外に出て、赤ちゃんとして出現すること。
そこまでイメージとして持ってなかったんだなぁ……と。
おなかの中に居たときに、母親の実感を持ったつもりだったけど。
どうも自信がなくなってきた……。
私、お母さんになれるんだろうか……?
不安になってしまう。
望んで作って、産んだ赤ちゃん。
ちゃんと母親として愛さないと、最低じゃん。
あ……
お産に入る前に悠介さんに打ったメールの返事。
どうなってるだろうか?
私はベッドの脇に置いてあったスマホを手に取り、メールチェックをする。
すると、返事が届いていた。
『悪いけど今日の仕事が深夜まで掛かりそうだ。立ち会えない。ゴメン』
『でも、明日は有休を取って、絶対に見に行くから』
『よろしく頼む。頑張って』
……悠介さん。
立ち会ってくれなかったなぁ……
仕方ないのは理解してる。
毎日、無茶なスケジュールで働いてる人に、こういうときのきめ細かい対応を望むのは我儘だよ。
それに、悠介さんだって立ち会えないことを辛いって思ってるはずだし。
私の旦那さんはそういう人だ。
私がそう、悠介さんの気持ちに思いを馳せていると。
がちゃりとドアが開いて。
病院のスタッフさんに連れられて、私たちの赤ちゃんがやってきた。
わぁ……!
産んだときに少し見せて貰ったけど。
私たちの赤ちゃんは、産湯を使ってもらって、綺麗になってやって来た。
ちゃんと産着を着せてもらいながら。
そこで、やっと私は実感を持った。
私は子供を産んだんだ、ということに。
スタッフさんに促されて、私は生まれてはじめて我が子を抱いた。
とても小さかった。
可愛い……
私は思った。
この子のためなら、死んでもいい、って。
大切な、私たち夫婦の赤ちゃんだ。
「首がグラグラです。抱くときは注意してあげてください」
スタッフさんの言葉。
言われるまでもないことだけど。
私は首を支えるようにして赤ちゃんを抱いた。
産む前の話では女の子って聞いていたけど。
実際に女の子なのかな?
産んだときに聞いた気がするけど、気が動転してて忘れてしまった……
なので、私は確認した。
「女の子ですよね?」
「はい」
……やっぱりそうなのか……。
名前はどうしようかなー?
私は考える。
悠介さんが明日来る前に、候補くらいは決めておこうと思って。
私の名前は「みゆ」
お母さん曰く「お嫁に行くときに苗字が変わっても、姓名判断で名前の運勢が変わらないように」と考えて、ひらがなの名前にしたらしい。
この話を聞いたときは、両親の心遣いに感謝したもんだったけど……。
後で興味持って自分で調べたら……
別にひらがなでも姓名判断には影響する。
むしろ、ひらがなの名前は運命の崩壊を意味するとする流派もある。その理由は、ひらがなは漢字を崩したものだからだ。
ということを知ってしまい、愕然としたことがある。
ひらがな関係ないじゃん、って。
だから私はひらがなの名前は避けたい。
どうするべきか……
……ここはやっぱり、親の名前から取るパターンかな?
悠介さんの名前から一字貰おう。
で、私から「み」の音だけ取って……
……悠美でどうだ?
私は腕の中の我が子を見つめる。
……よし。
暫定的に、あなたの名前は「悠美」で!
旦那さんにも言わないとねぇ