★★★(みゆ)
「長らく産休と育休で休んでいた谷さんが、今日から職場復帰します。皆さん、谷さんの手助けをお願いしますね。2年のブランクはデカいですから」
上司の課長がそう、私を職場の人に説明してくれる。
私は頭を下げる。
「谷です。2年居なかったので、分からないことが多々あると思います。サポートして下さると幸いです」
私の挨拶。
職場の人は拍手で迎えてくれた。
……見知った顔もあるけど、知らない顔もある。
新入社員なのか、異動して来た人か。
……ちゃんとやっていかないと。
2年は長い。
担当していたお客さんは、もう別の人が担当だ。
私がやることは、一刻も早く仕事の前線に復帰すること。
そのために、私は自分の居ない2年間に何が起きていたのかを調べるために、課長に頭を下げて2年分の週報のデータを見せてもらった。
お客さんの前に復帰する前に、知っておかなくちゃ……
悠介さんは家でも仕事のために勉強してる。
私の場合は、これを家に持ち帰ることは出来ない。
メインの仕事復帰は回ってこなかった。
だからその間に、課の雑用をしながら、必死で課長の週報を読み込んだ。
自分のデスクでパソコンを使って。
また営業で、前線に……!
2年の間に新しい商品も出たし、お客さんからの要望も増えてきていた。
期待される新技術。そんなものも要求が厳しくなってる。
……こういうのがあるから、悠介さんの仕事がキツくなるんだよね……。
まぁ、その分お給料はいただいてるわけだけど。
複雑な気分。
そうして、前線に復帰しないまでも、忙しい毎日を送った。
そんなある日。
「谷さん、ちょっと」
……課長に呼ばれた。
「谷さん、一生懸命復帰を目指しているのは分かるんだ。でも、申し訳ないんだけど、異動が決まってしまったのよ」
別室に呼ばれて。
それを課長に告げられた。
心臓を掴まれるような気持になった。
ときめきじゃない。
心をへし折られるような、そんな感覚。
呼吸が乱れそうになった。
……もう、私は営業職じゃない……
顔色も、青ざめている気がした。
……課長は本当に気の毒そうに私に言う。
「今ね、商品品質管理課の社員がひとり定年退職してね。そこに空きが出たから、是非谷さんを行かせるべきだって会議で決まってさ……」
……商品品質管理課……確か、会社の商品についての書類を作る部署だったっけ。
私はそこの部署に飛ばされるのか……
……私が積み上げたものが、無くなってしまった……
悲しかった。
どうしようもなく。
……このことを、避けられなかったことが。
原因は分かってる。
私が妊娠したからだ。
子供を産んだから、この女は子供を産む女だ。
これからも産むかもしれないから、連続性が問われる仕事は任せるべきじゃない。
そう、上の人が判断したんだ。
でも。
私はそのことを後悔はしない。
してたまるもんか!
悠介さんの赤ちゃんを産みたい。
それは私の本心だ。
だから……
子供を産む女に営業職を任せておけないというのなら、それは仕方のないこと。
私は納得する。
「……いつから異動なんでしょうか?」
だから聞いた。
これからのことを。
自分のことを嘆くつもりは毛頭ない。
「来月の1日付け。辞令は今日の夕方には出るから。デスクの片づけをしておいてね」
課長の声は気の毒そう。
だけど……
同情は不要です。課長。
大丈夫ですから。私。
まあ、会社も生き残らないといけないしね