★★★(悠介)
妻のみゆが妊娠した。
家族が増える。
最愛の女性が、また子供を産んでくれる。
僕は幸せ者だ。
あまりに嬉しすぎて、信頼している先輩に「また子供が出来ました」と仕事中に洩らしたら
「おお、おめでとう! もっと頑張らないといけないな」
喜びについて共感されてしまった。
僕はその通りだ、と思ったのだが
……そろそろ、今のハイツを引っ越す適齢期なのか……?
子供が増えたら人数が増える。
当たり前だけど。
そうなると、より広い家が必要になる。
引っ越し。
大学に入るときと、学校を出た後。
通算2回しか経験していないイベントだけど。
親の助けも、会社のサポートも無しで行うのはこれが最初かもしれない。
でもその前に……しておくことがある。
次の休みの日にやっておこうか。
休みの日。
日曜日だ。
例によって前の日の土曜日は会議と実験で潰れた。
みゆは部屋の掃除を頑張っている。
僕は、みゆから掃除機を取り上げた。
「あ、別に私がやるからいいんだよ? 無理しないで」
掃除機を取り上げられたので、みゆは少し焦った風に言ってきたけど
「いや、やらせて欲しい。代わりに他の仕事を進めてくれないかな? 洗濯だとか」
……洗濯は、女性用の下着の扱いが男性より繊細だから、僕がやるより彼女にしてもらった方がいいだろうし。
そうして。
みゆが洗濯をしている間に、僕は掃除を片付け、洗い物入れに溜まっていた食器類を全て拭いて棚に収納した。
二人がかりでやった方が断然早い。
これで……時間を作ることができる。
さて。
みゆが洗濯物を干し終えてしまうのを見ながら、コーヒーを2人分用意する。
まあ、インスタントだから大したことは無いんだけど。
テーブルにカップを二つ置き、みゆが戻ってくるのを待つ。
僕は言った。
「ちょっと座って」
★★★(みゆ)
なんだか、悠介さんがちょっと変だ。
何か良くないことがあったんだろうか?
いつもは私に任せてもらっている家事類を、半ば強引に奪うみたいにして自分でやり。
いつもより短時間で、家事を終わらせることに貢献してくれた。
……なんぞや?
まさか、娘の教育方針で私に何か問題があるから、相談しようっていうのでは?
このままでは悠子がアホになってしまう、とか。
……ありえる!
もしそうだったら、かなりショックだ。
私は受け止めきれるだろうか……?
悠介さんが座れと言うので、テーブルの向かいの席に座る私。
一体、何が起こるんだろう?
……ドキドキする。
「な、何なのかな?」
私はおずおずとそう言ってみる。
すると
「……そろそろ新しい家に引っ越さないか?」
……えっと。
悠介さんは語る。
そろそろ、このハイツも手狭になるし、引っ越した方が良いと思うんだ、って。
……なるほど。
確かに、手狭かもしれない。
今は私たちの他は悠子だけで、悠子は今私の部屋で寝てるけど。
ここに、今おなかに居る子供が加わる訳で。
そしてこの子たちは、成長してどんどん大きくなる。
引っ越しは必然かもしれないな。
しかし……
引っ越しとは言っても、色々あるよね。
同じ賃貸に引っ越すのか。
買うのか。
買うにしても、マンションか、一戸建てか。
中古か、新築か。
ホント、色々ある。
……どうしよう?
「悠介さんは何か考えているの?」
私は、自分の意見が出てこないので、悠介さんの考えを確認する。
「……僕は」
悠介さんは、言葉を発しながらコーヒーを啜る。
そして続けた。
「マンションを買うのがいいと思う」
……お?
確か、悠介さんは前に
家を建てる
って言ってたよね? あのときの話……悠子が産まれたときのことはよく覚えているんだけど。
「マンションを買うの? 家を建てずに?」
「……うん。それじゃ嫌かな?」
さらにコーヒーを飲みながら、悠介さん。
「嫌じゃないけど……」
あのときからの心変わり。
一体どういうことなのか。
「マンションはさ……管理人が居るんだよね」
そう、遠くを見るような顔で悠介さん。
管理人……うん。聞いたことあるよ。
マンションに専属でついてる、マンションの掃除だとか、ゴミ捨て管理だとかをする人のことだよね。
それが……?
「僕らは共働きだよね」
「うん」
「……泥棒が怖いと思うんだ」
……あ。
そういえば、たまに社内ニュースで流れるなぁ。
誰の家に賊が侵入した、って。
……そういえば、その大体が一戸建ての家ばかりだったような気がする。
なるほど……
「なるほど……マンションの方がいいかもね」
私は納得した。
腕を組んで考える。
マンションっていくらくらいするのかな……?
5000万円くらい?
いや、もっとするか……?
「私たち、貯金どのくらいあったっけ? 私は今、200万円くらい貯めてるけど……新築のマンションってどのくらい……」
「そのことだけど」
コーヒーを飲み干して。
悠介さんは、こう言った。
「中古を買わないか?」
中古……?
他人の使った部屋を買うの?
少し、躊躇する私。
他人のものだった、という部分で「気持ち悪い」というイメージが湧いたためだ。
「中古?」
声に嫌悪感が混じっていたかもしれない。
私たち家族が住む家が新築じゃないなんて、という。
でも、悠介さんは違ってて
「……新築でも、住み続ければ中古になるんだ。最初から中古であるということが、それほど問題かな?」
「ん……」
私は、あごに手を当てて考えた。
確かに……
10年住んだら新築でも10年ものの中古。
20年ものの中古とどの程度の差があるのか、ちょっと分からないよね……
じゃあ、中古……アリ、なのかなぁ?
「そうだね……なんかいい感じの中古マンション、探そうか」
私がそう言うと
「うん……次の休みに、一緒に見に行こうか」
悠介さんがそう言って。
こうして……
私たち家族の、マンション購入が決まった。
家にも色々ある。