※この作品はR-18です。

男の子が欲しい夫婦の話。   作:XX(旧山川海のすけ)

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避けられないこと


お金の話をする夫婦の話。

★★★(みゆ)

 

 

 次の日曜日。

 私たち一家は、ハイツでお世話になった不動産屋さんに出向いた。

 

「マンションを購入したいんですが。中古で」

 

 悠介さんが不動産屋さんにハッキリと要件を伝え、話がスタートする。

 予算を聞かれ、ローンを組む意思があるのかということも聞かれる。

 

 ローン。

 住宅ローンだ。

 

 私の親も、家を建てるときに多分組んだはずのもの。

 それを組むときがやってきたのか。

 

 どうするのかな?

 実際にしたことは私は無かった。

 

 前情報が無い。

 どんなものなのか。

 

 でも、悠介さんは調べていたようで。

 

「基本は僕ひとりでローンを組みます。どうしても予算が足りない場合は妻にもローンを組んでもらいます」

 

 ……やっぱこういうとき、頼りになる人だよね。

 一緒に暮らしてきて、彼のこういうところに魅了され、どんどん、どんどん好きになっていく。

 

 で、色々と物件候補を紹介してもらった。

 中古の物件、色々あるようで。

 

 部屋数、間取り、お風呂、トイレ……

 

 特に、お風呂とトイレは、今のハイツを決めたときと同様、かなり念入りにチェックした。

 

 ……これなら、良いかな?

 

 何個か見せてもらって、良い感じの物件を見つけるに至った。

 広さ、部屋数、お風呂とトイレ。

 とりあえず、文句を言うべきところが見当たらない。

 

「ここ、良いんじゃないの?」

 

 悠介さんに耳打ちした。

 悠介さんは頷いて

 

「ここを契約したいんですけど」

 

 言ってくれた。

 

 

★★★(悠介)

 

 

 そこからはトントン拍子で進んだ。

 契約書を書き、ローンを組み……

 

 その中で、契約内容の重要事項説明が不動産屋さんからあった。

 それだけが、ただの書類の読み上げに付き合うのだけが、やや苦痛だった。

 

 そこからの流れで、マンションの規約について確認をしたんだけど……

 

『犬猫の飼育は禁止。ハムスター、鳥類等の小型動物は許可します』

 

『布団をベランダに干す行為は禁止です』

 

 ……猫が飼えないな。

 まぁ、そこは覚悟してたけど。

 

 しかし、布団も干せないのか。

 いいベランダだから布団を干せると思っていたのに。

 

 布団乾燥機を買わないといけないな。

 

 ……さて。

 お金の支払いまでは進めたけど。

 

 後はもしもの備えだけかな。

 

 こっちはまだ調べてないし考えてないんだけど、基本事項だけは決めておくかな。

 

 なので、転居先のマンションを僕らのものにした後だ。

 みゆと二人きりになったとき、また僕は相談をした。

 

「ねぇ、みゆ」

 

「何? 悠介さん?」

 

 マンション購入相談を持ち掛けたときと逆で、みゆが僕ら二人分のコーヒーを淹れてくれている。

 今から僕に何を言われるのだろう? 予想が出来てない表情だ。

 

 みゆの中ではもうマンション購入は終わってしまっているのかな?

 そこに思い至り、ちょっと考えた。

 

 今から言うことは、できれば考えたくないことかもしれないから。

 

 でも、避けては通れない。

 

 だから、僕は言った。

 

「……もうひとつ、生命保険に入っておこうと思うんだ。僕が死んだときにお金の問題が残るとまずいから」

 

 

★★★(みゆ)

 

 

 生命保険。悠介さんの。

 それは……考えないようにしていた。

 今まで。

 

 だってどうしても嫌だもの。

 真面目にこのことを考えるのが嫌だった。

 

 悠介さんが死ぬ。

 それは絶対に来ることだけど。

 それは今じゃない。

 

 なのに、今、その話をする。

 

「……悠介さん。その話、今じゃないとダメかな?」

 

 テーブルについて、コーヒーを飲んだ。

 内心の動揺を抑えるために。

 

「うん」

 

 悠介さんは短くそう応えた。

 

「……悠介さんはどうしたいの?」

 

「とりあえず、僕が死んでもローンの支払いに関しては団体団信用生命保険でクリアできるけど、子供の教育費の問題とか、生活費の問題とか、要るよね?」

 

 ……住宅ローンを組んだときに、そのことについて思い当たったのかな?

 今までそんな話を切り出そうとしたこと、無かったし。

 

「どのくらいの生命保険に入っておけばいいかな?」

 

「……」

 

 私は答えず、コーヒーを飲んだ。

 そして彼に目を向けて

 

「……私が責任もって成人させるから大丈夫」

 

 言葉を絞り出した。

 

「……いやいやいや」

 

 無表情で、私の言葉は否定された。

 

「片親でそれは厳しいでしょ。悠子だけじゃないわけだし」

 

「だったら! 死ななければいいんじゃないかな!?」

 

 ちょっと、声が荒くなった。

 申し訳ないけど、自分が抑えられなかったんだよね。

 

「無茶言わないでよ。人間、いつかは死ぬんだし」

 

「私もそうだよ!」

 

 ……ホントは分かってる。

 別に悠介さんは変なことを言ってないってことは。

 

 でも、真面目に考えるのがどうしても嫌だったのだ。

 訪れる沈黙。

 

 そして……

 

 悠介さんが、コーヒーを一口飲んで、口を開いた。

 

「……分かった。この話はまた今度にしようか」

 

 ……悠介さんが折れた。

 ごめんなさい……

 

 ……物わかりの悪い、バカな奥さんでホント、ごめんなさい……

 

 私は心で、悠介さんに謝った。




住宅ローンを組むときに、生命保険に関しては強制的に入らされるそうです。
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