★★★(鈴木兄)
家の外に車が停まる音がした。
……来た。
俺はワクワクする。
母さんが出て行った。
いよいよか……
玄関ドアの開く音。
「ただいまー」
妹の声。
おお。
ワクワクが止まらなくなってきた。
誰が姿を見せるのか……?
「兄ちゃんただいま」
まず妹。
子供を産んだのに、デブになってないのが少し自慢だ。
まあ、デブになったとしても、別に妹は妹なんだが。
髪型は変わってない。
ウェーブのかかった黒髪で、わりと長め。
俺と同じ釣り目なので、血縁関係なのがすぐ分かる。
……ん?
さっきはデブになってないと言ったけど。
よく見ると、妹の腹が少し膨れている。
とうとうデブになってきたのか?
ちょっと哀れだな……でもま
「おお、おかえり」
俺はこたつに当たったまま挨拶を返す。
そして、そんな妹の陰から
「おじちゃん!」
ワタタタタと、ちっこいのが走ってきた。
姪の悠子だ。
顔つきはどう見ても妹の子。
よく似てる。
旦那の要素を見つけにくいくらい。
「おお、よく来たな」
応じてやる。
とりあえず、こたつから抜け出して肩車をしてやる。
キャッキャと喜ぶ。
嬉しい。
そして……
「こんにちは。あけましておめでとうございます」
少し遅れて。
眼鏡の男が入ってくる。
一見あまり特徴らしい特徴が無い男だ。
これが、妹の旦那の谷悠介。
最初見たときは「俺のツレにはこんなヤツ居ないんだが」と思ってしまった。
正直、ちょっとやりにくい。
接点が持てないというか。
まず、何を考えているのかが分からない。
表情が動かないから。
あと、趣味も理解できない。
スマホもあまり弄らないし、好きなテレビ番組が何かも分からない。
……みゆのヤツ、こいつと普段何を話してんだ?
まあ、みゆが泣いているとか喧嘩したとかいう話は聞いてないから、文句は無いんだが。
わりと金も稼げるヤツだろうし。
「おめでとうさん。……まあ、ゆっくりしてけよ」
悠子を肩車したまま、俺は言った。
すると、妹の旦那は
ぺこり
と頭を下げてきた。
……こいつ、俺よりいい大学というか、院卒なんだけど。
そういう、偉ぶった態度が無いよなぁ。
俺の一般的なイメージなんだけど、そういうエリートっぽい態度が無い。
まあ、嫌悪感はそのせいで全くないんだが。
「とりあえずだ。……お屠蘇飲むか? 泊っていくんだろ?」
悠子を肩車しながら、俺。
悠子は体重が羽根みたいに軽いから、肩車しながらでも準備は出来る。
「いただきます」
妹の旦那がそう答えたので、俺は動き出す。
正月に備えて買っておいた四合瓶を冷蔵庫から出して、テーブルに置く。
その間に、妹が盃を食器棚から出してくる。
「悪いが自分で入れてくれるか?」
さすがに肩車しながら酒を注ぐのは無理。
とととと……
妹が、盃になみなみと日本酒を注ぐ。
そして、それをグイと煽る妹の旦那。
……おや?
「なんでお前は飲まないの?」
みゆのヤツは、酒に手をつけてないというか。
出した盃は一個だけ。
……どうゆうことだ?
確かこいつ、酒は人並みに好きだったはずだけど……
それに対して妹は
「あ、私、二人目妊娠中」
……お?
なんだそりゃ、俺は聞いてないぞ!
またか!?
悠子についても、生まれる直前に知ったし!
なんだそりゃ!? 今回も俺は知らされないのかよ!?
……と、ちょっとイラついたが
「おお、そりゃおめでとう」
……祝福した。
別に俺の面子なんてどうでもいいや。
また、小さいのが生まれるわけだし。
そっちの方が嬉しいからな。
……次はどっちかねぇ?
俺は男でも女でもどっちでもいいけど。
でもおそらく、妹の旦那は男の方が良いって思ってそうだな。
一般論的に。
…と。
そろそろ、良いかな?
充分肩車をしたので、満足しただろうと判断。
俺は悠子を下に降ろした。
これでまた肩車をせがむようなら、不十分だから継続しなければいけないのだけども。
悠子は満足したのか、母親の、つまり妹の傍に寄って行った。
よし。
……では、渡そうか。
俺はこたつの上に置いておいた、ポチ袋を手に取った。
★★★(みゆ)
兄ちゃんが、こたつの上から何かを持ってきた。
……あれは!
ポチ袋だ!
子供の頃、見るだけでテンションが上がる、嬉しい袋。
子供にとってのボーナス袋。
ポチ袋。
……兄ちゃん。お年玉を用意してくれたんだね……!
しかもよく見ると、デザイン画がイエティだ!
ちゃんと悠子の好みに合わせてる!
「はいお年玉」
なんかニコニコしながら。
兄ちゃんが悠子にお年玉を差し出す。
……一体、いくら入ってるんだろうか?
気になる。
兄ちゃんは子供時代、どのくらいのお年玉を貰ってたっけ……?
ポチ袋を受け取った悠子は、それが何であるのかを理解できないようで。
ただ、じーっと、ポチ袋に描かれたイエティのイラストを見つめていた。
……いけない。中に入ってるのがお金だけに。
ここは親が動くべきだと判断した。
悠子に掌を出す。
渡して、と。
すると悠子は従ってくれる。
……賢い。
「ありがとう兄ちゃん」
礼を兄ちゃんに言い、私はポチ袋の封を切った。
……中に入っていたのは。
「5000円……!」
5000円札が一枚、折りたたまれて入っている……!
なんてことだ……!
私が驚愕していると。
「義兄さん義兄さん」
悠介さんが、スッと動いてくれて。
兄ちゃんに言った。
「……あげ過ぎです。300円くらいでいいです。まだお金の価値分かんないんですから」
「いや、でも……俺はこのくらい貰ってた気がするけど……」
悠介さんに話しかけられるのが慣れないのか、少ししどろもどろになる兄ちゃん。
兄ちゃん、それは結構あとの記憶じゃない?
ん……?
下で、ちっこいの……悠子が、私が持ってるものを返して欲しいと手を伸ばしている。
なので私は、返した。
……ポチ袋を。
すると悠子はニッコリ微笑んで。
床に転がって、じーっとポチ袋を見つめる。
私の手には、5000円札が一枚。
そっちには全く見向きもしない。
ほらー?
そうやって、私は兄ちゃんにドヤ顔を決めた。
義理の兄弟の関係性って尊いと思うのよ。