★★★(みゆ)
それについて、私は唐突に知ることになった。
娘からは、娘の父親に似た子供は生まれない、ということを。
それを知ったのは、あるお金持ちの男性がやってたネットの生配信を見て、いや……聞いていたとき。
配信主は、生まれながらのお金持ちで、お金持ちの世界の話が面白くて。
乗り物の話とか。ペットの話とか。
あと、お金持ちなのに庶民臭い話とか。
それをご飯を作るときのBGM代わりに、配信を流し聞きしてたんだよね。
で、キッチンで包丁使ったり、味見したりしてたんだけど。
骨ばった顔が特徴的なお金持ち男性は言ったんだ。
『托卵ってのはね、顔でまあ分かりますね。DNA検査要りません。男の子が生まれたとき限定ですが』
ん……?
どうして? と思える言葉が出たので思わず作業が止まってしまった。
托卵は分かる。悪い女が、旦那さんの子供でない子供を妊娠して、騙して旦那さんに育てさせる事だよね?
最低の行為だと思う。私には兄ちゃんいるし。
兄ちゃんはクソだったけど、いくら元クソだったとはいえ、それはあんまりに酷い。
そんなことをもし兄ちゃんがされたら、私はその女を殴りに行く。絶対に。
『思い浮かべてみてください。あなたのお爺さん、お父さん、そしてその息子。顔が似てると思いませんか? 顔に連続性を感じたりはしませんか?』
……私の……お爺さん。
そして、お父さん。兄ちゃん。
……あ!
確かに。
血縁関係を想像させる顔してるよね!
想像の中で顔の比較を行い、私はお金持ちの言葉に納得した。
『これがY染色体の力なんですよ。……でね。このY染色体は男にしか引き継がれません。そのため、男の子は高確率で父親に似る。だからバレますね。男の子が誕生してしまった場合は高確率で』
なるほど……!
お金持ち男性、博識で面白い話をするなぁ。
私の手は止まり続けている。
話に聞き入っていた。
お金持ち男性の話。
それはさらに続き、こう言ったんだ。
『で、これは托卵とは関係ないんですが、女の子はY染色体を引き継がないため、女の子から生まれる男の子は、女の子の旦那の顔を持つ男の子になります。つまり、顔の系譜を描けない孫なんですな』
え……?
空気が、止まった。
孫の顔が……夫に、似ない……?
それが意味するところは……?
ウチの家。
子供は二人。そして二人とも女の子。
これは……!
今のままだったら、孫に悠介さんに似た顔の子供は一人も含まれないってこと?
私は想像する。
……大切な、悠介さんによく似た男の子が、この世に残らないって状況を。
それはヤダ! 絶対にヤダ!!
「ままー、今日のご飯は?」
そんなところに、娘の悠子と美子がやってくる。
美子と手を繋いで、仲良く悠子が。
……この二人は可愛い。
愛している。
宝物。間違いない。
けど……
この子たちから生まれる子供は、絶対に悠介さんに似ないんだよね……。
「ああ、野菜の煮物と焼き魚」
娘たちの献立への質問に答えながら、私はそんなことを考えていた……。
★★★(悠介)
帰宅したら、みゆが深刻な顔をしていた。
「悠介さん。ちょっといいかな?」
出迎えてくれた後。
ご飯の前に話があると言って、椅子に座らされた。
そしてみゆが切り出してきたのは……
「悠介さん。私、三人目の子供が欲しい。それも、男の子が欲しい!」
向かい合って座って、言ってきたのはそれだった。
子供を持つにはお金が要る。
もう、僕は二人も子供をみゆに産んでもらった。
僕としてはもう充分かなと。そう思っていたんだけど。
……しかし、なんでまた?
そう聞くと、みゆは険しい表情でこう言ったんだ。
「私、孫に悠介さん似の子供が一人も居ない状況は嫌なの!」
……あ。
そういうことか。
知ってはいたんだけどな。
何を言いたいのかはすぐに理解できた。
「……天皇陛下の家系じゃないんだから、別に気にしなくてもいいと思うんだけど。僕のY染色体のことなんて」
「私は嫌!」
……目が釣り上がっている。
こんなみゆを見るのは初めてかもしれない。
何が何でも、自分の意見を通したい。
答えはもう決まってる。受諾して! と。
そんな彼女の意志が感じ取れた。
だったら……
僕の答えも決まったんだ。
みゆがそう言ってくれるなら……
「分かった……作ろう。男の子……」
僕は承諾する。
彼女ともう一人子供を作ることを。
……男の子を。
遺伝の秘密。
リアルで周囲をよく観察すると、否応なく納得せざるを得ないです。