今回はHシーンはありません
—————火山が近くにある地帯で、一体の龍が横たわっていた。
その龍は『炎王龍 テオ・テスカトル』と人間からは呼ばれており、全てを焼き尽くす炎を操る古龍である。
しかし、その炎王龍はかなり年老いており、第三者からみても、その命の灯が消えようとしているのは明らかだった。そして、そんな炎王龍の傍らには、彼を気遣うような龍がいた。
『炎妃龍 ナナ・テスカトリ』と呼ばれているその龍は、テオ・テスカトルの雌の個体であり、鮮やかな蒼の体躯を持ち、女王のような気品溢れる佇まいをしている。
そんなナナ・テスカトリに、テオ・テスカトルは穏やかに語り掛ける。
——————すまぬな。このような旅に付き合わせてしまって
——————いいえ、私も楽しかったから。でも……私は、あなたに何もしてあげられなかったから
炎妃龍は申し訳なさそうに顔を伏せる。この老齢の炎王龍は、既に寿命を迎える直前だった。その為、彼は死に場所を探していたのだ。そして、その場所を見つける事ができ、こうして最期の会話を彼らは交わしている。
——————そんな事は無い。本来この旅は孤独に歩むものだった。だがお主がいてくれたおかげで、私はとても楽しかった。先立った妻にも、良い土産話ができそうだ。……いや、こんな若い雌と旅をしていたと知られれば、怒られるか……? むう、あやつは怒ると恐ろしいからなあ……
——————ふふ、もう……
心底怯えているような炎王龍に、炎妃龍は可笑しくなって笑ってしまう。すると、炎王龍は真剣な眼差しで彼女を見つめた。
—————のう、お主よ
—————……何?
—————お主は、お主の幸せを探すのだ
—————幸せ……?
炎王龍の言葉に、炎妃龍は訝しむ。
—————そうだ。お主はもっと色んな所を見ると良い。お主は若い。私よりも、もっと遠くへ行く事だってできる。そうすれば、きっとお主が欲しているものに出逢うことができる。
—————私の、幸せ……そんな事言われても、私には分からないわ……
—————大丈夫、きっと見つかる。だから……幸せになりなさい……
その言葉を最期に、炎王龍は動かなくなった。閉じられた瞼は二度と開く事は無く、まるで眠っているように、彼は長い長い人生に幕を下ろしたのだった。
しばらくその場に留まっていた炎妃龍は、彼の遺体を火葬した。このまま土に還してやるのが良い気もするが、近くに生息するモンスターに食い荒らされるかもしれないし、人間に見つれば何をされるか分かったものではない。
これは彼の尊厳を守る為の行為であり……彼の願いでもあった。
『もしも私が死んだら、お前の焔で私の体を焼いてはくれないか』
『……え?』
『私の体は火に強い。生半可な炎では傷一つ付かない。だが、お前の炎ならこの身を焼いてくれるだろう』
『そうかもしれないけど……一体どうして……』
『……私の妻も、死んだ時には自分の体を燃やして欲しいと頼んだのだ』
『……そうなの?』
『ああ、彼女はこう言っていた。「私の体を燃やせば、その炎は空に昇る。そうすれば、私は空に昇って、いつでもあなたを見守れるでしょう?」……とな』
『………』
『だから私も同じように燃やして欲しい。そうすれば、天に昇った妻に逢えるかもしれないし、お前を見守る事ができるかもしれない。だから……頼めるか?』
そんな彼の遺言に従い、炎妃龍は彼の遺体を自らの蒼炎で焼いていく。
蒼い焔が彼の体を包み、天へと立ち昇っていく。
……彼は生前、妻の話を良くしていた。彼の妻は数十年前に病気で死んでしまったらしい。あまり触れてはいけないものかと思ったが、彼は進んで彼女との思い出に花を咲かせていた。妻の思い出を語る彼の顔は、とても楽しそうだった。
——————どうか、彼が空で奥さんに逢えますように
蒼い炎が星空へ伸びていく様を見ながら、炎妃龍はそう祈らずにはいられなかった。
それから数日、炎妃龍はとある森の中で彷徨っていた。
—————どうしましょう……
森を歩きながらも彼女の心を支配しているのは、炎王龍に言われた言葉。
『幸せになりなさい』……そんな事を言われても、炎妃龍はいまいちピンと来ない。
幸せ……彼のように、人生を共にする番を見つけるのは、幸せかもしれない。だがそれは難しい。何せ、この炎妃龍にはある問題があったからだ。
その問題というのは—————彼女の体の大きさである。
彼女は充分成熟しているというのに、そのサイズは幼体並……というかそれ以下だ。
本来であれば巨体を誇るであろうそれは、どういうわけか幼体で成長が止まってしまったのだ。
その為今までで色々苦労する事が多く、彼との出会いも、トラブルに見舞われた際に助けてもらい、恩を感じて彼の度に同行する事になったのだ。
それはさておき、こんな体では同種の番など見つかる訳が無い。なのでそうそう諦めた。かといって、他の幸せって何だ、そもそも幸せとは一体……そんな事を考えていると、何か気配がした。その直後、茂みがガサガサと揺れる。
炎妃龍は茂みから出てくるであろう存在に警戒する。そして、茂みから飛び出してきた存在は……何と、小さな子供だった。
—————少年は眼前に現れた龍に度肝を抜かれていた。
鮮やかな蒼い姿をした龍。その姿に、幼心にとても綺麗だという感想を抱いていた。
少年は近くにある村に住んでいて、子供らしい活発さを持っていた。そして今日もいつものように森を探検していたら、さっきの龍と鉢合わせた……というわけである。
目の前にいる龍はじっと少年の方を見ている。その様子はどこか戸惑っているようだった。
炎妃龍は人間の子供を見るのは初めてだ。ハンターでない人間、それも子供だと力の差は明白だ。そんな存在に牙を剥くほど自分は血の気は多くない。かといって、自分をキラキラとした目で見つめてくる少年をどうすれば良いのか、対応に困ってしまった。
そんな炎妃龍の様子などどこ吹く風、少年は恐怖よりも好奇心の方が勝り、炎妃龍の方へと近づいていく……すると、そこに第三の闖入者が現れる。
突如として飛び出してきたのはドスランポスだ。ドスランポスは少年と炎妃龍の方へと突っ込んでいく。
「うわあっ!?」
少年は悲鳴をあげて逃げようとしたが、間に合わずにドスランポスに踏みつけられる。
「ううっ……」
少年の力では抵抗などできるはずも無く、足で踏みつけられて身動きが取れず、その重みで息も上手くできない。
ドスランポスは少年を踏みつけながら、炎妃龍を睨みつける。血気盛んだったその目はしかし、直ぐに恐怖に塗りつぶされる事になる。
——————私に勝負を挑もうだなんて……愚かね
チリ、と肌を焼くような熱が周囲を支配する。彼女の纏う炎によって空気が陽炎のように揺らぐ。
ドスランポスとナナ・テスカトリの間を隔てる圧倒的な程の種族の差。古龍種である彼女の持つ力の一端に触れ、ドスランポスは明確な『死』を感じた。
——————殺られる
瞬間、ドスランポスは少年を踏みつけていた足をどかして駆け出した。死への恐怖に突き動かされ、少しでも生存の確率を上げる為に一秒でも早くこの場を離脱しようと必死で逃げる。
だが、その選択を取るには余りにも遅すぎた。
——————死になさい
刹那、蒼炎がドスランポスを襲う。ドスランポスは悲鳴すらあげる間もなく炎に焼き尽くされる。
そしてものの数秒で、ドスランポスだったものは黒焦げの炭へと変わってしまった。これが、哀れにも実力差を知らずに飛び出してきたドスランポスの末路だった。
その一部始終を少年は呆然と見ていた。普通ならば、ドスランポスを勝負にすらならずに一方的に殺戮した彼女に恐怖を抱くのかもしれない。
だが、少年が抱いた感情は、それとはまったく違うものだった。
「すごい……カッコいい!!」
少年は目をキラキラさせてはしゃぎだす。少年からすれば、炎妃龍が自分を助けてくれたと思ったのかもしれない。それ以上に、彼女の姿がとても鮮烈に焼き付いて、格好良いと思ったのだ。
そんな純真無垢な眼差しを向けられ、炎妃龍は対応に窮してしまう。
そんな状況を変えたのは、空からこちらに向かってくるような音だった。
バサリと翼を羽ばたかせて地面に降り立ったのは、まるで鳥のような見た目の姿をしているイャンクックと呼ばれるモンスターだ。普通ならまたこちらを狙う不届きものかと思うのだが、そうではないようだ。
「おぉーい! 大丈夫か!?」
「お父さん!!」
何と、イャンクックの背に男が乗っていた。男と少年の会話から察するに、彼らは親子なのだという事は容易に推測が出来た。
息子を見つけて少年の父親は安堵の表情をしていたが、それは直ぐに驚愕の表情に変わった。
「あ、あれは……ナナ・テスカトリ!?」
初めて目にした古龍に父親は目を剥く。体の大きさは小さいが、凄まじい存在感を発している。地面に降り立つと、傍に黒ずみになった何かがあった。それがモンスターの遺体だと知ると、背筋が冷たくなる。
イャンクックも、炎妃龍の存在に怯えてあまり近付かないようにしている。
機嫌次第で容易く命を奪う力を持っている古龍を前に、冷や汗をかきながら父親は少年に声をかける。
「お、おい、大丈夫か?」
「うん、大丈夫! このドラゴンさんが助けてくれたから!」
「そ、そうか。それは良かったな……さ、帰るぞ」
「うん! あ、ドラゴンさん! ありがとう!」
少年は炎妃龍に大きく手を振る。イャンクックの背に乗り、父親にしがみついてどんどん空へと上がっていくのを、炎妃龍は見送ったのだった。
その翌日も、炎妃龍は森にいた。ある程度の餌もあるし、しばらくここにいようと決め、とりあえず渓流を歩いていたら、昨日の少年に再び遭遇したのだ。
「あっ! 昨日のドラゴンさん! こんにちは!」
炎妃龍を見るとパッと顔を輝かせる少年。炎妃龍の近くに駆け寄ると、ゴソゴソと持っていた籠から何かを取り出した。それは瑞々しいつやつやとした赤い果実だった。
「お礼がしたかったんだ。これ、美味しいから食べてみて!」
差し出された果物を炎妃龍はじっと見て、少年の方を見る。食べてみてと言われても……と警戒している炎妃龍を見て、少年は籠からもう一つ取り出し、それに齧り付いた。
「……美味しい!」
そうやって毒が無い事を証明した少年に対し、そこまでしてもらって食べないのもどうかと思い、炎妃龍は差し出された果実を食べた。
果物を嚙み砕くと、微かな酸味と爽やかな甘みが口の中に広がった。確かに、これは美味しい。
「どう? 美味しかった?」
少年からの問いかけに、炎妃龍は微かに唸って返事をした。その返事に、少年は嬉しそうに笑みを浮かべた。
そして、籠からさっきの果物を取り出して彼女に差し出す。どうやらまだ籠に入っていたようだ。その果物を炎妃龍は再び齧る。
「気に入ってもらえて良かったよ。まだまだあるからね!」
そう言って胸を張る少年に、炎妃龍は毒気を抜かれたような感じがした。そんな風に穏やかな時間が流れていたその時、人の気配を感じた。
「ふうむ、どうやら炎妃龍がいるというのは本当のようだったな」
こちらへ近づいてくる人物は耳が尖っており、その手は指が四本しかなかった。彼は『竜人』と呼ばれる種族であり、人間と比べてかなり長い年月を生きるのである。
そんな竜人を警戒するような視線で見つめる炎妃龍。そんな視線に気づいたのか、竜人は両手を挙げる。
「これはすまない。私は君を害そうなどとは思わない。そもそも、君に傷を付ける事などできないからな」
「長老様……? あの、どうかしたんですか?」
少年に長老と呼ばれた竜人は、顔に生えてある髭を摩りながら説明する。
「実は先日、君の父親から炎妃龍に遭遇したと連絡されてね。一応、近辺にいるのかどうか様子を見に森へ来てみたのだが、まさか一緒にいるとは思わなかったよ」
長老は少年と炎妃龍を交互に見た後、炎妃龍に語り掛ける。
「どうだろう。もし君さえ良ければ、私達の村にきてはいかがかな?」
その言葉に少年は目を輝かせ、炎妃龍は目を細める。
「私達の住んでいる村は『ライダー』と呼ばれる人達が住んでいてね……『ライダー』というのはモンスターと共に暮らしている一族の事なんだ。それでもし君が良ければ、来てみてはどうかと思うんだが……」
長老の提案に炎妃龍は逡巡を巡らせる。そんな事を言われても、どうすれば良いのか答えを出せずにいる。すると、少年は声をあげる。
「本当!? ねえ、ドラゴンさん。僕の村に来てよ! ねっ!」
さっきよりも一層キラキラとした眼差しが炎妃龍に突き刺さる。そんな目を見て、炎妃龍は少し困ってしまった。けれど、少年の顔を見ていると、それも悪くないと思ってしまうのが、不思議に感じた。
炎妃龍は少年の近くに近寄ると、そっと擦り寄った。その様子を見て、長老は皺を深くして微笑む。
「それでは、案内しようか」
そう言って、長老は村までの道のりを先導する。少年はその後に続き、炎妃龍も後ろに続く。
(……少年にはある程度心を開いているようだな)
今回、長老が村へ招いたのは炎妃龍の見極めと監視によるものだ。もし自分達に牙を剥かれては困るが、味方……とまではいかないが、少なくともこちらを害さないように監視をする為だ。まあ、炎妃龍がその気になればこちらの監視など容易く突破できるのかもしれないが……
ただ、少年があの炎妃龍に懐いているので、彼が一緒に居れば問題ないのでは、と思ったのだ。
そんな思惑を抱えながら、長老は歩みを進めていった。
——————村へと着いた後、自身を遠巻きに眺める人達の視線を感じながら長老の後に続いた。それからあの少年の父親が呼び出され、長老から説明を受けた。
「それじゃあ、あの子の近くに炎妃龍を置く、という事ですか?」
「うむ。ある程度炎妃龍は彼に気を許している。それに、あの炎妃龍はむやみに暴れないようだからな。ひとまず様子見となる」
「うーん……本当に大丈夫ですかね……」
「……心配するのも分かる。ただ……」
長老はチラリと視線を横に向ける。父親がその視線を追うと、少年が炎妃龍に何かを話しかけていた。
「……あの子が炎妃龍に懐いている。あんなに嬉しそうだぞ?」
「……そうですね」
そんな会話をしている二人の心配を余所に、少年は彼らに駆け寄る。
「ねえ父さん。ナナが家の近くの建物に住むんだよね?」
「…? ……ナナ?」
少年が発した単語に首を傾げている父親に、少年は答える。
「あのドラゴンさんの名前! あのドラゴンさん、ナナ・テスカトリって言うんでしょ? だからナナって名前にしたんだ!」
実にシンプルな命名だった。無邪気に笑いながらそう言う少年を見て、父親は頬を緩めた。
「……そうか。ナナと仲良くするんだぞ?」
「うん!」
どうなるのか分からないが、とりあえず、炎妃龍—————ナナは、この村に住むことになった。
それから数日が経過し、ナナもある程度この村に馴染んでいった。最初こそ他の村人達から視線を向けられる事があったが、皆も少しずつ慣れていった。
少年も相変わらずの様子だったが、ナナはある違和感を感じていた。その違和感を確かめる為に、彼女は父親の愛竜であるイャンクックに尋ねる。
——————ねえ
——————はいっ!? 何でしょうか姐さん!!
——————………その姐さんって、止めて欲しいんだけど
——————いえいえ、そんな事は……!
声をかけられてビクッと体を跳ねさせるイャンクック。その呼び名はちょっとやめて欲しいのだが……話が続かないのでスルーする。
——————少し聞きたい事があるんだけど
——————聞きたい事? 何でしょう
——————あの子の母親の姿が見当たらないのはどうして?
そう。父親と少年の姿は見えど、父親の妻……つまり、少年の母親がどこにも見当たらないのだ。
もしかしたら別の場所に住んでいるか、病気で家から出られないか。そんな事を考えていると、イャンクックは何かを言い淀んでいるような様子を見せた。まるで、言いたくないような、そんな様子だった。
だが、彼女の視線に耐えかねたのか、その重そうな口を開く。
——————‥‥…坊ちゃんの母親は既に死んでいるんですよ
——————……そう
その答えに、ナナは次の言葉が出なかった。イャンクックは言葉を続ける。
——————旦那の奥さんは、坊ちゃんを産んだ後にすぐ、病気にかかってしまって死んでしまったんです。だから、坊ちゃんには奥さんとの思い出は全く無いんですよ
……そんな事があったのか。とナナは何も言えなくなってしまった。そんな事があっても少年は明るく笑っていられるのは、周囲に支えられてきたからだろう。
———————良い子ね
———————ええ、良い子です
ナナがそう零すと、イャンクックもそれに同意した。
……その夕方、ナナがいる厩舎に、少年が入り込んだ。こうして度々入ってくるので、ナナはもう慣れたものだった。少年はナナに近づくと、ナナに甘えるように彼女の体をぎゅっと掴む。
「ナナの体、暖かい……」
炎妃龍は炎を操り、その熱をコントロールできる。戦闘時には周りを焦土に変える程の温度にまで上がるのだが、今は少し暖かいぐらいの熱にしてある。
「……ナナって、お日様みたいな匂いがして、凄く安心する」
少年が体を埋めて匂いを嗅ぐ。まるでそれは、母親に甘えているように思えた。
「あのね、ナナって、何だかお母さんみたいに感じるんだ」
少年がぼそりとそう言う。その声は僅かにくぐもっていた。
「……僕が生まれてすぐにお母さんは死んじゃって……僕、お母さんの事、全然知らないんだ」
少年の体は小刻みに震え、声は震えている。
「お父さんや周りの人達がお母さんの事を教えてくれるけど……でも、僕は分からないんだ、会ったことないから。」
ぽつりぽつりと少年から零れる言葉を、ナナは静かに聞き続ける。
「……お母さんに会いたいよ……」
そう言った後、今まで溜め込んだ思いを吐き出すかのように少年は泣き続けた。嗚咽を漏らし、鼻を啜る音が静かな厩舎に響いている。
……少年はずっと、寂しさに耐えていたのだ。心配をかけさせまいと周りにそれを悟らせず、たった一人でこの思いを抱え込んでいたのだ。
ナナは、少年を見て、何故だか胸が締め付けられるような痛みを感じていた。そして、悲しませたくないと、そんな風に思ったのだ。
だから……自然と体が動いてしまった。
「ナナ……? わぷっ」
ナナは少年に顔を寄せ、ペロリと舐めた。少年の涙なのか、少し塩辛い味がした。
———————泣かないで
当然、彼女の言葉は彼には通じない。けれど、その思いは伝わったのか、少年は笑みをこぼした。
「……ありがとう、ナナ」
少年とナナは寄り添いながら、静かに時が過ぎていったのだった。