姪っ子のように大事に思っている友人の娘。
その子にあげた[お守り]に、一定以上の負荷が掛ったのを感知して、探査魔術を飛ばしたら緊急の精神感応連絡を拾った。
直ぐに仕事を引き継ぎ、王と軍務卿の許可を(一方的に)取り付けて大森林へ転移。
魔力場が乱れまくってる所為で、短距離転移を乱発して移動する羽目になりむかっ腹が立つ。
逸る気持ちを抑えて駐屯地に到着するも、少しでも功績を上げたいのか俺の心象を良くしたいのか、自分達の都合を押し通そうとする上役たち。
こちとら早くエトラの所へ向かいたいのによぉ・・
そもそも俺は王族直轄。軍とは管轄が違う。
軍の上役らに従うかどうかは俺の判断次第だ。
だから適当に理由をでっち上げて切り上げようとしたら、エトラの婚約者であるジルコニアくんが盛大にやってくれた。
これには俺様も嬉しくなったね。
軍で上官に意見するとは・・本来やってはならない事だろうが、今回は俺が居た。
事情も把握してることだし、彼が不利益を被らないように後でフォローしておこうかねぇ。
そんな勇気ある若者と共に、姪っ子を救出する為駐屯地を飛び出した。
彼に方向を示してもらい、速攻で現場に到着。
姪っ子救出は彼に任せる。ここは男の見せ所だろうからな。
現地で共闘していた軍人二人に指示を出し、こっちは結界で削り飛ばして致命傷を負わせた魔獣の始末だ。
いつもの流れ作業だな。
で、処理を終え合流した訳だ。回想終わり!
目の前で姪っ子を抱えてウンウン唸り、赤ら顔で百面相する義息を見て苦笑する。
相手を尊重するあまり、理性と欲の板挟みになっているといったところか。
エルフは性的な事にはとんと疎い。
他種族の恋愛事情は推測することしか出来ないのだが・・
まぁ。俺らにも好ましいとか、恋しいという感情はある。性の知識もある。
だから想像して話すことは出来ても、真に理解するのはちと難しい事柄だ。
エルフは一定の条件が揃わないと発情しないからなぁ。
種族的に性欲が無いと誤解されることもしばしば・・
まぁ、生涯性欲とは無縁で過ごすエルフも居るのも事実だが・・
だから酒の席なんかで、男性エルフが他種族に『宝の持ち腐れ』と揶揄されるのは「お決まり」というヤツだったりする。
―相手以外見えない、考えられない程に焦がれ、満たされるというのはどういった感じなのかねぇ・・―
多少の興味はあるが・・誰もかれも自分の感情に振り回されて大変そうにしているので、情欲に駆られたいかと問われれば遠慮したいというのが本音だ。今のところは。
―満ち足りた笑顔なんか見ると、羨ましくはあるけどな―
特にホーク家の奴らは皆そうだった。
現当主のローガンも、その親も、そのまた親も・・
ホーク家の始祖となったあいつも・・
エルフとしてはつい最近。大多数の他種族にとっては遥か昔。
大切な記憶の蓋が開く。
『なぁリアム。私はこの国を守りたい・・手伝ってはくれないか?』
『守られるばかりではないぞっ!?私だってやれるんだ!』
『見てくれ、生まれたんだ・・私の子だ。可愛いだろ?』
『すまない、友よ。最後の願いだ・・この子を頼む』
『大好きだ・・リアム。愛していたよ』
いつ思い出しても、胸をかき乱される。
温かくて、寂しくて、嬉しくて、切なくて、恋しくて、悲しい、大切な・・大切な記憶。
恋と呼ぶには複雑で、今でもこの気持ちが恋愛感情なのか親愛の情なのか判断がつかないでいる。
こんな気持ちを懐いたのは、後にも先にもあいつだけ・・きっと一生、判断はつかないままだろう。
―どちらかなんて、はっきりさせるつもりはねぇけどな―
だってあいつはもう居ない。
だから意味の無いことはしない。したくない。
振り返る過去の記憶を仕舞い込み、寄り添う二人に視線を落とす。
意識すれば大量の魔力が姪っ子へ流れ込み、僅かに零れ出た魔力が陣によって留められ彼の方へ吸収されていくのが見て取れた。
魔力の流れは順調そうだ。
この様子なら然程待たずに転移できる状態になるだろう。
―そうだ!この二人の為に状況を整えてやるかな―
懐かしい気持ちを思い出した所為か・・老婆心だとは思うがお節介を焼くことに決める。
時間は有限だ。
まだ大丈夫。きっと何時かは。やろうと思えば何時だって・・そんな気持ちでいると、気づいた時には機会を失しているなんてざらだ。
特にこの二人は相手への気遣いが過ぎて、進展が遅くなりそうだしな。
―少しばかり手を貸しても構わんだろ―
そうと決まれば!
未だにウンウンと首を捻り、時折小さく何事かを呟く義息を放置して異空間収納の中を探る。
役に立ちそうな物をゴソゴソと漁りながら、二人が照れ笑いする様子や恥ずかしがる様を想像した。
つられて自分の口元が緩む。
―いちゃいちゃするのは恋人同士の特権だと聞くからな!―
二人が幸せに過ごせれば何も言う事は無い。
―俺様ったら、なんて気配り屋さん!―
若い二人に幸あれと、数千年の時を生きるお節介エルフはニヤニヤしながら煙管を吹かす。
筆頭護衛官が寄り添う二人と軍人らを連れ、転移で駐屯地へと帰還してひと騒動起こすまで後数分。
風が木々をさわさわと揺らし、細くたなびく紫煙は星の欠片煌めく夜空に広がり消えた。