一人で駐屯地に戻って来たリアム・ル・モス・アール・ブレイダス王族筆頭護衛官殿の姿に、焦燥の中待機していた兵士達は一瞬、状況の悪化を予想して動揺が広がった。
だが、筆頭殿の発した次の言葉に歓声を上げる事となる。
「上級魔獣は問題なく処理した!足止めしていた兵士達も全員無事だ!」
本部で状況を説明する為、沸き立つ兵士達をかき分け歩を進める筆頭殿に皆が称賛を送った。
本部天幕にその姿が消えてから、兵達は好き勝手に会話を弾ませる。
「さすが我らが王国随一の魔術師様だ!!」
「あぁ!でも足止めしていた奴らも凄いよな!」
「そうだそうだ!同じ軍人として鼻が高いぜ!」
「なぁ、その足止めしてたのってどこの隊の奴らだ?」
筆頭殿が強いのは周知の事実。彼の話は今更過ぎて大きく騒ぎ立てる程ではない。
それより、筆頭殿が到着するまで魔獣の足止めをやり遂げた兵士達へと皆の意識は向いた。
「405分隊のアギド伍長だって聞いたぜ?」
「あと208分隊のドレラ兵長と707分隊のホーク軍曹の三名って話だ」
「おぉ、実力者揃いだな!」
「長距離、中距離、近距離でバランス良いしな!」
「だな!上手い事連携して足止めしたんだろうぜ」
三名を知る兵士の面々は、状況を想像してワイワイと盛り上がる。
「全員無事ってのはマジ奇跡だな!」
「きっと厳しい戦闘だったに違いねぇ」
「やつらが帰ってきたら、俺は酒を奢るぞ!」
「そうだな!俺もたっぷり労ってやるぜ!」
「ばっか!二名は女性だぞ?お前が近寄ったら孕まされると思って逃げるに決まってらぁ!」
「なんて事言うんだこの駄犬!俺はリップハウスのランランちゃん一筋だっ!!」
「いや、お前それ・・ただの店の女の子と客の関係・・」
話は脱線しつつ、無事に生還する三名に感謝と労いを行動で示そうと盛り上がる兵士達。
その後、無事筆頭殿の転移で全員が戻ると駐屯地に爆発的な歓声が上がった。
しかし、軍人にしては細く見える白髪の男に、ホーク軍曹が抱えられているのを見て兵達に動揺が広がる。
筆頭殿の「中型の天幕を一つ貸して欲しい」という要望により、天幕が一つ空けられ準備されていた。
医療班のセラス・アクロア曹長が手伝いに指名され、忙しく動き回っている。
ホーク軍曹と白髪の男が用意された天幕に運び込まれ、姿が見えなくなった途端ザワザワと憶測が飛び交った。
「おい、見たか?」
「なんだってあんなヒョロいのが軍曹を抱えてんだ?」
「ホーク軍曹、怪我でもしたのか?救護されてんのかな?」
「一緒にいた伍長と兵長に詳しく聞いたら・・って本部に行っちまった。まぁそりゃ報告が先だよな」
「あ、俺知ってる!ほら、最近軍曹婚約したって話があるだろ?友達から聞いたけど、アイツがその婚約者らしいぜ?」
「「「「はぁ!?マジかっ!?」」」」
「マジもマジ!救援に向かう筆頭殿に同行したって話だ!」
「お~。そりゃ肝が座ってんな!」
「惚れた女の為に上級魔獣に立ち向かうか・・筆頭殿が居るとはいえ、大したもんだ」
「へっ!俺だってランランちゃんの為だったら上級魔獣くらい屁でもねぇぜっ!!」
「んじゃ、今度遭遇したらお前置いてくから頑張れよ!」
「あほか!何で俺がお前みたいな駄犬の為に命かけなきゃならねぇんだよっ!!」
「んだよ、頑張れよ~そのぶ厚い脂肪で肉壁になってくれって~」
「マジふざけんなこの駄犬っ!!」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ二名に他の面子がとうとう切れた。
「「「お前らうるせぇ!いい加減にしろやっ!!」」」
「お、悪い」
「ほら~豚ちゃんがブヒブヒ騒ぐから~」
「いや、俺かよ?!お前が煽るからだろ?!」
「「「ダ・マ・レ?」」」
「「りょーかいデス」」
周りからの圧に首を竦める二名は放置して、他の面子は思い思いに話し出す。
「にしても軍曹、意識なかったみたいだけど大丈夫かな?」
「筆頭殿がついてんだ。平気だろ?」
「婚約者クンは何してたんだろうな?」
「俺が知る訳ねぇだろ?でも、筆頭殿があの状況を許してんだ。今の軍曹に必要なことなんだろうぜ。多分な」
「だろうな~おっ?!筆頭殿と曹長が出て来た・・って中の二人はそのままか?」
「気になるな~・・そだ!俺ちょっと本部行って聞き耳立てて来るぜ!!」
「お~。程々にな~。俺ら先に寝床に戻ってんぞ?」
「分かった!俺もすぐ戻るわ!」
聴覚の鋭い兎獣人の兵士が一人、集団から離れる。
暫く時が経ち、寝床のある割り当てられた天幕へと戻って来た。
「お待たせ~!ばっちり情報仕入れてきたぜ!!」
「「「「流石だぜウサちゃん!」」」」
「うっせえ!ウサちゃん言うな!情報教えてやんねぇぞっ?!」
「「「「すみませんっしたウサギさん!!」」」」
「お前ら、このやり取りいい加減飽きねぇの?」
「良いじゃねぇか。ただのスキンシップだろ?それよりどんな情報仕入れたんだよ?」
「早く教えろや!」
「おうっ!どうやら軍曹は重い魔力枯渇状態になったみたいだわ」
兎獣人の兵士の言葉で、場の面々にざわりと動揺が広がる。
「おい・・そりゃやべぇんじゃねぇか?」
「ホーク軍曹と言やぁ、魔力保有量はかなり多い方じゃなかったか?」
「だな。そう聞いてたぜ・・その軍曹が魔力枯渇に陥るってどんだけキツイ戦闘だったんだよ・・」
「やっぱ上級魔獣って半端ねーのな」
「そうだな」
「全く、なんでこんな浅い所に出たんだか・・」
「それな」
全員で首を捻って考えるが、答えが出る筈も無かった。
考察を切り上げた
「んで、軍曹は大丈夫なのかよ?」
「あぁ!魔力は大分回復して、命の危険はないとさ。でも回復の為に暫く安静が必要なんだと」
「そりゃ良かった!安心したぜ」
「早く回復するといいな」
「だな。あ、今はそっとしておくのが良いよな?」
「当ったり前だろ?!面識ないヤツが押しかけても迷惑だろうが」
「だよなぁ・・礼を言いたいけど、回復して起きて来た時にするわ」
「そうしろや。あっ!でも一言だけにしとけよ!引き留めたりしたらあっという間に他の奴らが集まって囲われちまうぞ!?」
「そりゃめんどくせぇ・・気を付けねぇとだな」
話に一区切りがついて、この面子のリーダー格である蟲人が解散を促した。
「っしゃ。それじゃあそろそろ俺らも交代で仮眠取るか」
「そうだな」
「あ、俺最初に起きとくぜ」
「わかった。んじゃその次俺な。ちゃんと起こせよ?」
「そん次俺な。お前どうする?」
「あ~・・今日は最後でも良いかな?」
「構わんぞ。じゃあ俺の後だな。順番が来たら起こすからゆっくり寝ろや」
割り当てられた天幕内で、皆それぞれ自分の簡易ベッドに入っていく。
最初に起きていると主張した人狼の兵士は装備のチェックを終えた後、割り振られた駐屯地内の巡回ルートに向かった。
やがて、問題も無く交代の時間になり、皆が寝ている天幕へ向かう。
もうすぐ到着というところで、ホーク軍曹が婚約者と一緒に入って行った天幕に可視化結界が張られているのが目に付いた。
直ぐに「ピン」と来て、下世話な想像が膨らむ。
『ちっくしょぉおおおおおおっ!どうせイチャイチャしてんだろうなぁぁぁっ!!』
独り身である事の僻みから、鬱屈した感情が噴き出て来る。
この憤りを仲間と共有するべく、皆が寝ている天幕へと急ぎ駆け込んだ。
「なぁなぁなぁ!起きろって!」
「んだよ。そんなでけぇ声出さなくたって起きるようるせぇなぁ」
「おいっ!皆起きろって、アレ見ろよ!」
「ん~・・もう時間か?」
「・・・ぐぅ・・」
「うるせぇぞ駄犬・・」
「良いからっ!全員起きてアレ見て見ろって!!」
何だ何だと全員で天幕から顔を覗かせ、人狼の兵士が指差す方に顔を向けた。
丁度そのタイミングで、乳白色の結界からホーク軍曹が出て来る。
「あっ!」
「おぉっ!軍曹もう良くなったのか?!」
「そうみたいだな・・でも、なんか歩き方おかしくねぇか?」
「だな・・・あ。」
「あ?・・あ。」
『『『『『軍曹、内股・・』』』』』
本人は普通に歩いているつもりなのかも知れないが、軍人には似つかわしくないつま先が内に向いたその歩き方に、色々と察してしまった兵士達。
全員の心の中にゴッとナニかどデカい感情が吹き荒れた。
『
『ハゲろっ!ハゲ散らかしやがれっ!』
『ちくしょう・・羨ましくなんか、ないんだからねっ!』
『死ねっ!家具の角に小指ぶつけて悶絶して死ねっ!』
『あ゛ーっ!なんっで俺には恋人が居ないんだぁぁぁぁ!!』
独り身である自身を嘆き、大変良い思いをしたであろう軍曹の婚約者に有らん限りの悪態を心の中で叫ぶ面々。
この時、皆の心は一つだった。
『『『『『俺も絶対、恋人作ってイチャイチャするんだぁぁぁ!!』』』』』
この日、嫉妬と羨望に歯軋りした兵士が続出。
後日、女性兵士にアタックを仕掛ける者が後を絶たたず、相当数の苦情が上層部に寄せられたのだった。